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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
詩織ファンタジア
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詩織ちゃんの呪い


ホームルームが終わり、放課後となった。


「相棒!行くぜ!」


松田山は一体どこに行こうと言うのだろうか?

できれば、すぐにでも詩織ちゃんの元へ行きたいのだが、今の松田山には有無を言わせないほどの気迫を発していた。


「行くってどこに行くんだ?」


「行くと言ったら女子に声をかけに行くに決まってるだろ!?」


何を言ってるんだ?と続ける。

何を言ってるのか訊きたいのはこっちの方だ。


「さも当然のように言われても困る。だいたい、どうして僕が行く必要があるんだ?」


チキンな僕には、自分から女子に話しかけるなんて、全身に生肉つけてライオンの檻に飛び込むよりも勇気がいる。

………帰りたい。


「なんでって、お前がいれば女子に話しかけやすいだろ?」


ますます意味がわからない。

なぜ僕がいると話しかけやすいのだろうか?

こいつの頭の中はパッピーなことになっているのではないかと、割と本気で心配する。


「ほら、帰っちまう前に声かけるぞ!」


そう言って、頭ハッピー松田山は僕の腕を引っ張って走り出した。


「何の話してるの?」


教室に残っていた3人の女子グループに、平気で割り込んで行く松田山。


恐ろしいほど図々しい。

ある意味尊敬に値する。

しかし、当の女子たちは、突然現れた男子に困惑といった表情を見せる。


「よかったら僕たちも話に混ぜてくれない?」


さらに図々しさを重ねて女子たちに迫っていく松田山。

これはダメだ。

絶対ウザがられるタイプのやつだ。

僕は勇気を振り絞って、4人の間に割って入る。


「あー、ごめん。こいつ無駄に図々しいけど、まあ話くらいはしてやってくれないか?」


が、その瞬間彼女たちの反応が変わった。

ダツの口先くらいに視線を鋭くした4人に見据えられた。

ヤバい。

僕が出たことが裏目に出たか!?

と思いきや、それは僕の勘違いだった。


「あ!思い出した!この子って転校生の坂井由紀ちゃん?」


「そうだよ!」


違うよ!

心の中でツッコンだ。

さっきの鉄板さえも突き抜けそうな視線の正体は、僕の名前を思い出していてのことみたいだ。

暴言を吐かれなかったことを喜ぶべきか、由紀『ちゃん』と呼ばれたことを怒るべきか迷っていると、知らぬ間に掴まれていた右腕が引っ張られた。


「あたしら、これからカラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」


いきなりカラオケに誘われた。


「え?じゃあ僕も!」


松田山もここぞとばかりに手を上げてアピールしている。

だが、女子とカラオケなんて、全裸で北極に行ってホッキョクグマと戦うようなものだ。

アウェー戦なだけでなく、相手が強敵だ。

というわけで、


「ごめん、引っ越して来たばかりで荷物の整理がまだなんだ。だから今日は遠慮しておくよ」


適当に、それっぽい言い訳をこじつけて、これを回避した。

そして女子たちも「それならしょうがないね」と言って諦めてくれおた。

しかしそんな中、ただ一人不満を持った人物がいた。

松田山だ。

さっきから、「え?行かないの?なんで?」という顔をして、こちらをちらちらと見ている。

別に、お前なら一人でも行けるだろ?と思っていたが、僕が行かないとなった瞬間、女子たちは3人で行く話をしていた。

確かにこれは可哀想だ。

松田山はモテたくて頑張っているのに、僕の都合でそれを無駄にしてしまうのは申し訳ない。

だから、


「僕は行けないけど、代わりにこいつを連れてってやってくれないか?」


松田山の背中を押して、存在をアピールする。

そして当の松田山は、まるで感動の瞬間を目撃したかのような眼差しで僕を見てくる。

あの眼差しは『母さん』がくれたのだろうかと、どこかで聞いたことのある歌詞を思い浮かべながら思った。




その後、松田山は女子三人とカラオケへ旅立った。

教室を出て行く際、親指を立てて、ウィンクしてきた。

なんとなく、「相棒がくれたこのチャンス、絶対にものにして見せる!」と言っているような気がしたが、あれだけあらかさまに煙たがられてなお、付いて行ったあの図々しさは、本当に凄いと思う。

そして今、僕もまた、下校中だったりする。

登校にかかった時間は、家から徒歩で15分。

ならば、下校も15分そこそこでできるだろう。

その間、流石に暇なので、先送りにしていた問題を振り返る。

僕のスマホの件だ。

現代人からスマホをなくしてみると、意外なくらい不便だった。

実際帰り道もまだ不安が残る。

できれば、詩織ちゃんと待ち合わせして一緒に帰りたかったが、連絡手段がない。

僕は泣く泣く1人でも帰路につくはめになったのだった。

スマホについて割と真剣に考えていると、前の方に見知った背中を見つけた。

トコトコと歩く、愛くるしい姿は間違いない。

この僕があの後ろ姿を間違えるわけがない。

僕は走って、その背中に追いつくと、その赤いランドセルを背負った子に声をかけた。


「詩織ちゃん」


ビクッ!

僕が声をかけると、詩織ちゃんはびっくりしたように体を硬直させ、一度立ち止まる。

そして1秒後、____________全力で走り出した。


「ちょ、し、詩織ちゃん!?」


僕も追いかける。

不意をついたとはいえ、所詮は小学生女子の走力。

男子高校生のそれよりも断然遅い。

要するに、3秒もしないうちに捕まえることができた。


「なんで逃げるの?」


訊くと、詩織ちゃんこちらを見ないまま答えた。


「なんでもいいじゃないですか。離してください」


相変わらず無感情な声が返ってくる。

俯いたままの顔を覗き込もうとしたら、詩織ちゃんはプイッと顔をそらす。

なぜそんなに顔を見られたくないのだろうか?

