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第41話 厄日


 ギルドの面々に身柄を確保されたユーゴは、ギルドマスターの屋敷まで連行されることとなった。

 それはつまりルフの自宅と言うことだ。

 馬車が自宅の屋敷の目の前で止まった瞬間に、ルフは馬車から飛び出し家の門を、闘術を使って飛び越えた。

 地面に華麗に着地して、顔を上げると目の前に母の姿。


「こらルフちゃん! 門を飛び越えない!」


 自分と同じ色の腰まで伸びた桃色の髪と瞳。

 ただし、胸の大きさまでは遺伝しなかった。

 今思うと悪意としか思えない。

 そのせいで自分はユーゴにバカにされっぱなしだ。


「お母さん、ごめん! 今はお父さんに話があるの!」


 横を走って通り抜けようとすると、腕を掴まれた。


「今まで散々心配させといて……挨拶はそれだけ?」


 ニコッと微笑む母の表情にルフの背筋が凍る。

 確かに家出に近い形で出て来て、心配させたことは分かっていた。

 それに関しては後で謝るつもりだったが、母の放つオーラがそんな思いを何処かへと吹き飛ばす。


「お、お母さん。後で色々と話すから……ね?」


「それ程までに、あの赤髪の男の子が大事?」


 薄い唇に指を当て、妖艶にほほ笑む母。

 同じ女性でも思わず顔の温度が上がるその怪しさ。

 懐かしいと思い、同時に恐ろしいとも思った。


「お母さん誘惑しちゃおうかなー?」


「絶対にダメ!」


「お母さん。娘のルフちゃんが相手してくれないから、その男の子に慰めてもらうわ」


「ぜっったいにダメ!」


「なら。私と一緒に居なさい」


 この時、ルフはハメられたと気がついた。

 いや、母なら冗談半部であの男を誘惑しかねない。

 そして、それに間違いなくユーゴは引っかかる。

 過ちを犯させないためにも、自分が母の傍に居るしかなかった。


「分かった。その代り、今からお父さんの所に行くから!」


「はいはい。ルフちゃんの彼氏の件で家族会議ね」


「そんなんじゃないから!」


 必死の否定。

 しかし、母は口に手を当てクスクスと笑う。

 どこまで本気で言っているのか、全く見当がつかなかった。














「憂鬱だ……」


 両腕を拘束する鉄の手錠を見て呟いた。

 しかも、魔術による付加がついており、竜の国の時のように壊すのは難しい。不可能ではないが、それまでに周りの物が色々燃える。

 周りには鎧を身に纏った男たち。魔法を付加された防具は固そうだ。

 破壊するとなれば、今までのように簡単にはいかないだろう。


 顔を上げるとまるで要塞のような屋敷。

 個人の家と言うにはあまりに大きい。

 階は二階までしかないようだが、敷地面積が半端じゃない。

 ルフが実は金持ちだったことに驚きは隠せない。


 ホントは俺と住む世界が違う人間だったらしい。

 これからギルドマスターと謁見すると言うことで、ダガーもポーチも取り上げられた。きちんと返してもらえるのか疑問だ。

 ルフは庇ってくれると思うが、父であるギルドマスターがその意見を聞くかどうかは別問題。

 いつもこうして、国のトップたちと出会っては色々と巻き込まれている。

 自分の運の無さにそろそろ涙が出てきそうだ。


 鎧を着た男たちに歩けと促される。

