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第6話 助け

 

 足跡は近くの森まで続いていた。

 次第に足跡の感覚は狭くなり、近くには血の跡も目立つようになっていった。

 負傷して足を引きずったらしい。


 怪我をしているのなら急がないといけない。

 さらに悪いことは俺の追いかけている足跡以外は何もないと言うことだ。

 つまりこの人間を襲った魔物は、空を飛べる可能性がある。

 

 そう思って時々空を見るが何もいない。

 結局、竜聖騎士団の人たちは『何に』殺されたのだろう。

 

 足跡はとある森の中にある洞窟で途絶えていた。

 怪我人はこのジメついた洞窟に逃げたらしい。

 ぬかるんだ足元に気をつけて、ブーツで一歩一歩慎重に進む。

 

 暗い洞窟も闘術で目を強化すれば、ハッキリとではないが困らない程度に視界は確保できる。

 周りの気配を探るが魔物や獣といった敵意は無い。

 ただこっちを見る警戒した視線だけ感じる。


「俺は敵じゃない。あんたの足跡を辿ってここまで来た。出て来てくれないか」


 ジャリっと石を踏む音。

 振り返ると剣で身体を支える少女が居た。

 肩甲骨まで伸びた茶色の髪、頭には猫耳がついており、彼女が獣人であることを示していた。


「た、助け?」


「偶然だけど」


 フッと緊張感が切れたのか、少女がバランスを崩す。

 彼女に近づき身体を支える。肩に鋭利な何かでつけられた切り傷があり、出血はここからのようだ。


「はぁ……はぁ……あ、あなたは……?」


「俺はユーゴ。冒険者だ。君は?」


「フォル……竜聖騎士団、第四部隊所属……」


「そうか。もう大丈夫だ。意識をしっかり保てよ」


 法術は苦手だが傷を塞ぐくらいは出来るはずだ。

 彼女の右肩に手を当て、法術1つである治癒魔法を発動させた。




 フォルと名乗る獣人の少女の傷口を塞いだあと、彼女を背負い洞窟を脱出した。

 彼女の年齢はルフより少し下くらい。十五,六歳と言ったところだ。背中から伝わる感触は残念そのものだった。

 ワイバーンを降りたのは森の外で、結構距離がある。

 その間に彼女たち竜聖騎士団を襲った魔物に出会わないか心配だ。


「ん……」


 背中に居るフォルが動く。

 意識が戻ったらしい。


「怪我はどうだ?」


「は!? 男の人に恥ずかしい姿を見せてしまった!」


 怪我の心配は無そうだった。


「いくつか聞きたいことがあるんだけど」


「スリーサイズはヒ・ミ・ツ♪」


「……」


 この子、頭大丈夫かな?


「あ、あれ? これで男の人が喜ぶってお姉ちゃんが……」


 その姉はこの子に何を教えてるんだ。

 竜の国の教育が乱れているようで心配である。


「幼児体型の君のスリーサイズに興味はないけど、どうしてこの状況になったかは気になる」


「こ、これでもれっきとした十五歳の乙女なの! ちゃんと女性として扱って!」


「子供には興味ないね」


「うぅ~、冷たい人だぁ」


 さっきまで死にかけていたのに元気で何よりだ。

 それよりも俺に早く状況の確認をさせて欲しい。

 フォルを背負い、森の中を歩きながら彼女に質問をする。


「君以外の騎士団員はどうしたんだ? 草原で死体があったけど」


「みんな殺されちゃった……」


 フォルが俺の背中をギュッと掴んだ。

 嫌な記憶を思い出せることになるけど、正しい情報が欲しい。


「辛いかもしれないけど、何があったか教えてくれ」


「うん……分かった……」


 フォルの話だと最近魔物の活動が盛んだと、ギルド本部から通達があった。

 最近の目撃情報から部隊を二つに分け、まずは偵察としてフォルの部隊が先行した。

 しかし、魔物の攻撃を受けて全滅。彼女が言うにはあまりに突然だったため魔物の姿は見ていないとのこと。

 部隊で最年少のフォルは隊員たちが時間を稼いでいる間に、後方の部隊に魔物討伐の必要があると伝えるために脱出した。


「もしかして、魔物の調査に向かった場所は二か所か?」


「う、うん! どうして分かったの?」


 最悪だ。ギルドも竜聖騎士団も同じ場所に疑いを持っていた。

 一方は斥候部隊が全滅。ならもう一方の王都に近い方は?

