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第5話 死体と魔物


 ベッドの上で起きる生活にも慣れてしまった。


 目を覚ますと木目の天井が歪んで見えた。

 頭が痛い二日酔いのようだ。

 身体を起こし、痛みと重さの残る額に手を置く。


 あぁ、飲み過ぎた。


 竜の国の王都に来て一カ月。依頼が終わるたびに俺は、ダサリスと酒を飲む生活を送っていた。

 今ではギルド内でも有名な酒好きコンビである。

 最近では他の冒険者や商人も時々加わり、情報交換もしているから知識に関しては大分増えた。

 知り合いも多くなって生活は悪くない。酒のせいで金は貯まらないんだけど……


「ユーゴ。朝食の時間よ」


 部屋の木製のドアをたたく音とルフの声。

 今俺たち二人が泊まっているのは、ダサリスに紹介してもらった宿である。

 元冒険者とあってその辺の事情には詳しいらしく、彼の紹介だと言ったら値段を安くしてくれた。

 因みに、初日の費用は俺がルフと二人分出した。


 ダサリスに飲み代を奢ったルフは無一文。

 俺の部屋で寝るか、俺に借金するかの二択で彼女は後者を取った。

 もちろん俺としては前者が歓迎だ。


 そんなわけでルフは別の部屋に泊まっているが、俺に借金をしている状態だ。

 代わりに依頼は一緒に受けて俺は飛竜種の操縦。現地に行けばルフが殆ど終わらせてくれるから俺としても楽でいい。


「あいよー。先に行っといてくれ」


「二度寝はやめてよ。待つのは嫌だから」


「へいへーい」


 以前二度寝をかまして半日寝たことがある。

 その日は結局何も依頼を受けずに、飲みにだけ行った。

 その後、ルフにこっぴどく叱られたのでもうやらない。

 彼女を本気で怒らせるとマジで怖い。

 相変わらず飛竜種に乗れない彼女としてもだ。


 ベッドから降り、寝台に置いてある水瓶を手に取る。

 中身は女将さんが近くの川で毎日汲んでいる大切な水だ。

 その水を部屋に備え付けの洗面台に水瓶から移す。


 その水で顔を洗うと、眠気共に酔いを醒めていくような気がした。

 いつものチュニックと草色のズボンの上から赤の外套を着て部屋を出る。

 ギシと軋む木の廊下を歩いて階段を降りた。

 この宿は二、三階が客室で一階は受付と食堂がある。


 今は朝の時間でも一番食堂が混む時間帯だ。

 この宿は宿泊者以外にも食堂を開放しているため、飯の時間は混みやすい。

 屈強な男たちの間を抜けると、しかめっ面ですわる桃色のポニーテール。

 朝から機嫌が悪いのは何時もの事とは言え、周りの男たちが心なしか怯えて彼女を避けている。


「そんな怖い顔するなって」


「あんたが遅いからよ」


 ギロッと睨む彼女の桃色の瞳に苦笑。

 向かいの席に腰を下ろした。

 朝食はサラダと魔物のソーセージ。

 朝から結構多めの食事だが、この世界では仕事は主に身体を使うから多くないといけないのだろう。


「ねぇ、今日の依頼はどうするの?」


「いつも通り物資の運搬と注文受けだろ」


「つまらない」


 ルフは口を尖らせる。

 彼女の言い分はなんとなく分かるが、この国の依頼は物資の運搬くらいしかない。

 後は薬草などの採取とか。


「文句言ったって仕方ないだろ。それにお前はワイバーンに乗れないし」


「クソ……今に見てろよ変態っ」


 ルフは思った以上に不器用だ。

 時々背負った弓でウサギなどの獣を狩る姿は見事である。

 にも拘らず、未だにワイバーンで空を飛ぶどころかまともに乗ることも出来ない。


「仮に他の依頼を受けられるとして、何を受けたいんだ?」


「魔物の調査と討伐」


「好戦的なことで」


「この国は無警戒過ぎよ! 魔物は殺さないと!」


 バンと机を叩いた彼女に注目が集まる。

 彼女の意見はご尤もだ。危険は被害を受ける前に排除しないと意味がない。

 ただし必要以上の魔物を殺すことは、この国ではあまり受け入れられないだろう。


「まぁまぁ、落ち着け。今はあんまり被害を受けてないんだ。ギルドが動かないのも仕方ない」


「犠牲者を出すギルドに意味なんてない!」


「ここは竜の国だ。他国(・・)の考え方をあんまり持ち込むな」


 俺の言葉にルフの顔色が変わる。


「あ、あんた……いつから……」


「さぁ? ほら、飯食ったなら行くぞ」














 今日もギルドの受付は一人の人気受付嬢に人が集中している。

 俺も何時かその列で受付を受けたいもんだ。


「おはよう、ダサリス」


「おう」


 ダサリスの列は今日も少ない。

 時々飲み仲間たちが来るくらいで、初日と大きな変化はない。

 いや人が来るようになったのは大きな変化のなのか。

 ただし、今日は彼の様子が違った。


「どっか行くの?」


 ダサリスの格好は何時もの布ではなく、プレートアーマ―を装着したまるで冒険者のような格好だ。


「厄介事だ」


「ダサリスさん。どんな用事なの?」


 俺の後ろからルフがヒョコっと顔を出した。


「近くで魔物が出たって言うんでな。ちょっとした調査だ」


