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第79話 天馬の国


 天馬の国と淫魔の国の境目には有名な滝がある。

 通称『追悼の滝』と呼ばれる世界最大の滝で、そこから降りることが出来れば天馬の国へと入ることが出来る。


「ここを降りるのか……」


 思わず呟いた。

 今は上流の位置する崖の様な場所に立っているが滝の下が見えない。

 眼下には天馬の国の広大な森林地帯が広がっており、人間の手が加えられていない原始の森だ。

 遥か向こうには天まで伸びる一本の細い線。

 あれが噂の精霊樹だろうか。


 エルフの人々が神の樹と崇める精霊樹の頂上には、天馬の神獣フィンニルが住むと言われている。

 ホントかどうかは分からないけど、少なくともエルフたちは     

 そう信じているらしい。


「馬はここまでのようだな」


 ベルトマーが馬から降りて、川の中へと足を踏み入れる。

 浅瀬の川の中を歩き、崖の端へと移動した。

 その後に続いて川の中へ入る。

 顔を出して下を見るが、やっぱり高かった。


「どうする?」


「闘術で飛び下りれば余裕だろ」


 ベルトマーが肩を鳴らして準備運動を始める。

 こいつは本気でここから飛び込む気らしい。


「もうちょっといい手があるだろ」


「なんだぁ? ビビってんのか?」


 人を馬鹿にするようなベルトマーの笑み。

 一瞬イラッとするが、こいつにそう言われるのは何処か納得いかない。


「誰がだよ。お前こそ落下の衝撃で死ぬなよ」


「ぬかせ」


 鼻で笑ったベルトマーと崖の端に立つ。

 そのまま前へと重心を移動した。

 身体が徐々に傾き、やがて地面から足が離れた。


 空中に身体を投げ出し、そのまま落下していく。

 頬を切り裂く水気を含んだ風。

 すぐ近くは滝が流れており、大自然の偉大さを示している。


 徐々に川の水面が近づき、全身に魔力を流し闘術で身体を強化。

 そのままの勢いで川へと入水した。

 身体が水中深くまで沈み、全身がずぶ濡れになる。

 息を吸うために水面に浮上し、顔を出した。


「ぷは!」


 息を整え、周りを見るとベルトマーの姿がない。

 どこだろう。

 そう思っていると、俺の目の前にブクブクと空気の粒が出て来た。


「うおおおおお!!」


 何故か吼えながら出て来たベルトマー。

 気合が入り過ぎだ。


「残念ながら無事らしいな」


「俺様がこれくらいで死ぬわけねぇだろ」


 そう言うわりには息が乱れている。

 思ったよりも飛び下りたら高くて驚いたってところかな。

 俺は高さに対する耐性があるからいいけど、こいつは無さそうだもんなぁ。


「とりあえず陸に上がろうぜ」


 二人で川を泳ぎ、陸へと上がる。

 水を含んだ外套や服は重く、今は邪魔でしかない。

 脱ごうかどうか迷っていると、ベルトマーが既に横で上半身裸だった。鍛えられた肉体は見事だが、判断が早すぎる。


「ユーゴ。早く乾かせ」


「おい。俺の炎は便利道具じゃないぞ」


「文句の多い奴だ」


「ならその代わり、枝木を集めろ」


「あぁ? なんで俺様がそんなこと……」


 ベルトマーが言葉を途中でやめ、地面に刺していた大剣を手に取った。

 理由は分かる。

 

 ――気配がする


 厳密には誰かに俺たちは見られていた。

 冷静に考えれば、ここは天馬の国(敵の領地)である。

 いつ敵が攻撃して来てもおかしくはない。

 だがこの視線には違和感があった。


 殺意がない。本当に観察しているだけにしては、好奇心とでも言うべきか、無邪気な気配だった。


 ――ガサ


 一本の木の枝が動いた。

 そして出て来たのは小柄な男のエルフ。

 翡翠色の髪と瞳。

 手には刀のような反り返った片刃の武器が握られている。


「隙あり!!」


 そう言って男の子のエルフは刀を振り上げる。

 幼い声。子供のような体格から、予想はしていたけど本当に子供のエルフらしい。

 まさか天馬の神獣の子(ラウニッハ)は、子供のエルフにまで戦いをさせていのか?


