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第15話 竜の国の王


 とりあえず状況が分からない俺とルフは、大人しく竜聖騎士団の言う通りにした。

 大きめの飛竜種に繋がれた囚人を捕える簡易的な檻に入れられる際、騎士の女性が小声で「君の災難だな」と言ってくれた。

 どうやらソプテスカ王女のこうした気まぐれは時々起こるらしい。


 その度に駆り出される騎士団も苦労しているようだ。

 この国に王族が居ることは知っていたが、まさか道でぶつかった女の子が王女様とは予想外である。

 まぁいい。なんとなるだろ、寝よ。


 夜通しお酒を飲んでいたせいで、睡魔が激しく襲ってくる。

 ワイバーンに揺られる檻の中は普段なら寝ることは出来ない。

 しかし、今なら簡単に寝ることが出来そうだ。

 両手を拘束している錠のポジションを気にして横になる。


「あんた状況を分かってんの!?」


 ルフの声はよく響く。

 酒と眠気で重い今の頭に余計にだ。

 横になったまま目を閉じて返事をする。


「とりあえず寝る……」


 身体から湧き上がる眠気に身を任せ、俺は意識を手放した。









 少し懐かしい夢を見た。

 樹齢千年はあろうかと言う巨大な木々に囲まれ、光のシャワーが降り注ぐ。

 光に照らされるのは赤い力強い体躯。魔物を簡単に踏み潰す四本足に、一振りすれば大地を抉る赤いまだら模様の羽。

 そこには竜の神獣と言われる父が居た。


 そんな竜の目の前に赤髪の少年、それが自分と理解することに時間はかからなかった。

 懐かしき父との思い出を俺は何故か上から見下ろしている。


「ユーゴ。この国の王族について述べておく」


「王女様可愛い?」


 可愛いけどやんちゃなお姫様だった。

 幼き日の俺の問いに、父は何も答えず話を続ける。


「各国には『古き血脈』と呼ばれる者たちが居る。その者たちは本能的に我々を感知することが出来る。姿を隠すのなら気をつけろ」


「すげぇ、俺も魔物を感知したい」


 会話が噛みあっていないぞ俺。


「それは後で教えよう。とにかくこの国の王族は、『古き血脈』の可能性が高い。遭遇には気をつけろ」


「はーい」


 絶対に分かっていない。現にこうして捕まっているのだから。

 懐かしい夢だな改めて思い、騎士団員の「降りろ」の声で目を覚ます。

 先に檻を出たルフに続いて外に出ると、いつも使っているワイバーンの飛行場では無かった。


 振り返ると竜の国の王都が一望できる。

 まだ朝の時間だから道に居る人の数は少ない。

 どうやらここは囚人護送の為の飛行場らしい。

 

 目の前にはずっと遠くから眺めるばかりだった城がある。

 頭を上に向けると塔の天辺にはドラゴンの紋章が入った旗が風で靡いていた。

 

 騎士団員三人に囲まれ、徐々に城へと近づく。

 旅に出て早々裁かれることになるとは、父に少しだけ申し訳ない気がする。

 ソプテスカは騎士団に囲まれ、俺たちよりも先に王都へと帰還した。


 彼女の我儘に巻き込まれた身だ。一応擁護はしてくれるだろう。

 ただし、裁くのは国王だ。神獣の子が王に裁かれる、そう思うとそれも少し面白いような気がする。


 そんな事を考えていると衛兵の一人が、俺たちを囲んでいる騎士団員に耳打ちをした。

 何かの伝言を聞いた騎士団員が「それは本当か」と驚く。そして、俺たちの方を向いた。


「国王が会いたがっている。ただし、女の方だけだ」


 モテない男はつらい。一人で少しだけ勝手に落ち込む。


「あたし? ユーゴはどうなるの?」


「この男はしばらく独房だ」


 騎士団の男は俺を指さし冷たく言い放つ。

 ルフはソプテスカが王女だと知っていた。もしかすると面識があったのかもしれない。

 彼女たちが一日で出会って、仲がすぐに良くなった理由がそれで分かった。

 つまり、ルフはこの国の重役と顔見知りであり、他国の重要人物の可能性がある。

 その割には気品のかけらが無いのはどうしてだろうか。


 騎士団に囲まれ王の元へと連行される彼女の背中を見てそう思った。

 ポニーテールに纏めた桃色の髪が、足を前に出すたびに左右に揺れている。

 小さな背中がいつもよりも小さく見えた。


「ルフ!」


 彼女に届くように出来るだけ大きな声を出した。

 桃色のポニーテールが揺れて、彼女がこっちを向く。


「また後でな」


「……あんまり待たせないでよ」


 すぐに彼女が前を向いてしまい苦笑い。

 せっかく呼んだのに冷たいやつめ。

 そんなことを思い、空を見ると今日もワイバーンが飛んでいた。















 白い大理石で造られた廊下を歩く。

 ルフがブーツで踏むたびに大理石がカツと音をたてた。

 父に連れられ何度か歩いたことのあるこの廊下を罪人として歩くとは思わなかった。

 

