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第91話 終わりと始まり


「父上!!」


 上から声。

 ラウニッハは顔を上げた。

 樹の枝から飛び降りて来たのはアレラト。

 自分たちを回復させた彼はその役目を終えた。


「アレラト。長老を安全な所に」


「吾輩が回復させる! 任せておれ!」


「頼んだよ」


 そう言って彼にラーヴァイカの老体を預け、自分は吹き飛ばした神族種と対峙する。

 アレラトがラーヴァイカの身体を背負い、樹を巧みに登って行った。


「おい。いいのかぁ? あの爺さんはもう……」


「言われなくても分かっている。だけど僕たちは託されたんだ」


「フン。二体一は主義じゃないんだがな」


 大剣を肩に担いだベルトマーが横に並ぶ。

 ラーヴァイカのことは心配だが、今は目の前に事に集中しないといけない。

 アレラトの精霊魔法により、回復したのは三割と言ったところだ。


 短時間で戦える状態に戻すには、それが限界だった。

 それ以上は時間がかかってしまうからだ。

 ベルトマーもよくて五割と言ったところで、話を聞くと神獣化を使った影響らしい。


 本体なら二対一は好まない彼だったが、負ける方がもっと嫌だと言うことで今回だけは二人で戦う。

 実はユーゴが言葉巧みに誘導したことは内緒だ。

 普通に説得すれば「俺様が負けるわけねぇ!」と言って断れるのがオチだろう。

 ユーゴは本当にこの男の扱いに慣れていた。


「君がメインで僕が補助だ。頼むよ、ベルトマー」


「誰に命令してんだ? 俺様だぞ」


 フンと鼻を鳴らしたベルトマー。

 負けることなんて微塵も考えていない自信家。

 当然だ。


 彼は誇り高き狼の神獣(カトゥヌス)の子なのだから。

 

「人間如きが……図に乗るなよ」


 晴れた砂煙から黒い甲冑が姿を現す。

 先ほどまで黒一色だった甲冑には、蒼いラインが刻み込まれ、光輝いていた。

 手に持った大剣は黒く鈍い輝きを放っており、相手の本気度が窺える。


 そのせいか、ビリビリと空気の震えが頬に伝わってくる。

 ラウニッハは深く息を吸ってゆっくりと吐いた。

 

 相手は強い。

 油断大敵だ。


(だけどなんでかな? 負ける気がしないのは)


 ラウニッハは雷の魔術を発動させた。

 隣に居るベルトマーの魔力も高まっていく。


「俺様の足を引っ張るんじゃねぇぞ」


「そっちこそ、僕のスピードに遅れないでよ」


「愚かな者たちだ……」


 神族種が大剣を構えた。

 それと同時に、まずはラウニッハが地面を蹴る。

 愛用の槍を構えて、真っ直ぐに突っ込んでいく。


 一歩、二歩で数十mの距離を一気に潰し、得意の接近戦に持ち込んだ。

 穂の部分に雷の魔術を付加させ、切れ味と威力を跳ね上げる。

 金色の魔力を纏った槍をそのまま突き出した。


「なかなか……」


 まだ余裕のある神族種が大剣で槍を防いだ。

 手に伝わる固い感触に心中で舌打ち。

 相手の大剣も魔力を纏っているせいで、上手く貫けない。


(連続ならどうだ?)


 槍を素早く引き、またすぐに突く。

 それを神族種が大剣で弾くが、それも予想済み。

 防がれれば次、また次と連続で相手を圧倒する速度で繰り出した。

 

