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第47話 白い輝き


 父から継承した『四色の炎』の三色目と四色目は完全に異次元の炎だ。

 今までの二色とは比較にならない威力を持っている。

 もちろん、三色目と四色目でも大きさ差がある。

 だから使う時は考えて使え。それが父の教えだ。

 

 初めて三色目を使った時は、制御できずに森を壊滅しかけた。

 四色目に限っては、全力で使ったことはない。

 それぐらい上二つは飛びぬけている。


 久しく発動した三色目の白き炎を見つめて、そんなことを思いだした。

 足元の海面も炎が放つ熱で常に蒸発している。

 足から水蒸気があがり、まるで俺の足元から煙が出ているようだ。


「……それがあなたの本気?」


 水の巨人の胸の中に居るユノレルがそう問う。

 彼女も神獣の子なら、今の俺が放つ魔力量から炎の威力を大体察することが出来だろう。先ほどまで死にかけていた相手の魔力量が突然跳ね上がれば、誰だって驚く。


「さぁどうだろうな。だけど最終警告だ……今すぐ降伏しろ。悪いようにはしない」


 ユノレルの生気のない目が俺を射抜く。

 人形のように整った顔立ちと白い肌のせいで、より印象が人から離れていく。まるで操り人形と戦っているようだ。

 前世の記憶のある俺とは違う彼女は、人間の歪んだ部分に触れしまった。

 だから他人を信じられなくなった。


 でも、彼女にもう一度だけ問う。

 今すぐ虐殺(こんなこと)をやめないかと。

 一度は人間に歩み寄ろうとした彼女だから……


「笑わせないで。いくら神獣の子でも、人間側についたあなたを信じるわけがない。私は誰にも止められない」


 薄い唇で冷たく言い放つユノレル。

 もう言葉による交渉は意味がないらしい。

 彼女は無表情で、本当に感情があるのかすら分からない。

 

 ユノレルがどうあっても海都を滅ぼす気だと言うのなら、俺はそれを見逃すことは出来ない。ルフが生まれ育った街だ。

 もしも滅べば、ルフは泣くだろう。

 そんな姿は見たくない。


 ――たとえ同類をこの手で殺めてとしても……


「なら……殺してでも、俺は君を止める」










 ユノレルは目を疑った。

 目の前にいた男がいつの間にか姿を消している。

 見失うわけがない。さっきまでそこに居たのだから。


(どこに!)


 探索魔法で辺りを探ると左から気配。

 水の巨人を操り、左を向くと、白い炎が火柱となって襲って来た。

 巨人の両腕を前に突き出し、火柱を迎え撃つ。


 この水の巨人に使われているのは海水だが、ユノレルの魔力によって高密度で固められており、周りの魔力でコーティングしてある。

 海水を一瞬で蒸発する炎に触れても問題ない……はずだった。


「うそ……」


 思わず呟いた。

 水の巨人の両腕がみるみる蒸発して消えていくからだ。

 相手は自分が魔力を込めて発動した魔術を、上から暴力的な力で破壊してく。

 その姿が、今まで自分を傷つけて来た男たちとダブって見えた。


 水の巨人の両腕が完全に破壊される。

 そして、赤髪の男の姿が海面に見えた。

 しかしそれも一瞬で、次に気づいた時には既に彼は目の前だ。

 左腕全体が白く輝き、魔力が高密で固められていることは容易に想像できた。


「おらぁ!」


 ねじ込まれた左拳が、水の巨人の胸を貫いて自分に近づいてくる。

 ユノレルは目の前に法術で結界を張った。

 男はその結界に拳が当たると同時に魔力を解放。

 普通なら身体がバラバラに吹き飛ぶほどの爆発も、結界のおかげで身体が飛ばれる程度に収まった。

 

 しかし、水の巨人は爆散し、その姿を失いただの海水へと戻る。

 自分も海面に背中から落下した。

 体勢を立て直し、海面の上に立つ頃には、また相手の姿が見えない。


「これで終わりだ」


 後ろから声。

 振り返ると、そこには白く輝く左拳を振り上げる男の姿。

 水の巨人を一撃で破壊するあの拳に触れれば間違いなく死ぬ。

 身体はバラバラに吹き飛ぶだろう。


 それを想像したユノレルの身体に恐怖が駆け巡った。

 死ぬことが怖い。

 自分を傷つけた男に殺されることが……こんなにも……


 ――このままじゃ死ぬよ?


