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第16話 物騒な日

 城から離れた離宮にある罪人用の牢屋。

 中の牢屋は薄暗く、石畳は身体の体温を奪うほど冷たい。

 騎士団の人に「ここで大人しくしとけ」と言われ放り込まれた。

 鉄格子で閉じ込められ、手には重たい鉄の拘束具。


 向こうは俺が魔法を使えると知らないようなので、魔術をつけば拘束具は破壊できる。

 ひと暴れすれば脱出は可能だろう。ただ、それはあくまで死刑が確定した後だ。

 先に連れていかれたルフが心配だけど、ソプテスカの知り合いならひどい扱いは受けないはず。


「とりあえず寝るか……」


 まだ眠気の残る頭を横にする。

 石畳のヒンヤリとした冷たさに一瞬身体がビクッとなるが、魔術で薄い火の膜を張り身体の体温を確保した。





「お兄ちゃん」


 眠ってから数分は経っただろうか、誰かの呼ぶ声。

 俺に妹は居ねぇと心の中で返し、眠気に再び身を任せた。


「フォルだよ。助けに来た」


 身体を返し鉄格子の方を向いて、目を開ける。

 そこには鍵を手に持つ、獣人のフォルが笑顔で居た。

 茶髪の中で動く猫耳がとても気になる。いつか触ってみたいと思うのは男の性なのかもしれない。


「騎士団のお前がそんなことしたらマズいだろ」


「だって、王女様の我儘に巻き込まれたんでしょ? なのに罰を受ける必要ないよ」


 フォルが鍵を使って牢屋を開けようとする。

 顔を上にして少し考える。


 もしもこのまま脱獄すればフォルが罪に問われるのか。

 騎士団の者が一応まだ囚人の俺を逃がせば問題だろう。

 自力で出よう。


 そう決めて両手首に魔力を集めて、拘束具に向けて魔術を発動させた。

 高温まで熱を持った拘束具を力で破壊する。パキンと音をたてて拘束具が外れた。


「え? お兄ちゃん今のどうしたの?」


「気合だ、気合。それと少し下がって」


 鍵を持ったままフォルが鉄格子から離れる。

 格子を両手で掴み、魔術を発動し熱で素材を柔らかくした。

 そして、力のままに左右へ引っ張り、人ひとり通れるくらいの穴をつくる。

 半身にしてその穴から出れば、立派な脱獄の完了だ。


「すごいね……フォル要らなかったね……」


 肩を落とすフォル。


「いやいや。フォルのおかげだ」


 頭を撫でて慰める。

 フォルの頬が緩んでいくので、気落ちすることは避けられたらしい。

 さて、これで立派な罪人なわけだが、これからどうしようか。

 これからの行動を考えていると独房の廊下に声が響いた。


「あれ? 脱獄しちゃたんですね」


「ほらね。この自由人は大人しく出来ないの」


 ルフの細い指が向けられ、王女ソプテスカは困った顔。


「勝手に出ました。この子は関係ありません」


 フォルを自分の後ろに隠し、王女に主張する。

 一応足には魔力を溜めて、万が一に備えていつでも逃げられる準備だけした。


「ユーゴさんを罪に問うつもりは無かったので大丈夫ですよ。それに騎士団の人気者に何かしたら、騎士の人たちに怒られちゃいます」


「だって! やったねお兄ちゃん!」


 フォルが左腕に抱き着いた。

 空いている右手で頭を撫でてやると、「えへへ♪」と満足そうだった。

 前を見るとルフから謎のオーラが発せられている気がするけど、何も見てないことにしよう。

 気づかない方がいいことって世の中にはあると思う。


「ところでお前たち二人は何しに来たんだ?」


 俺の問いにソプテスカが両手をポンと合わせた。

 何か思い出したらしい。


「ユーゴさんに聞きたいことがあるんです」


 微笑のソプテスカが顔をグッと近づけて来る。

 彼女の色の瞳の中に、俺の顔が映る。

 綺麗な目だ。色が赤に近いのは彼女が竜の国の王族だからだろうか。


「ユーゴさんは神獣の子ですか?」


 まだ疑っていたのか。

 目を上に向けてどう返すか考える。

 あんまり間が空くと変な疑いがかけられそうだから、考える時間はあまりない。

 色々な考えが巡り、出した答えは前と同じだった。


「違うよ。狼の国に出た神獣の子だって嘘かもしれないだろ」


「ほらね、ソプテスカ。この自由人がそんな大層な肩書持っているわけないでしょ」


 ルフが俺を指さしどうだと言わんばかりにソプテスカを責める。

 諦めてくれるかなと思ったが、王女様はジッと俺を見て納得のいかない表情。

 もしかすると彼女は、本能的に俺が神獣の子だと気付いているのかもしれない。


 父が言っていた『古き血脈』とは彼女の祖先の事であり、その血を引く彼女は俺が『神獣に関わる者』だと分かっている……とか。


「分かりました。そこまで言うならそうなのでしょう」


 ソプテスカが踵を返す。

 ようやく諦めてくれたかと安堵。

 ホッと息を吐いた。


「では、これから私とルフは父と食事です。ユーゴさんは自由にしてください」


「いいのか?」


「はい。父には話しておきます」


 二人は独房が並ぶ廊下を出て行ってしまった。

