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第3話 初依頼


 二人乗りのワイバーンは橙色の体躯で、一人乗りよりも少しだけ大きかった。

 追加の銅貨三枚を支払い貸してもらうことに。


 新しく用意してもらったワイバーンに跨る。

 ルフは俺の後ろに跨り、腰に手を回して出来るだけ動かないようにしてもらった。


「へ、変なこと考えないでよっ」


「安心しろ。背中には柔らかい感触なんてないから」


「クソ……このあたしが……こんな変態に……」


「乗れないならそう言えよな」


「う、うるさい! 早く飛んで!」


「へいへい」


 手綱でワイバーンの体躯を叩くと、羽を広げ一振り。

 フワッとした浮遊感が身体を包み、ワイバーンはそのまま空へ一気に上昇した。

 小さな頃、よくこうして父の背中に跨り空を飛んだ。懐かしい記憶を思い出していると、後ろ人が叫んだ。


「速い、速い! もっとゆっくり飛んで!」


「耳元でうるせぇ! しっかり掴んどけ!」


 耳元で怒鳴られたせいで、キーンと音が反響する。

 俺の腰に巻かれるルフの腕に力が込められた。

 密着度が増し、甘い香りがする。


 女の子っていい香りするなぁと久しい人の匂いに喜びを感じた。

 ワイバーンが必要な高さまで上昇し、水平に空を飛ぶ。

 ここまでくればあまり揺れることはない。前からの風はゴーグルが防いでくれるし、目を開けることも出来る。


「ルフ。下見てごらん」


「へ?」


 ルフが恐る恐る下を見た。

 大地を歩く人たちが点のように小さい。眼下に広がる大地と遠くで見える巨大樹の森。

 五か国の中で()番目に緑が豊富な竜の国は、空から見るとまた格別だ。


「高い! 落ちたら死ぬ!」


 後ろの人がホントにうるさい。

 もしかして魔物に乗って空を飛ぶのは初めてなのだろうか。

 他人の事情にはあまり首を突っ込まない方がいいと思うが、この国で飛竜種に乗れないのは本当に珍しい。

 文化レベルで飛竜種の操縦は根付いていると、父がドヤ顔で言っていたからだ。


 後ろ騒ぐルフを無視して、そんなことを考えていると目的地の村が見えた。

 上昇する時も怖いが、航空術で一番怖いのは降下する時だ。

 地面が近づいてくる独特の恐怖は、体験しないと分からない。

 ただし、俺にはもう慣れっこのことである。


「よっしゃ! 降りるぜ!」


 手綱でワイバーンの太い首に合図を送る。

 ワイバーンは羽を小さくして、頭から急降下。

 ものすごい速度で地面が近づいてくる。


「バカ、バカ! 激突する!」


 ルフがやっぱり後ろで騒いでいる。

 予想通りの反応が面白い。

 一人で笑いをこらえて、手綱を再び動かす。

 パシッと合図すると、ワイバーンが羽を広げ急激に速度を落とした。

 徐々に速度落とし、最後はフワリと地面に着地。無事目的地に着いた。


「ルフ。着いた、ブッ!」


 彼女の右拳が俺の顔面にねじ込まれた。

 身体が吹き飛ぶほどの衝撃は、確実に闘術を使っている。ルフは俺を殺す気で殴りやがった。


 ワイバーンから吹き飛び、背中から地面に落下。

 強打した後頭部を抑えて身体を起こした。

 ルフはワイバーン上で肩を上下に揺らして息をしている。「はぁ……はぁ……」と荒い息遣いはハッキリと聞こえた。


「ふざけた降り方してんじゃないわよ!! 死ぬかと思ったでしょ!!」


「なかなかスリルある降り方だったろ?」


 グッと親指を立てて答えた俺に対し、ルフがキレた。


「今度こそ殺してやる!」


 腰から矢を取り出して、背負った弓を素早く構える。

 流れる動作から放たれた矢が俺へと真っ直ぐ伸びてきた。

 

