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第22話 狼の国


 宿で軽めの朝食をとった後、俺たち三人は狼の国に行くにあたって必要な物を買いに街へと繰り出した。

 宿の鍵も返却し終え、嘆きの山へと向かいながら買う予定だ。

 今回俺たちが行くルートは、山に開けられた山道を行く。

 つまり、今は盗賊が居ると噂されるルートだ。


「その盗賊は獣人なの?」


 愛用の弓を背負い、腰に矢入れをぶら下げたルフが聞いて来た。

 昨日は自室ですぐに寝てしまったらしく、俺とフォルが仕入れて来た情報を今朝聞いたばかりだ。


「さぁな。そこまでは分からん。ただ、その可能性が高いだろうな」


 街で一番大きい道具屋を見つけた。

 昨日話を聞いたメイドさんによると、この道具屋は武器屋も兼任しており、何か旅に必要な物を買うならここが確実らしい。

 朝まで一緒に過ごした彼女が言うのだから間違いない。


 ドアを開けるとカランカランとベルが鳴った。

 奥のカウンターに居る店主のおっさんがこっちを向いた。

 感覚的には体育館ほどの広さに、二階が武器の売り場になっているらしい。

 俺も一応武器を買っておくかな。軽いダガーとかならあっても損はないはずだ。


「うし。フォルはルフと必要な道具を買っておいてくれ。よろしく」


「了解!」


 フォルが敬礼ポーズで元気に答えた。

 この世界では見慣れないポーズに、ルフの頭の上にクエスチョンマークが飛び交っている。

 フォルは素直な分、人の話を信じやすい。

 昨日酔った勢いで俺がメイドさんに敬礼ポーズをとると、「それなぁに?」と聞いて来た。

 そこで冗談交じりに、「人の話を理解した時はこうするんだ」と言ったら、今いきなり使って来た。


「あんたはどうするの?」


「店内に居る女の子のナンパかな」


 ルフに笑顔で答える。

 彼女はフォルの手を引くと「こんな奴は放って、行こうか」と呟き、店の奥へと消えた。

 相変わらず冗談の通じない奴だ。


 ルフは他国から竜の国に渡ってきた。長旅に対する慣れは俺よりも上だ。

 狼の国の特性を踏まえて必要な物を選んでくれるだろう。

 そのあたりは心配していない。


 俺は武器を見るために二階へと向かう。

 壁に掛けられた高価な大剣や斧に心躍るのは、男の性だろう。

 ただ残念なことに俺の戦闘スタイルは武器を必要としていない。

 武器を使うよりも火の魔術を使った方が強いし、炎の形を剣に変えて戦うことも出来る。


 ただし、威力が高い分、周りを巻き込む可能性も高い。

 今回はルフとフォルも居るし、混戦になっても困らない武器が必要だった。


「何かないかなぁ」


 店内をブラブラと歩き、弓やボウガンなど様々な武器を見る。

 今さら剣や斧と言ったメインになるような武器を買うつもりはない。

 熟練者には遠く及ばない実力だし、何より慣れない武器は死につながる。


「お……これは……」


 置かれた六本のダガーが目に留まった。

 黄金の柄に緑色の装飾。風属性の加護が付属されおり、投擲用なのか小さな刃は今の戦闘スタイルにも支障が無いように思えた。

 これにしよう。そう思い立ち、六本のダガーを腰に巻くタイプの収納口(ホルスター)と共に店主のおっさんがいるカウンターまで持っていく。


「こんな小さな武器でいいのか? この辺りの魔物には通じんぞ」


「風属性の加護あるからそんなことないだろ?」


「アホか。こりゃただのダガーだよ」


 おっさんがそう言って銀貨三枚と言った。

 とりあえず対応する銀貨を払い、ホルスターを腰に巻き六本のダガーを納めた。

 どう見てもどっかの腕利き鍛冶屋が造った品にしか見えないが、店主が銀貨三枚でいいと言うからそれでいいのだろう。


 本来ならもっと高価だと思っていたので、最悪値段の交渉もするつもりだった。

 それが思ったよりもスムーズに買えて、正直拍子抜けと言った所だ。

 入り口付近に行くとルフとフォルが白い外套を身に纏い待機していた。


 話を聞くと狼の国特有の強い日差しを遮るものらしい。

 水属性の加護は付属しており、日中はかなり涼しいとか。


「あんたはどうせ愛用のそれでしょ?」


 ルフが俺の身を包む赤い外套を指さす。

 父の鱗で造られたこの外套はありとあらゆる物を遮断する。

 その辺の防具よりもよっぽど防御力は高く、暑い日差しや寒気などの防寒対策もばっちりの優れものだ。

 神獣の素材で作られたオーダメイドなのだから、それくらいは当然なのかもしれない。


「おう。赤い外套(これ)で十分だ」


「食料は最低限だけ。襲われるって分かっているし、余計な荷物は持たないことにしたよ」


 フォルが意図を説明してくれた。

 確かに今回は道中で賊に襲われることがほぼ確定している。

 余計な荷物は戦闘の邪魔になるし、倒した賊から使えそうな物は奪えばいい。

 