 彼女たちの背中を見送り、フォルを見る。


「フォル。騎士団の仕事はいいのか?」


「今日はお休みだよ。緊急の事が無い限り大丈夫」


「じゃあ。街にでも行くか」


「うん!」


 独房のある離宮から出たら、衛兵に睨まれた。

 しかし、ソプテスカが何かを伝えていたのか、何も言われずそのまま離宮を後にした。

 城の門兵に赤の外套を返してもらい、城から離れる。

 城の門からは街へと繋がる階段を降りないといけない。


 いつも使うギルドの飛行場よりも高い場所に城はある為、階段はかなり長い。

 ルフは騎士団の仕事で城と街を往復することが多いらしく、慣れた足取りで軽快に降りてゆく。


「お兄ちゃん! 早く!」


 目の前を行くフォルがこちらを向いて叫ぶ。

 ショートカットの茶髪が風になびいて揺れている。

 彼女は背中を向けると階段の続きを降りて行った。

 元気でなによりだ。


 そんなことを思い、階段をノンビリ降りた。

 鼻歌混じりに階段を降り切るころにはフォルの背中はとっくに見えなくなっていて、下でかなり待たせてしまった。

 ちょっとだけ反省してフォルと並んで街を歩く。


 露店が多い区人混みも多い場所だ。

 すれ違うのは大人から子供まで年齢層で、家族連れもいる。

 多くの人とすれ違い、気がつくとギルドの前を通ろうとしていた。


「何時もより人多いね」


「そうだな。またネイーマさんが大変そうだ」


 フォルの姉であり、ギルドの人気受付嬢であるネイーマさんの苦労を思って二人で笑う。

 しかし、今日はギルドの外まで列が飛び出すほど人だかりである。

 これは中で何か行われていると思って間違いないほどに。


「ゴーレムを討伐した冒険者が見つかったのかな?」


 フォルが長蛇の列を見て呟く。

 確かに、あれだけ注目を集めた張り紙の張本人が見つかったとなれば、これだけ人が集まるのも不思議ではない。

 しかし、残念ながら当人はここに居る。


 しばらくギルドの外で人だかりを少し離れた場所で見ていると、人の隙間から疲れた様子のダサリスが出て来た。

 彼はこちらに気がつくとため息。


「おい。なんでため息なんだ」


「てめぇが居るとロクなことにならん」


 人を厄病神扱いするのはどうなのだろうか。


「おいおい。とうとう二股か?」


 ダサリスが俺のお隣に居るフォルを指さす。


「モテる男は大変なんだよ」


 冗談っぽく言って肩を竦める。

 魔物を討伐したり、独房にぶち込まれたり。

 本当に大変だった。


「ダサリスさん。この列はなんなの?」


「ネイーマの妹か。ちょっくら問題が発生してな」


「問題?」


 ダサリスは顎を手で触り「うーん」と唸り、考えを纏めている。


「近くの平原で魔物の群れが発見された。今ギルド本部のある人魚の国から援軍を呼んでいる。ただし、時間を稼ぐためにギルドと騎士団で防衛線を張ることになった」


「ギルド本部から強い冒険者が来るならいいじゃないか」


「それが、駆け出しの冒険者どもが、興味本位で防衛線に参加してるんだ。何が起こるか分からないのによ」


 ダサリスが呆れたように言った。

 冒険者なら魔物を狩りたいと思うのは当然なのかもしれない。

 しかも、今回は過剰に発生した魔物の群れと言うことで、竜の国でも魔物討伐の大義名分がある。

 命のやり取りをしたことの無い冒険者たちが、今頃数の少ない武器屋に殺到していることだろう。


「フォルはまだ何も言われてないよ?」


「騎士団はゴーレム討伐で被害を受けたからな。参加は最少人数らしい」


 なるほどね。魔物の群れが確認された時、魔物を狩るのは竜聖騎士団の仕事だった。

 しかし、今回は騎士団が消耗しているということで、人魚の国に助けを求めたと言う所だろう。

 ギルド側の独断で。王はギルドにその辺の判断を任せているから、間違いないはず。


「ダサリス。確認されている魔物の種類は?」


「主なのはゴブリンの群れ。ただし、それを相手しているのはオーガらしい」


「魔物同士がこんな近くで戦うなんて珍しいね」


「そうだな。ゴーレムの件といい、最近は本当に物騒だ」


 竜の国でこれだけ連日、魔物の事に関わるのは珍しいだろう。

 何が影響しているのか。そんなことを考えるけど分かるわけもなく。

 理解できるのは、魔物のせいで人が死ぬかもしれないということ。


「じゃあ。俺も参加するか」


「てめぇの名前は書いてあるから安心しろ」


「フォルも参加する!」


 すでに俺の名前が書いてあるとは、ダサリスの有能っぷりに関心。

 そしてフォルが横で元気に飛び跳ねている。騎士団の彼女が参加するのはギルド的にどうのかどうかはおいといて、戦いに慣れている彼女なら駆け出し冒険者たちよりも戦えるのは確かだ。


「じゃあ。ダサリスもいるし、時間まで飲むか」


「この呑兵衛め」


「宴だ! 宴だ!」


 フォルがいつの間にかそんな言葉を覚えているとは予想外だった。


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