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第34話 帰国

 久しぶりに見る竜の国の王都。

 嘆きの山の麓にある街を出て、休憩を挟みながらワイバーンを操縦しながら、ようやくたどり着いた。ちなみに手綱を握るのは俺。その後ろにフォル。

 そして、ワイバーンからぶら下がるゴンドラの箱の中にはルフ。


 嘆きの山を出る際、再びジャンケンをした二人だったが、結果はルフの全敗。

 こいつはとことんジャンケンに弱かった。

 時刻はまだ昼間なので、狼の国ほどではないが、空を飛んでいると太陽が近く体温が地上よりも上がる。


「なんか久しぶりだね」


「そうだな。ちょっと狼の国で色々あったからな」


 後ろで王都を見て、懐かしむフォルにそう返す。

 嘆きの山の麓にある街から飛び立つときも、眼下に広がる緑の大地を見て、懐かしいと思ったもんだ。

 人魚の国に行くと、この光景はまたしばらく見ることは出来ない。

 今のうちに堪能しておこうとは思った。


 王都の飛行場にワイバーンを降ろす。

 係員の人に証明書を見せると、あっさり通してくれた。

 街へと繋がる長い階段を降りて、久しぶりの街。


 人混みと獣人やエルフといった亜人たち。

 そして時々すれ違う、ワイバーンの背中に乗った人。

 この光景も久しぶりだ。


「で、今日はこれからどうするの?」


 ずっとゴンドラに乗っていて、身体が固くなったのか、ルフが両腕を上に伸ばしながら聞いて来た。冗談で脇腹を突こうとしたら、もの凄い速度で払われた。


「変態」


「スキンシップだろ」


「なにそれ?」


「愛情表現だ」


「ルフさん、愛されてるねー」


「からかわないでっ」


 ルフが顔を赤くしてフォルの頭にチョップを落とす。

 結構痛かったのか、フォルが頭を押さえていた。


「いたい……」


「よしよし。ルフはホントに酷い奴だな」


 ルフにチョップされた個所を優しく撫でてやる。

 年下をイジメるとは、こいつは本当に酷い奴だ。


「なによ……いつもその子には甘いんだから……」


 ルフがブツブツと独り言を言っている。「どうした?」と聞いても怒られそうだからやめておく。今はこれからどうするかを決めないといけない。


「とりあえずギルドに行くか」


 ギルドに行けばダサリスも居るし、フォルの姉である人気受付嬢のネイーマさんも居る。何より、最近の魔物の動向を知るにはそこが一番手っ取り早い。

 昼間で人の多い通りを抜けて、まだ纏う雰囲気が甘い新人冒険者で溢れるギルドの中へ。真ん中の長蛇の列はネイーマさんに間違いないだろう。


 あとはまばらに列が出来ているが、あの男の所は相変わらずだった。

 手に持った紙を眺めるその男に近づく。


「相変わらず、人気が無いんだな」


 こちらを向いたダサリスがため息。

 感動の再会が台無しだ。


「生きていたのか」


「おかげさまで」


 肩を竦めた俺の後ろから、ルフとフォルが顔を出す。

 先ほどまで不愛想だったダサリスの顔が少しだけ緩んだ。


「ダサリスさん、久しぶり」


「おじさん、元気?」


「お前ら二人も元気で何よりだ」


