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第37話 潮の匂いと危険な香り

 ルフと二人でワイバーンに跨り飛ぶこと半日。

 背の低い草木が広がる大地の先で次第に街の輪郭が浮かび上がる。

 遠目には太陽の光を反射して輝く海も見えた。

 そして風に交じって微かに潮の香りがする。


「そう言えばさ」


「なんだ?」


 後ろに居て、ずっと黙っていたルフが突然話しかけて来た。

 安全第一で運転しているから文句を言われることはない……と思う。


「こうして二人で乗るの……久しぶりね」


「お前は何時もゴンドラだったもんな」


 クツクツと笑うと俺の腰に回した腕に力を込めて来た。

 徐々に締まる腹回り。それと同時に息が苦しい。

 両手は手綱に使われているので、俺には腹筋に力を入れる以外に抵抗する手段がなかった。


「おいっ。苦し……」


「誰がゴンドラ女ですって?」


「言ったけど違うっ。今は関係ないだろっ」


 ルフが「まったく」と言って腕の力を抜いてくれた。

 深呼吸を繰り返し、肺の酸素を入れ替える。


「今思うと確かに、お前と二人っきりってのも久しぶりだな。今夜は可愛がってやろうか?」


「バカ!」


 背中をパチンと一喝される。

 音に驚いたワイバーンの身体が一瞬横に揺れるが、手綱で押さえつけた。

 ヒリヒリと痛みを発する背中。相変わらず冗談の通じない奴だ。


「少しはその変態な所は治らないの?」


「俺は健全な男の子だ」


「色んな女の子に手を出すけどね」


 最近ルフのあたりがキツイ。

 チラッと後ろを見ると彼女が小さな舌を出して、顔を横に向けた。

 ご機嫌斜めらしい。なんでヘソを曲げているのか、理由分からず前を向いてため息。顔を上げると街の飛行場が見えた。

 潮の香りが強くなり、頬を切り裂く風もべたつく潮風に変わった。


「綺麗な海だ」


「人魚の国はもっと凄いわよ」


 ルフが自慢げに言う。

 そう言えば、竜の国の王との会話から彼女が人魚の国出身だと知った。

 ギルド本部のある世界の中心と言われる島国。

 その名前の通り、人魚の生息する地域もあり、マーメイドの国と言うわけだ。

 人間と人魚は共存関係にあると聞いているけど、会ってみたいもんだ。

 人魚は男の子にとって永遠の憧れだと思う。


 港街のワイバーンの乗り場は街の外にあり、まるで牧場のように周りを囲った乗り場だった。ワイバーンを地上へとゆっくり降ろし、係員に証明書を見せた。

 サインを貰い。それをポーチへとしまう。


「レースに参加しに来たのか?」


 係員の男が興味深そうに聞いてきた。


「違うよ。人魚の国に行きたいだけだ」


「そりゃ、災難なことで」


 係員の男が肩を竦めた。「どうゆう意味だ?」と聞いても「街で聞けばわかる」と返すだけで、教えてくれそうにもない。

 俺とルフはその場を後にして、石の外壁に囲まれた街の入り口へと近づく。

 サインを貰った証明書を見せるとあっさりと中に入れた。


 潮の香りが流れる街。歩けば様々な露店が並び、見慣れない品や食べ物がある。

 人魚の国から流れる物品も多くあるようだ。

 顔を空に向けるとワイバーンが縦横無尽に飛んでいた。

 無数の点のように飛び回るその姿は、王都でもよく見られるがどうやら物資の運搬や移動の為に飛んでいるわけではないらしい。


「ねぇユーゴ。あれ」


 ルフが俺の外套を引っ張り壁に掛けられた看板を指さした。


「ドラゴンレースね……それで飛竜種が多く飛んでいたのか」


 どうやらこの港街ではワイバーンを使ったレースが近々開催されるらしい。

 どんなレースなのか興味はあるが、俺たちの目的は人魚の国だ。

 街の間を抜けて、船乗り場へ。数多くの船が並ぶが、その中でも始めて見るガレオン船の姿は圧巻の一言に尽きる。

 