最初は本当にわからなかったが、何度も覗き込もうとしている内に、あることに気がついた。

詩織ちゃんの耳が真っ赤だったのだ。

それで僕は全てを理解した。


「詩織ちゃん、もしかして学園長室でのこと気にしてる?」


正解だと言わんばかりに余計俯いていく。

まあ、確かにあれを自分がやっていたと考えたら、そしてその相手が普通に話しかけてきたら恥ずかしいに決まっている。

学園長は、「ほっとけば治る」と言っていたが、放っておいていつ治るのかという話でもある。

その放っておく期間が、1日なのか、1週間なのか、はたまた1ヶ月なのか、それは分かっていない。

少なくとも僕は、1週間も詩織ちゃんと話せないのは嫌だった。

では、どうすればいいのだろうか?

考え始めた時、詩織ちゃんが硬い口を開いた。


「さかいさんはいやではなかったのですか?」


「いや?なにが?」


なんとなく察しはつくし、本当は言わせたくはないが、なぜか聞き返してしまった。


「その、学園長室でのことです。さかいさんはわたしにあんなことされていやではなかったのですか?けいべつしましたか?______________わたしの婚約者であることがいやになりませんでしたか?」


「本音を言えば確かに驚きはしたし、未だに意味が分からない。でも、こんな事で嫌いにはならないよ。詩織ちゃんにもきっと事情があるんだろ?」


婚約者云々の話は僕はまだ納得はしてないけどね?

でもなんでそんな質問するのだろうか?

むしろ僕は、詩織ちゃんの方が相手が僕で嫌だったのではないかと思っていた。

だから訊く。


「詩織ちゃんは相手が僕で嫌じゃなかったの?」


「…………はい、むしろさかいさんが相手で安心できました。でもそのせいでわたしはいつもより深くはまってしまったんです」


つまり、学園長の言っていた言葉の意味はこういうことだったのか。

感心していると、詩織ちゃんは意を決したように顔を上げて、僕を真っ直ぐ見た。

相変わらずの無表情だったが、そこにはなんらかの決意があるようにも見て取れた。

そして、詩織ちゃんは自身の発作。……いや呪いについて語り始めたのだった。



わたしがこの体質にになったのは五歳の時です。当時のことは、今も忘れられません。

なにせ、あの日からわたしは普通じゃなくなったのですから。

あの日わたしは、家の中にいるのが退屈で、屋敷を抜け出し、1人で公園に遊びに行きました。

でも、その公園には誰もいなくて、結局わたしは一人、砂場で遊んでいました。

そんな時です。


「なにしてるの?」


わたしと同じくらいの歳の女の子がニコニコしながら話しかけてきました。


「おすなばであそんでるの」


わたしはその頃から、決して愛想のいい子ではありませんでした。

ですから、顔の向きを女の子から砂場に移して、作業を再開しながら答えました。


「へえ、じゃあわたしも一緒に遊ぼうかな?」


そう言うと、女の子はわたしの隣に座って、何かを組み立て始めました。


「名前はなんていうの?」


「…………しぎょういんしおりです」


「そう、しおりちゃんって言うんだ…………。ねえ、お友達になろ?」


そう言って女の子はわたしに手を差し出しました。

そして、正直その女の子を鬱陶しく思っていたわたしは、早く立ち去って欲しくてその手を取ってしまったんです。


「ふ、ふふふ。はははは!」


女の子は突然笑い出したかと思うと、その見た目に似合わない声質で話し始めました。


「これで呪いは成立した!この呪いは、淫呪の一種である条件を満たすと発動するようになっている。もし耐えられなくなったら私の元に来い。私の物になるのを条件にお前を満足させてやろう」


そして瞬きした次の瞬間には、すでに女の子はいませんでした。

当時のわたしには、あの言葉の意味が分かりませんでした。

今もそれほど分かっているとは言えませんけど。

わたしが考えるに、あの子はきっと人間ではないんだと思います。

だってあの時、最初は確かに子供の姿をしていたのに、立ち去る際には大人の姿になっていましたから。

あんなこと普通にはあり得ません。

これが、わたしの発作の原因となった事件です。



そう言って、詩織ちゃんの話は終わった。

呪い、か。

正直そんな事言われても信じられない。

呪いだなんてそれこそ物語の世界の話だ。

そこでふと今朝の詩織ちゃんの言葉を思い出す。


『つまり、それほどむずかしく考える必要はないのです。あるものはある。ないものはないとわりきって生きてくのが1番です』


そう、在るものは在るし無いものは無い。

詩織ちゃんがこんな嘘を吐く意味もないし、意味のない嘘を詩織ちゃんが吐くとも思えない。

詩織ちゃんが在ると言うのならそれはきっと在るのだろう。


「……やっぱり信じてはもらえませんよね。えぇ、だいじょうぶです。わたしがさかいさんでもぜったいにしんじないと思います。だから________」


「在るものは在るんだろ?」


「……ぇ?」


「詩織ちゃんがそういう事を言っちゃいけない。少なくとも僕は、詩織ちゃんが在るって言い切るのなら信じるよ」


「さかい…さん…」


「う〜ん、どうせなら学園長室の時みたいに“由紀さん”て呼んでほしいかな。坂井さんだとなんか他人行儀だし」


詩織ちゃんが今何を考えているのかは相変わらず分からない。

でも、多分僕の自惚れじゃなかったら少しは詩織ちゃんとの距離が縮まったのかもしれない。

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