 色々なことを考えていると、ベルトマーがその子供のエルフの前に立ち塞がった。


「いい度胸だぁ! 手加減はしねぇぞ!!」


 ベルトマーの魔力が高まっていく。

 子供相手にやり過ぎだと感じるくらいに。


「やめろ! 相手は子供だぞ!!」


「命のやり取りに歳は関係ねぇ!!」


 確かにそうかもしれないが、相手が本当に敵かどうかも分からない。

 もしも敵ではないのなら、話を聞く方が先だ。


「吾輩を舐めるな!」


 吾輩? 

 若いエルフは随分と変わった言葉を使うらしい。

 そんなエルフをベルトマーが迎え撃つ。

 

 エルフが飛び下りた勢いを利用して、刀をベルトマーへと向ける。

 ベルトマーはその刀をまずは大剣で受け止めた。

 そのまま反撃に転ずるのかと思っていたら、魔力同士の衝突で風が吹く。

 土を高く舞い上げるほどの風は目を開けることが難しい。


 そんなことよりも驚きなのは……


「本気じゃないとはいえ、俺様と同量の魔力をぶつけて来るとはなぁ」


 ベルトマーが嬉しそうに口端を吊り上げる。

 それを見たエルフの男の子が歯ぎしり。

 刀を握った手に力を込めた。


「吾輩を愚弄する気か!」


「知るかよ!」


 ベルトマーが刀を弾き大剣を振るう。

 エルフの男の子がバク宙で回避。

 地面に軽やかに着地した。


「人間の割にはやるではないか」


「俺様を人間と思うなよ」


 向き合う二人。

 これ以上の戦闘は無意味だ。

 ラウニッハに場所を知らせる可能性だってある。

 今すぐに止めないと。


 そう思い、二人の間に入ろうとした時。

 槍が空から落ちて来て、地面に突き刺さった。

 美しい白銀の槍に一瞬目を奪われるが、次の瞬間に襲ったのは衝撃波。


 白銀の槍を中心に発生した衝撃波で身体が吹き飛ぶ。

 川の方へと身体を飛ばされるが、足裏に魔力を張り水面に立つ。

 ベルトマーはタイミングを逃したのか、川の中へと再び入水していた。


 次はなんだ。


 槍の刺さった所に目を移す。

 そこにはさっきの男の子とは違う、女のエルフが居た。

 男の子のエルフと同じ翡翠色の髪と瞳。


 豊満な胸元が薄着のせいで目に毒である。

 芸術的なくびれとスラッと伸びる手足。

 その細い腕で槍を手に取ると、穂の部分を俺へと向けた。


「アレラトに何をする気ですか! 人間!」


「チコの姉御!!」


 どうやら男の子のエルフの名前はアレラトと言うらしい。

 そしてこの胸の大きい美人のエルフはチコ。

 同じ髪と瞳の色で、アレラトの『姉御』という言葉。

 もしかして、二人は姉弟なのか。


「どちらかと言えば、俺たちが襲われたんだけど?」


「言い訳は後でしなさい! 目的を言うのです!」


 頬掻いてどうするか考える。

 もしかして、ラウニッハの居場所を知っているかも。

 そう思って素直に話すことにした。

 ちなみにベルトマーはまだ水中である。


天馬の神獣の子(ラウニッハ)に用があって来た。お前たちは宣戦布告したエルフか?」


「過激派と一緒にしないで下さい!」


 過激派?

 もしかしてエルフたちの中でも、戦争に参加している奴とそうじゃない奴と居るのか?

