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第21話 行く道


 途中で時々休憩を挟みながら、狼の国との国境に最も近い街に着いた。

 フォルとルフは休憩ごとにジャンケンをして、どっちがゴンドラに乗るのか決めていた。

 俺としてはどっちが来ても何も変わらないのでどうでもいい。

 因みに結果はルフの全敗だ。

 

 日はすっかり沈んでおり、街は魔法の街灯でライトアップされている。

 空からの景色はとても綺麗だが、早く着陸しないとワイバーンの夜間飛行可能時間を超えてしまう。

 飛行場の係員の手旗にしたがいワイバーンを慎重に着陸させた。


 ゴンドラからルフが出て来て身体を伸ばす。

 俺とフォルもワイバーンから降りて、証明書を係員に提示した。

 係りの男はその紙をしばらく見つめると、「ようこそ、嘆きの山の麓へ」と言ってサインをしてくれた。

 どうやらこれが滞在中の証明書になるらしい。


 男からの紙を受け取ると四つ折りにして腰につけたポーチへとしまう。

 後ろを振り返ると狼の国との境目である証、通称『嘆きの山』と呼ばれる山が空高く伸びていた。

 この山の向こうに広大な砂漠地帯が広がっており、そこはもう狼の国の領地内だ。


 魔物の討伐アベレージが最高値と言われる強者の集う国。

 国の八割が獣人で構成され、別名『獣人の国』と呼ばれるほどだ。

 竜の国とは間違いなく別世界だろう。





「身体が固くなった」


 ルフがそう言って街中を歩きながら手を上へと伸ばす。


「あんまり興味ないがほぐしてやろうか?」


「変態め」


 ベッと小さな舌を出して否定の意志を示すルフ。

 ちょっとしたスキンシップだと思えば、許可してくれてもいいと思う。

 別に減るもんじゃないし、減るほどこいつの胸は無い。


「お兄ちゃん、これからどうする?」


「とりあえず宿を探そう。山道を超えるのは明日だ」


 嘆きの山を越えるのは少し体力を使う。。

 数年前までは命がけだったそうだ。しかし、山の中に道が造られてからは、移動が比較的容易になった。

 この街と繋がるその道を行けば、安全に徒歩でたどり着ける。


 宿を探しているとこの街で一番でかい建物が目についた。

 五階建ての木造建築物は、この世界に来て初めて見る。

 ぶら下げられた看板には、『ギルド兼宿泊施設』と書かれており、ギルドと宿の複合施設らしい。


 人の出入りが激しい入り口から中に入ると、まるでホテルのロビーのような広い場所。

 冒険者以外にも商人の姿も多く、冒険者と取引をしている人も居た。


「すごい数ね」


「複合施設でもこの数は異常だよ」


「お前ら迷子になるなよ」


 三人で人ごみをかき分け、受付まで辿り着く。

 女将さんに一部屋でと指で示す。すると横のルフに脇腹を摘ままれた。


「いてっ、一つの方が安いだろ?」


「冗談は変態発言だけにしなさい。女将さん部屋二つ」


 ルフが指を二本立てて女将さんに伝える。

 銀貨を二枚差し出すと、女将さんは微笑みながら部屋のカギをくれた。

 俺たちの部屋は最上階の五階らしい。

 階段を上り部屋の前まで辿り着く。


「ルフさん。一人部屋でいいの?」


「……はい?」


 フォルの問いにルフが固まる。フォルは自分が何を言ったか分からないのか、純粋な目で首を傾げた。


「ルフは一人が好きなんだ。ほっといてやろう」


「なら仕方ないねー」


 俺は自室の鍵を解除しドアを開けた。

 そして、部屋に入ろうとしたフォルの首元をルフがガシっと掴んだ。


「ル、ルフさ……苦しい……」


「この変態と二人なんて絶対にダメ」


 こいつは俺の事をどう思っているのだろうか。

 さすがに幼女にまで手を出すほど落ちぶれちゃいない。

 ルフはフォルの首元を掴んだまま、隣の部屋へと入って行った。連行されるフォルが「助けてー!」と叫んでいたが、俺にはどうにもできない。

 ご愁傷様としか言えなかった。


 部屋はシンプルな作りでベッドがある以外、目ぼしい物はない。

 部屋についたたった一つの窓から、嘆きの山が見えるくらいだ。

 とりあえず外套を壁に掛け、ベッドに腰掛ける。

 ギシッと少しだけベッドが沈み、俺の身体を支えた。


 さて。狼の国に関する情報がこの街で手に入ると楽なんだが……

 窓の外を見ると日がすっかり沈み、街は眠りについている。

 外が比較的静かなせいか、下から聞こえる声がうるさい。


 この建物の二階は酒場になっているから、酔った冒険者たちが暴れているのだろう。

 酔っ払いに絡まれるのは面倒だが、珍しい酒の種類があるかも。

 それに酒場は人が集まるから情報収集の基本だ。

 

