プログラム:5 《互いを安心させる、思いやり》
「…いまは9時…。ゲェムが始まるまであと3時間…。」
震えた声を振り絞って、畑山由樹は呟いた。
由樹はいつもは明るいはずのあたしの親友。
いまの由樹は、
まるで別人のように思えた。
「他のクラスにも、この封筒は置いてあったみたいだ。
ちょっと気になるのが、他のクラスの封筒は、
こんな風に赤くは無かった。
手紙のほうは赤かったみたいだけど。」
ピラリと他のクラスから拝借してきた封筒を、山中結城は出した。
彼は学校一の情報網人物。知らない情報は無いとかの話…。
…いままで気にもしてなかったけど、
良く考えたらうちのクラスってすごい人ばっかいるんだね…。
今ごろ気づくあたしって、なんか鈍すぎかもしれないわ…。
「…内容は同じですぅ〜。」まったりした口調で松本静香は言った。
静香ちゃんは、クラスの和みマスコットで、いろんな意味で人気者。
結城の彼女って噂があるらしいけど…。そーゆーのはあたしはあんまし気にしないほうだ。
「うわっ!まじかよ〜。俺らのほかにも参加させられたのかよっ!!」
この男っぽい口調は、柳田美富。
性別上では女であるが、喧嘩っ早い。
男気のある姉御肌な子だ。
彼女の大きいリアクションと大きな声に、
あたしたちは数秒ぽかんとして口を開けていた。
しかし一人、
カッカッと美富に向けて笑っていた人物がいた。
「はっはっは!柳田、
お前こんな状況でもリアクションでけぇの!!
少しは女らしくしろってぇ〜♪」
こいつもかなり声がでかい。
あたしの耳がどうにかなりそうで、
いろんな意味で怖い。
この声の主は、佐々木抹。
美富の幼馴染で、
とても陽気で明るい性格(吉島とは違う意味で明るいのだ!)
身体はでかいくせに、喧嘩はあんまししたくないんだって。
(平和第一主義者らしい…。)
だから、毎回美富の喧嘩を止めるのは、
図体のでかい幼馴染のこいつなのだ。
「るせ〜よ。デカマツ。」
ムッとして美富は佐々木に言い返してきた。
あたしは今ごろ気がついた。
学校の中に閉じ込められた奴らみんな、
みんなこのゲームを怖がってるんだ。
だから、
だから互いに安心させようと無理して明るい話をしているんだ。
あたしはぜんぜん分からなかった。
あたし馬鹿すぎだよ。
何でこんなにも簡単で、
一番重要なものに気がつかなかったの?
まるで、あたしが悪魔みたいで
嫌な気分になっちゃうよ…。
あたしは一人、
心の中でひっそりとうなだれた。