 同じように魔物が出ているとしたら、ダサリスとルフが危ないかもしれない。


「もう片方には騎士団の主力がいるのか?」


「うん。物量に押されない限りは大丈夫だと思う」


 確かに斥候部隊は数が少ないが、主力が居るなら大丈夫か。

 それにフォルの傷をちゃんと手当てするため一度王都に居る、治癒師に見せないといけない。

 今は俺の治癒魔法で悪化を防いでいるが、所詮は苦手分野で付け焼刃に過ぎなかった。

 ちゃんと治療しないと感染症の可能性もある。まだ身体が幼い彼女は体力が低いから余計に注意が必要だ。


 草原に置いていたワイバーンを発見。

 行きと同じ速度で飛べないかもしれないが、ゆっくりなら二人でも飛べるだろう。

 怪我人のフォルを先に乗せて、後から俺が乗る。

 俺の腕の中でフォルがスッポリと収まる形だ。


 汗臭いかもしれないが、ここはフォルには我慢してもらおう。

 俺も女性特有の甘い香りに耐えることにする。


「ねぇ! あれ見て!」


 フォルが王都の方を指さす。

 目を凝らすと煙が見える。

 王都にかなり近い。もしかすると、ダサリスの方には既に魔物が?


「フォル。身体にキツイかもしれないけど急ぐぞ」


「う、うん!」


 ワイバーンの手綱を握り上昇の合図を送った。











「なんでこんなことに……」


 ルフは目の前の惨劇を見て呟いた。

 気軽な魔物調査のつもりだった。

 竜の国の魔物の平均的な強さは高くない。

 ダサリスと現場に行くと竜聖騎士団の面々も居た。


 過剰戦力だ。最初はそう思った。

 しかし、森に入った途端に状況が一変した。

 まるで罠を張って待ち構えていたようなゴブリンの大群。


 四方からの遠距離攻撃で味方の数が減っていく。

 それでも鍛え抜かれた騎士団はゴブリンの数を減らしていった。

 ルフも弓でゴブリンを倒し、ダサリスも愛用の斧で魔物を屠る。

 生き残れる誰もがそう思った時、突然地面が盛り上がり岩の巨人が現れた。


 ゴーレム。竜の国では過去に確認されたことの無い魔物の登場。

 動揺する騎士団。六メートルはゆうに超える頭上から振り下ろされる岩の腕。

 人が驚くくらい簡単に潰れる。人はこれ程までに柔らかいのかと思うほどに。

 ゴーレムに牽制しつつ後退する部隊。動きの鈍いゴーレムから逃げられると思ったら今度は再びゴブリンとオオカミの群れが同時に襲って来た。


 叫び声が交差する戦場。

 騎士団は血を流し倒れ、ゴブリンやオオカミたちに無残に殺されていく。

 隣に居るダサリスも負傷してしまった。王都までもつかどうか判らない。

 そもそも、これだけの数の魔物と獣を王都に近づけたら竜の国はどうなる?


