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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
詩織ファンタジア
14/64

詩織誘拐事件 のちょっと前

由紀目線の話に戻ります。


数時間前


「私は由紀様認められません」


学校から帰った僕に奈緒さんは言った。

確か前に詩織ちゃんに紹介されたことがある。

そう、名前は確か『奈緒さん』だ。


「はい?」


急に何を言い出したのだろうか?この人は。

突然すぎて一瞬言葉の意味を理解することができなかった。

数秒後、僕は奈緒さんの言いたいことを理解した。

奈緒さんは遠回しに「詩織様との結婚は認められません!」といっているのだ。


「例え旦那様が許婚と認めても、わたくしにとっては余所者です。ですので早急に出て行ってください」


無表情で淡々と言葉を紡ぐ奈緒さん。

どこかの誰かを連想してしまう。

もしかして彼女の人との接し方はこの人の影響なのだろうか?


「出て行けって、じゃあ僕はどこで生活しろと?」


実家にはまず帰れない。

帰った理由が『奈緒さんに追い出された』なんて恥ずかし過ぎる。


「住む場所でしたら心当たりがあります。あそこの住民とはそれなりに仲が良いですから紹介します」


言い振りからしてアパートとかの物件だろうか?

だが、そうそう高い家賃は払えない。


「大丈夫です。家賃は月に三千円ととてもお安くなっております」


三千円!?

待てよ、家賃の安さに流されるところだった。


「よくよく考えればそんな都合のいい物件があるわけないよな。トイレが男女共同とか、風呂がないとか」


「そこも心配ありません。確かにお風呂はないですが、お手洗いは充実しています。男女別ですが、共同で複数便器があります。さらに、水道光熱費は一切支払わなくてもいい仕様になっています」


なにその物件!

すごく気になる!


「ちなみにその場所は?」


「広井公園です」


公園ですか〜。

……………………。

………………………………。


「ホームレスじゃん!?」


「最近はそう呼びますね」


じゃねえよ!

三千円はどこに飛んでいくんだ!


「ちなみに三千円は先住民への挨拶です」


いや、そんなことよりも普通公園なんて紹介するか!?

僕そんなこと言われないといけないようなことしたかな!?


「不満ですか?由紀様の分際で一丁前に不満を言いますか?公園でさえ由紀様には寛大な処置なのに」


じゃあ一体僕はどこに住めばいいのかな?

もう泣くよ?本当に。


「泣きたいのならどうぞ、外で、大勢の方の前で子供のように恥ずかしく泣いてください」


心を読んだ上にひどい言われようだ。

しかもこの人すごい楽しそうに僕を罵るんだ。


「人に顔をジロジロと……変態ですか?」


「なんでそうなるんだよ。アンタ絶対友達いないだろ?」


「それは……ふふ、どうでしょうね?」


怖っ!

この人ならその道の人にも知り合いがいそうで怖い。

僕は絶対に友達にはなりたくない。


「由紀様と友達ですか?やめてください。本当に気持ちの悪い事を考えますね。いっそ一度脳内をクリーニングに出した方がいいのでは?」


「ねぇ、なんなの?アンタ僕に何か恨みでもあるの?」


「いえ?恨みなんてありませんよ。ただ、由紀さんのような約束も守らない嘘吐きに詩織お嬢様を任せるのが嫌なだけです」


約束?なんの話だ?

それに一体僕がいつ嘘を吐いたと言うのだろうか?


「おっと、お喋りが過ぎましたね」


……?

なんなんだ?この人は一体何を知っているんだ?


「まあわたくしが何と言っても旦那様の決定が覆ることはないでしょうけれど。そういうわけですので、これから長い付き合いになりますね。『由紀ちゃん様』」


「本当にいい性格してるな?『腹黒メイド』」


「あら?そんなに褒められたら照れるじゃないですか。まさか由紀様は詩織お嬢様だけでは飽き足らずわたくしにまでその毒牙を伸ばそうとお考えで?」


「はっはっは、冗談も休み休み言ってもらいたいな。どう考えてもアンタ行き遅れの地雷だろ」


「あ"?」


「ひっ!?」


凄い形相で睨まれた。

素直に怖い。


「言い忘れていましたが私は由紀様と2つしか離れていませんから」


…………そうなの!?

確かに若く見える思っていたけれど、普通に18歳!?


「あれ?でもアンタって15年間士堯院で働いてるんだよな?それって3歳の時から働いていたということにならないか?」


それはどう考えてもおかしい。

むしろこの奈緒さんのことだ。

「ふっ、バカですか?冗談に決まってるじゃないですか」とか言いそうだ。

そして実際は、


「ああそれですか?それは旦那様が詩織様に言った嘘ですよ?私は5歳から働き始めたので」


そう言う方向の嘘なんだ…………。

って、5歳からでも十分早いだろ!


