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第11話 蝕まれた村

「居たぞ!」


「なんとしても捕まえろ!」


 人混みから男が二人飛び出してきた。

 この女の子を追いかけてきたことは容易に想像できる。

 大人しく渡した方が身の為かな?


「あの人たちに追われているんです! 助けて下さい!」


 女の子の白く細い指が俺の手を包み、柔らかい感触に頬が緩む。

 赤みを帯びた橙色の瞳で見つめる彼女の頼みを断れる男はいないはずだ。


「お任せあれ。ルフ!」


「は、はい!?」


 ルフが肩をビクッと揺らす。

 自分が声をかけられるとは想像していなかったらしい。


「いつも男と寝た後、逃げる為に使っている煙幕だ!」


「違う! 色々と違う!」


 ルフが背負っていた弓を手に取り、腰にぶら下げた矢入れから一本の特殊な矢を手に持ち地面に向けて放った。

 ボンと矢が小さく爆発すると煙が立ち込め、男たちから俺たちの身体を隠す。

 逃げるなら今が絶好の機会だ。


「捕まってろよ」


「は、はい!」


 女の子をお姫様抱っこの形で抱き、闘術で足に魔力を流す。

 一度地面を蹴れば、ギュンと身体が加速した。

 闘術が使えるルフもちゃんとついて来ており、とりあえずこの場は逃げきれそうだ。


「あ、あの! ワイバーンの飛行場に向かって下さい!」


「君は乗れるの?」


「え? 当然ですよ?」


「見るな! こっちを見るな!」


 ルフをジッと見つめると怒られた。

 追われている女の子は何故そんな事を聞いたんだと言う感じだ。

 この国に居れば本当に初依頼をこなす冒険者以外は皆乗れるし、ある程度練習すれば乗れるようになるはず。

 しかし、ルフはとことん不器用ときている。ホント、いつになったら乗れるようになるんだろう。


「でも、三人乗りなんてあるのか?」


「ゴンドラをぶら下げたタイプがあるはずです」


「そんな便利な物あるのか……」


 ルフが遠い目で呟いた。この場合、ゴンドラに揺られるのはルフになるような気がするけど、そこは飛竜種に乗れないから我慢してもらおう。

 飛行場へと繋がる階段を上り、一番上まで登り切りそのまま飛行場へと侵入する。


「少年! これでワイバーン一体借りるぞ!」


 女の子をワイバーンに跨らせると、銀貨三枚を白いテントに居る受付の少年に向かって投げた。

 銀貨を受け取った少年は以前、ルフと飲む席をセッティングすると約束した少年だった。


「またあなたですか! それにそこの女の子とデートをセットしてくれるって約束は!?」


「ねぇ、あの子が何か言ってるんだけど?」


 ゴンドラを近くまで持って来て、ワイバーンに繋いだルフがジト目で見て来る。

 ダシに使われたと知れば彼女は怒るだろう。それだけは阻止しないといけない。

 だから、改めて約束を取り付ける。


「ルフの許可が下りれば、なんでもしていいから! それで貸しにしてくれ!」


「怒られるのは僕なんですよ!?」


「何あたしを置いて勝手に話を進めてるの!?」


 ツッコム二人は波長が合いそうだ。

 相性がよさそうで一安心。ただこれ以上騒ぐと、女の子を追いかける奴らに見つかってしまう。

 さっさと逃げてしまおう。


 女の子と同じ橙色の体躯をした大きめのワイバーンに跨り、手綱を握った。

 力強く羽ばたいたワイバーンの身体が宙に浮く。ルフはゴンドラで身体を小さくしており、顔が蒼白だ。

 浮遊感が苦手なのはゴンドラに乗っても変わらないか。


 空高く羽ばたくとあっという間に飛行場が小さくなる。

 高度を上げて地面と水平にワイバーンの身体がなると、ようやくゆっくり話ができるようになった。


「君の名前は?」


「……ソプテスカです」


「俺はユーゴ。下で小さくなっているのがルフだ」


「お二人は冒険者なのですか?」


「まーね。最近依頼を受け始めた駆け出しだよ」


 ゴンドラからルフが「何話してるのよ!」と大声で言っているが、風の音がうるさくてその後がよく聞こえない。


「では、最近出たと言うゴーレム殺しの冒険者をご存じですか?」


「んにゃ。知らないな。あと、どこまで飛べばいい? いつまでも逃げ切れるもんじゃないだろ」


「あ、この村までお願いします」


 ソプテスカは懐から一枚の地図を取り出した。

 地図の場所は王都から少し遠い。

 こんな村に何の用だろうか。


 追われている理由も聞くべきか。

 ただし、こうゆうのは一度聞くと後に引けないように気がする。

 送り届けてバイバイが一番無難で安全なような気がしているも事実だ。

 それに彼女はゴーレムを倒した冒険者を探している。


 もしも張本人が目の前に居ると知ったらどうなる?

