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第107話 集会


 神獣たちの集会場での話は、既に竜の神獣()から聞いていたことだった。

 魔帝アムシャテリスは元々神界と呼ばれる、世界を創造する場所に居た。

 俗に俺たちが神と呼ぶ存在だ。


 しかしあまりに危険な力を持つ魔帝は神界を追放された。

 魔帝に生み出された神獣たちも時を同じくして神界から出ることに。

 神界に戻りたい魔帝は、世界の一つを捧げることでもその願いを叶えようとした。


 俺たちの住む世界を滅ぼし、神界への生贄にしようとしたらしい。

 それに異を唱えたのが神獣たちであり、人間側に付くことで戦いとなった。

 神獣たちの創造神である魔帝を完全に倒すには、神界の力を宿す魂を完全に消し去る必要がある。


 ただしその魂に傷をつけることが出来るのが、ある能力(・・)を得た竜の神獣だけあり、それ以外では肉体を破壊して時間を稼ぐことしかできない。

 人間に神獣の力を組み込んだら破壊できるかもと、最初は神獣たちも考えていたらしいが、ベルトマーと

魔帝の戦闘からやはりそれは不可能だと悟ったらしい。


 結局、完全に竜の神獣の力を受け継いだ俺に頼ることになる。

 それが結論だった。




「気にくわねぇ」


 目の前の席に座るベルトマーがそう呟く。

 ギルド本部の内に用意された長机に頬杖をつき、不満ありありだと視線で訴えて来る。


「それぞれに役割があるだけだ。仕方ないだろ」


 その隣でラウニッハがコップを傾ける。

 中身は密かに俺が酒にすり替えておいた。

 天馬の国で育ったこいつは酒を飲んだことがないらしい。

 果汁のジュースを頼んだから、面白半分で実行してみた。


「うっ……人魚の国の果汁はこんな味がするのか……」


 ラウニッハが眉間に皺を寄せる。

 それを見て笑いが出そうになるが、ばれない様に口元に力を入れた。


「あぁ? 俺様にもくれ」


 ベルトマーがそのコップを奪い、豪快に傾けた。

 褐色の肌に着いた喉仏が動く。

 飲み切ったベルトマーがコップと机に置いた。


「酒だ」


 真顔でそう言ったベルトマーにとうとう笑いが堪えきれなくなり、吹き出してしまう。


「おい、ユーゴ! どういうつもりだ!?」


「悪い、悪い。面白半分でなっ」


 今俺たちはギルド本部で飲み食いをしている。

 最初に用意された食料よりも、海都への強襲で人が減った。

 食べ物は余っているし、俺たちは明日の朝(・・・・)最果ての地へと向かう。

 だから神獣たちの集会が終わった後、男三人で飯に来た。


「こんな奴に負けた自分に腹が立つよ」


「その部分には完全同意だ」


 二人が意気投合している。

 笑いが納まり、ギルドの人に新しい食べ物を頼む。

 コックのおっさんは「街を救ってくれた礼だ!」と言って、三人で食べるにはかなり多い量の飯を長机の上に並べてくれた。


「じゃあ、改めて」


 コップを手に持ち、乾杯の体勢をとった。

 目の前の二人も準備を整える。

 ちなみにラウニッハのコップの中身はやっぱり酒だ。


「乾杯!」


 俺の音頭と同時にカンとコップ同士が当たる音。

 俺とベルトマーが一気に飲み干したのに対し、ラウニッハがコップの匂いを嗅いでいる。


