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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
詩織ファンタジア
17/64

エピローグは次へのプロローグ


その後僕たちは、智沙ちゃんを見つけてきた奈緒さんと合流して屋敷に帰った。

そして10日が過ぎた。

誘拐犯のおっさんは奈緒さん曰く今頃記憶を失って刑務所暮らしだろうとの事。

あれだけ壮大な事件がありながらも、終わってしまえばまた変わらない日常が始まる。

あ、でも1つ変わった事もある。

最近なぜか智沙ちゃんに懐かれた。

あぁ、自分でもなにを言っているのか分からないが、どうにもそのようだった。


そして僕は今詩織ちゃんの部屋にお邪魔している。

まあ要件は分かりきってはいるけれど、いざ家でするとなると少し尻込みしてしまう。


「ゆきしゃん…」


詩織ちゃんはもう準備完了といった感じだ。

はぁ、またこの地獄が始まるのか。と心の中でため息を吐く。

とりあえずあれだ。

さっさと始めてさっさと終わらせてしまおう。


「それじゃあ詩織ちゃん。……いくよ?」


「はい…きてくだしゃい…」


僕はそのトロンと蕩けた瞳を見つめながら顔を近づけて_______


「ジ______________」


「…………」


「ジ_____________________」


「ゆきしゃん?」


「……奈緒さん。いつから?」


「っ!?なおしゃん!?」


「どうぞわたくしの事はお気になさらず続けてくださいませ」


いや、そんなに凝視されたらいくらなんでも気にするだろ。

だいたい口でジーとか言ってる時点で気にしろって言っているようなものじゃないか。


「どうやら由紀様には先の忠告がご理解頂けなかった様子ですね。いくら由紀様と言えどお嬢様に手を出したら絶殺だと忠告したはずですよ?」


「待って!違う!絶殺違う!半殺だっただろ!?」


「どうやら由紀様の頭の悪さは1度死なねば治らないご様子ですので」


「待って!ホントに待って!せめて事情を聞いてくれ!」


「………イヤです」


「悪魔ぁぁ!!!」


ジリジリとにじり寄る奈緒さんから逃げようとするが、あまりの恐怖に膝に力が入らずに崩れ落ちてしまった。

うん、これ詰んだ。

脳裏にあのおっさんの姿が思い出される。


「まってくださいなおさん」


「お嬢様?どうかなさいましたか?」


詩織ちゃんの制止でようやく奈緒さんが止まる。

その距離数十cm。


「ゆきさんは悪くありません。これはわたしがお願いした事なんです」


「……なるほど、事情くらいは聞いて差し上げましょう」


なんとか執行猶予がついた。

そして僕と詩織ちゃんは事情を説明した。

最初は訝しげな表情だった奈緒さんも、次第に呆れたような表情に変わっていく。

それは無言のまま「なにを言っているんだこいつらは?」と物語っている。


「はぁ、あのですね?この世の呪いなんてモノは存在し得ません。そんなモノがあったら今頃人類は皆呪いに苦しんでいるでしょう」


「でも実際に詩織ちゃんは_______」


「人間理性がなければそんなものですよ。お嬢様は根っからのキス魔だったという事でしょう」


「じゃあ昔会った女の子っていうのは?」


「それはきっと_________あ」


……。


「おい、なんだその『あ』って」


「お気になさらないでください。些細な事です」


「いや、お気になさるだろ。このタイミングでの『あ』だろ?絶対なんか重要な事思い出しただろ」


僕が問い詰めると、奈緒さんは渋々といった様子で語り始めた。


「……昔、お嬢様がお姫様ごっこがしたいと仰いました。以上です」


「いやごめん。意味が分からない」


「鈍い方ですね。御伽噺のお姫様といえば呪いは付き物です」


ん?ん〜?なんか話が見えてきたような…。見えてこないような…。

でもなんでだろう。碌でもない結果になる事だけはなんとなく分かる。


「その日、お嬢様が珍しくわたくし共と遊びたいと仰って下さったので、わたくしと母はこれ以上ないくらいに本気で魔女役を熱演しました。その結果お嬢様はひどくお泣きになられてしまいまして……それではないでしょうか?」