 マジで殺す気か。

 闘術を使い、動体視力を強化。矢の軌道を見切る。

 身体に当たる直前、右手で矢を掴んだ。


「あっ」


 勢いで矢を放ったことを驚いたのか、俺が掴んだことを驚いたのか、ルフはキョトンとした顔だ。

 無事に矢を掴めたことに安堵して息を吐く。


「あんな降り方初めて見た!!」


 後ろから男の子の声。

 振り返ると、村の人たちが十数人居た。

 俺たちが降りたのは村から少し離れた草原の上だ。

 わざわざこっちまで出て来てくれたらしい。


「練習すれば少年も出来るようになるよ」


「ホント!?」


「ホントだ」


 掴んだ矢を地面に捨てて立ち上がる。

 身体に着いた土を払い。村人たちと向き合った。

 仕事にとりかかろう。


「ルフ! 注文書持って来てくれ!」


「う、うん!」


 ルフが注文書の紙を持って、隣まで走って来た。


「今から注文受けるんで、欲しい物がある人は、この胸がちょっと小さい彼女に言ってください」


「調子に乗りやがって……」


 ルフの歯ぎしりが聞こえる。

 これ以上煽るのは俺の命が危険に晒されそうだ。

 注文はルフに任せて、俺は交通整理に精を出す。

 そんなに人も多くないので、並んでもらうのはそんなに苦労しなかった。


 ルフは一人一人注文を聞いて大変そうだが、俺の仕事はほぼ終わってしまった。

 暇だなぁと並んでいる村人を眺めていると、同じように村の子供たちも暇そうにしている。

 この様子にちょっと違和感。


 子供たちも来ているから、てっきり彼らも何か注文する品があるのだと思った。

 しかし、彼らは親が注文している間、待っているだけだ。

 つまり彼らは意味もないのにここに居る。


「なぁ、少年」


「なぁに?」


 着陸した時、俺のことを褒めてくれた少年に話しかけた。


「どうして村で待たずに出て来たんだ? 注文もしないなら暇だろ?」


「うん。でも母さんがついて来なさいって」


「いつもか?」


「ううん。最近だよ」


「暇で大変だろう」


「大変だよー」


 気の抜けた返事に笑ってしまう。

 男の子に母親が何所にいるかを聞き、礼を言うと男の子は他の村の子供たちに混ざり遊び始めた。

 子供は元気が一番だな。


 遊びに夢中の子供たちの背中を見てそう思った。

 男の子の母親を注文で並んでいる中から探し出し近づく。

 初老の女性の警戒心を抱いた瞳が向けられた。


「そんなに警戒しないで下さい。少しだけ聞きたいことがあるだけです」


「なにか?」


「子供たちを連れて来た理由は?」


 少しだけ驚いた表情。

 ある程度の予想はついてるけど実際に聞かないことには分からない。


「……最近、村の畑が何者かに荒らされているのです。魔物かもしれないのですが、姿を見た者はいなくて……」


「ギルドへ依頼は?」


「魔物と確証があり、危害を加えられないと受諾してはくれません。それに私たちはまだ畑を荒らされただけです」


 それは危害が加えられているって言うと思うんだけど……

 この国の人たちは魔物が自分たちを直接襲うまでは、危険だと判断しない。

 魔物を排除するのは、あくまで相手にやられた後なのだ。

 誰かが死んでから動く。それがこの国スピードだった。


「ふーん……ちょっとだけ村を見てもいいですか?」


「ええ。何もない村ですか」


「ありがとうございます」


 少年の母に一礼し、仕事はルフに任せて村へと足を向けた。

 誰も居ない村は昼間とは言え不気味だ。

 村の奥へと進むと確かに荒らされた畑があった。


 腰の高さくらいの木の柵を越え、畑の中へと入る。

 耕された土の上に転がる大根などの野菜、土には蹄の足跡。

 間違いなく魔物が近くに居る。竜の国にも魔物は存在するが、向こうから人間に近づくことは珍しい。

 むしろ人が魔物たちの巣に迷い込んで命を落とすケースがこの国では殆どだ。

 何故魔物たちが森の奥から人里に近い場所まで出て来たのか、今はその理由よりも村の近くに住み着いた魔物をなんとかするべきだ。


 魔力を目に集中させ闘術の力を引き上げる。

 ボンヤリと赤い色で蹄の跡が浮かび上がり、畑を荒らした犯人の足跡が丸見えだ。

 足跡の数は軽く10匹を超えている。

 ちょっと村に迷い込んだにしては数が多い。


「久しぶりの狩りだな……」


 足跡の大きさから相手はゴブリンかオークの『オーガ種』と呼ばれるタイプの魔物だろう。

 オーガ種は主に二足歩行で亜人種の魔物たちを一般的には意味する。

 他の魔物に比べると知能が高く、時に司令官となるような奴もいるから、一匹ずつの戦闘力は低くても囲まれると厄介だ。

 見つけ次第、まとめて殺すのが一番確実だろう。


 足跡を辿って森の奥へと進んでいく。

 奥へと入って行く度、空気が徐々に張りつめていった。

 ピリついた雰囲気。犯人の魔物は相当イラついているらしい。

 森の中で育ったせいか、こうゆう『野生のカン』的な第六感が発達してしまった。

 サバイバルでは重要な能力なので、父には感謝しかない。


 見つけた……


 川の畔にその魔物は居た。

 盗んだ野菜にありつく緑色の小柄な身体。潰れた顔と手には鉄の剣や斧と言った得物。

 醜いゴブリンの集団だ。


 茂み隠れてゴブリンたちの様子を観察する。

 ゴブリンは雑食だが人を殺すなら十分過ぎる腕力を備えている。

 野菜よりも肉を好む傾向があるはずで、人を殺してその肉を食うことだってあるはずだ。

 にも拘らず、今目の前の魔物は野菜にありつき、人の目を盗んでこそこそしていた。


「森の奥から追い出されたか……」


 奴らは狩られる恐怖を知っているんだ。

 おそらく森の奥にあった元々の巣の場所で、自分たちよりも強い魔物に追い出された。

 一度死にかけたゴブリンたちは死の恐怖に怯え、死なないようにこそこそ泥棒まがいなことをしている。

 中途半端に知能が高いことが今回は吉と出た。

 ゴブリンたちが何も考えず村を襲えば、今頃村は血の海のはずだった。


 早めに片付けよう。

 あんまり遅れるとルフに怒られそうだ。

 茂みから出ようとしたその瞬間、後ろから殺気。

 振り返ると、一匹のゴブリンが眼前に迫っていた。


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