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第31話 二色目の炎


 発動させた魔術。

 その炎は父から受け継いだ『四色の炎』の二色目。

 赤い時よりも高温で威力の高い、黄色炎が右腕全体を覆う。


 少し遠い場所では、ベルトマーがサソリ型の魔物たちの群れのど真ん中に到着している。周りの人間と獣人が少し怯えているように見えるけど、みんな魔物から離れていく。巻き込む心配は無さそうだ。


 俺がベルトマーにこの場を乗り切る為、提案した条件は『協力してくれたら後で誰もいない所で二人きりで戦う』だ。

 決闘と言えば聞こえばいいが、ただの規模のデカい喧嘩の約束だった。

 ただ、俺としても周りに人が居なければ、久しぶりに心置きなく力を使える。

 そう思えば、別に悪い案のような気もしなかった。


 ここで血を流している人間や獣人を助けたいかどうかは別にして、ベルトマーからすれば本気の俺と戦うことができればなんでもいい。

 だから彼は『めんどうくせぇが、仕方ねぇ』と俺の案を渋々承諾してくれた。


 おかげさまで、ルフの危ない所に間に合ったし、一時協力を申し込んだのは間違っていなかったらしい。

 目の前には以前取り逃がした砂漠の主と呼ばれる魔物。

 今回、こいつが魔物たちを引き連れてこの街を襲って来た。

 