「また同じ匂いがするよ?」


「おいおいラウニッハ。てめぇまさかビビってんのか? 乾杯したら一気に飲み干すのがルールだぜ」


「そうそう。ほらグイッと飲み干して、その豪快さでチコさんを襲え」


「チコとは別にそう言う仲じゃ……」


 顔を赤くしてそう返すラウニッハに二人で無言のプレッシャーを与える。

 流石に空気を読んだのか、コップをグイッと傾けた。

 豪快に中身を飲み干して……


「ゴホ!」


 (むせ)た。


「ゴホゴホ! やっぱり酒じゃないか!!」


 コップを置いて、抗議するラウニッハを見て腹を抱える俺と知らん顔のベルトマー。

 偶にはこうして同年代の男だけ飲むのも悪くない。

 ふとそんなことを思った。










 魔術学院には寮で生活する生徒用に設けられた大浴場がある。

 海都全体の機能が停止状態に近いため、水が張られていない水属性の魔術で張り直した。 

 それをレアスが火属性の魔術で暖めれば、人工温泉の出来上がりである。

 どうやって温度を保とうか考えているとソプテスカが火属性の魔石を持ってくる始末。


「どんだけ入りたいんだが……」

 

そんな温泉に浸かりながら、ルフはそう呟いた。


「魔術学院の大浴場に入ってみたかっただけよ」


 隣に居るソプテスカがニコッと笑みを返す。

 目の前ではエルフのチコが水面のお湯を掬い、顔にかけていた。

 彼女の大きな胸が風呂の水で浮いている。

 白い肌に男を惑わずプロポーション。

 本音を言えば羨ましかった。


「胸がないからって、そんな目しなくてもいいんじゃない?」


 浴槽の端に座り、足だけお湯に浸かるレアスが自分を見てそう言った。

 彼女はどうやら温泉が苦手らしい。

 ただチコ程ではないにしても、タオルを巻いた身体のラインは羨ましい。


「ルフは顔は可愛いのに、性格は男勝りで胸なしですもんね」


「うるさい。言われなくても分かってる」


 クスクスと笑うソプテスカにお湯をかける。

 顔にお湯が当たり、ソプテスカが「あつっ」と顔をしかめた。


「ねぇねぇ、それよりもエルフのチコさん!」


「はい?」


 自分がレアスに話しかけられるとは思っていなかったのか、チコがキョトンとした顔で首を傾ける。


「あの天馬の神獣の子との関係は?」


 それは自分も聞きたかった。

 ユーゴが言うには二人は幼馴染らしい。

 エルフたちの反乱が終わり、自分たちが天馬の国を去ってから二人の仲に進展はあったのだろうか。


「た、ただの友達です」


「スタイルいいし、顔もいいんだから押し倒しちゃえば?」


「またあんたはそういうこと……」


 レアスを宥めようとしたら、チコが顔を真っ赤にして頬を抑えた。


「そ、そんなのダメです! もっとこう……清らかな進展を……」


 もごもごと何か言っているが、最後の方がよく聞こえない。

 そんなチコにソプテスカが背後からこっそり近づく。

 何をする気かと思っていたら、行き成り胸を鷲掴みにした。


「ひゃ! お、王女様!? やめて下さい!」


 チコさんが恥ずかしそうに身体をくねるが、それ以上に胸の形がソプテスカの手によって変わっている。

 柔らかそうなその豊満な胸元を見て、思わずため息。


(羨ましい……)


