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冒険者たちの狂想曲


 ルフは静かに深呼吸。

 集中力を高め、状況を整理する。

 竜の国の王都でゼクトの演説を見た時、ソプテスカの姿が一瞬だけ見えて、慌てて飛び出してきたが救出した後のことはあまり考えていなかった。


(どうしよう……)


 それが本音だ。

 相手は五傑と呼ばれる冒険者が四人と、神獣の子を殺すと堂々宣言したゼクトの計五人。

 数での不利は明白でしかも一人一人の実力は自分と大差がない。

 普通に戦えば負けるとことは間違いない。


 ただ今は時間を稼ぐ必要があった。

 それに黒衣の魔女(ソプアニ)に無条件で王都へ魔術を撃たす理由も無い。

 出来るだけ長くこの場で時間を稼ぐ。

 それが自分の役目だ。


 ――あいつらが来るまで……


 いつ相手が来てもいいように足に魔力を回す。

 

 最初に動いたのは蒼の鬼人クルデーレ。

 愛用の刀を鞘に入れたまま、右手を柄に添えて低い体勢で踏み込んで来る。


(早い! だけど……)


 目に魔力を集めて動体視力を強化。

 ルフに目には振り上げられる刀の軌道がハッキリと見えた。

 身体を半歩後退させ、鼻先で刀身を躱す。

 

 次は縦切り。

 身体を半身にしてこれも避けた。

 そして流れるように美しい動作から繰り出される斬撃をひたすら避ける。

 斬撃の速度自体は凄いが、予備動作が正直な分軌道が読みやすい。


「邪魔するぜ!!」


 後ろから声。

 半身に身体を捻るとトマが拳を振り上げていた。

 クルデーレも刀を横に振るモーションに入っており、このままでは同時攻撃を受けてしまう。

 ルフは心の中で舌打ちするとバク宙で大きく上に飛んだ。


 そして両手の短刀をそれぞれクルデーレとトマに投げつける。

 攻撃を振り切った直後の二人は避けるのではなく、短刀を打ち落とした。

 

 コンマ数秒。


 視線がルフから外れた。

 普通の人なら意に介さないようなその僅かな時間も、ルフが破弓を構えるのには十分な時間だ。


(くらえ!)


 破弓の広範囲殲滅携帯。

 三年前は威力と攻撃範囲の両立は難しかったが今では克服している。

 上位の飛竜種の堅牢な鱗を貫く威力で広範囲に撃つことが可能だ。


 ルフが魔力を込めた矢を放つ。

 半透明の蒼い矢が空中で枝分かれして、空間を埋め尽くす。


「うお!?」


「チッ」


 トマは闘術で身体を硬化させ両手で顔を覆った。

 クルデーレ刀を構えているから全て撃ち落とす気らしい。


 そんな二人の前に割って入るヴォルト。

 左手に持った白い盾を構えると輝きを増し、半透明の結界が展開された。

 破弓の矢が降り注ぐが、結界に全て防がれてしまう。


(さすが白騎士)


 白騎士ヴォルトとは面識がある。

 最強の冒険者と言うことでよくギルドマスターである父の元に顔を出していた。

 厳格な性格で強く正しい人だった。


 幼少期はその強さに憧れたこともある。

 こうゆう人が上に立つんだと本気で信じていた。

 自分が弓の練習をしていても笑わずにいてくれた。


(なのに……貴方は……!)


