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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
クライアスクライシス
21/64

坂井由紀死す


今日から5月。

地球温暖化の影響か、日に日に暑さは増していき最近は『過去最高気温』の更新が著しくなって来ている。

そして今日も太陽が絶好調。

そんな中で外に出て行く気にもなれず僕は部屋でひたすらに漫画を読んでいた。

漫画の中の世界では色々な事が起こる。

それは話を面白くするためには仕方がない事は知っているが、その殆どは現実では有り得ない……と少し前までは思っていた。

今年に入ってからの僕の日常はどう考えてもおかしい。

突然の婚約者に、怪しいメイド、誘拐事件、挙げ句の果てにはどこかの国の王女様。

そんなのは漫画の世界だけだと思っていた事がこぞって襲って来くる。


『“げんじつはしょうせつよりき”と言いますからね。けいたいでんわがうすくなったように、いつかげんじつがくうそうを追いこす日が来るのでしょう』


『つまり、それほどむずかしく考える必要はないのです。あるものはある。ないものはないとわりきって生きてくのが1番です』


これは詩織ちゃんの言葉。

確かにその通りだ。

嘘みたいな現実だって、現実に起こってしまっているものを認めない理由にはならない。


「よし、寝るか」


とはいえ色々考えるのも面倒臭い。

ここは休日特権を行使して真昼間から昼寝と興じるとでもしよう。

そう思い漫画を置いてベットに寝転がると、唐突にドアが開いた。


「お腹すいた」


奈結だった。


「あのな?何度も言うけどせめてノックくらい______」


「お腹すいた!」


最後まで言わせてもくれない。

一体僕になにをして欲しいのだろう?


「冷蔵庫になにかあるだろ?それ食べろよ」


「無いから言いに来たの。それくらいも分からないの?」


分かるかっ!

叫びたい衝動を堪える。

ここで僕が反発しようものならまた話が拗れかねない。


「それで僕にどうしろって言うんだ?先に言っとくけどこの暑い中1人外に出るのはごめんだぞ?」


「別にそんな事言ってないでしょ?」


じゃあ何なんだよ。

全くどうしてこうなってしまったのか?

今はこんなだけど、この家に来たばかりの頃はもっと大人しくて素直だったのに。

それが小学校も高学年になった途端にこれだ。

どういう心境の変化があったかは分からないけれど、多分“反抗期”ってヤツだろう。


「早く準備して」


「は?なんの?」


「コンビニ行く準備」


「いや待て話が違う。僕は外に出たくないってさっき言ったよな?」


また僕への嫌がらせか?


「1人で行くのが嫌なんでしょ?だから私も行く」


「いやいや、ごめん意味が分からない」


「だからお兄ちゃんが1人で行くのがいやって言うから私が付いて行ってあげるの。だから早く準備して」


確かにそう言う奈結の格好は既に外行きようの可愛らしいワンピースだった。

全然気付かなかった。

まあ奈結が僕と出掛けるなんてそうそう無い事だし、面倒臭いけどここは言う事を聞いてやることにしょう。

そんなわけで僕は急いで着替えて、奈結と一緒に家を出た。






「珍しいじゃないか、奈結が僕と出掛けるなんて」


「別に?ただお昼ご飯買いに行くだけだし」


それだって今まで僕に買いに行かせてた癖によく言うよ。


「_______それでどうだったの?」


「あ?なにが?」


「婚約者の子のこと。どうだったの?」


どうって……なんて抽象的な質問なんだろう。

いや実際どうだったんだと言われればそりゃ“ 変わってるけどいい子” としか言いようがないけれど、なんで奈結がそれを知りたがる?


「そんな事聞いてどうするんだ?」


「いいでしょ別に!お兄ちゃんは聞かれた事に答えればいいの!」


お、おぅ…。

なんて迫力…。

我が妹ながら恐ろしい子…。


「別に普通にいい子だったよ」


「でも結局断ったんでしょ?その “いい子” との婚約」


「それは…色々あったんだよ。色々」


「なにその勿体ぶった言い方。ハッキリして」


なんだ?今日は妙に絡んでくるぞ?

いつもなら素っ気なく「ふぅん」とかで終わるのに…。

そういえば僕が帰って来てから奈結はよく僕と関わってくるようになった。

全く年頃の女の子はよく分からん。


「お兄ちゃん_______好きな女の子がいるの?」


……は?なにを言いだすんだこの妹は。

そんなのそれこそ奈結には関係のない話だろ。

というか僕のプライバシーってどこに行ったのだろう。

まあ士堯院でも奈緒さんがいたからどちらしにてもほとんどプライバシーなんてなかったんだけど。


「もしかして奏美ちゃん?」


「なんでそうなる」


「奏美ちゃんは彼氏いるんだからやめといた方がいいよ?」


「だから違うと言ってるだろ」


「じゃあ鈴菜さん?」


「いやだから______」


「鈴菜さんも彼氏いるんでしょ?修羅場とかやめてよね」


「もうどうでもいいよ…」


反論するのさえ疲れた。


「そう言う奈結はどうなんだよ。もう中学に上がって1ヶ月だろ?彼氏の1人くらいできたんじゃないか?」


この妹は身内の僕から見ても極上に可愛い。

他の男たちが放って置くわけがないくらいに。

事実小学校時代だって奈結はそれはもうモテにモテた。

それこそ朝告られ、昼告られ、放課後告られ、休日告られ、街に出ればナンパされ、それはもうモテない僕からしたら羨ましいくらいに奈結はモテた。

そんな奈結も今や中学生。

思春期に入り、男や恋に興味を持ち出す年頃。

そろそろ恋人の1人でも持ちたくなる頃合いだろう。

まあだからっていきなり変な男を連れて来られても困るんだけど、それなりにいい男なら僕も認めてやってもいい。

それでも多分一発くらいぶん殴るかもしれない。


「そんなのお兄ちゃんに関係ないじゃん」


「おいおい、僕の事はあれだけ詮索してきた癖に自分はダンマリかよ?」


言いたくないってならそれはそれでいいんだけど、このままでは不公平だと思った。


「……いないよ。彼氏も好きな男の子も。ずっと…」


「へぇ、それはまた意外な」


もしかしてウチの妹は男嫌いなのだろうか?