 俺があの時、仕留めておけばここまでの惨状にはならなかったかもしれない。

 結果論だ。それは分かっている。

 しかし、それに対する責任は取らないといけない。


 今度こそ確実にこの魔物を殺す。

 その決意も込めて、小さく呟いた。


「来いよ。俺とお前の格の違いを教えてやる」


 挑発に乗った砂漠の主が大斧を肩に担ぎ、地面を蹴った。

 大きく舞った砂がどれだけ相手が力強く踏み出したかをしめている。

 俺も同じように地面を蹴り、魔物との距離を詰めた。


 いつもより強い蹴りは、一歩で相手との距離を潰す。

 俺の身体の魔力量は使う炎の色に連動して、限界値が変わる。

 簡単言えば強力な炎を使う度に、使える魔力量が右肩上がりに上がっていく。


 それは魔術の強化だけでなく、闘術の強化も意味する。

 ただし法術は強化されない。法術は他の二つに比べると、単純に加える魔力を多くすればいいと言うものではない。

 大切なのは魔力量でなく、魔力操作の方だからだ。


 強化された闘術を使ったせいで、いつもよりも鋭い踏み込みが可能になる。

 一色目である赤色の炎より上を使ったのは、久しぶりだったので自分の速度に少しだけ驚いた。しかし、相手の方がもっと驚いており、大斧を慌てて振り下ろした。


 前回は真正面から迎え撃つことはなかった。

 だから、この魔物は俺が受け止めるか避けるかの二択しか考えていない。

 懐に潜りこまれることが嫌で、俺を引き離すための策。

 なめられたもんだ。


 魔術で生まれた黄色の炎を右腕に定着させる。

 黄色に輝く拳を振り降ろされる大斧へと向けた。


「おおお!!」


 直撃と同時に魔力を開放して、拳を力強く振り切った。

 爆破が起こり、相手の大斧の上半分が砕ける。

 そのまま回し蹴りを相手の脇腹へとくらわせた。

 黒い甲冑を歪ませた蹴りは、相手をいとも簡単に吹き飛ばす。


 建物にめり込んだ魔物が覚束ない足取りで立ち上がった。

 今考えると俺とベルトマーでどれだけ建物壊したんだろうな。大きめの街だけどあんまり壊しすぎると復興が大変だから、そろそろ終わりにしよう。


 左手を地面に当て、魔力を流した。

 それをそのまま相手の足元へと送り、魔術を発動させる。

 小さく舞った火花が、足元の粉塵に引火し爆発が起こった。


 俺だって火属性の魔術が使える。

 火花を起こすことは得意だ。

 爆風に煽られ、魔物の身体が空高く打ち上げられた。

 このままトドメだ。


 右の掌を開き、空中に身を置く魔物に向けた。

 黄色い炎が一つに固まり、黄色い火球へとなる。

 今込められる渾身の魔力を込めて、父のブレスから考案した火球を放つ。


「グオオ!」


 炎に包まれた魔物が苦しそうに唸った。

 最後の抵抗を見せるが、今の俺の炎の前に今更そんなこと無駄だ。

 空中で起きた爆発。それは俺の相手を焼き尽くしたことを意味している。

 僅かに黒い灰が空からパラパラと落ちて来た。


 既に人型をしていた魔物の原型はとどめておらず。

 砂漠の主と呼ばれた魔物は無残に散った。

 久しぶりに使った二色目の炎の威力って、こんなに凄かったかな。


 そんなことを思い、ゆっくりと息を吐いた。















「チッ。やろう……やっぱり手を抜いてやがったのか」


 ベルトマーは遠目で眺めていたユーゴの戦いを見て舌打ち。

 砂漠の主と呼ばれるこの国でも屈指の魔物をあの男は簡単に倒して見せた。

 それも、自分の時は使わなかった色の炎を使って。


 イラつく気持ちをぶつける相手が自分の周りを囲む。

 砂漠の主と呼ばれる魔物の数は全部で五体。

 親父であるカトゥヌスとの修行の時も何度か狩ったことのある魔物だ。

 今更苦戦するわけもなかった。


「てめぇらには俺様の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜぇ!!」


 親父の牙で創られた大剣を構え、魔力を全身に滾らせる。

 魔術と法術が苦手な自分は、闘術特化の戦闘しか出来ない。

 一応得属性は土属性だが、それすらもあまり得意ではない。


 法術にいたっては親父に習っておらず、どんなことが出来るかも知らない。

 男なら力で相手を粉砕しろ。それが教えであり、ベルトマーのスタイルだった。

 滾らせた魔力量に怯えて、魔物たちは一向に向かってこない。

 気が短いベルトマーは大声で叫んだ。


「来ねぇならこっちから行くぜぇ!!」


 周りが消えたと錯覚するほど速度。

 あっという間に魔物へと近づいたベルトマー。

 魔物たちから離れて戦いを見守る人間と獣人たちには、まるで黒い影が動くようにしか見えない。そして気がつくと魔物が縦に半分に斬れていた。


「どうした!! こんなもんかよ!!?」


 ベルトマーは残りの四匹にそう叫び、魔力を大剣に流した。

 蒼白く輝きを増した大剣が空気を震わせ、足元の砂を空高く舞い上げる。

 自分の強大な魔力を込めても砕けることの無い武器は、神獣の素材で創られたこの剣くらいだ。

 狼の国に流通している強力な武器も、自分の魔力に耐えることは出来なかった。


 だから親父に専用の武器を創ってくれとよく頼んでいた。

 なかなか創ってくれなかったカトゥヌスは、ベルトマーが強者を求めて旅立つことを決めたその日にこの大剣をくれた。


「貴様が一番強いことを証明してこい。人間を懲らしめるならその後でいい」


 それが父である狼の神獣カトゥヌスが自分を送り出した時の言葉だった。

 自分が負けるわけにはいかない。

 たとえそれが自分と同じ神獣の子であっとしてもだ。

 最強の証明。それこそがベルトマーの望むただ一つだけの座だった。