 ベッドから立ち上がり二階の酒場を目指した。







 二階につきフロアに足を降ろすと、ワンフロアぶち抜きの巨大な酒場となっていた。

 酒場と言うよりも、もはや大宴会場に近い。

 並べられた長テーブルに所せまし人が座り、その間をメイド服を着た女の子やウェイターの男の子たちが、料理と飲み物を持って移動している。

 フロアの端にはカウンターの席も用意されており、ノンビリ飲みたい人はそっちにいるようだ。


 女の子の中には酔っ払いに時々お尻を触られるなど、軽いセクハラを受けている子もいた。

 俺もドサクサに紛れて触ってみようか。そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。


「お兄ちゃん! 探したよ!」


 俺の服の袖をフォルがクイクイっと引っ張る。

 騎士団の装備は腰にぶら下げた剣のみで、薄い布Tシャツ姿だった。


「どうした?」


「部屋に居ないから探したんだよ。ルフさんは何時もの事だって言って部屋に居る」


 何時もの事と言われれば何時もの事なのかもしれない。

 酒場を探しては飲んでるわけだから、ルフからすれば何時もの事だ。

 わざわざ探しに来てくれたフォルに、部屋へ戻れと言うわけにもいかず、とりあえず忠告だけしておく。


「酔った人も居るから俺のそばを離れるなよ」


「うん!」


 元気よく頷いたフォルを連れて、カウンター席へと近づく。

 二人で並んで座り、俺は適当な酒をフォルは果汁のジュースを注文した。


「フォルも同じやつがいい!」


「ダメだ。まだ早い」


「騎士団でも止めらてるからお願い! こんな時じゃないと飲めないの!」


 フォルは両手を顔の前で合わせ俺に頼んできた。

 自分の慕ってくれる可愛い年下の頼みだ。聞いてやりたいのは山々だけど、万が一何かあったら俺はルフに間違いなく殺される。

 それだけは阻止しないといけなかった。


「もう少し大きくなったらな。それに酔ったルフを見たら、飲む気も失せるぞ」


「ル、ルフさんって飲むとそんなに凄いの?」


 彼女がゴクッと唾を飲み込む。


「よく記憶が無くなるけど、あれで記憶があったら俺なら耐えられないね」


 舌を出して冗談っぽく言ってみる。

 何故か酒を飲むと幼児退行して甘えて来るのは、もうあいつの酒癖と認識して問題ないだろう。

 あれを意図してやっているなら相当な役者である。


 隣のフォルが顔を蒼白にしているのを見て、少しは酒の恐ろしさを理解してくれたと思った。

 フォルくらいルフにも警戒心があれば、あんな酔い方はしないはずなのに。

 そんな事を思っているとバーテンダーの男の子が、俺たちに木製のコップを出してくれた。

 中身はもちろん注文した物で、フォルと小さく乾杯。

 一口飲んで、再びテーブルの上に置いた。


「ちょっとすいません」


 近くを通ったメイド服を着た女の子を呼び止める。

 歳は二十代後半くらいだろうか、腰まで伸びた紫色の髪が美しい。

 そして今更ながら、メイド服はこうゆう所で働く人たちの正装なのかと疑問。


「何かご用でしょうか?」


「少しお聞きしたいことがあって」


「答えられることなら構いませんよ」


 ニコッと可愛らしい笑みは営業スマイルなのかどうか、今の俺では判断しかねる。

 話しかけられて面倒だと思われていない事を祈って、用件を話した。


「狼の国へ行こうと思っています。嘆きの山の道は使えますか?」


 俺の問いにメイドさんは険しい顔。


「狼の国には入る際に手続きは要らないのはご存知ですか?」


「ええ。街でそれぞれ独立していると聞いています」


 あの国は街それぞれでルールや仕来りが決まっており、場所によってはかなり特殊な風習がある町や村もあるらしい。

 一応国王は居るらしく、王が決めたことには従うと言うから、身勝手なのか従順なのか分からない。

 基本的に自由、だけど王の言うことには従う、それがあの国の基本的な考え方らしい。


「ただ最近。狼の国に入ったばかりの旅人を狙う賊が増えているようです。そのせいで、無一文になってこの街に戻って来た者もいます。今は山を越えるルートも空けられた山道を行くルートもどちらも危険です」


 一筋縄じゃいかないらしい。

 確かに砂漠が多く、緑の少ないあの国は生きるには過酷な環境だ。

 しかし、強い魔物を倒すことで報酬を得た冒険者が落とす金で町は潤い、強い武器や防具を売ることで国民の金の回りはいいと聞いていた。

 

 腕に自信があるのなら、貧乏かもしれない冒険者を狩る賊よりも、魔物を倒した方が報酬は多くもらえる。

 それなのに狼の国に入った者を襲う理由。少なくとも今現在向こうの国が、正常な状態ではないことだけは理解できた。

 そして俺たちがどっちの道を行くのかも。


「分かりました、ご忠告ありがとうございます」


 メイドさんにそう返し、情報代として銅貨を渡す。

 これで明日どうするかは決まった。

 今は酒に浸るだけだと、テーブルのコップを再び手に取った。


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