「すごい……」


 そう言ってソプテスカがようやく手を離した。

 胸の感触を思い出すかのように手を眺め、そしてグッと握る。


「これなら男の欲望も挟めますね!」


「なんの話ですか!?」


 とんでもないことを言い始めた王女に眉間を抑える。

 流石にこれ以上はダメだ。

 チコがだんだん可哀そうになって来た。


「そういえばユーゴさんも挟んでとか言ってたなぁ」


 レアスが思い出したかのように呟き、視線が一気に集まる。

 それに気がついた彼女がニッと口角を上げた。


「皆さんどうしたの?」


「ユーゴさん()とはどういう意味ですか?」


「まさか……その年で色々経験して……」


 棘のあるソプテスカの言葉に、何か別の心配を始めているチコ。

 ずっと気になっていたが、レアスは随分ユーゴと仲が良い。

 人魚の国来る時に船で一緒にった彼女だったが、朝になるとユーゴ何故かいつも眠そうにしていた。


「……あんた……」


 そうレアスに言った時、浴場に声が響いた。


「みんなぁ! 元気~!?」


 入って来たのはテミガーと何故か泣いているユノレル。


「うあぁぁん! ユー君がぁ!!」


「ほらほら泣かない! まだそうと決まったわけじゃ無いでしょ♪」


「そうだよ……それにママから話も聞いてたけど……今になって本当なんだって……だからぁ」


 テミガーがなんとかユノレルを励ましているが、泣き止む気配が一向にない。

 それにユーゴのことなら、自分も気になることがある。


「神獣たちと何話してたの?」


 ルフは思ったことを口にした。

 淫魔の神獣(アルンダル)に連れられ、神獣たちの元へ集まった神獣の子。

 話の内容は、魔帝のことだと言うことは分かる。

 今後の打ち合わせと言ったところだろう。


「大した話じゃないわよ。ただ……」


「ただ?」


 テミガーをニヤリと笑い、そして赤い口唇が動く。


「竜の神獣の子は今日が最後の夜になるかもね♪」
















「おいアザテオトル。てめぇはどんな育て方したんだ?」


「普通だ。普通に育てた」


「いい男に育ったのに勿体ないわぁ」


「ホントに……娘が夢中で困っています」


「あなた達……もっと真面目に話し合いましょう」


 話がそれた四体の神獣を天馬の神獣(フィンニル)が注意する。

 神獣の子たちを解散とさせた神獣たちは、集会場で久しぶりに全員揃ったと言うことで各自の育児報告を行っていた。


 二十年育てれば愛着も沸いてしまうと、今は全員がそう思っていた。


「でも、人間性は捨て去るべきだったのでは?」


 人魚の神獣(ユスティア)の言葉に竜の神獣 (アザテオトル)は鼻で笑った。


「それでは意味がない。ユーゴにも選択する自由がある」


「結構残酷よねぇ。死ぬ可能性が高いのに、周りと関係を築くような人間に育てるんだから」


 淫魔の神獣(アルンダル)が頬に顔を添える。

 彼女は単純に心配していた。

 ユーゴではなく、その周りの人間たちのことを。


「オレの息子の目標なんだぞ。簡単に死なれちゃ困る」


狼の神獣(カトゥヌス)。あなたはもう少し落ち着けないのですか? 昔から短期で喧嘩腰。もう少し品格と言うものを……」


「クソ馬女の説教なんざ聞いてねぇ」


「痛い目を見ないと分からないようですね」


「こらこら両方落ち着いてください」


 ユスティアがそう言って、両者の勢いを抑える。

 何だかんだで、神獣たちの意見をまとめるのは彼女の仕事だった。

 かつて魔帝が愛した魔獣にして、最初に人間側へと寝返った人魚の神獣の……


「どの道、神獣(我ら)の役目ももうすぐ終わる」


 アザテオトルはそう言って、今まで過ごしたユーゴ(息子)との時間を思い出す。

 もしも魔帝と戦うことになれば、最後は自分の息子に全てが預けられることは分かっていた。

 自分たちの重荷を背負わせてしまうことも。


 だから自分の意志で選択して欲しかった。

 人間を守る義務は、神獣の子たちには無い。

 自分たちが勝手に始めたことであり、強引にすれば不始末なことを押し付けるだけだ。


 ユーゴが世界を見て周りたいと言った時も、止めるつもりはなかった。

 巣立っていく息子の背中を見送っただけだ。

 その背中を見て、寂しさと同時に嬉しさを覚えた。

 立派に育った息子は、多くの人に囲まれて明日の朝、最果ての地へと向かう。


 魔帝の待つ、因縁の大地へ。


(ユーゴ……ワシはいい父親だったか?)


 赤き竜の心の問いは、周りで話を続ける神獣たちの間で消えて行った。


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