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第26話 謎の美女


 砂漠の獣と呼ばれる魔物を倒し、俺とルフは残された一体と向き合う。

 数の利もあるし形勢は完全に逆転した。

 後はこの全身を黒の鎧で守る魔物を倒すだけだ。


 砂漠の主と呼ばれる分類不明の魔物。

 昔からこの国に居る魔物なのだろうか?

 色々な疑問を奥へと追いやり、集中力を高める。


 最初に動いたのはルフだった。

 目にも止まらぬ早打ちで魔物を狙い撃つ。

 放たれた矢が夜の空気を切り裂き魔物へと伸びていく。

 

 砂漠の主が肩に担いだ大斧を握りしめ、その矢を空中で叩き落とす。

 すると無効化された矢が、爆発して炎が魔物を包み込んだ。

 倒せなくともダメージは与えられる。そう確信するには十分な爆発。

 しかし、魔物が炎の中から出て来た。


 蒼い月に照らされた黒い鎧には傷一つ付いておらず。

 大斧を肩に担ぎ、ルフへと一直線に向かう。


 やらせるか。


 足に魔力を集めて一気に開放する。

 通った個所の砂が舞い上がるほどの速度で、魔物とルフの間に割って入った。

 重たい鉄の塊が真上から振り下ろされる。

 避ければルフ当たる。受け止めるしかない。


 両手の掌で魔術を発動して超高密度の炎の膜を張る。

 そのまま掌を開き、大斧を受け止めた。

 バチバチと音を鳴らして魔力が大斧の重さで軋む。

 足が砂漠へと沈み、大斧の重さを体全体で受け止めた。


「ルフ! 撃て!」


 声に反応したルフが弓を素早く構えた。


「くらえ!」


 放たれた矢は風属性の加護を受けた、貫通力の高いタイプの物だった。

 俺が受け止める大斧に矢が直撃する。

 貫通力の増した矢の衝撃で大斧が弾かれ、魔物がバンザイのような体勢になる。

 これで大斧を受け止めていた両腕で仕事ができる。

 右拳に炎を定着させ、握った拳が赤みを帯びた。


 これで……!!


 相手の体勢が整う前に素早く懐に潜り込む。

 そして右拳を相手の腹に当てて、思いっきり振りぬいた。

 当たったと同時に開放した魔力が爆発となり、相手の魔物を吹き飛ばす。

 数十メートル後方に吹き飛んだ魔物が砂に叩きつけられ、砂漠に小さなクレーターが出来た。

 

 周りの討伐部隊の人たちは「やったぞ!」と喜んでいる。

 ルフも一息ついており、雰囲気的には二体とも倒したという感じだ。

 しかし俺としては、最後の一撃は相手の身体を貫通させるつもりで放った。

 それなのに魔物は吹き飛んだだけ。つまりあの黒い鎧に防がれたと言っても過言ではない。


 本当に倒せたのか?


 魔物が倒れている場所の砂が隆起する。

 出てきたのは砂漠の獣と呼ばれるサソリ型の魔物。

 一度緩んだ集中力を再び魔物へと向ける。

 

 連戦も覚悟していたが、新しく現れたサソリ型の魔物は倒れていた砂漠の主を自分の背中に乗せた。

 そして再び砂の中へと潜って行く。

 姿が見えなくなってから、周りの気配を探るが辺りには何もない。

 どうやら後退してくれたらしい。


「逃げたの?」


「みたいだな」


 ルフがチッと舌打ちをして弓を背負った。

 仕留めそこなった。それは事実だから舌打ちしたくなる気持ちも分かる。

 それに砂漠の主と呼ばれる人型の魔物を連れ去ったと言うことは、あの魔物も生きていると言うことだろう。

 サソリ型の魔物が複数体出てきたのは予想外だったけど、もう少し本気で戦っておくんだったと反省。


 いくら最弱(・・)の炎の状態だからといって、油断しすぎた。

 加減が分からないんだよなぁ。周りを巻き込むといけないし、ついつい人前で使う炎は一番加減したモノになってしまう。


「ところでルフはこんな所で何してんの?」


「それはこっちのセリフよ。夜な夜な向け出して居ないと思ったら魔物と戦って……何かあったらどうするの!?」


「あれ? 珍しく心配してくれるのか?」


「バ、バカ! あんたが居なくなるとフォルちゃんが寂しがると思っただけよ! あの子、何故かアンタに懐いてるし」


「はいはい。そうゆうことにしておこう」


 ルフが眉間にしわを寄せ睨んで来る。

 何をそんなに怒ってるんだが。

 それとも黙って抜け出したのが悪かったのかな。


「でも、来てくれてホントに助かった。ありがとう」


「そ、それくらい当然よ……」


 プイッと顔を横に向けたルフ。

 感謝の意味も込めて、彼女の頭に手を置くと盛大に払われた。

 少しだけ悲しい。


 完全には仕留めそこなったが、サソリ型魔物は一体だけ倒したため、その死体から使えそうな物を討伐部隊の人たちかが回収する。

 街に帰る時も部隊の最後尾からついて帰る。

 部隊の男たちが時々こちらを振り返り、ヒソヒソと何か話していた。


 さしずめ、「あいつら何者だ」くらいのノリだろう。

 神獣の子が人間側に居て、内戦中のこの国で俺が神獣の子だと明かせばタダではすまないはず。正体を明かす勇気はもちろんないが、ルフの正体に関しては俺も詳しくは知らない。