「働き者だな」


「魔物に不慣れな奴ばかりだからな。いつも俺の役目だ」 


「ユーゴ! あたしたちも行くわよ!」


「やだよ。怖い」


 ダサリスのギルド職員としての任務だ。

 報酬は皆無だろう。お金のない今の俺としてはあまり乗り気しない。

 彼は俺の方をチラッと見ると横を通り過ぎて行った。


「これだから腰抜けは!」


「おいおい嬢ちゃん。これがこの国の『普通』だ」


 ルフが俺を睨み、背中を向けた。

 その背中からはハッキリと伝わって来る「お前には失望した」と。

 彼女が見たのはワイバーンを操縦する俺くらいなんだけど……何に期待したんだろ。


「ダサリスさん。あたしはついて行くね」


「好きにしろ。ユーゴ、今日の分の依頼はそこに置いてある」


「あいよー」


 ダサリスがカウンターに置いてある一枚の紙を指さす。

 自分の仕事もあるのに、俺の為に準備しておいてくれたらしい。

 ルフはこっちを見て舌を出して挑発してくる。


 元気で何よりだ。


 カウンターに置かれた依頼の紙を手に取る。

 内容はいつも通りの物資の運搬、注文の確認。

 ただし下の方には手書きで地図が載っていた。

 

 ダサリスが向かった場所かと思ったが、地形がどうもこの近辺に一致しない。

 視線をさらに下に移すと、一言添えてあった。


『男なら身体を動かせ』


 そんな事だろうと思ったよ。

 あのオッサンはあくまでギルド職員だ。

 命令以上のことは個人では出来ない。それが組織だと以前酒の席で言っていた。

 

 魔物が危険だと思っていても動けない。それが現実だと。

 だからって、戦う所を見たこともない冒険者に任せるかね。

 お気楽すぎてため息が出た。


「今夜はちゃんと奢ってくれるんだろうな」


 紙を四つ折りにしてポーチに入れた。

 ギルドを出て飛竜種の乗り場へと向かう。

 人ごみをかき分け、長い階段をのぼり何時もの乗り場に着いた。

 受付の白いテントに入り、受付の男の子に話しかける。

 歳は十代の後半くらい。ルフも十七だと言っていたから同い年くらいか。


「ワイバーンを一匹借りたいんだけど」


「依頼の紙を見せてください」


「いやぁ、ちょっと野暮用で」


「規則ですので……それに今日はあの可愛い子は居ないんですか?」


 男の子は俺の周りをキョロキョロと見渡すが、残念ながら今日の彼女は魔物狩りに行ってしまった。


「少年。お酒は好きか?」


「まぁ、嗜む程度に……」


 少年の耳へ顔を近づけそっと囁く。


「今度ルフとの席を用意してやる。だから、ここは俺の頼みを聞いてくれ」


「………今回だけですよ」


 少年は手元の紙に俺の名前を書き込み、正式な依頼でワイバーンを使うことにしてくれた。

 ルフには悪いが、今度この少年とデートでもしてもらおう。

 埋め合わせは何か考えないとな。


「ありがと、少年」


 少年に礼を言って、指定されたワイバーンに跨った。

 ポーチから紙を取り出し、ダサリスが書いた場所を確認する。

 ギルドが動いていないと言うことは、まだ大きな被害は出ていない。


 ただし、魔物が関与している疑いがあると言うことだ。

 この国の魔物は基本的に大人しい。たまに群れや巣から逸れた魔物が見つかるくらいである。

 討伐が必要な時は流石にギルドが動く。ダサリスはその判断の基準を任されていると言った所か。


「さて。行くかね」


 跨ったワイバーンの首を手綱で叩いた。

 ワイバーンが翼を広げ、力強く羽ばたく。徐々に高度が上昇し空へ。

 何だかんだ一人で空を飛ぶのは初めてで、いつもなら後ろに居るうるさい少女が居ないことに、少しだけ寂しさを覚えた。


 


 空を飛んで数十分。

 そろそろダサリスが地図で示した地点だ。

 眼下には背の低い草木が並び、魔物が隠れることが出来る場所もなさそうだ。

 魔物が居ないか眼前を見ていると、意外なモノを見つけた。

 ワイバーンを操作し、地上へと近づく。


 地面に自分の足で立って、見つけたモノを観察する。

 見つけたのは死体。それも殺された兵の死体だ。

 鎧を着て武装した男四人が血だるまになって、赤い肉の塊を形成していた。

 この国では珍しい惨殺された人の死体。


 外套で鼻まで覆い、肉の塊に近づいた。

 一人の死体をひっくり返すと、胸には竜の爪のマークが刻まれている。


「この国の騎士団じゃないか」


 この国を自衛する戦力として保有している竜聖騎士団。

 ギルドの他にこの国では魔物と戦える貴重な戦力だ。

 そんな彼らが惨殺されている状況。思ったよりも魔物は活動を活発化しているのかもしれない。


「本当に全滅なのか」


 魔力を目に集中させる。

 何か痕跡が見つからないかと探す。


 ……あった。


 赤色でボンヤリと浮かぶ土を踏んだ足跡。

 人の足だ。魔物から逃げたのだろうか。

 生き残りが居る僅かな可能性にかけて、俺は足跡を追いかけた。


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