「で、ですがあの女の子はいっしゅんで大人の姿になってました」


「それはわたくしが姿を消して母が現れただけです。わたくしと母はとても似ていますから」


そういえば前にもそんな事を聞いた事があったな。


「でも晃さんも理事長も知ってただろ?しかも割と深刻そうだったし」


大人が子供の遊びに付き合うレベルを超えてると思うんだけど。


「それはあの御二方がおかしいのです。あの方々はお嬢様を異常なくらいに可愛がっていらっしゃいますから。そんな目に入れても痛くない_______むしろ率先して目に入れたいような子がキスをせがんで来るんですよ?よし、事実として処理してしまおう。と都合よく隠蔽してしまってもおかしくはない話です」


………。

開いた口が塞がらない。


「えっと…じゃあその役を僕に押し付けたのは?」


「由紀様とお嬢様をくっつけるために決まっているじゃないですか。あわよくば既成事実を作ってもらおうと企んでいた様子ですが…」


それであの伝言か!

まさかドイツに行ったのも邪魔者がいなくなってより僕が詩織ちゃんを襲いやすい状況を作るため…?


「恐らくはその通りでしょう。はぁ、全く旦那様方は優秀なのですが、変なところでおバカで困ってしまいます」


…そうなるとなんだ?今まで僕が呪いだと思っていたアレは?


「お嬢様の思い込みです。えぇ100%お嬢様の思い込みです。そして最初に言ったようにお嬢様が根っからのキス魔だったというだけの事です。そんなに深刻なものではありませんし、お嬢様が自制心さえ手に入れてくだされば解決する事です」


隣に座る詩織ちゃんに視線を向けると、普段はほとんど顔色の変わらない詩織ちゃんがトマトのように真っ赤になっていた。

心情お察しします。

今まで呪いだと思う事で羞恥心を誤魔化してきたのに、実は呪いなんて無かったなんて言われたらもう誤魔化しは効かないもんな…。

目も当てられないとはこの事だ。


「というわけですお嬢様。今日からは自制心を鍛えましょうか」


「ぁ…ゃぁ…」


「申し訳ありませんが、急を要するようですので厳しくやらせていただきます。さ、行きますよお嬢様」


「やだぁ!イヤ!ゆきさんたすけて…!」


「……ごめんよ」


ごめんよ詩織ちゃん。

僕的にも詩織ちゃんには自制心をつけて欲しんだ。

ここは奈緒さんに全部任せよう。

僕の言葉に詩織ちゃんは絶望したように顔を青くして、奈緒さんに引き摺られるように連れて行かれた。

その道中何度も詩織ちゃんらしからぬ声が屋敷内に響いたが、僕は敢えてそれを聞かないようにした。






「それで、話とはなんでしょうか?先に断っておきますが、お嬢様への矯正は甘くはしませんよ?」


僕と奈緒さんが向かい合って座る。

それというのも、話があると僕が彼女を呼んだからだ。


「いやそんな事じゃない。詩織ちゃんとの婚約の話について僕なりに結論を出したんだ」


「……聞きましょう」


「僕はこの婚約を________破棄する」


僕の宣言が特に以外ではなかったのか、奈緒さんの反応は淡白だった。


「そうですか。ではそのように旦那様には報告しておきます」


「……それだけ?理由とか聞かないのか?」


「聞いて欲しいのですか?」


「いや、普通なら聞くだろ?」


「はぁ、別にわたくし興味を抱きませんので」


まあそうだよな。

この人はそういう人だった。

しかし奈緒さんは一向に立ち去ろうとはしない。

……全くこの人も素直じゃないな。


別に僕だってこの生活が嫌だったわけじゃない。

むしろかなり楽しんでいたくらいだ。

でもそれとこれとは話が違う。

詩織ちゃんの事は最初に会った時に比べるとだいぶ分かってきたつもりだ。

基本表情が出てこないからクールな子に思えるけれど、その実すごい感情の上下が激しいし、頭が良くて気難しそうに思えるけれど、実は色々抜けていて可愛いらしいところがある事も知っている。