 地面に着地したルフは破弓を構える。

 全力で魔力を込めると破弓の黒い本体に蒼いヒビが入った。

 唇をキュッと噛み、右手を弦から離す。


 闇夜を切り裂く蒼い魔力の矢。

 誇り高き白騎士は右手で腰にぶら下げた長剣を抜いた。

 そして刀身に魔力を纏わせ、自分に向かって来る矢を一閃。

 空中で矢を叩き落とした。


「ここは私がやる。お前たち二人ではイタズラに体力を消耗するだけだ。神力を引き出すだけの体力は残しておけ」


 ヴォルトが剣と盾を構える。

 さっきまで戦う気満々だったトマとクルデーレが大人しくなった。


「ヴォルトさん……本気なのね」


「当たり前だ。もう引き返せない。世界は人間の手で運営されるべきなのだ」


「どうして? 神獣の子らはもう世界に欠かせない。事実彼らは抑止力となり世界はいい方向に向かっている。それをどうして壊そうとするの?」


「抑止力? 驚異の放置の間違いだろう。彼らが人間(我々)に牙を向けば、瞬く間に制圧される。三年間の魔帝軍との時のように……彼らがどういうつもりか知らないが、少なくとも我らの神である神獣は人の世に干渉はしなかった。我々に委ね託してくれたのだ」


 ヴォルトが剣を構え、放つ魔力が大きくなる。

 碧眼の瞳には固い意志。

 一時の迷いなんかで道を踏み外す人じゃない。

 何があっても彼は止まる気が無いらしい。


(分かっていたけど説得は無理か……なら……)


 ルフは素早く弓を構え、魔術を放つ準備をしていたソプアニを狙った。

 矢を放つがまた間にヴォルトが割って入る。

 白い盾で矢を弾き、地面を蹴って距離を詰めて来た。


「どうした! その程度では友の仇はとれんぞ!」


 ルフはもう一度矢を放つ。

 ただし今度は放物線を描くように上へ。

 ヴォルトを飛び越し、魔術の準備をするソプアニへ放物線を描き矢が向かって行く。


「させんぞ!」


 急ブレーキしたヴォルトが剣を上に振った。

 刀身の纏った魔力が矢を撃ち落とす。


(さすが白騎士様は伊達じゃないってか)


 ルフが心の中でそう吐き捨て、次の手立てを考えているとヴォルトが叫んだ。


「ソプアニ! 準備はいいか!?」


「いつでも大丈夫。だけど一人かな」


 なんの会話が分からない。

 しかしヴォルトがクルデーレ目で合図を送ると、蒼い髪を揺らしてクルデーレがソプアニの近くへ。

 そしてソプアニが再び杖を地面突き立てると白い魔力の球体が出現して、二人を包み込んだ。

 やがて弾けた光の球体の中に二人の姿は無かった。


「転移魔法!?」


「そうだ。これで竜の国の王都に強襲する」


 ヴォルトが剣を軽く振る。

 おそらく魔術学院に侵入したのも転移魔法を使ったのだろう。

 何故小規模ながらソプアニが転移魔法を使えるのかは分からない。

 それよりも今はこっちを片付ける必要がある。


(数は減った。これで三対一……)


 ルフは周りを見渡す。

 白騎士ヴォルトに血色の剛腕のトマとゼクトと名乗る少年。

 向こうの主力だが二人減ったのはありがたい。

 

 ルフが破弓を握る手にギュッと力をこめる。

 その時、耳にゴロゴロと言う音が聞こえた。

 それは三年前にも聞いた音。


(やっとか)


 ルフは顔を上げた。

 さっきまで出ていた蒼い月が今は分厚い雲に覆われていた。

 そして閃光。


 敵である三人の男を狙って落ちた雷が大地に突き刺さり、眩い光が面前に広がる。

 目を細め顔の前に左手をかざす。


「やぁ。大丈夫かい?」


「まだ生きてんだろうな」


 そんな自分の前に割り込んできた二つの影。

 槍を手に持つ金髪の男と肩に大剣を担いだ茶髪の男。


「遅刻よ。あんたたち」


「ごめん、ごめん。これでも急いできたんだよ?」


 ラウニッハがこちらを向き、ニコッと笑った。


「相変わらずムカつく女だ」


 ベルトマーが相手の方を向いたまま鼻を鳴らした。

 二人の神獣の子が来たことにルフはホッと息を吐いた。


(時間稼ぎ完了っと)


