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第4話 一日の終わり


 眼前に迫ったゴブリンが潰れた鉄の剣を振り降ろす。

 その剣を片手で掴み、グッと握りしめた。

 闘術で強化した身体はこんな鈍では切れない。


「奇襲は悪くない案だったな」


 蹴りでゴブリンを吹き飛ばすと相手の身体が爆散した。

 空中で赤い液と内臓をぶちまけ、ゴブリンは絶命。

 ちょっとやりすぎた。


 そう思った時にはすでにゴブリンたちに囲まれていた。

 せっかく茂みに隠れていたのにこれでは意味がない。

 相手は二十匹弱、こっちは一人。数の利が圧倒的なのに相手のゴブリンは一定の距離を保ち、俺を警戒している。


 魔法で一気にケリをつけてもいいが、力の差を見せると逃げられる可能性がある。

 ここで全滅させるには素早く確実に仕留める。相手の指揮官を見つけるために。

 足に力を込めて地面を蹴る。まずは正面の一匹の顔面に右拳をねじ込む。

 パンと乾いた音と共にゴブリンの顔が弾けた。赤い液が顔を失くした首から吹き出し、ゴブリン身体が地面に横たわる。


「みんなでかかって来た方が賢明だと思うぜ」


 挑発に乗ったゴブリンたちが一斉に襲い掛かって来る。

 四方八方から振り下ろされるゴブリンたちの剣や斧を回避しながら周りを見渡す。

 俺を囲んで殺そうとする魔物たちを眺める一匹のゴブリン。


 奴がリーダー格のようだ。

 身体についた無数の傷跡が奴の経験値を表している。

 どんなゴブリンか楽しませてもらおうか。


 ジャンプで囲まれていたゴブリンたちから脱出。

 リーダー格のゴブリンへと飛ぶ。

 そんな俺の様子を見てリーダー格が右手を挙げた。


 なんの合図だ?


 茂みから出てきたのは弓を持ったゴブリンたち。

 念の為に遠距離部隊を潜ませていたのか。

 放たれた無数の矢が四方から飛んでくる。

 空中では身動きが取れないから回避するのは難しい。

 

「いい作戦だ……だけど……」


 父の鱗で造られた外套でスッポリと全身を覆うと魔力を流す。

 外套に当たった矢はキンと小高い金属音を残し全て弾かれた。

 魔力に反応する特殊な赤い外套の防御力は、得物の矢くらい通さない。


「残念だったな」


 右手に魔力を集中させジャンプした勢いのまま、リーダー格のゴブリンへと振り降ろした。

















 ゴブリンを全滅させ村へ戻ると、顔を真っ赤にして怒るルフが居た。


「どこに行ってたの! とっくに依頼は終わってるわよ!」


「ちょっとションベンが長引いてな」


「長過ぎよ!」


「まぁまぁ、帰れるなら一人で帰ればよかったじゃねぇか」


「クッ……飛竜種に乗れるからって偉そうにっ」


 ルフの反応に笑いをこらえて男の子の母親に近づいた。

 ルフが後ろで「相手は人妻よ! それはダメ!」とか言っている。

 あいつは俺をどんな目で見てるんだ。


「もう畑を荒らされる心配はありません。原因は排除しときました」


「何が原因だったの?」


「野良犬です」


 男の子の母親にそう返し村を後にした。

 