そう、詩織ちゃんは可愛い女の子だ。

だからこそこんな婚約なんかで結婚相手を決めてはいけないと思う。

自惚れに聞こえるかも知れないけれど、詩織ちゃんが僕に好意を向けてくれている事は気付いている。

でもそれは多分異性としての“好き”じゃなくて、歳上のお兄ちゃんに向けるような“好き”なんだと思う。詩織ちゃんは単にそれを勘違いしているだけなんだ。

なにしろあの子は勘違いしやすい子だから。

詩織ちゃんはまだ10歳だ。

これからいろんな人と出会って、関わって、きっと本当の意味で誰かを好きになる日が来るだろう。詩織ちゃんの可愛さならきっとどんな男も捕まえる事ができるだろうしな。

僕の役目はそうなった時に“おめでとう”と祝福してあげる事だ。

決してその隣を一緒に歩いて行くことではない。

だから申し訳ないけど、今回の婚約はなかった事にして欲しい。

もちろん解消したらここは出て行って実家に帰るよ。

流石の僕も婚約を解消した後もここに残るなんてそこまで図々しい事はしたくないからね。


「それでなんだけど、晃さんには僕から話すよ。それが筋だろ?」


「そうですね。えぇ、それが筋です。それで、もしも婚約を解消できたとして、いつ頃ご出立で?」


「目処としてはゴールデンウィークが始まったらかな。ちょうどキリもいいし」


「しかしそれは________寂しくなりますね」


「心にも思ってない事言わないでくれる?忘れてないぞ?お前散々人のこと追い出そうとしてただろ」


「チッ、頭が悪いくせに無駄に記憶力だけはよろしいようですね」


うわっ!このメイド今舌打ちしやがった!

晃さんに言って再教育してもらった方がいいんじゃないだろうか?


「ふふふ、さて15年も仕えていたメイドと昨日今日やって来た男と、果たして旦那様はどちらをお信じになられるでしょうか?」


「汚っ!」


この屋敷での生活ももう残り少ない。

そう思うと、こんな意味のない会話の1つ1つも大切に思えるから面白い。

その晩早速僕は晃さんに電話をした。

晃さんは何度かの説得の後やはり僕の意思は変わらないと悟ったのか、「そっか…」と最後には認めてくれた。

ただ1つ懸念しているのが詩織ちゃんにどう伝えるかだった。

そこは晃さんも同じだったらしくどう説明するか2人で話し合った

結局2人で出した結論は黙って出て行くというものだった。

そしてその後に事後承諾するような形で詩織ちゃんに伝える。

それで諦めもつくだろう。


そして当日、僕は奈緒さんと晃さんに実家の前まで送ってもらった。

朝の4時なんて早朝から申し訳ないと言ったのだけれど、ぜひにと押し切られた。


「それじゃあ由紀くん、たまには家に遊びに来てもいいからね?」


「ははっ、そんなことしたら詩織ちゃんに怒られますよ。一言もなにも言って来なかったんですから」


「そう……だったね。それに今度由紀くんが来たら多分、今度こそ詩織が帰さないだろうね」


「えぇ、ですので熱りが冷めるまでは…」


「うん、それじゃあ由紀くん。元気でね」


「はい」


それだけ言うと晃さんが車の中に乗り込む。

続いて奈緒さんも乗るのかと思いきや奈緒さんはその場を動かなかった。


「由紀様_______いえ、もう敬称は付ける必要はなかったですね」


いいんだよ?

別に敬称付けてくれてもいいんだよ?

っていうかアンタ普通に誰にでも敬称付けてたじゃん!

あの誘拐犯は例外だったけど!


「まあ呼び方なんてもうどうでもいいでしょう。わたくしからも一言だけ言わせていただきます」


そう言ってピンク色の唇を僕の耳元まで持ってくる。

耳元で奈緒さんの吐息が感じられて、悔しいけどドキドキさせられた。


「____________」


そしてホントに一言だけ囁くと奈緒さんも車の中へ乗り込んで行ってしまった。

エンジンがかかり発信する車をぼーっと見つめながら、僕は奈緒さんの言った言葉の意味が理解できずただ立ち尽くすだけだった。

次第に車が小さくなっていく。

それはまるで、あの街での日々のようだった。


…………。


うん、考えていても仕方ない。

振り返って家のドアを開ける。

戻らない過去を振り返っても仕方ない。

これは自分で決めた事なのだから。


オレンジ色の光が差し込んで東の空を見上げると、ちょうど太陽が昇り始めていた。

さあ、新しい朝が来た。

希望の朝だ!




To be continue ……。

第1章のリメイクが終了しました。

こえれから2章に入ります。

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