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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
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金色の出会い

俺は六月が嫌いだ。

雨は降るし、ジメジメするし、何より祝日が一つもない。

特に五月のゴールデンウィークのあとにこれだと、本当にやる気が失せる。

しかし、今思い出しても今年の五月は忙しかった。

ゴールデンウィークにはディフェルの件にあたり、後半は『歩く影』を消滅させたりと、結構な頻度で巻き込まれた。

こんなじゃあ、五月もトラウマになりかねない。

いや、それを言うのならば、俺にトラウマではない月なんてあるのだろうか?

........あれ?トラウマのない月なんて一つも思い当たらない。

「兄貴〜、またフラれた〜」

いつものように放課後の女狩りしていた、『奴』こと松田山が返ってきた。

またフラれたということは、また記録を更新したわけだ。

この二ヶ月でこいつは、およそ四十人近くの女子にアタックして、ことごとく沈んでいる。

更にいうと、そのうちの半分位の女子はこいつに罵声を浴びせてフルらしい。

そのおかげでこいつは最近、罵声を浴びせられて(よろこ)ぶようになっていた。

最初の方は、「とうとう本物の変態になったか」と関心を持ったものだが、今では「変態なのは前からか」と諦めるようになっていた。

しかし、この間こいつはとうとう変態として完成した。

「兄貴〜、フラれたから慰めてくれ〜。できれば蔑むような視線で『近寄らないでよ、気持ち悪い』とか言ってくれると嬉しいな〜。あ、あと、素足で踏んでくれるとなおよし」

背筋に寒気が走った。

俺は自分の座っていた椅子を持ち上げると、思いっきり『奴』に叩きつけた。

「ぎゃふん!」

そう叫ぶ『奴』の表情はとても嬉しそうで、怖くなった俺はその場から逃げ出した。

五月後半、影の件が終わって少しした頃、『奴』はとうとう俺を男として見なくなった。

いや、違うか。

俺に対してだけ『男でもいい』という意識が出てきたのだ。

今の俺には『奴』をフル女子の気持ちが少しは分かる。

松田山健次郎を本能が拒絶するのだ。

顔がどうとか、タイプじゃないとかではなく、本能がそれを拒絶する。

だから近づこうとも思わない。

もはや松田山健次郎という男は、女子及び俺にとって恐怖の対象でしかない。

気付けば俺は、屋上へと繋がる扉の前に来ていた。

その扉を開けると、そこには金色があった。

フェンス越しに夕日を見つめる、一人の金色のシルエット。

俺はその美しさに言葉を失った。

腰まである金髪で何故か私服姿の少女はただひたすらに、夕日を見つめていた。

まるで絵画の中にいるような錯覚を覚えながら、俺はようやく言葉を発することが出来た。

「キミ、こんなところでなにしてるの?ここは関係者以外は立ち入り禁止だよ?」

ビクッ!

声をかけると少女は肩をびくつかせて、勢いよくこちらに振り返った。

その、アジア系特有の幼さを持った顔(ハーフかな?)には警戒の色が見て取れる。

まあ、急に見知らぬ異性から話しかけられれば警戒くらいするだろう。

「俺はここの学園の生徒だ。キミは?」

「私はここの学園の生徒になる予定の者です」

まるでハープの音色のような綺麗な声が返ってきた。

日本語が通じるか不安だったけれど、この分なら会話に不自由はないだろう。

「ということは転校生?」

「はい、正しくは留学生ですけれど、この際細かいことは置いておきましょう」

そう言って、見たもの全てを癒すようなエンジェルスマイルを向けてくれる。

「ところで貴方の名前はなんというのですか?」

「......通りすがりの紳士」

ビー玉のような綺麗な翡翠色の瞳で見つめられて、照れくさくなった俺は思わずこんな意味のわからない答えを返す。

少女はクスリと可愛らしく笑うと、面白い名前ですね。と冗談交じりに言う。

「では、私の名前は通りすがりの淑女ということでどうでしょう?」

確かに、目の前の少女にはお似合いの言葉だ。

彼女から発せられている雰囲気はどう切り取っても淑女のそれにしか見えない。

どこかのお姫様とは大違いだ。

海の向こうに叫んでやろうか?

「そういえば、なにをしているのか。でしたね。校舎を見て回っていたら夕日が綺麗でついここまで来てしまいました。紳士さんはどうかなされたのですか?」

「俺は........」

さて、どう答えたものか。

変態から逃げてきたなんて口が裂けても言えないしな。

「夕日に叫びに来たんだよ」

意味が分からん!

自分で言っておきながら、自分の頭の心配をしてしまうくらい意味が分からん。

少女もクスクスと肩を揺らした。

「貴方のような面白い方が居るのだから、この学園も楽しいところなのでしょうね」

優雅に微笑みながら言うその姿は、間違いなく正真正銘のお嬢様だった。

「それでは紳士さん、縁があったらまた会いましょう」

そう言うと、紫色になった空に背を向けて歩き出す。

少女が俺の横を通る瞬間、

「明日、また会えるといいですね」

そう言って、少女は扉の向こうに消えていった。

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