 屋敷へと繋がる門をくぐり、敷地の中へと入った。

 視界の端で、さっき港で船の中に立ち入りしていた男たちの姿が見える。


 何かを男三人で囲んでいるが、男たちが壁となり何を囲んでいるのか見えない。首を伸ばしているが、俺を護送する男たちに武器で脅されすぐに正面に顔を戻した。


 屋敷の中に入ると行き成りの謁見の間。

 どうやら生活スペースや、護衛の兵士たちの部屋は別にあるらしい。

 真ん中に敷かれた水色の絨毯を歩き、部屋の中央に居る三人に近づいた。

 護送している男の一人が「マスター連れてきました」と呟く。振り返ったのは、桃色のポニーテールと同色の美しく腰まで伸びた髪を持つ女性。


「ユーゴ!」


 ポニーテールを揺らして、ルフが近づいて来た。

 護送していた男たちを髪と同色の目で威嚇する。

 ルフの迫力に押された男たちが、俺から距離をとった。


「大丈夫? 怪我はない?」


 ルフが俺の身体をペタペタと触る。

 心配してくるのはありがたいけど、くすぐったいからやめて欲しい。


「ルフ。彼が嫌がっているわ。やめなさい」


 ルフの横に女性が並ぶ。

 フワリと舞う腰まで伸びた桃色の髪と同色の瞳は、心を見透かすように澄んでいる。直感で彼女がルフの血縁者であることは想像できた。

 ルフには無い、胸の強調があったとしてもだ。


「初めまして。ルフの母、ミエリです」


 ニッコリ笑うミエリさん。ルフの母と言うことは、歳は三十代のはず。

 しかし、ルフと姉妹と言われても信じる程の若々しさだ。


「綺麗な母親で娘さんが羨ましいです」


「あらあら。そう言ってもらえるなんて嬉しいですわ」


 顔に手を当て、ご満悦のミエリさん。

 綺麗な人だなぁ。


「ちょっと!」


 ミエリさんで目の保養をしているとルフがグイッと顔を近づけて来た。


「なんだ?」


「むぅ……なんでもない!」


 顔を横に向けたルフ。

 ご機嫌斜めなのは理解できるが、挨拶をしただけだ。

 怒られる理由は無いと思うんだけど……


「ルフ、ミエリ。オレが話してもいいか?」


 透き通るような蒼い宝石で装飾された椅子に座る男の声。

 坊主頭と左目には縦に切り傷。

海の色によく似た蒼い瞳がジッと俺を見つめている。

 間違いないこの男が。


「ようこそ、人魚の国へ。オレはギルドマスターの『テオウス』。ルフの父親だ」


「どうも。竜の国出身のユーゴです」


 俺の簡単な自己紹介を聞いたテオウスさんが「ほう」と呟き、身を乗り出した。顎に手を当て、何やら興味深そうな様子。


「竜の国出身か……ルフから狼の国に行ったと聞いたが?」


 こちらを品定めするような視線。

 横目でルフを見ると、小さく頷いた。

 どうやらルフは自分の父親に大体の事を話したらしい。


「ええ。神獣の子と遭遇しましたよ」


「ルフの言った通りだな……ならば噂は本当か」


「狼の国で神獣の子が王位に就いたことですか?」


 俺の言葉に護衛の兵士たちがざわめき、謁見の間が一瞬の喧騒に包まれる。

 どうやら、神獣の子はまだ噂程度の認知らしい。


「君が神獣の子と同等に戦えるとルフから聞いた。その腕を見込んで頼みたいことがある。報酬はもちろん用意するし、娘に関することは当然免除だ。話を聞くに、ルフが迷惑をかけていたらしい。拘束してすまなかった」