 目の前に立ち塞がる者は斬る。

 そして、手は抜かない。

 全力の相手を全力の力で叩き潰す。


「俺様は、竜の子みたいに手は抜かねぇぞ!!」


 魔力を込めた大剣を砂の中に突っ込む。

 流した魔力で土属性の魔術を発させ、地面を隆起させた。

 魔物を押し出すように突き出た四本の土の柱は、空高く魔物たちの身体を打ち上げる。竜の子が空中でトドメをさしたのなら、自分もそうする。

 負けず嫌いなベルトマーはユーゴの戦いを見た時からそう決めていた。


「おらぁ!!」


 大剣を魔物たちへ向けて大きく横に振る。

 魔力で巨大化した蒼い斬撃が魔物たちへと向かっていった。

 そして、蒼い光が空で輝き、魔物たちが跡形もなく消えたことを確認して、ベルトマーは大剣を背中の収納口(ホルスター)へと差し込んだ。


「ふん。あっけねぇ」


 鼻を鳴らし、戦闘の感想を呟いたベルトマーに周りからの歓声が降り注いだ。


「さすがベルトマー様だ!!」


「これが神獣の子の力ですか!!」


「まさに力の象徴だ!」


 好き勝手なことを言う周りに呆れてしまう。

 自分より弱い奴に興味はない。何を言うのも勝手だ。

 ただ、こうやって称賛の声を向けられて、そう言われるのも悪くないと生まれ始めて少しだけ思った。











 ベルトマーが瞬く間に決着をつけた。

 そして、俺よりも目立っていた奴に周りから称賛の声が降り注いだ。

 圧倒的な力を見せつけたベルトマーは、力に対して敬意を抱く狼の国の人々の心を惹きつけたらしい。

 先ほどまで戦っていた人間も獣人も関係なく、皆がベルトマーを尊敬のまなざしで見ていた。


 そんな周りの視線と余所に、全身傷だらけのルフに近づき肩を貸した。

 彼女独特の甘い香りが鼻に飛び込み、役得だなと勝手に思った。


「へ、変なこと考えないでよっ」


「そうだな。今なら動けないお前に色々できるかもな」


 ルフが離れようとするが、彼女の身体を肩に回した腕で押さえつけた。


「離れてよっ。この変態っ」


 彼女の罵倒を無視して、応急処置だが治療魔法で彼女の怪我を少しずつ治していく。完治は難しいが、血を止めるくらいの効果はあるだろう。


「よし。もういいぞ。応急処置だから無理するなよ」


「え……あ、ありがと……」


 いつの間にか自分の血が止まっていたことに気がついたルフが珍しく礼を言った。「どういたしまして」と笑顔で返すと、顔を横に向けられた。

 おかしいなぁ。いいことしたはずなんだけど。


 いつになったら、ルフからの好感度は上がるのだろうか。

 そんなことを考えているとエレカカさんが人ごみの間を抜けて、ベルトマーに近づいた。一応また大剣を振られた時に備えて、俺も人混みをかき分けて進む。


「やっぱりこの国の王はあなたしかいません! お願いします! もう一度考えてくれませんか!?」


「あぁ? 女、その話は断ったはずだ。強い奴と戦えなけりゃ意味はねぇ」


「まぁまぁ、そんなこと言わずに美人の頼みは聞いてやれよ」


 話しかけた俺にベルトマーに視線が向けられた。


「弱い奴の言うことに興味なんてねぇ」


「だけど、王になれば格好の的だ。腕自慢から狙われるのはいいんじゃないか? それに王様になって、魔物を倒せば毎回こうやって褒められるぞ」

 

 俺は周りを指さす。

 歓喜する人々は神獣の子と言う一つの力の元に一つに成ろうとしていた。

 さっきまで殺し合っていたのに、それはそれでどうなのかと思うが、彼らにとっては分かりやすい『力』こそ全てなのだろう。


「ふん。なら今度はてめぇが俺様の頼みを聞く番だ」


「言ってみなよ」


「てめぇが俺様に勝ったら。この女の言うことを聞いてやる」


 ベルトマーが口端を吊り上げ、エレカカさんを指さす。

 成程ね。そう来たか。


「いいぜ。全力で相手してやる」


「そうこなくっちゃな」


 周りがざわめき始めるが、俺たちは意にも介さず、デザートウルフへと跨った。

 心配そうな目で見つめるルフたちに手を振り、二人で街から遠く離れる。

 デザートウルフの上で揺られながら後ろを振り返ると、要塞都市の壁が小さくなっていた。そして、誰も居ない砂漠の真ん中で足を降ろす。


 砂漠の水平線に太陽が沈み、蒼い月が空に登る。

 月明かりの下で向かい合う俺たちを邪魔する者はいない。

 思う存分、暴れることが出来る。


「ところでベルトマー」


「あん?」


 大剣を背中から抜いた彼が、こちらを睨む。

 腕には力が込められており、早く始めたいと訴えていた。


「お前『神獣化』は出来るのか?」


「なんだそれは?」


 ベルトマーには聞き慣れない単語だったらしい。

 どうでもいいと言う感じで、言い返す相手にため息。


「そうか。なら俺の勝ちだな」


「ほぉ……面白いことを言う奴だ。なら早くしろよその『神獣化』とやらを!」


 ベルトマーが嬉しそうに叫んだ。

 俺が父との修行中、『死』への恐怖から開いた門の奥に隠された力。

 それが『神獣化』だった。


 受け継いだ『四色の炎』を超える力を発揮する。

 正真正銘の切り札であり俺の全力。

 どうやらベルトマーは親であるカトゥヌスからそれを教わらなかったらしい。

 優しい親で羨ましい。


「頼むから死なないでくれよ」


 ベルトマーにそう告げ、魔力を身体の内部へと集める。

 そして、その『門』を開けた。

 小さく、それを引き出す合図として呟く。


「神獣化」


「なんだ……これ……」


 驚愕するベルトマー。

 そんな彼との決闘は、一瞬でケリが着いた。

 もちろん結果は俺の勝ち。


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