 元気すぎて困っているくらいだ。

 暇そうなダサリスに最近の魔物の様子を聞くと、俺たちが狼の国行ってからしばらくすると以前と同じような感じに戻ったらしい。

 しばらくは、人魚の国から来た上位冒険者たちを中心に魔物を狩っていたらしいが、魔物たちの鎮静化を見て彼らは帰国した。

 とりあえず元に戻って一安心。


「おかげで俺の身体が鈍る一方だ」


「ちゃんと運動はしないとダメだぞ。中年が太ると悲惨だからな」


「お前も酒は控えないと将来なるぞ」


 ダサリスの言葉で思い出した。

 俺は最近酒を飲んでおらず、ダサリスを誘おうとしていた。

 魔物の近状を知るよりも、むしろそっちがメインのつもりだ。


「ダサリス。今日はいつくらいに終わる? 久しぶりにどうだ?」


 手でコップを傾ける仕草だけしてみる。

 ダサリスが眉間を抑えてため息。

 これだけで伝わるから話が早くて助かる。


「話を聞いてなかったのか?」


「最近飲んでなくて、身体が酒を渇望してるんだよ」


 なんだかんだで、ダサリスと今日の約束を取り付けを完了した。

 暇な俺たちは二人で隣の列に並ぶ人たちを捌くネイーマさんを眺めていた。


「なぁダサリス」


「んだぁ?」


「頑張る女の人って……いいな」


 こいつはダメだと。ダサリスが心の中で呟くのがなんとなく聞こえた。

 何をしても美人は絵になるから、羨ましい。


「じゃあ、ユーゴ。夜は何時もの店に集合?」


「そうだな。ルフはそれまでどうする? 自由行動にしよう」


「あたしはこの子を騎士団の人まで送るわ。出てきた時に借りてきたし」


 ルフがそう言って、フォルの頭に手を置いた。

 フォルが悲しそうな目でこちらを見ているが、こればかりはどうしようもない。

 彼女は騎士団の人間なので、俺たちのような一般人が独占するのはやっぱり良くないと思う。ここはルフに任せて、彼女を騎士団に返してもらおう。


「じゃあ、任せるよ。フォルもありがとうな。色々と助かったよ」


 最後まで見送りに行かない謝罪の意もこめて、頭を最後に撫でる。

 不満そうなフォルの頬が少しだけ緩んだ。


「お兄ちゃん。また遊びに来てくれる?」


「もちろん」


 フォルにそう返し、ギルドを出る彼女たちを見送った。

 俺も暇だなぁと呟くが、何か依頼を受ける気にもならない。

 結局、ダサリスの勤務時間が終わるまで、隣で暇そうに待っていただけだった。










「居たなら声かけて下さいよ」


 勤務時間が終わったネイーマさんが俺に気づき、驚いた顔で言った。


「邪魔しちゃ悪いかなって」


 今日は偶然、ダサリスと同じ時間に上がりだったらしく、三人でギルドを出た。

 街は既に魔力で動く街灯で照らされており、夜の顔を覗かせている。


「今からダサリスと飲みに行くんですけど、ネイーマさんもどうです?」


「一緒していいんですか?」


「もちろん。なぁダサリス」


「俺はどっちでもいい」


 クールぶるけど、絶対嬉しいに決まってる。

 大人の対応を必死でするダサリスを面白いなぁと思い、いつもの店へと向かった。

 久しぶりの宴会に気分が高揚する。

 