 竜聖騎士団の主力はゴーレムの足止め中だ。

 簡単には動けないだろう。王都に戻っても魔物と戦える冒険者は少ない。


(あたしがもっと早く動いておけば……)


 今更後悔しても遅い。

 そう分かっていてもそう思ってしまう。

 竜の国の魔物たちが活発になっていることを知って、この国に来た。

 

 魔物との共存を価値観に置き、必要以上の魔物を殺さない国。

 それはこの国の魔物が穏やかだから実現できたことだ。

 五体の神獣の中でも最強と謳われるドラゴンを信仰する国は、驚くほど平和だった。


「嬢ちゃん……逃げろぉ……」


 ダサリスが千鳥足で立ち上がり斧をえる。

 額の切り傷から流れた血が彼の頬を通って地面に落ちた。


「置いて行けるわけないです! あたしは誰も見捨てない!」


「クック。嬢ちゃんに何かあったらユーゴに何言われるか」


「あんなヘタレの名前を今は出さないで下さい!」


 魔物の調査すら「怖い」と言って断るあの男。

 のらりくらりと肝心なところはいつもはぐらかされる。

 どうせあの男は竜の国出身だ。魔物と戦えるわけがない。


(なのに……なんで……)


 どうして窮地になればなるほどあの男が浮かんでくるのか。

 出て来る言葉は変態そのもの、責任感など皆無。

 酒を飲んでは潰れて、お金を使い切る。

 だらしない、本当にだらしない。


 ルフとダサリスの二人をオオカミの群れが囲んだ。

 十匹弱のオオカミたちは一定の距離を保ち、襲い掛かるタイミングを見計らっている。

 ルフは矢を腰の入れ物から手に取り、いつでも撃てる準備を整えた。

 横目でダサリスの状態を確認する。


 出血がひどい。今の彼に機動力に優れたオオカミの相手は酷だ。

 相手を全滅させるのは難しいし、足を止めれば次の魔物が襲ってくる。

 生き残るには一点突破しかない。


(くらえ!)


 素早く構え矢を放つ。

 ルフが得意とする早打ち。故郷に居る父に教えてもらった弓。

 その腕には絶対の自信を持っており、誰にも負けないと自負している。


 放たれた矢は正面のオオカミの身体は正確に貫いた。

 同時に、仲間がやられた獣たちが襲い掛かって来る。


「ダサリスさん! 行くよ!」


 ダサリスの手を取り、殺したオオカミのおかげで包囲網に空いた穴に向かって走る。

 いつもなら逃げ切れるはずが、ダサリスの足が思うように進まない。


「俺も歳だなぁ……嬢ちゃん、俺を置いて行きな」


 嘲笑気味の表情のダサリス。


「バカなこと言わないで下さい! 生きて帰るんです! 生きて帰って今日も皆で騒ぐんでしょう!?」


 一日の最後は皆で酒を飲んで大騒ぎ。

 ルフはお酒が飲めないのにいつも出席して、騒いでいるユーゴや他の男たちを見ているだけだった。

 それでも皆で言い合いながら居ることは嫌いではなかった。

 平和を感じられる。自分は独りじゃないと感じられる。


 それがホントは嬉しくて仕方なかった。

 今では密かに一日の打ち上げは楽しみだ。

 なのに、目の前の男は生きることを諦めようとしていた。

 認めるわけがない。見捨てることが出来るわけがない。


「ユーゴに楽しかったって、伝えといてくれ」


 ニカっと笑うダサリスがオオカミの群れと対峙する。

 そして叫ぶ。


「こいやぁぁぁあ!! クソ犬ども!!」


 耳を覆いたくなるほどの大声でオオカミたちの視線がダサリスに集中する。

 今なら全力で走れば自分は包囲網から抜けられ、そのまま逃げることも出来るかもしれない。

 仲間の命を犠牲にして。


(あたしは……あたしは……!)


 歯を食いしばりルフは目を固く閉じる。

 ダサリスの覚悟を無駄にするわけにはいかない。

 何よりここで全滅するわけにはいかない。

 王都へ誰か一人でも帰って、魔物たちが近づいていることを伝えないとこの国は動かないからだ。


 ルフが逃げるために走ろうとした時だった。

 自分たち二人を中心に炎の壁が出現する。

 オオカミを遠ざけるように発生したその炎の壁に、新しい魔物かと周りを警戒するが、聞こえたのは慣れしたんだ『あいつ』の声だった。


「おっさん。格好つけて死ぬのはまだ早いぞ」


 赤髪・赤い瞳の彼はニッと笑みを浮かべそう言った。


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