 この国では貴重なゴーレムを倒せる冒険者。そいつを探しているなんて、腕に自信があるか、倒したい魔物が居るとかそんな所だろう。

 

 代わりに身体とか要求したらダメかな?

 ルフに比べると背中から伝わる感触は、期待した通りだ。

 外套で身体のラインが詳しく分からないが、スタイルがいいと想像できる。


「ユーゴさんはゴンドラに乗っている子と、どうゆう関係なのですか?」


「ただの知り合いだよ」


「その割には仲がいいですね」


「外から見るとそう見えるのかね」


 はぁとため息。

 いつも俺が何故か怒られて怒鳴られるか、手を出されるかのどちらかだ。


「どこで知り合ったのですか?」


「路地裏だよ。そんなに聞いても面白い話は出てこないぞ」


「いえいえ。ライバルの調査は大切ですから」


「ライバル?」


「こちらの話です」


 笑顔で返されてはこれ以上聞く気が失せてしまう。

 ごちゃごちゃと考えるのは苦手だ。今は吹き抜ける風に身を任せよう。

 頭をカラにして空を飛んでいると、目的地の村が見えた。

 

 近くの平地にワイバーンを降ろし、近くの太木に手綱を縛り付ける。

 ゴンドラからルフが元気よく飛び出し、顔を近くに詰めて来た。


「あんた! この子に変なことしてないでしょうね!?」


「いい身体してるなぁとは思ってたよ」


「そ、そうですか?」


 ソプテスカは頬を抑え俯いた。

 ルフとは違い、女の子らしく可愛らしい仕草である。


「この変態……」


 ルフの歯ぎしりに肩を竦め、本題に入る。


「ところでソプテスカ。この村に何のようだ?」


「とりあえず村に行って、情報収集しましょう」


 軽い足取りで歩き出したソプテスカの背中をルフと二人で追いかける。

 村は家が十軒ほどの小さな村らしい。決して裕福でないがよそ者が珍しいのか、必要以上の視線を感じる。

 時々ルフとソプテスカを見て、すれ違う子供たちが「綺麗……」と呟く。


「ねぇねぇ、今の聞いた?」


 ルフが嬉しそうに肩を叩き聞いて来た。調子のいい奴だ。


「胸の無い怖そうな女だってか?」


「この耳は飾り?」


「いや。よく聞こえてるぜ。今日も絶好調だ」


「どこがよ! あたしの都合の悪いように変換されてるでしょ!」


 ルフがビシッと俺の耳を指さす。

 人を指でさすとは失礼な奴だ。


「ほら。着きましたよ」


 ソプテスカが喧嘩する俺たちを制し、目の前の酒場を指さした。

 この村で唯一の酒場のようだ。中に入ると畑仕事を終えた男たちが疎らに席に座っている。

 女性の客でよそ者が珍しいのか、視線が一斉に向けられた。


 しかし、この男を含めこの場所の雰囲気はどこか淀んでいる。

 覇気がないとはまた違う独特の空気。何が原因なのかは何となく理解できた。

 そして、ソプテスカがゴーレム殺しの冒険者を探す理由。

 それらから見えて来る一つの仮説は、この竜の国ではあり得ないと思った。


「悪霊種の魔物か。君の目的は」


「よく分かりましたね。この村には悪霊種の魔物が出ている疑いがあります」


「面倒なことで」


 この酒場の店主の話だと、ここ最近夜中に村人が森の中に連れ去られ惨殺されているらしい。

 ギルドに話は通しているが、相手の正体が分からないから手を出せない。

 騎士団もゴーレムの相手に忙しかった為、戦力を回せなかった。


 悪霊種は人々の強い怨念などに反応して、その地域だけに現れる。

 人々を殺す厄介な種類の魔物だ。ただし一番厄介なことは憑りついた地域の生気を徐々に奪い、最後は生きる気力を失わせる。

 そのせいで自滅する集落や村もあるくらいだ。


 ただし、悪霊種の魔物の誕生には世の中を呪うほどの怨念が必要となる。

 それもかなりの人の数がだ。ゆえに悪霊の魔物は戦争などの争いが起こった近くで生まれやすい。

 あくまで傾向なので絶対とは言えない。ただし、この村で人が死に始めたのは悪霊種が出て来てから。


 つまり、近くかどこかの地域で大量の人が死に、その怨念がこの村に流れ込み悪霊種の魔物が誕生した。

 討伐する必要はあるが、誕生した理由も解明しないといけない。


 本当に厄介なことに巻き込まれた。

 そう思ってもソプテスカは既に店主に討伐を約束しており、今さら逃げ出せそうになかった。


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