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第78話 再起への出発

「ユーゴさん、もう行くの!?」


 振り返るとレアスが居た。

 街に設営された白いテントの中で、騎士団が用意してくれた灰色の外套を身に着ける。愛用の外套ではないので、いつもと感じが違う。


「急な用事が出来た」


「……ルフさん?」


 レアスがジッと見つめて来る。

 何も言っていないのに、確信があるらしい。

 思わず肩を竦める。


「天馬の国に行って、ルフを取り返してくる」


「止めても無駄みたいだね」


「ああ。もう決めたことだ」


「むぅ……」


 レアスが頬を膨らませて目で訴えて来た。

 何が言いたいかはなんとなく分かる。


「ルフを連れてちゃんと戻って来るから。お母さんと仲良くな」


 彼女の頭をポンポンと叩き、白いテントの外に出る。

 外にはベルトマーが用意してくれた二頭の馬が居た。


「灰色は似合わねぇな」


「ほっとけ」


 ベルトマーが始めて来た灰色の外套の感想を述べて来た。

 似合わないとは失礼な奴だ。


「ユーゴさんっ」


 外套が後ろに引っ張られる。

 横目で後ろを見ると、そこにはもちろんレアス。


「絶対、絶対に帰って来てね」


「もちろん」


 笑顔でそう返すがレアスは手を離してくれない。

 言うしかないかなと思ったが、彼女の手が小さく震えているのを見てやめた。だから、レアスの指を一本一本摘まんで外套から離した。


「行って来る」


 彼女に背を向け、馬に跨る。

 ベルトマーも馬に乗り、出発の準備は完了した。


「お兄ちゃん!」


 上からフォルの声。

 見上げると寒冷仕様のワイバーンに跨る彼女が居た。


「どうした?」


「魔物の群れが現れたの! グリフィンやコカトリスを中心にここに向かってる! お願い力を貸して!」


 グリフィンやコカトリスなんて、天馬の国に行くか竜の国の森の奥深くにしか生息していない。

 もしかすると、ベルトマーが狼の国で暴れた時の様に、天馬の国から天馬の神獣の子(ラウニッハ)の影響で魔物が押し出されているのかも。


「ベルトマー。ちと寄り道するけどいいか?」


「寄り道になればいいがなぁ」


 ベルトマーが愛用の大剣を背負い、馬に跨る。

 俺も同じように手綱を握った。


「レアス。お母さんと仲良くやれよ」


「うん! 気を付けてね!」


 レアスに敬礼のポーズで応え、再び顔を上げた。


「フォル! 魔物たちの場所まで俺たちを案内してくれ!」


「任せて!」


 フォルがワイバーンを操作し、街の外に向かって飛ぶ。

その後を馬で追いかけた。

 せわしく動く竜聖騎士団の様子や、街の中を馬で走る俺たちに避難して来た人たちの視線が集まる。

 騒ぎとなれば不安だろうな。


 街の外に出ると身震いするほどの冷たい風が頬を撫でる。

 視線の先には既に戦闘を開始している騎士団の姿。

 空からはグリフィンとコカトリスの群れ、地上にはグールやオーガの姿も見えた。時間をかけるのであれば騎士団も殲滅は可能だろう。


 ただし防衛能力の無い街を守るとなれば話は別だ。

 出来るだけ街から離れた場所で戦い、速やかに殲滅する必要がある。


「騎士団の人たちに邪魔だと伝えろ! あとは俺とベルトマーでやる!」


「分かった!」


 フォルの乗ったワイバーンが先行していく。

 彼女の乗ったワイバーンから黄色い信号弾があがり、交代の合図を先行部隊に伝えた。徐々に左右へと別れて後退を始めた騎士団。


「そのまま突破するぞ」


「分かってらぁ!」


 馬上でベルトマーが大剣を一振り。

 魔力で巨大化した斬撃が魔物たちへと飛んでいく。

 地面に当たった斬撃が土を空高く舞い上げ、それにグールなどの魔物も巻き込まれた。


 俺たちに気がついた魔物たちが叫び声をあげる。

 空を飛んでいたグリフィン、コカトリスもこちらに向かって顔を向けた。ワシの様な顔つきに四本の手足と羽を持つグリフィン。

 風属性の加護を受けたその茶色の羽毛が身に纏っていた風で揺れている。


 確か……弓や中途半端な魔術の攻撃は全て防ぐ特性をもっていたはず。

 魔術も使える厄介な魔物である。


「ユーゴ! 地上の魔物は半分、コカトリスは俺様が頂くぜ!!」


 ベルトマーが馬から飛び降り、魔物たちの中へと飛び込んだ。

 顔を上げるとコカトリスが突然現れた人間に狙いを定めた。


 鶏のような頭にグリフィンと同じ四本の手足と羽を持ち、属性による加護はないが、石化を中心に催眠や毒といった補助系の魔術を使い、強さよりも戦いにくさが際立つ魔物である。


 まぁ、ベルトマーなら正面から叩き斬りそうだ。

 コカトリスはあいつがやるなら、俺はグリフィンか。

 