 祖国である人魚の国との外交問題にならないかと少し不安になる。

 竜の国はあまり好戦的な国ではない。それに国王も父と仲が良いし、戦争などにはならないだろう。

 そう自分に言い聞かせ、巨大な扉の前で足を止めた。


 両脇に居る衛兵が扉を開けると赤い絨毯が真っ直ぐに敷かれ、その先には王座に座る一人の男とその隣に立つソプテスカの姿がある。

 城内部にある謁見の間。天高く吊るされたシャンデリアは以前国王が自慢の品だと言っていた。

 衛兵が手に付けられた錠を鍵で外す。


「いいの?」


「王のご命令です。友の娘は丁重に扱えと」


 衛兵をそう言って、一歩下がり道を開けた。

 王座に座る白髪の男の口角が少しだけ上がるのが見える。


(こっちに来なさいってか)


 相手の意図を理解し足を前に。

 絨毯の上の足音は、廊下の時と比べ静かだ。

 バタンと扉が閉まり、謁見の間に居るのは王と王女。そして自分だけだ。


「一応罪人なのに随分と無警戒ではありませんか?」


 ルフの問いに王は腹を抱えて笑った。


「ハッハッハ! 娘の遊びに付き合わせて済まないな!」


「父上。響きますのでお静かに」


「おっと。これまた済まない」


 国王は手で口を押え、ハッと我に返る。

 そして王座から立ち上がり、ルフの前の前に立つ。

 ルフより遥かに大柄な国王は、肩を力強くバシバシ叩いて来た。

 結構痛い。


「竜聖騎士団の無礼は許してくれ。歓迎しよう。事情があってこの国に来たのだろう? ルフ・イヤーワトル」


「まぁ色々とありまして」


「色々か。朝食は食ったか? 飯にしようぞ!」


 羽織るマントを翻し、国王は謁見の間の奥へと消えた。

 相変わらず、こっちの意見は聞かない。自由奔放で豪気な王だった。


(ユーゴじゃないけどため息したくなる)


「ごめんなさい。貴方たちに迷惑をかけてしまって」


「別にいいわ。悪霊種の魔物を放置できなかったんでしょ」


 頭を下げるソプテスカにそう返し、二人で王の待つ部屋へと向かう。

 謁見の間の奥から出て、王族や他国の重役しか入れない通路を歩く。


「ねぇ。ルフは何処でユーゴさんと出会ったの?」


「路地裏。田舎から出て来たんだって」


「ふーん。ユーゴさんの言った通りね」


 ソプテスカが細い指を顎に当て何か考えている。

 ユーゴの正体についてだろうか。火属性の魔法に特化した魔術。

 消えると錯覚するほどの速度に、大地を変形させる力を発揮する闘術。

 明らかに規格外だ。この竜の国に居るのが不思議なほどに。


「あの自由人について考えても無駄よ」


「あら? 実はすごい人なのかもしれないのに?」


「腕の立つ冒険者なら。人魚の国にいくらでも居る」


「それよりも特別……だったら?」


 妖しく、妖艶にほほ笑むソプテスカ。

 彼女の言いたいことは大体わかる。


「あいつが神獣の子だって言うの? そもそも神獣だって、存在しているかどうか怪しいのに、それの子供が人間だなんてありえない」


「だからこそ、もしもそれが本当だったら面白いじゃない。今からユーゴさんの所へ行って聞きに行きましょ」


 ソプテスカがそう言って、逆方向へと歩き出す。

 こちらの意見を聞かず、自由に行動する様は父である国王そっくりだ。

 朝食に誘われていて勝手に断ったらどうなるか、想像するだけでも恐ろしい。


 また娘に付き合わされていたと言えば、彼は許してくれそうだがそれを試す度胸は無い。

 ソプテスカの誘いを断り、王の待つ部屋へ行った歩がいいと頭では分かっている。


(でも、この二人を放置しておくのも……)


 ユーゴ(あの男 )が王女と正体が判明した彼女に手を出さないとは言い切れない。

 きっと今頃独房で暇を持て余しているだろうし、ちょっと顔を見て普段バカにされている恨みの一つ、ぶつけても許されるはずだ。


 ルフは急ぎ足でソプテスカの後を追った。


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