 帰りの空も二人乗りでワイバーンに跨る。

 竜の国の王都が見える頃には、遠くの山の端に日が沈んでいた。

 乗り場に戻ると珍しい二人乗りのせいで変な注目を集めてしまう。


「おい。注目されてるぞ」


「う、うるさい!」


 ルフの顔が赤い。注目されているのは自分のせいだと理解しているからだろう。

 帰りの道もルフが騒いでいた。そのせいで耳が痛い。

 ホントに飛竜種には乗った経験が少ないらしい。

 また長い階段を降りて、ギルドへと戻る。


 昼間だった時間帯に比べると受付の人の数は減っている。

 今なら人気の受付嬢にだって、少し並べば話せるだろう。

 それでも俺が行くのはあのおっさんしか居ない。


「ほい、注文書」


「またお前か!」


 ダサリスの列は相変わらず人が居ない。

 彼は俺がカウンターに置いた注文書を受け取ると、報酬の硬貨が入った小袋2つくれた。


「嬢ちゃんと二人分だ」


「ちゃんと分けてくれてたんだ」


「うるせぇ。早くどっか行け」


 手をシッシと払われ睨まれる。

 聞きたいことがあったけど、どうやら聞ける雰囲気ではない。

 今日は出直そう。


「じゃあ。また明日」


「二度と来るんじゃねぇ!」


 ダサリスの熱烈な言葉を背にカウンターを離れる。

 受け取った二つの小袋比べると同じ重さだ。

 ダサリスはちゃんと同じ分量で分けて、俺たちの帰りを待ってくれいたらしい。

 柄は悪いが仕事はキッチリとこなす。なんだかんでダサリスは出来る男……だと思う。


「遅い。いつまで待たせる気?」


 入り口付近で待たせていたルフが眉にしわを寄せている。


「ナンパされなかったか?」


「されてないわよ」


「まぁそんな怖い顔で居れば誰も近寄らないか」


「愛想が無くて悪かったわね」


 ルフは口を尖らせて拗ねる。

 面白い反応だなぁ。


「ほい。今回の報酬」


 硬貨の入った小袋をルフに渡すと、彼女が不思議そうな顔をした。

 そして、小袋と俺を交互に見て小袋を俺に差し出した。


「なんのつもりだ?」


「要らない。あんたが居ないと依頼は受けられなかったから」


「ちゃんと働いた分は貰っとけよ」


「要らないったら要らない!」


 意地を張るルフにため息。

 そんなにワイバーンに乗れなかったことを根に持っていたのか。

 受け取れと言ってもルフは聞きそうにない。


「ホントに要らないんだな?」


「もちろん! あたしに二言はないわ!」


 かなり男前の発言だった。

 彼女がここまで要らないと言うなら遠慮はなしだ。


 小袋を持ったルフの腕を掴み、再びカウンターへと近づく。

 俺たちの姿に気がついたダサリスが「げっ」と声を出した。


「ダサリス。このあと暇? ルフがあんたに奢りたいって」


「な!?」


「はぁ!?」





 日が沈むまでダサリスの仕事が終わるのを待って、三人で居酒屋に向かった。

 四人掛けの席に案内され、俺の隣にルフ、向かいにはダサリスで座る。

 とりあえず、俺とダサリスは酒を頼み、ルフは果汁をしぼったジュースを頼んだ。

 食べ物も頼むが、駆け出し冒険者の報酬、しかも半分だけでは大した量は頼めない。


「あたし!? 量が少ないのはあたしが悪いわけ!?」


 俺とダサリスの視線に気がついたルフが騒ぎ出す。

 面白い反応に腹を抱えて笑っていると、ルフが脇腹を肘で攻撃してきた。


「いてっ、ルフ痛い」


「お前ら仲いいなぁ。昔からの馴染みか?」


「出会って一日経ってないわ!」


 ダサリスが豪快に酒を飲み、木製のコップを机に置いた。

 ふうっと吐いた息がアルコール臭い。


「若いっていいねぇ」


「どうも。アツアツの新婚です」


 冗談でルフの肩を抱いて身体を引き寄せると、同時に肘が顔面に突き刺さった。


「冗談でもいい加減にしなさいよ」


「お前、肘で鼻はダメだろ……」


 鼻を押さえ鼻血が出るのを防ぐ。

 さすがに肘を思いっ切り顔面にねじ込まれるのは予想外だった。


「あたし先に支払いをしてくるから」


 ルフはそう言い残し席を立った。

 残されたのはおっさんと鼻を抑える青年。

 なんとも華の無い絵である。


「お前も懲りないな」


「ルフに冗談が通じないだけだろ」


 鼻血が止まったことを確認し、コップに入った酒を飲む。

 久しぶりのアルコールは少し苦い。


「ところでダサリス。聞きたいことがあるんだけど」


「んだぁ?」


「最近、魔物討伐の依頼は来てない?」


 ダサリスは頬杖をついて、ギロッと睨んで来る。

 竜の国では魔物討伐の依頼は珍しいとはいえ、ギルドなんだからあっても不思議ではない。


「こんな平和ボケした国にはねぇよ。魔物を狩りたいなら『狼の国』にでも行け」


 狼の国。

 この国とは真逆に魔物討伐の依頼が殆どを占めると言う、屈強な冒険者たちが集う国。

 確かにあの国行けば毎日魔物狩りの日々を送れそうだ。


「別に魔物を狩りたいわけじゃない。魔物に関して変わった様子はないかって。元冒険者のあんたなら何か分かるんじゃないか?」


「てめぇ……なんで俺が元冒険者だと?」


「野生のカン……かな」


 自分の鼻を指して笑顔で答えると、ダサリスの顔が険しくなる。

 俺が受付でダサリスを選んだ理由の一つ。それは彼が元冒険者、しかも魔物狩りをしたことのある人物で有益なアドバイスが受けられると思ったからだ。

 

 傷跡からも想像できるけど、身に纏う空気が明らかに一人だけ違った。

 彼の身に纏う空気は、命のやり取りをする戦場を切り抜けてきた者にだけ纏えるものだった。


「依頼にはされないが、村の近くでの目撃情報は最近多いな」


「人を襲わないのか?」


「何が怯えているようだ。もちろん時間の問題だと思うがな」


「原因はなんだろう?」


「知るか。『神獣』みてぇな強い魔物に住処を追われたとかな」


 ダサリスは新しく来た酒に口をつける。

 ゴクゴクと彼の喉を酒が通るたびに彼の太い首についた、小さな喉仏が上下した。

 また一気に酒を飲み干したダサリスは、コップをテーブルに力強く置いた。


「なんにせよ。魔物たちの被害は増えるだろうよ。だから依頼も増えるぞ。よかったな」


 ダサリスは楽しくなそうな顔だ。

 当然か。魔物が人を襲うなんて楽しいことのわけがない。

 

 厄介なことにならないといいな。


 そう思いながら、酒を再び口にした。


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