 馬の手綱を引いて、馬体を止める。

 そのまま馬体の上に立ち、魔物たちの中心に向かってジャンプ。

 身体から赤い炎を放射し、グールたちの真ん中へと降り立った。


 周りを見渡すとグールたちが一斉に包囲してくる。

 まとめて倒す為に魔力を高めていると後ろから気配。

 振り返るとベルトマーの放った魔力の斬撃が迫っていた。


「うお!?」


 突然の強襲に驚いたが、しゃがんで回避。

 毛先に魔力が掠め、斬撃がグールたちを木端微塵にした。


「余所見してっと死ぬぜぇ!」


「俺も殺す気か」


 ベルトマーが身の丈ほどある大剣を軽々と振るって、魔物たちをもの凄い速度で斬り刻んでいく。時々魔力を斬撃に乗せて飛ばしているが、こっちに飛ばすのは勘弁して欲しい。


「クォオオア!」


 奇声。顔を上げるとグリフィンが鋭利な爪を振り上げている。

 まずは小手調べで、一色目の赤い炎を火柱にして放つ。


 グリフィンに直撃したはずの火柱が、見えない壁に阻まれたように左右へ割れた。なるほどね、これが風属性の加護か。

 振り下ろされた爪をバックステップで回避。


 その隙を狙って一角鬼(オーガ)が横から来ている。

 突き出された腕を掴む。


「今さら邪魔するなよ」


 魔力を押し上げ二色目の黄色い炎を発動させた。

 受け止めたオーガの黒い腕に魔力を流す。

 相手の体内に回った魔力が、内部から腕を破壊した。

 黒い肌が徐々にヒビ割れ、弾け飛んだ。


「グオオ!!」


 オーガが苦しそうな声を上げる。

 フラフラと後退りしたオーガに向かって火柱を放つ。

 黄色い火柱の通った後には何も残らなかった。


「これは呪か何かか!? 面白い魔法を使うじゃねぇか!!」


 ベルトマーの楽しそうな声。

 どうやら重さが数倍になる呪を掛けられているらしいが、当の 本人は楽しそうにコカトリスと戦っていた。

 戦闘狂 (バトルジャンキー)にも程がある。


 ……いや。ある意味であれくらいの方がいいのかもしれない。

 ごちゃごちゃ考えたって仕方がない。

 楽しんでいこう。


 黄色い炎を右腕に定着させる。

 膝を曲げ、足をグッと踏ん張り、顔を上げた。

 グリフィンが俺を狙って迫って来ている。


 地面を力強く蹴り、グリフィンに肉薄。

 近づいた俺に対して、相手が鋭利な爪を振り降ろす。

 その黒光りする爪を狙い、右拳を大きく引いた。


「クアア!」


 相手の爪と俺の右拳が空中で衝突する。

 俺は火属性、相手は風属性の加護により魔力同士の衝突が発生した。俺とグリフィンを中心に風が吹き、周りのグールやオーガが吹き飛んでいく。


「なめんなっ」


 右腕に込める魔力の量を増やす。

 黄色に輝く腕が徐々に白く染まった。

 風の加護を破壊し、グリフィンの黒光りする爪にヒビが入る。そのまま右腕を振り切ると、白い炎と爆発がグリフィンの半身を包んだ。


「クア!?」


 吹き飛んだ自分の半身に奇声を上げるグリフィン。

 バランスを失った身体が地面に墜ちる。


「こんもんか」


 地面に着地し、半身を失ったグリフィンに近づいた。

 傷口から多量の血が流れ、土を赤く染める。

 呼吸が徐々に弱くなっているから、放っておいてもこいつは死ぬ。一応トドメを刺しておくか。

 

 白い炎をグリフィンの身体に放つ。

 茶色い羽毛に燃え移った炎があっという間に全身へと広がり、 グリフィンの身体を包む。これで跡形もなく燃えて無くなるだろう。


「やっと終わったかぁ?」


 いつの間にかベルトマーが隣にいた。

 彼の奥では血だるまになったコカトリスが地面に倒れている。

 身体には無数の切り傷があり、ベルトマーに相当斬られたらしい。


「やりすぎだろ」


「グリフィンを跡形もなく燃やす、テメェが言うかよ」


 ベルトマーの棘のある言葉に肩を竦めた。


「このまま天馬の国へ行くぞ」


「分かってらぁ」


 ベルトマーが口笛を鳴らすと、さっきまで乗っていた馬が二頭とも俺たちの傍に駆け寄って来た。

 よく調教されたいい馬だ。


「いい馬だ」


 馬の毛並に触れる。

 指の間を流れる茶色い毛並は心地がいい。

 そして伝わる馬の鼓動。それは生きている証。

 小さな命かもしれない。

 でも生きている。


 そんな生物たちの生きる世界を壊すとしたら、俺は悪党だろうか。

 だけどもう決めてしまった。

 世界を壊す覚悟を。

 

 大切なものを守れるのならば、俺は喜んで世界を壊そう。

 たとえ世界が俺たちに牙を向けたとしても。

 その先に滅びが待つとしても。


「どうしたぁ?」


「なんでもない。行くか」


 馬に跨り顔を上げる。

 分厚い雲に覆われた空から粉雪が降って来た。

 天馬の国はどちらかと言えば、竜の国に気候が近いから雪を見る機会なんてないだろう。

 

 さて、出発だな。

 まだ肌寒さの残る大地を馬で駆ける。

 戦争を止める為、ルフを取り戻す為に。

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