むしろ百合か?レズか?

それはまた大変な生き方をする。

でも下手な男を選ばれるよりはマシなのかもしれない。


「意外…なの?」


「そりゃ意外だろ。奈結みたいな可愛い女の子を放って置く男なんていないんじゃないか?」


「ぁ_____。ふ、ふぅんそうなんだ?可愛いんだ…?」


「少なくとも奈結が妹じゃなくて僕が中学生だった僕だって秘かに好きになってたかもな」


「っ〜〜〜〜!」


おーおー、照れてる照れてる。

こういう褒められて赤くなるところだけは昔と変わっていないようで、僕は少し安心した。

うんうん、やっぱりどれだけ反抗的になってもウチの妹は可愛い。


「あらあら、お嬢様をお捨てになられたと思ったら今度は違う少女をその毒牙に掛けようと言うのですね。全く相変わらずの屑のようでわたくし安心いたしました」


「っ!?こ、この声は…まさか…」


背後からの声に背筋が凍る。

それはこの街には居ないはずのあの女の声とよく似ている。

しかもその口調までそっくりと来た。

なんで…なんでアンタがここにいるんだよ…。


「わ、本物のメイド…」


奈結のその言葉でその相手の正体が確定した。


「なんでアンタがここにいるんだよ」


「お久しぶり…と言う程でも御座いませんね」


「奈緒さん…!」


振り返ったそこにはやはりと言うべきか僕が人生で最も苦手とする女、奈緒さんが微動だにせず立っていた。


「なんで…と仰られましたか?それはですね、このゴールデンウィークの間だけ旦那様からお暇を頂いたからです。なお、その間由紀様の御宅に居候させて頂く事となりました」


「そんな事を聞いてるわけじゃない。なんのためにって聞いたんだ」


「あぁ、そういう事でしたか。申し訳ありません、知っていて惚けました」


「余計質が悪いわ!」


こういうとこだよ。この人のこういうところが僕は苦手なんだ。


「わたくしは由紀様の監視のためにここに来ました。由紀様が他の女性に浮気をしないように」


「待て、なんでそんな事する必要がある?僕と詩織ちゃんの婚約は正式に破棄されたはずなんだけど」


「えぇ、確かに書類上は破棄されました。しかしどういうわけかお嬢様が納得なされていられない様子なのです」


「詩織ちゃんが?」


「はい、由紀様がお嬢様から逃げるように屋敷を去った後、お嬢様は珍しく感情を露わに致しまして、それはもう落ち着けるのが大変でした」


マジか…あの詩織ちゃんが…ね。

それは見てみたかったような、見なくて安心したというか…。


「それでこんな男を未だに思い続ける可哀想なお嬢様のために、由紀様が浮気をしないか、もし浮気をするようならその現場を抑えるため私用で参上致しました……が、ふふふ____まさかこの僅か数日の間に早々現場に遭遇するとは思いもしませんでした」


言葉とは裏腹に、その表情はとても楽しそうだった。


「いや、これは違う!奈結は僕の妹だ!」


確かに似ていないからよく間違われるけれど、僕と奈結は書類上ちゃんと兄妹だ。


「……どうやら嘘は言っていないようですね。失礼ながら本当に同じ両親から御産まれになられたのですか?」


「それは…」


別に隠すような事ではないけど、僕と奈結は両親の連れ子同士なんだよ。

僕の母さんはもう何年も前に死んでるからな。

でも、奈結は昔僕と血が繋がってない事を気にしていたんだ。

流石にもう大丈夫だと思うけど出来ればその話は奈結の前ではしないで欲しい。


「……承知しました」


お、おうぅやけに素直だな?

この人の事だから面白がって揶揄ってくるとばかり思ってた。


「なるほど、どうやら由紀様とは一度腰を据えて話し合う必要がありそうですね」


「え、遠慮する」


「そうですか。残念です」


全く残念そうには見えない表情で言う。


「しかしそうですか妹様でしたか。はじめまして奈結様。わたくしは士堯院家のメイド、奈緒と申します。以後お見知り置きを」


「えっ!?あ、はいっ!はじめまして、坂井奈結です…」


「ふふ、堅くなって…実に可愛らしい方ですね。虐めたくなってしまいます…」


「ふぇ!?えっ!?」


「やめろよ?」


「冗談です」


頬を染め興奮した様子だったのが、途端にスゥっといつもの鉄仮面に戻った。

しかもなにが1番恐ろしいって、1㎜も冗談に聞こえなかった事だ。


「ではわたくしは先に戻ります。御昼食をご用意致しますので御二人共早く戻ってらしてください」


そう言って一礼すると、奈緒さんは去って行った。

そういえばあのメイド服って暑くないのだろうか?


「取り敢えず昼飯はなんとかなったみたいだし帰ろうか?」


僕は突然の事で呆然とする奈緒に声を掛けたのだけど……


「お兄ちゃん」


「なんだ?」


「……バカ!」


「うぁいたっ!」


なぜか奈結は僕を蹴って先に行ってしまった。

ホント意味が分からん…。

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