 テオウスさんがそう言うと、護送していた男の一人が拘束具を外してくれた。

 拳を動かし、手首の感触を確かめる。数時間の拘束だったが、心なしか手首が重い。何度拘束されても慣れないらしい。


「それで……頼みとは?」


 俺の返しに、ニヤリと口端を吊り上げたテオウスさん。

 拘束が外れているとはいえ、周りには護衛の屈強な男たち。

 外には腕利きの冒険者も居るだろう。


 完全敵地の雰囲気の中、相手のボスの頼みを断ればどうなるか。

 無事では済まないことは容易に想像できた。

 まぁ、俺が本気で抵抗したら、この街は滅ぶんだけど……俺はそんなこと望まないし、やりたくない。


 テオウスさんが人魚の国の現状も含め依頼の内容を教えてくれた。

 人魚の国では、昔から人魚(さら)いに悩ませている。

 ギルドも監視を強化しており、昔に比べると件数は減っているが、完全に根絶やしにすることはまだ達成できていない。


 更に最近。神獣の子と名乗る男が現れたと噂になっており、神の子と崇める信者たちを集めているらしい。

 そして、その神獣の子は人魚攫いの組織と繋がっていると、ギルドは徹底した調査の末突き止めた。

 しかし、神獣の子が相手となればギルドも迂闊に手が出せない。


 住民のイメージもあるし、相手の力が未知数で下手すると全滅の可能性だってあるからだ。そこで、神獣の子と同等の力を持った俺が現れたと言うわけだ。

 ギルドとしては、このチャンスを逃すわけにはいかず、協力を頼んだ。


 胡散臭い感じは否めないが、神獣の子と向こうが名乗るのであれば、同類としては見逃せない。どうしてこう旅先で面倒事に巻き込まれるのか。

 ため息を零し、頭をガシガシと掻いていると、ルフがいつの間にかポーチとダガーの収まった収納口(ホルスター)を持っていた。

 それらを受け取り、再び装備し直す。

 ポーチから茶色の球体を取り出し、テオウスさんに向かって投げた。

 放物線を描いた球体が彼の手に納まる。


「これは?」


「狼の国の王女。エレカカさんから、ギルドマスターに届けるよう依頼を受けました。地下で発掘された未知の魔具とのことです」


 テオウスさんが球体を上にかざし、目を細めた。


「似たような物が魔術学院に保管されている。水色の球体だが……かなりの魔力貯蓄を持っていること以外何も分からんらしい。よかったら訪ねてみるがいい」


 テオウスさんが球体を投げ返した。

 それを受け取り、ポーチに戻す。

 結局、肝心なことは何も分からなかった。


 踵を返し、ギルドマスターのテオウスさんに背を向ける。

 出口まで足を止めずに真っ直ぐ歩く。


「ユーゴ、待って」


 立ち止まり振り返るとルフが駆け足でこちらに近づいてくる。

 どうやら、また彼女は俺についてくる気らしい。


「ルフ、待て」


 父であるテオウスさんが呼び止めた。

 何が言いたいのか大体わかる。


「この依頼はその男にした物だ。貴様は関係ない。それに暫く家に居ろ」


「なんで! ずっとユーゴと……」


 ルフを見るテオウスさんの瞳は揺れ動かない。

 父に言っても無駄と悟ったのか、ルフが俺を見て何か訴えて来る。

 頬を掻き、どうするか悩む。

 ルフがなんと言って欲しいのか分かるけど……心配する両親の気持ちも分かる。それに俺としても、神獣の子を相手にする可能性があるのなら……


「まぁ、そうゆうことだ。俺がやるからお前は大人しくしとけ」


「な!? 邪魔ってこと!?」


 ルフに背を向け右手を挙げて応える。

 別に邪魔なわけじゃ無い。

 ただ危ないことに巻き込みたくないだけだ。

 特に頑張り過ぎる彼女は。


 屋敷から出で、門まで続く道の脇に目をやる。

 鎧を着た男たちが三人、何かを囲んでいた。

 彼らに近づくと次第に声が聞こえる。


「おら。金を出せよ」


「また身体で払うか?」


「何か言えよ!」


 一人の男が振り上げた腕を掴んで止めた。

 突如現れた俺に、三人の視線が向けられる。


「なんだお前は?」


 腕を振り上げた男が睨む。

 男が腕を強引に振りほどいた。


「どうせこの女と寝た一人だろうよ」


「違いない」


 残りの二人がそう言う。

 こいつら、女一人に三人で(たか)っていたのか。

 男たちの間から中を除くと、そこには糸の切れた人形のように倒れるレアスの姿があった。


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