 嫌だ。死にたくない。


 ――目の前の男を倒さないと未来はない


 分かってる。でも、今の私には止められない


 ――『門』を開けるんだ。君の身体に仕込まれた『門』を……


 頭の中の声が消えた。

 そして、ユノレルは小さく呟いた。


「神獣化……」









 ユノレルの顔面へと真っ直ぐに、魔術を定着させた左拳を伸ばす。

 当たる。そう思った瞬間、俺の左腕に冷たい感覚。

 目を疑った。突然、俺の左腕全体が氷で覆われていた。

 魔力の出力を上げ、火で氷を解かす。


 しかし、氷が魔力で生成されているせいか、思っていたよりもスムーズに溶けない。もたついている間に、ユノレルの足元から氷の槍が飛び出して来た。

 バックステップでその槍を避けて、もう一度ユノレルと距離をとった。


 左腕を覆い氷がようやく溶け、自由になる。

 ユノレルに目をやると、腕を前にダランと倒し、顔を伏せていた。

 そして、彼女が首から下げた蒼い縦に細い宝石がついたペンダントの輝きが増していく。蒼い輝きは彼女の身体を包み込み、魔力が大きくなる。


 水属性特有の蒼い魔力が、彼女の身体から溢れ、まるで蒼いオーラのようだった。そのオーラは神獣化特有の魔力放出。

 強大な魔力は時に身体から溢れ、可視化される。

 間違いない。彼女は神獣化を行ったんだ。


「死ぬのは嫌……死ぬのは嫌……死ぬのは嫌……」


 うわ言のようにユノレルが繰り返す。

 そして、バッと顔を上げ両手を広げた。

 その瞬間。周りを霧が包み込み、彼女の身体を隠す。

 数メートル先すら見えない、高密度の霧。

 これも彼女が魔力で作り出したものだろうか。


 息を殺し、音と気配に全神経を傾ける。

 しかし、静かに波の音がするだけで彼女の気配は何所にもない。

 逃げた? いや、この霧がある内はまだ近くに居るはず。

 そう思った時、足を誰かに掴まれた。


 顔を足元に向けると、両足を掴む白い腕。

 それがユノレルのモノと気がつくのに、そう時間はかからなかった。

 どうやら彼女は海の中を移動してきたようだ。


「くそ!」


 ジャンプして振り払おうとすると、一気に海中へと引き連れこまれた。

 数m引きずられ、足の拘束が解除された。

息を止め、周りを見渡す。

 水中でぼやけた視界の中で、人影が高速で動いている。

 さすが人魚の子。神獣化すれば、水中では自由自在らしい。

 このままじゃ、まずいな。


 全身を白い炎で覆う。

 そして、両腕から下に向けて、炎を放つ。

 炎圧で身体が上昇し、海面が徐々に近づく。

 このまま脱出だ。


「逃がすわけないでしょ」


 頭に響く声。

 ユノレルの方を見ると、彼女の周りに浮かぶ氷の槍の影が見えた。

 まるで魚雷のように放たれたその槍が、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。


 水中での動きは向こうの方が速い。

 無傷で海上に戻るのは難しそうだな。

 両拳に魔力を集め、氷の槍を迎え撃つ。

 握りこんだ拳が、槍に当たると同時に魔力を解放した。


 水中で起こった爆発。

 その勢いで身体が浮上する。

 ただし、目の前で爆発が起こったので、両拳が少しだけ火傷した。


「ぷは!」


 海面から顔を出し、まずは酸素を入れ替える。

 呼吸を整え、再び海面の上に立つ。

 水中を見ると、ユノレルが海中をもの凄い速度で動き回り、俺を狙っていた。


 このままじゃラチがあかない。

 一気に引きずり出す!


 ジャンプで空高くに上がる。

 そして、右手を前にして、白い炎を球体に集めた。

 白い火球。今までの比にならない威力のそれを、真下に広がる海に向かって放つ。二発目、三発目と海中を動くユノレルを狙って次々に撃ち込んでいった。


 海中へと白い火球が飲み込まれ、そして爆発。

 俺の身体が空中から海面へと落ちている間に、巨大な水柱が空へと伸びる。

 身体に水しぶきを浴びて、ユノレルが何処に居ないか見ていると、水柱が凍った。空に伸びたまま氷漬けになる水柱は幻想的で、こんな時じゃ無ければ、最高に美しいと思うだろう。


 いつの間にか、海面も氷漬けにされており、足元には氷の大地が広がっていた。これだけの海水を一瞬で凍らすなんて、恐ろしい魔力量だ。

 氷の上に着地する。息を深く吐くと、白い息が空中で消えた。


 さて、どこだ……何所に居る……?


