プログラム:9 《狂わせてはいけないよ、悪魔。》
「さ、さか、坂野が…坂野がぁぁぁぁあ!!!!」
結城は目を赤くして、坂野の眼鏡を強く握り締めていた。
「ご、ごめんなさいっっ!!
わ、わたしが坂野君と些細な喧嘩を始めてしまったせいでぇぇっ!!」
宮坂さんは頭を抱えて泣き叫びながら謝った。
結城はそんな宮坂さんの言葉を耳に入れることなく呟いた。
「…やる…」
その言葉は小さくて、
宮坂さんは涙が流れている目をパッチリと開けて聞いた。
「…え?」
宮坂さんは普段目が細いほうだけど、
いまの宮坂さんの瞳は大きく開いていた。
「…勝ってやる…。悪魔が坂野を殺した…。
ぜってぇ悪魔に勝ってやる…!!」
結城は普段の正気を失っていた。
いまの結城は、ただ悪魔に勝たなくてはいけないという言葉が、
頭の中を駆け巡っているのだ。
「ゆ、ゆうちゃん…?ど、どうした、の…?」
身体をガタガタ震わせて、静香ちゃんは結城の名を呼んだ。
「―あ…」
静香ちゃんの小さな声でハッと我に返った結城は、
膝をペタンと床につけて、静香ちゃんよりも、この場にいる誰よりも、
身体を大きく震わせてブツブツと呟いた。
「…あ、あ゛あ゛…。や、やめ…!!い、いやだ…なん…で…?」
結城は誰かに問い掛けているかのように呟いて、そして
「―どうして…坂野を…―。」
結城はさっきまで泣いていた涙をまた流した。
その涙は、何故か濁って見えた。
「ゆうちゃん…。」
静香ちゃんは結城を心配そうに見つめて、
そしてゆっくりと保健室の方へ連れて行った。
「わ、わた、わたしのせい…ごめ、ごめんなさい…っ!!」
あたしたちは教室に戻った。
宮坂さんはその間もずっと頭を抱え込んで呟いていた。
「…―いい加減にしろや。無駄な涙流してるヒマあるんなら、
隠れ場所探したらどうやねん。」
急に教室に、聞き覚えのあるひとつの声が響いた。
この特徴のある下手な関西弁は…
「ひ、陽立?!」
佐々木が声を張り上げてその声の主の名を呼んだ。
「お前、さっき教室にいなかったじゃねえかっ!!」
今度は美富が大きな声で言ってきた。
陽立こと、陽立祐介は、なりかけ関西人ってとこ。
なんか知らないけど、関西弁がかっこいいとか言って、
無理やり関西弁を使うようになっていたのだ。
こいつは普段、美富や佐々木と行動をともにしているので、
あまり評判が良いとはいえない。
だが、こいつの本性をあたしは知っている。
「さっき着いたねん。」
祐介はあたしのほうをちらりと見て視線をすぐに外した。
「いいかいな、もう俺らは袋の鼠っちゅうことや。
逃げられることはできん。
ならこのゲームに勝つしかないやろ。」
本来なら宮坂さんが言っていそうな言葉を、祐介はすらっと言った。
「お前、本気か?」
ゴクリと佐々木が聞いた。
「本気やなかったらこんな阿呆らしいこといわへんよ。
俺は守りたいもんがおる。」
そう言って祐介は教室を出て行った。
あたしたちに何かを拒絶しているような冷たい背中を見せて…。
一人、また一人…
狂って行く……。
次は誰が狂ってしまうのでしょう…。