 屈強な狼の国の魔物たちと互角に戦える腕前。

 竜の国の王女であるソプテスカと親しい間柄。

 彼女もまた謎の多い。


 ただ、彼女から何か言わない限り俺から聞くこともない。

 他人に知られたくないことの一つや二つあるもんだ。

 街に戻り、討伐部隊の人たちから見つからないように離れる。


「黙って離れてよかったの?」


 隣を歩くルフが不思議そうな顔をしていた。


「こんな状況じゃ報酬も大して出せないだろ。気落ちしている女性に身体で払われても面白くないし」


「……あんた。報酬に女性の身体を要求したことあるの?」


 ジト目で俺を見て来る。


「ソプテスカの身体を要求したことはある。冗談半分でな」


「半分本気だったってこと!?」


 ルフの声が静かな街に響く。

 寝ている人が起きたら可哀そうだからやめて欲しい。

 大聖堂へと帰り、疲れをとるために用意された部屋と戻った。


 フォルがベッドの上で眠っている。

 掛け布団代わりの布を彼女の身体にかけなおし、赤い外套を外して壁に掛けた。

 武装解除したルフが自分の使うベッドに座り、両手を上に突き上げて身体を伸ばしている。なんとなく悪戯をしたくなって、脇腹をばれない様に両方つついた。


「ひゃ!」


 腕を素早く戻し脇腹を隠す。

 こっちを睨む彼女の顔が心なしか赤い。


「いい反応だな」


 面白くて腹を押さえて笑いを堪える。


「そうやって他の子にも手を出したの?」


「さぁ?」


 ルフの不満そうな目。

 答えをはぐらかされたのが嫌だったらしい。

 仮にそうだと言っても、彼女は怒るだろう。

 別に悪いことをしているわけじゃないんだけど。


「もういい。あんたに聞いたあたしがバカだった」


 拗ねてしまったルフが背中を向けてベッドに寝転がる。

 一応ベッドの半分を開けてくれているのは、俺がもう半分を使ってもいいと言うことらしい。彼女の不器用な優しさに感謝し、俺もベッドに入ろうとした時、部屋のドアがノックされた。


「あの……少しいいですか?」


 女性の声。ルフが身体を起こしドアに目をやる。

 ルフに視線で合図する。彼女が弓と矢を手に取り、万が一に対する備えをした。

 ここは内戦中の場所だ。誰がいつ何処で襲って来てもおかしくはない。

 それに対する一応の備えだった。


「はい。鍵は開いてますよ」


 そう返すとドアがゆっくりと開けられ、入って来たのは腰まで伸びた美しい銀色の髪と瞳持つ獣人の女性だった。

 歳は20代前半くらいだろうか。

 頭にはフォルたちと同じ猫耳がついていた。

 ただ、胸が大きくて腰が芸術的な曲線美を描いていた。

 凄く美人な人だ。素直にそう思った。


「あの……話をしたくて」


「お誘いですね。外で話しましょうか」


 女性に近づこうとした俺の襟元をルフがガシッと力強くつかむ。


「おいルフ。目の前に宝があるのに見逃すバカは居ないだろ? だから離せ」


「あんたの頭の中がお花畑だって?」


 ニコっと笑うルフはある意味、一番怖い。

 俺たちのやり取りをキョトンとした表情で見つめる獣人の女性。

 これ以上は変な人に見られかねないのでやめておこう。

 美人に避けられるのは悲しい。


「まぁ冗談は置いておいて。俺たちになんの用です?」


「街の噂で聞きました。砂漠の主と獣と倒したと」


「片方には逃げられたのよ」


 ルフが事実を告げる。

 全くその通りだ。

 今度会ったら葬ってやる。


「それでもあなた方の腕を見込んで頼みがあります」


「信用できるかどうかも分からないあたしたちを?」


「まぁまぁ、最後まで聞こうぜ」


 なかなか警戒心を解かないルフを宥めて、獣人の女性を見る。

 彼女が息を吸い、緊張感のある顔で言った。


「私を神獣の子の所まで連れて行ってもらえませんか?」


 とりあえず彼女に背を向け、ルフと小声で緊急会議。


「ルフ。どう思う?」


「相手陣営に殴り込むようなもんよ? 自殺志願者なのかしら?」


「事情がありそうだし詳しく聞くのもなぁ……」


「神獣の子なんてデマよ。それを確かめたいとか?」


 彼女の意図が読めない俺たちに向かって獣人の女性が小声で呟く。


「やっぱりダメですか……? 私には払える金品があるわけではありません。でも、頼みを聞いてくれるのであれば、なんでもします!」


 美人の頼み。そして向こうからなんでもすると言う確約。

 俺の答えは決まった。


「そこまで言うのなら。あなたの身体を報酬に貰います。本番で泣き叫んでも、許してと言っても聞きませんからね」


「は、はい! ありがとうございます!」


 もの凄い勢いで頭を下げる女性。

 揺れる胸が目に毒だ。


「いや! それはダメでしょ!?」


 ルフが一人だけ冷静なツッコミをしていた。


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