「これが噂の天相か」


 向こう側からゼクトの声。

 雷が落ちたはずの場所には、元気な三人が居た。

 ゼクトが右腕を上にかざしているから、彼が何かして攻撃を防いだらしい。


「さすが……神獣の子を殺すと宣言したことだけのことはある」


「面白れぇのが現れたな」


「相手は神力が使えるみたい。あのゼクトとか言う奴が他の冒険者にも譲渡していた」


 ルフの言葉にベルトマーが嬉しそうに呟く。


「ますます興味をそそられるぜ」


「ベルトマー。分かっているだろうけど竜の国の王都を守ることが最優先だ」


「知るか。街のことはあの女どもに任せておけばいいのさ」


 ベルトマーのその言葉にルフは確信を得る。

 

 ――他の神獣の子も到着している


 竜の国の王都に飛んだソプアニとクルデーレが心配だったが、それは無意味なものだったらしい。

 ユノレルとテミガーも既に到着しているのであれば任せても問題ないだろう。


「……ヴォルト・トマ。ここは任せるよ。僕は王都に向かう。神力の力……存分に使うといい」


 ゼクトがそう言い残し、左手をかざした

 どうやら何かしらの方法でこの場から離脱する気らしい。


「遊んで行けよ!!」


 痺れを切らしたベルトマーが地面を抉るほどのダッシュ。

 闇夜を駆け抜けてゼクトとの距離を詰め、大剣を振り降ろした。


「野蛮な男だ」


 そんなベルトマーに立ち塞がったのは白騎士ヴォルト。

 左腕の盾でしっかりと大剣を防いでいた。


「俺様の一撃を防ぐたぁ……いい感じじゃねぇか!」


 ベルトマーがさらに力を込めたのか、ヴォルトの足が地面にめり込む。

 ヴォルトの冷静な表情に僅かな苛立ち。


「化け物め……!!」


 ヴォルトがそう言うと白い盾が輝きを増して衝撃波。

 ベルトマーの身体が後方に吹き飛んだ。


「じゃあ。任せたよ」


 ゼクトがそう言うと彼の身体が白い光の粒子となって消えた。

 どうやらまた転移魔法で飛んだらしい。


「転移魔法を個人で使えるとは……」


 ラウニッハがそう言って槍を構える。

 個人で転移魔法が使えるのは正直驚いた。

 使用にはまだ膨大なエネルギーが必要でそれを個人で生み出すのは出来なと言われているからだ。


「長年蓄積した魔力を使用しているだけだ。何年も眠っていたらしいからな」


 ヴォルトがそう返し切っ先をこちらに向けた。

 いくら蓄積させてそこから取り出して使用しているとしても、どれだけの量を蓄積させたらいいのか。

 想像するだけで気が遠くなりそうだった。


「ヴォルト! このトマ様を戦っていいよな!」


「もちろん。二人でこの場を片付けるぞ」


 ヴォルトとトマの放つ圧が強くなる。

 どうやら二人はこの場で神獣の子を倒す気らしい。


「ルフ。君は王都に行け。そして『あの男』を呼んでくれ」


「なんで『あいつ』が王都に居るって分かるの?」


「君が居るのに『彼』が居ないなんてありえないよ」


 ラウニッハがそう言って、槍を天へと向けた。

 再び雷鳴が鳴り、いつでも雷を放てる準備をする。


「ベルトマー! この赤い獣人は僕が貰うよ!」


「好きにしな。俺様はこの白いふざけた野郎をぶっ飛ばす」


 いつの間にか立ち上がっていたベルトマーが大剣を構えた。


「いつまでも特別だと思うなよ……神獣の子」


「そうそう! 常に時代は前に進むんだぜ!」


 ヴォルトとトマがそう言って今までとは比べ物にならない魔力の増大を見せる。

 白い魔力がオーラとなって彼らの身体から溢れた。

 それはまるで神獣化を行った神獣の子のようだ。


(あれが神力……)


 ルフはそう確信する。

 今ヴォルトとトマの身体から溢れている白い魔力の様な物こそ、神力と呼ばれる新しい力の源なのだ。

 神獣の子の力の秘密にして、新しい時代を担う物。


「行けルフ! ここは僕たちが引き受ける!」


「さぁ! 俺様を楽しませくれ!!!」


 ラウニッハとベルトマーもそれぞれ動く。

 それと同時にルフは踵を返し王都へと走り出した。


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