 左から右、瞳だけを動かし周りを見るが、ユノレルの姿はない。

 結界か何かで姿を隠しているのか、周りに気配も無かった。

 海都の結界はそろそろ限界かもしれない。

 これ以上時間がかかれば、実質負けに等しい。


 両手を足元の氷につける。

 ヒンヤリとした冷たさを打ち消すかのように、全力で白い炎を放つ。

 氷の中を巡り、あっという間に全体へと炎が周り、氷を海水へと戻した。


「ありがと。そう来ると思った」


 ユノレルの声。

 氷漬けになっていた水柱。

 その中から現れた彼女が周りの海水を操作し、一つの形へと姿を変える。

 生成されたのは巨大な斧。その刃先はまたもや氷漬けにされており、切れ味を向上させているらしい。


「もう消えて!」


 ユノレルが腕を振ると、その斧が回転しながら俺の方へと飛んできた。

 避けるために足に力を入れると上手く動かない。

 足元見ると、足が氷漬けにされて、海面と固定されていた。


 あの派手な斧の生成は囮か!


 もうすでに斧は眼前に迫っていて、避けるのは間に合わない。

 右拳に白い炎を定着させ、斧に向けて振るった。


「無駄だよ! 法術で周りを固めてる! 最高硬度の斧を壊せるわけがない!!」

 

 ユノレルが言うように、斧と衝突した右拳には固い感触。

 魔術が徐々に剥がされていくどころか、足も氷から引き剥がされ、身体が浮いた。斧の圧力に力負けして、俺は海都の方へと吹き飛ばされる。

 水面をまるで飛び石のように転がり、海都の手前でようやく身体が止まった。


 すぐ後ろには結界で覆われた海都。

 目の前には生成した水の斧で俺を狙うユノレル。


「ユーゴ! なんで外に居るの!?」


 聞き慣れた声。

 振り返るとルフが居た。

 肩で息をしている、走ってこちらに来たらしい。


「あはは! ルフちゃん! 見ていてね! 今から私が彼を殺すから!」


 高らかに宣言するユノレルともう一度向き合う。

 その蒼い瞳にはまだ光は無く、彼女はまるで狂気に駆られたように醜く、口端を吊り上げた。


「今すぐ逃げて! やっぱり無理よ!」


 ルフが結界のすぐそばに来て、半透明の壁を叩いているらしい。

 背中越しから、『バン!』と音が聞こえた。


「今逃げたら海都に当たる。俺があいつの斧を壊す」


「格好つけてる場合!? あんた既にボロボロじゃない! ホントに死んじゃうから逃げてぇ!!」


 聞いたことの無いほどの叫び声。

 本当に心配してくれているんだと心から実感する。

 横目で彼女を見ると、桃色の瞳が潤んでいた。


「やだ……死んじゃやだ……」


 小さく首を横に振るルフ。

 彼女を守れる自信なんてない。

 でも、やるしかない。


 腹を決めろ。

 避ければ海都が滅ぶ、彼女が死ぬ。

 俺が……この街を……俺が……ルフを守るんだ!!










 ルフは溢れる涙を拭った。

 目の前に立つ男の両腕が白い炎に包まれる。

 その炎がどんどん大きくなり、それに伴って結界が震えた。

 攻撃を直接受けているわけではないのに、結界にはダメージが刻まれていく。それほどまでに、ユーゴの放つ魔力と炎の熱は凄まじかった。


 ユーゴが動いた。

 白い光を放つ両拳を固く握り、一瞬でユノレルとの距離を詰める。


「無駄だって言ってるでしょう!!!」


 ユノレルが巨大な水の斧をユーゴに振り降ろした。

 彼はそれを左拳で受け止める。

 白い光を放ち、耳にバリバリと痛い音が響いた。

 強大な魔力同士の衝突に耳を手で覆った。


(負けないで……死なないで……)


 祈るような思いで彼を見つめる。

 そして、腹の底から叫んだ。


「勝てぇぇぇえ! バカぁぁぁあ!!」


「バカは余計だ!!」


 声が届いたのか、彼がそう返し、左腕を振り切った。

 白い爆発と共に、水の斧が消滅する。

 これで残るはユノレル本体のみ。

 ユーゴが右拳を引いて、彼女に狙いを定めた。


「もう一丁!!!」


 ユーゴが掛け声と共に、右拳をユノレルの顔面に向かって振る。

 彼女がそれに対して抵抗したのかどうか分からない。

 ただ、次の瞬間。結界をメキメキと揺らす衝撃と白い光。

 目を開けることが困難な白い光が、海面で輝き、ルフは目をグッと閉じた。

 そして恐る恐る目を開けると、海の上に二人の姿は無かった。


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