彼の目覚める日
蛇足になるかもしれませんが
宜しくお願い致します。
ただひたすらに憎かった。
創られた存在である自分が。
美しいと言われた金色の髪も、血の色みたいだと言われた赤い瞳も……全てが。
その殺伐とした部屋に佇むのは一人だけだった。
肩まで伸びた金髪を揺らし、少年は自分の手に視線を落とした。
本来ならば白い掌には、ベットリと血がついている。
自分を生み出した者たちの赤い液が……
紅の手から視線を移し、足元に転がる人の亡骸を見た。
振り返ると同じような亡骸が所々に転がっている。
――あぁ、僕が殺した『人間』か
少年は小さく息を吐いた。
何か着るものが欲しいなと思い、周りを見渡す。
近くの椅子に掛けてあった黒い外套を身に纏った。
『お前は最高傑作だ! 我らの神獣の子だ!』
亡骸になり果てた男の言葉を思い出す。
『お前さえいれば五か国を一つに出来る! 神獣の時代は終わりだ!』
それが自分を創った目的らしい。
動けばべちゃりと柔らかい何かを踏む音がする。
少年はそれを意に介さず、自分が眠っていた大きなガラスの管に手を添えた。
ガラスの管で眠っている間も、常に情報は脳に直接届けられていた。
だから今の世界情勢も大体わかる。
そして自分が突然意識を覚醒させ、こうして自由になれたのか……その理由も……
「神獣の子か……」
神と崇められる神獣に育てられし五人の子供たち。
世界に変革を促し、魔帝と呼ばれる神を倒した英雄たち。
彼らが現れてからもうすぐ三年が経つ。
世界に馴染んだ彼らは、今も何処かで暮らしている。
自分と同じ怪物であり、異端な存在のくせに。
視線を下に向けると、ガラス管に直接文字が彫られていた。
「ゼクト……」
これが自分の名前らしい。
意味なんて分からない。
そもそも意味なんてあるのだろうか。
名前にも、自分の生きる意味すらも。
「グルル」
後ろから唸り声。
振り返るとそこには理性を失くした人の姿をした怪物が、部屋を埋め尽くすほどの数で存在していた。
自分が創られるまでに『捨てられた』者たちだ。
いわば失敗作である。
人の姿をしていながら、人ならざる者たち。
「僕が憎いかい?」
ニッコリ微笑む。
それに対して、怪物たちは何も返さない。
だから改めて思った。
――狂ってる……こんな世界……
はぁとため息一つこぼした少年は決意する。
世界を一つに纏める為に、自分が生まれたのならばそれを完遂しよう。
どうせ力を使えば使うほど死へと近づく仮初の命だ。
「だから邪魔だよね。神獣の子なんて」
神獣の子が憎かった。
怪物でありながら、平然と暮らす彼らが。
そんな思いを胸に、自分にとって兄弟とでも呼ぶべき名も無き怪物たちへ、ゼクトは言葉を送った。
「世界は僕が壊す。神獣の子も……全てを……だから安らかに眠っておくれ」
それから数か月後。
悪意と闇が突然やって来る。