「私の家族は、父が作った3億5千万円の借金を返すためにここで働いているんです」


意外と理由が重かった。

しかもその設定どっかで聞いた覚えがあるんだけど……気のせいという事にしておこう。


「でも3億5千万円って、なんで士堯院家にそんな借金作ったんですか?」


「父が若い時、連帯保証人になった相手に逃げられたそうです。そしてできた莫大な借金を旦那様が肩代りしてくれたのです。あの時助けて頂いていなかったら今頃わたくしは気持ちの悪いおじ様に性奴隷にされているか、文字通り身体を切って売る羽目になっていたでしょうね」


やばい。

これは突いてはいけない話題だ。


「まあそれ以前にわたくしが産まれてきていたかどうかも怪しいところですが」


そう言って茶化しはしているけど、聞かされたこっちは気不味さマックスなんだけど…。


「ま、まぁあれだ。……強く生きろよ?」



「ご心配には及びません。あ、でももし同情していただけるのであれば、せっかく私が重い過去を話したのですから由紀様もなにか話してくださいな。それはもうトラウマレベルの話を」


そう言って瞳を今までに見た事ないくらいに輝かせて僕に向ける。

そんな期待をされても、残念な事に奈緒さんの話に匹敵するような話題はない。


「さぁ、早く。わくわく」


「……マジ勘弁して下さい。っていうか口でわくわく言うなよ」


「はぁ、まあ最初から由紀様に波乱万丈で壮大な人生を期待してないんかいないので気にしないでください。由紀様は庶民らしく平々凡々な世界を鼻水垂らしたアホズラでゆったりと生きていればいいのです」


ホントこの人、口を開けば毒しか吐けないのか?

まあ、これで出て行く云々の話も有耶無耶に______


「ところで由紀さん、いつまでこの屋敷に居座るおつもりで?」


そうだった。

この人は他人(ひと)の心が読めるんだった。

僕と奈緒さんのトークはもうしばらく続いた。





「しかし、詩織お嬢様のお帰りが遅いですね?」


奈緒さんが懐中時計を懐から取り出して言った。

いつのまにか日が傾いていて、時計は18時を示している。

初等部の下校時刻から3時間が経過しているのだ。

詩織ちゃんがそんな遅くまで何の連絡も寄越さずに遊び歩くはずがない。


「なにかあったのか?」


そう考えるのが普通だった。

さらに奈緒さんが、「そういえば今朝も怪しいおじさんに声をかけられていましたね」と不安を煽るようなことを言う。


「そういえば由紀様はドSメイドとドMメイドではどちらがお好みですか?」


そして全く関係ないことを言い出した。


「アンタはどう考えてもドSだろ?」


「それはどうでしょうか?わたくしはドSメイドにもドMメイドにもなれる万能系メイドですから?」


なんだよ万能系メイドって!

ツッコミかけて止める。

そんな事よりも詩織ちゃんが心配だった。


「で?今の質問になんの意味があったんだ?」


「意味なんてありませんよ?ただの世間話です」


こんな状況でなんて呑気なんだ?


「そんなことよりも、本当にどうしたんだ?」


誰に言うでもなく言ったのだが、奈緒さんは勝手に乗ってきた。


「心配ありません。お嬢様には360個の発信機が付けてあるので、全裸に剥かれて身に付けているものを全て処分されない限りすぐに居場所は分かります」


なら大丈夫か。

…………大丈夫か?

特に詩織ちゃんのプライベート。


「では早速」


と奈緒はノートパソコンを取り出した。


「おかしいですね。こんな遠く離れた場所に行くだなんて…」


奈緒さんは画面に映る赤い点滅を見ながら言う。

そして、


「では盗聴器を起動させてみましょう」


盗聴器まで仕掛けてるのかよ…。

もはやストーカーだな。という言葉はそっと飲み込んだ。

奈緒さんがエンターキーを押す。

するとパソコンから音声が聞こえてきた。

それは聞きなれない男の声だった。


『ちょっと道雄さん。車の中でおっ始めない下さいよ?匂いとか結構着くんですから』


『分かってるよそんなこと。でも楽しみだなぁ。早く詩織ちゃんとイチャイチャいしたいなぁ』


電波が悪くなったのか、その言葉を最後に会話は聞こえなくなった。


………………。

いや、まさか…ね?


「誘拐ですね」


「マジで?」


「えぇ、マジです」


そんなテレビの中でしか聞かないような言葉に、それでも落ち着いている奈緒さんとは反対で僕の頭はただ混乱するしかなかった。

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