 一撃を防がれるなら、手数で圧倒する。

 雷属性の魔術を用いたラウニッハだからこそ出来る、最速の攻撃だった。

 しかしそれを神族種は大剣で防いだり、時々首を捻ったりして避ける。

 最初は対応されても、いつか速度に相手がついて来られなくなると思い、槍を突き続けるが、相手の動きが一切乱れない。


「人間にしてはいい動きだ」


 それどころか余裕の発言で返される始末。

 間違いなく、相手はこの速度に対応できるのだ。

 普通の人間では、消えたと錯覚するこの速度に。


「なら見えない攻撃はどうだい?」


 ラウニッハがしゃがんだ。

 そして彼の後ろから次に出て来たのは水平に振られた大剣。

 ベルトマーの愛用の物だ。


「美味しい所は頂くぜぇ!!」


 ラウニッハを壁にして、水平に大剣を振っていたベルトマーが歓喜の声をあげる。

 慌てた神族種が横に振られる大剣に対して、自分の大剣を縦に構えた。

 ベルトマーの攻撃をしっかりと受け止めた神族種。


 しかし重い一撃を受け止めたことで動きが一瞬だけ止まる。

 その一瞬をラウニッハは見逃さない。

 大剣を握る相手の手に向かって槍を伸ばした。


 身体を狙った攻撃は避けられるかもしれない。

 だけど武器を奪うか無効化すれば、あとはベルトマーの力押しで勝てると思ったからだ。

 

「甘いな」


 そう呟いた神族種が素早くバックステップ。

 距離を空けてラウニッハの槍を避けた。

 狙いが外れたことに舌打ち。

 しかしすぐに地面を蹴った。

 