「それでいこう。賊から強奪作戦だな」


「どっちが賊なんだが」


 ルフの呆れ気味の声に笑う。

 彼女の言う通りだ。

始めから必要な物を相手から奪う気満々など、賊以外の何者でもない。


「こうゆう悪いこともドキドキするね!」


 フォルは好奇心を抑えきれない様子だ。

 普段から騎士団で色々と制約の多い彼女からすれば、憂さ晴らしには持って来いかも。

 周りから見れば俺たちは、悪人如き笑みを浮かべる怪しい三人組だ。

 店で買い物を済ませた俺たちは街へと戻り、嘆きの山へと繋がる道へと移動する。


 石で造られた門。巨大な重々しい雰囲気を漂わせているのは、この山の向こうへ旅人がたどり着くことを否定しているからだろうか。

 門の両脇に居る鉄甲冑に身を包んだ兵士が俺たちを睨んで来る。

 きっと、今は嘆きの山を越えることが難しく、上から人が立ち入ることを止めろと言われているのだろう。


「嘆きの山に行きたいんだけど?」


「ダメだ。最近は治安が悪い。騎士団の対応があるまで基本的には誰も通せない」


 なるほどね。基本的にはダメなのか。


「何があってもアンタたちのせいにはしない。全て自己責任で、今から起こることは見ない事にしよう。これでいいか?」


「……通れ」


 兵士が巨大な鉄の門の下についた小さな扉を開けてくれた。

 こんな巨大な扉を毎回開けていたら大変なのと、大きな音が出たら人をお通したとバレてしまうからだ。


「この先で何があっても我々は関知しない」


「すぐには戻ってこないから大丈夫だよ」


 兵士の男に開けてもらった礼を言って、三人で身を屈めて扉を潜る。

 扉の向こうに全員がつくとすぐに扉は締められ、施錠された。

 あの兵士したら、誰の通してないことにしたい。

 締め出されたのは当然と言うべきか。


「強行突破かと思った」


 ルフは拍子抜けと言った感じで肩を竦める。

 その隣に居るフォルも少し残念そうな顔。

 こいつらどんだけ暴れたいんだよ。


「体力は今から起こることにとっておけ。いつ何処で相手が来るか分からないぞ」


 前を見ると石造りの道が山まで続いており、この道を辿れば嘆きの山に開けられた道に着けるようだ。

 周りには何もなく、見通しがいいので奇襲の心配は無い。

 しかし、万が一に備えて、周りの警戒は怠らない。

 ルフは弓をフォルは剣を既に手に握っており、奇襲に対する対策は万全だ。


 一歩ずつ慎重に進み、山に開けられた道へとたどり着いた。

 道中は木の道で壁には視界を確保するために壁にロウソクが掛かっている。

 視界が悪いが、人ひとりほどの大きさの穴が奥まで続いていた。


 正面から以外に奇襲する方法が無いけど、どうやって賊は旅人を襲ったのか。

 色々と考えられるが、この一本道を進む以外に俺たちには選択肢が無い。

 踏めばギシッとなる木の道をひたすら歩く。

 かなり進んでも、一向になんの気配もない。


「嘘だったのかな?」


「女に騙されるなんて、あんたらしくていいじゃない」


 俺の後に続く二人が何か言っている。

 賑やかだなぁと心の中で思っていると熱風が頬を撫でた。

 今までとは違う、格段に暑い熱で額に汗がにじむ。

 外に繋がる出口、そこから熱風が来ているようだ。


「すごいね! お兄ちゃん!」


 目の前に広がる光景を見てフォルが叫んだ。

 山道の出口へとたどり着いた俺たちを待っていたのは、灼熱の太陽の照らされた金色の砂の海。

 これが強者のみが生きることを許される狼の国。

 道を進み、砂漠へと足を降ろした。

 

 柔らかい感触が足裏から伝わる。

 安定感のない足場は始めてなので、上手く動けるか少しだけ不安だ。


 遠くに目を凝らすと岩肌や、村が確認できる。

 砂漠で人がのたれ死ぬことのないように、村や町の距離は比較的近いようだ。

 まだ見ぬ世界に高揚感を感じていると、そう言えば賊が居ないことに気がつく。


 あのメイドさんの言うことは間違いだったのだろうか?


 ルフは暑い気候が馴染んでいないのか、手で顔を仰いでいる。

 狼の国出身のフォルは遠くを見て、笑顔を浮かべているから身体はこの暑さに馴染んでいるらしい。

 既に警戒心を解いた彼女たちを見て、ピンときた。


 もしも俺が賊ならいつ襲うか。

 最初のうちは何処でもいいが次第に警戒され、奇襲は使いづらくなる。

 それでも賊が冒険者や旅人から奇襲を成功させていた理由。

 それは狼の国に入った直後の気が緩んだ隙をついたからだ。


 そして今の俺たちは、目の前で広がる光景に目を奪われている。

 襲うなら今しかない。

 そう思った瞬間、俺たちの足元の砂が隆起した。


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