 店に入ると女将さんが「久しぶりねぇ」と出迎えてくれた。

 顔を覚えてくれている、行きつけの店はいいもんだと勝手に思う。

 後で何人来るだろうと考えていると、女将さんが「先客が来てますよ」と言って、奥の個室へ案内してくれた。

 十人は余裕で入りそうな、小さな宴会場には三人の先客が居た。


「遅い。待たせすぎよ」


「あ。お姉ちゃん!」


「ユーゴさん! 帰って来たなら顔を出してくださいよ!」


 落ち着けと自分に言い聞かせる。

 前の二人がこの場に居るのは問題ないと今はそう考えよう。

 ルフは元々参加予定だし、フォルは姉のネイーマさんが居るから問題ないと思う。一番の問題はこの国の重要人物が普通に馴染んでいることだ。


「おい。なんでソプテスカが居るんだ?」


 腰まで伸びた橙色の髪を揺らし、立ち上がったソプテスカが左腕に抱き着いて来た。

 絶対にルフでは感じることの無い、柔らかい感触に思わず頬が緩む。


「女のカンが告げたんです。愛しの人が帰って来たって」


 それは『古き血脈』と呼ばれる彼女が神獣の子を感じ取っただけだ。

 別に運命などと言う、ロマンチックな話ではない。


「愛しの人ではないけど、一緒に飲むのか」


「はい! 今日は私が晩酌しますね」


「そいつは嬉しいねぇ」


 とりあえず適当な席に座り、適当に注文を済ませる。

 そして、乾杯すれば宴会の始まりだ。

 お酒を勝手に飲もうとしたフォルがネイーマさんに取り上げられて怒られたり、ルフとソプテスカは何か二人で話し込んでいる。

 俺への晩酌はどうなったのだろうと思うけど、周りの喧騒に囲まれて、ダサリスと二人で静かに飲むのも悪くない。


 こうして皆が元気な姿を見ていると、平和だと実感する。

 人とのつながりを感じられた。


「次は何所に行くんだ?」


「人魚の国に行くよ」


 コップを傾け、口をつけた。

 久しぶりの酒に身体が驚いているのか、いつもよりも酔いが早いような気がする。


「嬢ちゃんも連れて行くのか?」


「連れて行くつもりはない」


 今回の狼の国への旅でハッキリと分かった。

 神獣の子(俺たち)が関わると、周りに及ぶ被害は尋常でない。

 ルフやフォルだって一歩間違えると死んでいた。


 この先も神獣の子と関わる機会だってあるかもしれない。

 正直言うと、俺には自信が無かった。

 一緒に居る彼女たちを守りながら、戦う自信が。

 神獣の子同士が本気で戦えば、周りに及ぶ被害は尋常ではない。

 簡単に街の一つが滅ぶ。


「危険が大きい。守れるかどうかも分からないなら、始めから連れて行かない方がいい」


 竜の国へ戻って来たもう半分の理由。

 それは直接人魚の国に行くと、彼女たちをまた連れて行くことになる。

 置いていく為と言えば聞こえは悪いが、一人で人魚の国行くために、戻って来たと言っても過言ではない。


「守ってやれよ。あのルフとか言う娘は相当てめぇに懐いてるみたいだしな」


「だからこそだ。その信頼を裏切るかもしれない……それが嫌だ」


 逃げだと言うことは自分でも分かっている。

 それでも、見捨てられるくらいなら、始めから遠ざけておきたい。


「狼の国で何があったのかは知らんが……力があるならそれを使え。嬢ちゃんたちの為にもな」


「そうゆうもんかね」


「男ならそうゆうもんだ」


 はぁとため息をして、騒ぐ彼女たちを見る。

 もしもこの先、神獣の子が本気で殺しに来た時、俺は彼女たちを守れるだろうか。

 相手を倒すだけなら出来るかもしれない。しかし、周りを巻き込まず器用には戦えない。そんな余裕の許される相手でもない。


「ユーゴさん! 聞きたいことがあります!」


「ちょっと! やめなさいソプテスカ!」


 ルフの静止を振り切り、ソプテスカが隣にドンと座る。

 眉間にしわを寄せ、鼻息が荒い。

 手に持つコップを傾け、目を合わせると怒られそうなので顔を逸らしたまま聞く。


「どうしたんだ?」


「ルフと一緒のベッドで寝たってホントですか!?」


「ああああ! 少し黙りなさい!」


 ルフの顔が耳まで赤い。

 どうゆう話の流れでそんな話が出たかは知らないが、嘘ではないから適当に答える。


「ホントだ。ルフから誘って来たんだ」


 周りの空気が凍り付く。

 あれ? もっと盛り上がると思ったのに……


「お姉ちゃん! 先を越されたよ!?」


「静かにしなさいっ」


「私がタオル一枚で誘ったのはダメだったのになんでですか!?」


「ちょっと! その話を聞かせなさいよ!!」


 ネイーマさんは妹のフォルの暴走を抑えている。

 ソプテスカとルフが問い詰めて来るが、俺はどちらにも手を出していないので無罪だ。


「ホント。元気だなお前ら」


「私を貰ってくれるって嘘だったんですか!? ヒドイです!」


 ソプテスカが俺の左腕を掴んで訴えて来る。

 半分本気だったが、まさかここまでアグレッシブに来るとは思わなかった。

 正直、色々と想定外だ。


「なんでそうやって色んな子に手を出すのよ! 狼の国でも似たようなことしてたでしょ!」


 今日はまだ酔いが回っていないルフが騒ぐ。

 こいつの声はホント頭によく響く。


「ユーゴさん! 私以外にも身体を要求した人が居るんですか!?」


「ユーゴ! 今回ばかりはハッキリしてよ!」


 こうして話していると自分が神獣の子であることを忘れてしまう。

 普通の人間だと周りのおかげで錯覚する。

 なんだかんで、俺はこの空間が好きだ。

 横で騒ぐ彼女たちと、呆れた目で見て来る正面のダサリス。

 平和だなぁ。そう思い、酒の入ったコップを傾けた。


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