「デカい船だなぁ。ルフは結構見たことあるのか?」


「もちろん。年から年中、休みなしに船が来るから。でも、この大きさの船は滅多に見られない。どこの誰が使っているんでしょうね」


 レースが近々行われる街だ。

 どこかの貴族が船を使い、見に来ていても不思議ではない。

 そう言えば、乗れる船って選ぶことが出来るのかな。

 期待と高揚を胸に船乗り場の受付へと近づく。


「人魚の国に行きたいんだけど」


 俺の問いにおっさんが頭をガシガシと掻く。

 眉間にしわを寄せ、手に持った紙をパラパラとめくった。


「ダメだ。今は出せる船がねぇ」


「あれだけ船があるのに?」


 ルフが身を乗り出し男に詰め寄る。


「人魚の国へ行く船はって意味だ。今は魔術学院の生徒様が来てるからなぁ。生徒様と一緒なら明日出る船に乗れるぜ」


 なるほどね。他国への修学旅行的な何かだろか。

 別に人魚の国へ行けるならなんでもいいし、明日なら何も問題はない。


「じゃあ、それで」


「あいよ。ほら乗船の証明書だ失くすなよ」


「どうも」


 証明書の紙を受け取り、そこに書いてある金額を男に二人分支払った。

 踵を返し、船乗り場から離れる。

 明日までどう時間を潰そうか。そんなことを思い、街を歩く。

 よくよく見ると、露店の準備をしている人も多い。

 まるでお祭りの前に近い雰囲気だ。


「これからどうすんのよ」


「とりあえずは宿探しだな。魔術学院の生徒ってのも気になるけど……どんな所なんだ?」


「魔術を唯一本格的に学べる学校だから、毎年多くの子が集まるわよ。年齢と入学試験をクリアできたら誰でも入れる。今は色々大変みたいだけど」


 ルフが肩を竦めて大まかな概要を説明してくれた。

 全生徒が勉強する校舎はもちろん、過去の文献を多く保存した図書館もあるとか。

 俺もそこで勉強すれば、他属性の魔術も使えるようになるのだろうか。

 興味が無いと言えば嘘になるが、部外者が立ち入りできる確率は低いだろう。


 海が見える小さな宿の中へと入る。

 言い方は悪いが、外見では繁盛してなさそうな宿の中には冒険者たちの姿多く見えた。少しだけ予想外だと驚き、カウンターの女将さんに近づいた。


「部屋って空いてます?」


「ごめんなさいね。一人分の部屋しか無くて……二人分はちょっと……」


「二人分の値段払うんでそこでいいですよ」


 驚いた女将さんに二人分の硬貨をカウンターの上に置いた。

 ルフが後ろで「ちょっと! どうゆうこと!?」と騒いでいる。

 戸惑う女将さんから部屋のカギを受け取り、奥の階段へと向かった。


「どうしてあんたと一緒の部屋なのよ!」


「野宿よりはマシだろ」


「他の所探せばよかったじゃない!」


「多分見つからない」


 こんな小さな宿にも人が集まり、部屋が用意できない理由。

 近々開催されるレースで人が多いことと、魔術学院の生徒たちで大きな宿は埋め尽くされているせいだ。

 この街の人たちからすれば彼らは旅行者であり、街に金を落とす重要なお客さんだ。俺たちのような冒険者よりも優先するだろう。

 今は雨風しのげる場所を確保できただけ良しとしよう。どうせ今日だけだし。


 ベッドがあるだけの質素な部屋。外套を壁に掛け、窓から外を眺めた。

 街を茜色に染める夕日が眩しい。昼間は多く見えた空飛ぶ飛竜種も今は数が少ない。さすがに夜間飛行は皆避けたいのか。


「ユーゴ! どっちがベッドを使うかジャンケンよ!」


 ルフが弱いくせに何故か自信満々で提案してきた。

 俺としては別にベッドを使えなくても、この街で朝まで飲み明かせばいいから問題ない。使いたいなら勝手にしてくれと言う感じだ。

 むしろ、一応女性のルフを床に寝かせるのはどうだろうと思うのも事実である。


「使っていいぞ。俺は街を楽しんでくる」


「また勝手に何処か行く気!?」


「一日しか滞在できないんだぞ。楽しまないとどうする?」


「ならあたしも行く!」


 ルフが詰め寄って訴えてきた。


「いい子は早く寝なさい」


「絶対、あんたは厄介事に巻き込まれるから! 狼の国でも危ないことに首突っ込んでばかりだったじゃない!」


「あれは成り行きだろ。それに内戦中のあの時は違う。学院の生徒もいるこの街で厄介なことが起きる方が珍しい」


 ルフがジッと俺を見つめ、納得のいかない表情。

 別に俺は彼女が嫌いなわけじゃ無い。一緒に酒を飲んでもいいが、夜の街を神獣の子である俺と出歩くのはなんとなく危ない気がした。

 世間が神獣の子をどこまで認知しているのか。それが分からない今の状況で、彼女を出来るだけ巻き込むことは嫌だった。


「よし。ジャンケンで決めるか。俺に勝ったらお前の好きにしろ」


「よしこい!」


 勝負に乗ったルフが拳を握り前に差し出す。

 呼吸を合わせ俺たちはジャンケンをした。














 港街の酒は種類が多い。

 カウンターに座り、店員の男に「何にする?」と聞かれ、後ろに並べられたボトルを見てそう思った。

 適当に目についた酒を頼み、周りを見る。


 テーブルには冒険者やレースの参加者たちが飲み食いしている。

 景気づけに皆で騒いでいると言ったところか。

 そんな人たちが多い中、一人で酒を飲む俺はどう見えているのだろうか。


 ルフとのジャンケンに勝った俺は晩飯を二人で食べ後、部屋に彼女を残し夜の街へと繰り出した。

 部屋を出るときルフが「絶対に厄介事に巻き込まれないこと! 女の子に変なことしないこと!」と念押しされた。あいつは俺の事をどんな目で見ているのだろうか。俺は両者合意の上でしか手を出さない。


「隣いいですか?」


 若い女性の声。顔を横に向けると金髪の少女が立っていた。

 腰まで伸びた金髪と輝く同色の瞳。薄い灰色のタンクトップを着た胸の張りと、黒のホットパンツから伸びた白い脚が眩しい。

 歳はルフと同じくらいだろうか。こんな時間にこんな格好で若い女の子が一人なんて、あまりいいイメージがわかない。


「お好きにどうぞ」


「ありがと♪」


 彼女が隣の席に座り、舞い上がった髪から甘い香りがした。

 一瞬、女性の香りかと思ったが、それも違う(・・)とすぐに気がつく。

 そして彼女がどうして一人で俺の隣に座ったのかもある程度理解できた。


「あなたの名前は?」


 少女が笑顔で問いかけて来る。

 横目で彼女を見て、カウンターに頬杖をつく。


「ユーゴ。金のない貧乏冒険者さ」


「私はレアス! よろしく♪」


 屈託ない笑顔の彼女を見て思う。

 厄介事に巻き込まれたと。


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