 だとしたら、この人たちは敵じゃないかもしれない。


 二人のエルフと向かい合い動けずにいる俺の足元の水面が震えはじめた。

 徐々に大きくなる魔力から、誰が暴れる気なのかはすぐに分かった。

 

 あの脳筋は全く……


 とりあえず水面からジャンプして、エルフたちの居る地面へと着地。

 それと同時に川の水が巨大な水柱を放ち、空へと向かって真っ直ぐに伸びた。そしてその中から出来たのは褐色の肌を持つ男。


「最初からこうすればよかったんだよなぁ!!」


 何故か嬉しそうなベルトマーが大剣を振り上げる。

 それを見たチコと呼ばれる女のエルフが、槍を手首の力だけでクルンと回した。そして槍を引く。


 そこから一連の流れは一度見たことのある動きだったので、彼女が次に何をするかは予想できた。

 白銀の槍が緑色の魔力を身に纏い、その威力を増大させる。


「ベルトマー!!」


「分かってらぁ!!」


 俺と同じ考えに至ったベルトマーが大剣に魔力を流す。

 同時に俺は地面を蹴り、女のエルフへと近づく。


「チコの姉御に手は出させん!」


 少年エルフのアレラトが俺の行く手を阻む。

 残念ながらアレラトには用はない。

 二色目の黄色い炎を発動させ、アレラトの手に握られた刀に集中する。


「くらえ!」


 地面と水平の横振り。

 その刀を黄色い炎を定着させた手で掴む。

 驚いたアレラトの懐に素早く入り込み、胸倉を掴んだ。

 勢いそのままに、小さなエルフの身体を川に向かって投げる。


「アレラトに何をするの! あなたは!」


 チコと呼ばれるエルフが声を張り上げ、槍を俺へと向ける。

 そこから鋭い踏み込み。一瞬で俺の目の前まで近づいた彼女。

 しかし、それは一度見た動き。


 そう、天馬の神獣の子(ラウニッハ)と同じ動きだった。


「おらぁ!!」


 ベルトマーの放った魔力の斬撃が、俺と彼女の間に割って入る。

 斬撃はチコの手に持つ槍を空高く弾き飛ばした。


「しまった!」


 驚く彼女の足を払い、体勢を崩す。

 地面に背中から倒れた彼女に白い首筋に手を当てた。


「動くな。君には聞きたいことがある」


「う……」


 抵抗しても無駄と分かったのか、チコは翡翠色の瞳で俺を睨むばかり。

 動こうとはしなかった。


「チコの姉御!!」


「てめぇも動くな。命あっての物種だろうがよ」


 いつの間にか川から出て来ていたアレラトの首筋にベルトマーが大剣を当てる。これで二人とも無効化に成功した。


 何か聞こうかな。

 迷っている俺を見て、チコが睨んできた。


「私たちエルフを捕える気ですか? 奴隷商人の様に……今世界が大変なことになろうとしているこんな時に!!」


「俺たちは天馬の神獣の子(ラウニッハ)に用があると言っているだろ」


「まさか……過激派に入る気ですか!?」


「アホか。こっちも被害を受けて困ってんだ」


 俺の言葉をようやく理解してくれたのか、チコと呼ばれるエルフが大人しくなる。

 見切り発車する奴を抑えるのは大変だ。


「だから、君に聞きたいことがある。どうしてラウニッハと同じ動きが出来る? 奴と君の関係性はなんだ?」


 このチコと呼ばれるエルフの槍を扱う動きは、ラウニッハの動きと全く同じだった。

 武器を扱う型には人それぞれの特徴が出るので間違いない。


 このエルフはラウニッハと何処かで繋がっている。


 それを察したベルトマーと俺は即座に拘束の選択肢を選んだ。

 まぁベルトマーの頭の中で、殺す気から拘束するに意識が変わったぐらいの差だ。俺は元々殺す気なんて無かったし。


「同じ動きは出来るのは当然です。彼に槍を教えたのは私ですから」


「そうだぞ! チコの姉御は凄いんだぞ!」


 まさか神獣の子の師匠に出会うとは思っていなかった。

 想定外の出会いに、思わずため息をしてしまう。


 ――この展開は予想外だと。


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