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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
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収穫なしの夜

結論から言って、今日はあれ以上の収穫を得ることはなかった。

むしろあれからは時間を消耗するだけで、男を警察に突き出したら直ぐのように解散になった。

しかし、俺にストーカーが付いていたとは……。

まさか俺が気付いていなかっただけで、実は今までにも何人かいたとかないよな?

考えるだけで身震いする。

「男、男と豪語するにもかかわらず男性からストーカーに遭うあたり流石由紀ちゃんですね?」

こんな軽口を向けてくる相手は俺の知る限り一人しかいない。

「だからなんで俺の部屋にいるんだよ?」

俺は、クローゼットの中からホラー映画の幽霊の如く出現した奈緒に目を向ける。

「いえいえ、ちゃんとノックして、声をかけて入らせてもらってますよ?」

嘘つけ!

そんなの聞こえなかったぞ!?

「聞こえないのは当然です。全て私の妄想の中であった出来事ですので」

聞こえるか!

せめて行動してくれ!

「面倒ですので嫌です」

…………。

奈緒と話す時は、頭の中で考えるだけでいいから便利だよな〜。

「由紀ちゃんに褒められてもこれっぽっちも嬉しくないのですが?」

「だからもうやめようよそれ!」

「無理ですね」

無表情のままキッパリと言われた。

しかも背景に『キリ』とか出てる。

どうやってんだあれ!?

「どんどん人間離れしてくな。お前」

「由紀ちゃんの男性離れしていく様よりはマシだと思いますが?」

グサッと言葉が心に刺さる。

今日のような事実があると強く否定もできないし……。

「今日は女装しないのですか?」

愉しそうに俺の心の傷に塩を刷り込んでくる。

やっぱり奈緒はSMメイドじゃあなく、完璧なドSメイドだ。

「なんですか?もしかしてそういうプレイをお望みですか?」

「望んでねぇよ!」

でも、奈緒を調教するのは楽しそうだな。

今度やってみるか?

「詩織様のいない時にお願いしますね。徹底的にいじめて差し上げますので」

逆っ!?

俺が奈緒を調教するんじゃなく、奈緒が俺を調教するの!?

「楽しみですね。いえ、愉しみですね」

「文字に起こさないとわからないレベルで修正するな!」

「おかしいですね?以前由紀ちゃんも同じ事をしていたような気がするのですが?」

……………………。

あ、思い出した。

確かにやったかも。

「さて、由紀ちゃんいびりもそろそろ飽きてきたので戻りますね」

俺の扱いって本当に酷いよな?

「では、また遊びに来ますね」

「もう来るな!」

俺は手を振って出て行く奈緒の背中にそんな言葉をぶつけた。

扉が閉まると、まるでそれを待っていたかのようにスマホが鳴った。

画面を見ると『朝倉陽織』と書いてあった。

すごいな。

今日知り合ったばかりの男に電話をかけるとは……。

肝が座っているのか、天然でやってるのか、どっちでも考えられそうで怖い。

「もしもし?」

『あ、由紀さん?今いいですか?』

陽織さんには相談相手になると言った手前、簡単に断れない。

というか陽織さんの勇気を無駄にはできない。

「いいよ。で、どうしたの?」

『はい、実はあれからずっと気になってたんですが、そちらの『詩織ちゃん』は見つかりましたか?』

「ああ、ちゃんと見つかったよ。心配してくれてありがとう。そっちの『詩織さん』は?」

『はい、見つかりました。心配してくれてありがとうございます。そうだ!今度一緒に食事でもしませんか?兄さんと姉さんも誘ってみるので』

なんでそうなるんだ?

まあ別にいいけどさ。

「いいけど、今はちょっとやる事があるから今度ね」

『はい!あ、でも由紀さん。兄さんのこと好きになったらダメですからね?』

………………はい?

あれ?もしかしてまた勘違いされてる?

てっきり分かってくれてるものだと思ってたけど、まさか陽織さんも俺が女だと思ってる?

だからあんな簡単に電話かけてきてるのか?

『では、都合がよくなったらまた連絡して下さい』

と言い残し電話が切れた。

訂正する間もなく……。

「あー、どうしよ」

まあそのうちなんとかなるだろう。

それよりも今は佐陀町への報告かな?

俺は改めてスマホを操作した。




『で、収穫なしと?』

「まあそうなるかな」

呆れられた。

普通はそうなるだろう。

なにせ、昨日あれだけ大きなこと言っておいて結局なんの戦果も無いというありえない事態なのだから。

『いいけどね。ユッチはなんだかんだでできる男だし』

やっと男扱いしてくれたことに感動しつつ、俺は佐陀町に言う。

「ああ、明日には全部終わらせるつもりだ。犯人の予想もついてるし」

『そっか、じゃあ明日楽しみにしてるね。まあ仕事の話はそれくらいにして、友人同士の話をしないかい?』

友人同士の話?

「なんの話だ?」

『いやね、ユッチはいつこっちに帰って来るんだい?こっちとしては明日にでも帰ってきて欲しいのだけど』

こっちとしては帰る気なんて更々無いんだけどね。

俺が帰るとしたら詩織ちゃんに嫌わてた時だろう。でも、

「いつ帰るかは分からん。でも夏休みくらいに一度帰省しようかな?」

と思っている。

『ん〜、夏休みか〜。じゃあ海行こ海』

「一応訊くけど何しに?」

佐陀町がどこかに行こうという時は大抵ただの旅行などではない。

昔連れて行かれた旅行では、『トンネルに出る幽霊』を追いかけてのものだった。

しかも本物が出てくるからタチが悪い。

こっちは必死に逃げているというのに、佐陀町は何が楽しいのか「こっちだよ〜」と笑いながら呼ぶのだ。

その後、佐陀町は目的の幽霊を採取し、大喜びしていた。

そして俺たち振り回された組はぐったりとさせられた。

それからというもの、佐陀町に誘われる時はいつも、こうして目的を訊くようにしている。

『なにしにって、ああいう場所には霊が集まるんだよ?是非とも見に行ってみたいな〜。あ、最悪、海じゃなくて森でもいいよ?』

「…………なんで?」

『確か呪いの洋館っていう場所が…………』

「断る!」

やっぱり、こんなこったろうと思ったよ!

『えー、なんでさ。一緒に行こうよ〜。あの時はユッチに怒鳴られて悲しかったな〜』

………………それを言われたら行かないわけにはいかない。

それが分かってて佐陀町こんなことを言うのだ。

「分かった。じゃああいつの誕生日に一回そっちに戻るよ」

『はーい、待ってるね〜。じゃ!』

俺の返事を聞くと佐陀町は電話を切った。

佐陀町との再会はあいつの誕生日である八月十九日に決まった。

さて、まずはその前にディフェルの件を終わらせないと。

できれば今日中に…………。

夜の十二時を回ったばかりの時計を見つめてそう決意した。

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