 一歩で相手との距離を詰めて、槍を引く。

 首元に狙いを定めると、それを視線の動きから察した神族種が大剣を構える。


「ベルトマー!」


「あいよ!」


 合図と同時に神族種の足元の地面が隆起して足場がそのまま空へと上がっていく。

 神族種の身体を上へと持ち上げ、残りの魔力を使い天相の力を発動させた。

 雷鳴と共に雷が神族種に向かって落ちる。


「バカな!? これは……」


 天馬の神獣(フィンニル)の能力を知っていたのか、相手の神族種が驚きの声をあげた。

 神族種は雷を避ける為に、足場から空中へとジャンプ。

 相手を見失った雷は、土で生成された足場へと落ちてそれを木端微塵にした。


「覚悟はいいかぁ!!?」


 空からベルトマーの声。

 相手が避けることも想定して、彼は大きくジャンプしていたらしい。

 神族種よりも高く飛んだ彼が、大剣を振り上げた。


「人間風情が!!」


 神族種の手に持つ大剣が黒い輝きを増す。

 何をする気らしいが、もう遅い。


「神獣化」


 ラウニッハは一瞬だけ神獣化を行い、その力を発動させた。

 ベルトマーの近くの空気を固めて、足場を生成。

 それに気がついたベルトマーがその足場を蹴って、落下中の神族種との距離を一気に縮めた。


「早く決めてくれ」


「任せなぁ!!」


 そう叫んだベルトマーが振り上げる大剣が茶色い輝きを増していった。

 そして神族種へと振り降ろされると、空中で黒い光が輝いた。


 一刀両断。


 そう表現するのが正しいのか、そこには身体が真っ二つになった神族種の姿しか残っていなかった。



















「さすがだな」


 ラウニッハとベルトマーの戦いを遠目で眺めて、そんな感想を抱いた。

 神獣の子による連携は、あっという間に神族種を追い込んで倒すことに成功した。

 あいつら二人の強さは知っていたけど、ここまで圧倒的だと驚きしかない。


「ユーゴ!」


 上からルフの声。

 目の前を向くと、巨大蛇が口を開けて迫っていた。

 足に魔力を集めてジャンプ。

 樹の枝に着地した。


「動かれると面倒だな」


「鱗も固くて矢が通りにくいし、どうする?」


 ルフがそう言って牽制で矢を一発放つが、巨大蛇はそれを簡単に避ける。

 俺の魔力も三割程度しか回復していないから、使えるのは二色目の炎までだ。

 神獣化は難しいし、出来ても一瞬で解除されるだろう。

 ルフと連携して倒さないといけないけど、俺たちに有効な攻撃が無いらしい。

 あるとすれば、ルフの破弓による最大火力での攻撃くらいか。


「あいつの鱗を突破するだけの矢を撃てるか?」


「一撃で鱗はキツイかも。口の中に放り込めれば……」


「よし。それで行こう。もしも喰われたらよろしく」


「どうせ出て来るから大丈夫よ」


「もうちょっと心配してくれよ……」


 ルフが何も言わずに弓を構えた。

 破弓の黒い本体に蒼いヒビのような線が無数にはいり、魔力が高まっていくのが分かる。

 全力の矢を撃つには少し時間がかかるのは、今までの実戦で経験済みだ。

 俺のすることは囮。


「行くぜ!」


 二色目である黄色い炎を発動させて、枝から飛び降りた。

 先ほどまでとは様子の違う俺を警戒してか、さっきまで動き回っていた巨大蛇がその縦に長い瞳孔で俺の様子を伺っている。


「どうした? 怖いか?」


 爬虫類独特の長い舌を出している巨大蛇に聞くが、返事は当然なかった。

 こいつらに知性があるかどうかなんて分からない。

 それでも自分を奮い立たせる意味も込めて、右手の指を上に向けて手招き。


「来いよ。俺とお前の格の違いを教えてやる」


「シュララ!!」


 謎の奇声を上げた巨大蛇が飛び出す。

 素早く、力強いその動きを見て、一気に集中力を上げる。

 黄色い火柱を巨大蛇に向かって放つ。


 しかし、固い鱗はその炎を簡単に弾いてしまう。

 そして大きな口を開けて俺に狙いを定めた。

 今までは避けていたが、今回は動かない。


 ジッと相手の口とそこから伸びる牙を見つめる。

 そして射程圏内に捕え、俺の身体を丸呑みするために相手の口が閉じた。

 そのタイミングを見切って、腕で上の牙を足で下の牙を抑える。


 傍から見れば俺が喰われないように、必死になって抵抗しているように見えるだろう。

 凄まじい顎の力でジリジリと俺の身体が少しずつ曲がる。

 一瞬でも気を抜けば、口が閉じて食べられることになるだろう。

 もちろん、このままの話だが。


「ユーゴ!」


 ルフの合図。

 それと同時に身体をなんとか半身に捻る。

 そして俺の身体の影を通過して、飛んできたのは蒼い矢。

 ルフの放った破弓の矢だ。


 巨大蛇の口の中に飛び込んだ矢はそのまま巨大な体躯を貫いた。

 絶命した巨大蛇が力なく地面に横たわる。


「ふー……喰われる所だった」


 力が緩んだ顎から脱出して素直な感想。


「一回、食べられた方がよかったんじゃない?」


 ルフが容赦ない罵声を浴びせて来る。

 こいつには優しさのかけらも無かった。

 とりあえず、俺たちの役目は果たした。

 問題は……


「おい、ユーゴ」


 呼ばれたので振り返るとベルトマーの姿。

 顎でクイッと樹の上をさした。

 ラウニッハの姿が見えないけど、すぐに理由は察した。


「分かった。行こう」


 残り少ない魔力で闘術を発動させ、樹の上に登る。

 ベルトマーの先導で樹の枝から枝へ移動していると、アレラトの姿があった。

 その枝に着地するとラウニッハと片腕を失ったラーヴァイカの爺さんが横たわっていた。


「父上! 気をしっかりもつのじゃ!!」


 息子の声にラーヴァイカの爺さんが薄く目を開けた。

 生気の無い目に全てを悟る。

 この人はもう助からない。


「アレラト……それに神獣の子はおるか……?」


「はい、長老。竜と狼の神獣の子も居ます」


 ラウニッハの言葉に爺さんが「そうか」と返し、頬を緩めた。

 俺たちが居ると言うことは、神族種を倒したと言うことだ。

 その事実に安心したのだろう。


「とうとう奴らが動き出した……遥か昔……神獣たち共に世界が一つなり封印した奴らが……神獣の子よ……」


 まだ僅かに光る瞳が俺たち三人へと向けられた。


「頼むぞ……」


 短い言葉に全てが込められていた。

 この人は俺たちのことを希望とでも言う気だろうか。

 世界を壊せる程の力を行使して、天馬の国を半壊に追い込んだ俺たちを。


「それからアレラト……」


「なんじゃ……なんじゃ父上……」


 泣きじゃくって掠れた声のアレラト。

 そんな彼が涙を拭った。


「チコとラウニッハと共に皆を導け……」


「しかし長老、僕は……」


 気まずそうに呟いたラウニッハに対して、爺さんは笑みを返す。


「出来るさ……一度道を誤ったそなただからこそ……」


 ――任せたぞ……息子たちよ……


 最後にそう言い残し、ラーヴァイカの爺さんが目を閉じた。

 いつの間にか止んでいた雨。

 雨音が聞こえない代わりに、アレラトの慟哭が森に響いた。


 こうして、神獣の子同士を中心にした戦争は決着した。

 しかしそれは同時に、新たな戦争の始まりを告げるのだった。


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