一目惚れ
眠い。
教室に突っ伏して、ホームルームが始まるのを待つ。
今日は由紀ちゃんに会う日だ。
なのに学校があるなんて鬱陶しいにもほどがある。
しかし、由紀ちゃんは一体どこの学校なのだろうか?
少なくともこの両山高校で坂井由紀なんて名前の美少女はいない。
「おーい、広紀。聞いてる?」
「聞いてるから少し黙って」
実はほんの一、二分前からある人物が話しかけてきていた。
このイケメンの名前は結城燈。容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能のどこかのヒロインのような男だ。
燈は俺を親友だと言うが、俺はそうとは思っていない。
こんなやつと親友になってみろ。
周りからは比べられ、「隣の方は普通だよね?」と後ろ指を指される毎日が待っているぞ。
「そういえば、和樹は元気にしてるか?」
「ん?知らん。あいつは今頃どこかで睡眠中だろ。最近顔も見せないし」
「そうか、和樹には前に助けられた恩もあるし、いつかちゃんと例を言いたいな」
和樹とは俺と主従契約を結んだ、よく分からない生物だ。
主に妖怪、幽霊、悪魔を狩る時に出てくる、自称女王様。
しかし、ちょっとした事故で俺が主人になってしまっている。
「ま、今度会ったら伝えとくよ。で、用は済んだだか?」
さっさと自分の席に帰って欲しいのだが、燈は帰る気配一つ見せない。
「いやいや、本題はこれからだ。そろそろ朝倉姉妹を紹介してくれよ」
「断る!」
もう一度言おう。
燈は容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能だ。
しかしその実、超が付くくらい軟派ものだったりする。
イケメンを振りかざし。可愛い女の子をナンパするのがこの男の趣味だ。
今では彼女が五人いるという。
そして、さらに燈は我が妹たちにその毒牙をかけようとしている。
だから俺は、絶対にこいつを二人に近づけないと心に誓っている。
「なんでだよ!?聞いた話だとアイドルやってるんだろ?俺、アイドルの彼女欲しい!」
「知るか!だったら他を当たれ!」
「他のアイドルとの出会いなんてそうそうないだろ!」
ほう、アイドルなら誰でもいいと?
全く、このナンパ癖のせいでひどい目を見たというのにいつまで経っても懲りないやつだな。
あの時は和樹が助けてやったが、今回は和樹にボコられるぞ?
あいつにとっても二人は可愛い妹なんだから。
「何がどうあっても絶対にオマエには紹介しない。絶対にだ」
「ちぇー」
そう言うと燈は渋々自分の席へ帰っていった。
我が妹たちは二人とも中学二年生だ。
双子だから当然ではあるが、やはり姉妹が同級生というのはおかしな感じがする。
そんなわけで、高校生である俺とは学校が違う。
だから放課後の待ち合わせには本当に苦労させられるのだ。
それを思うと、栞ノ宮学園のような小中高大一貫の学園は便利である。
しかしそんなお金持ちの行く学園になんて、俺たち庶民んでは到底不可能。
噂では、庶民なのに学力優秀で学費免除枠を勝ち取ったという人もいるらしいが、そういうやつはなにか大きな目標を持ってるやつなのだろう。
「ここの喫茶店でいいのか?」
俺は今、喫茶店にいる。
放課後になり、どこで待ち合わせをするのか陽織にメールしようとした時に、陽織から現地集合とのメールが届いた。
「男一人で喫茶店なんて目立つよなぁ」
周りからの刺すような視線(被害妄想)を受けつつ、流石に何も注文しないのは悪いと思い、俺はアイスコーヒーを注文した。
「あ、お兄ちゃん早いね?」
「お待たせ、兄さん」
そこに救世主たちがやってきた。
と言っても妹たちなのだけれど。
「由紀さんはまだ到着してないみたいだね?」
「約束の時間までまだ十分あるからな。遅刻ってわけじゃないだろ?」
妹たちも各々ドリンクを注文し、由紀ちゃんを待つ。
そうして十分後、人が俺たちの座る席へやって来た。
「あ、由紀さん!」
陽織曰く、この可愛らしい顔、小さい身体、平らな胸、歩くたびに揺れる、癖っ毛一つないセミロングの銀髪の少女こそ坂井由紀ちゃんらしい。
「ごめん、待たせたか?」
が、口調が男の口調だった。
「いいえ、私たちも少し前に来たところですから」
「そうか、なら良かった……」
ホッと胸をなでおろす由紀ちゃん。
まずい。
俺、由紀ちゃんに一目惚れしたかも…………。
確かに詩織もことも陽織のことも好きだけれど、それはあくまで妹としてだ。
異性としてときめいたのは由紀ちゃんが初めてかもしれない。
「で、そっちの人たちがもしかして?」
そう言うと由紀ちゃんはこっちを見た。
その時、一瞬目があった気がした。
激しく打ち続ける動悸を抑えながら、俺は自己紹介をした。
「は、初めまして、朝倉陽織の兄の浅倉広紀です。よ、よろしくお願いします」
「よろしく」
ナチュラルに手を握ってくる由紀ちゃん。
随分と気さくな娘らしい。
「で、こっちが陽織の姉の朝倉詩織だ」
俺は焦りを見せることなく、自然に詩織を紹介した。
「よろしく、詩織さん」
「うん、よろしく!」
流石はアイドルスマイル。
超まぶい。
「座ってもいいかな?」
由紀ちゃんが、空いている俺の隣の席を指して言う。
だからもちろん、
「はい!どうぞ!」
隣に座ってもらうのだった。




