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俺と詩織のラブコメ記録(仮題)  作者: クロ
詩織ファンタジア
12/64

詩織side 詩織誘拐事件1


眼が覚めるとそこは車の中だった。

どれくらい眠らされていたのかは分からないけれど、窓の外から見える景色は見慣れないものだった。

手足は縛られていて身動きは取れない。

隣には智沙ちゃんも眠らされているけれど、服があまり乱れていないところを考えるにどうやらわたし達はまだ何かをされたわけではないようだった。


「おや、お目覚めかい?」


声をかけて来たのは、今朝も声をかけて来たおじさんだった。

もしもあの時奈緒さんが来なかったら、わたしはあの時誘拐されていたのだろうか?だとしたら巻き込んでしまった智沙ちゃんには申し訳ない事をしてしまった。


「あー、そっか。怖くて声が出ないんだね?大丈夫だよ、おじさん達は痛いことはしないから。むしろとぉっても気持ちいい事だからね?あ、でもちょっとだけ痛いかもしれないけどそこは我慢してね?」


そう言って気持ちの悪い笑みを浮かべた。

でもこのおじさんの言ったことは正しい。

こうして実際に誘拐されるなんて初めての事で怖くないわけがない。

そう思うと、今までわたしは色々な人が護ってくれていたお陰で何事もなく生活が出来ていたんだと思い知らされる。


「そっちの子もね、本当は予定にはなかったんだけど、可愛いしついでに攫っちゃえってね。うんラッキーラッキー」


本当にそう思っているのかおじさんの表情はとても嬉しそうだ。

わたしはこんな人に滅茶苦茶にされるのかと思うと今にも泣き出してしまいそうだ。


「ちょっと道雄さん。車の中でおっ始めない下さいよ?匂いとか結構着くんですから」


「分かってるよそんなこと。でも楽しみだなぁ。早く詩織ちゃんとイチャイチャいしたいなぁ」


ドライバーの男の人に返事をしたおじさんの濁った眼がわたしの全身を舐めるように見てくる。

キモチワルイ。

こんなにも誰かを気持ち悪いと感じたのは生まれて初めてだ。


「なんならお前にもお裾分けしてやってもいいんだぞ?」


「僕は結構ですよ。道雄さんと違ってそんな子供に興奮しませんから。僕はただお金がもらえればそれで十分です」


「なんだ勿体ない。こんな歳の子とヤレる機会なんてそうそうないんだぞ?それともなんだ?お前さん熟女趣味か?」


「僕はふつうにノーマルです。道雄さんみたいな変態と一緒にしないで下さい」


「けっ、詰まらん男だな」


そう言っておじさんはシートに座り直した。

今の会話を聞く限りでは、あのドライバーの男の人とこのおじさんでは目的に違いがあるみたいだった。


「ん……あれ?詩織ちゃん?」


ちょうどそこに智沙ちゃんが目を覚ました。

智沙ちゃんは状況がうまく飲み込めないようで、辺りを見渡して、やっぱりよく分からずわたしに視線を向けた。

わたしが縛られているのを発見して、ようやく自分もまた縛られていることに気が付いた。


「お、もう1人もお目覚めかな?」


「ひっ!お、おじさん誰!?なんでこんな事でするの?」


「さぁ?なんでだろうねぇ?でも、むふふふ。君も詩織ちゃんと一緒に可愛がってあげるから待っててね?」


「っ…!へ、変態…」


智沙ちゃんが怯えた様子でおじさんに言った途端、おじさんの態度が豹変した。


「きゃっ!」


ゴンッとおじさんが智沙ちゃんの顔を殴った。

なんて酷い事を…。


「口の利き方を知らない子にはお仕置きが必要だね」


おじさんは笑っていたけれど、その眼は全く笑っていなかった。

この人は危険だ。

少しでも逆らえば暴力が飛んでくる。


「ご、ごめ___」


「ん?聞こえないなぁ」


智沙ちゃんが謝ろうとするけれど、その端から叩かれる。


「やめて!」


思わず叫んでいた。

おじさんの視線がわたしの方へ向く。


「これ以上ちさちゃんを叩かないでください」


「そっかぁ、友達のために刃向かうなんて健気だねぇ。でもこれはお仕置きだからさ、ここで辞めちゃったらこの子のためにもならないでしょ?それとも代わりに詩織ちゃんが打たれるかな?」


おじさんがまるで新しい獲物を見つけたかのように、嬉しそうな目付きでわたしを見た。

怖い。

でもきっと1番怖いのは智沙ちゃんの方だ。

智沙ちゃんわたしが巻き込んでしまったようなもので、本当なら智沙ちゃんがこんな目に遭う必要はないのに…。

わたしが代わりになる事で智沙ちゃんが救かるのならわたしは____。


「分かり_____」


「ちょっと道雄さん。僕の車でそういう事するのはやめてくださいよ?血とか付いたらなにかと面倒なんで。嫌だって言うのなら僕はここで降りますからね?」


「ははは、分かったよ。僕だって可愛い女の子を打つのは本意じゃないからね」


「君たちも大人しくしておいた方が身のためだよ」


男の人はそれだけ言ってまた運転に戻った。

……救けてくれた…?

いやまさか。

この人だって誘拐に加担している1人だ。

わたしたちの身を心配するのなら最初からこのおじさんと手を組んだりしないだろう。

きっと自分で言っていたように、自分の車が汚れるのが嫌だったんだ。


「ちさちゃん大丈夫?」


「う…ん…。救けてくれてありがとう」


違う。わたしのせいなんだ。

わたしが智沙ちゃんを巻き込んだんだ。

けれどその言葉がわたしの口から出てくることはなかった。

そしてようやく口にできたのは、


「ごめんねちさちゃん」


そんな自己満足な謝罪の言葉だけだった。





わたしと智沙ちゃんが出会ったのは小学3年生の時だった。


「友達になって下さい!」


わたしは体育館裏に呼び出され、そんなことを言われた。

相手は1年生の時からずっと一緒のクラスの葉山さん。

ポニーテールがトレンドマークはの女の子だ。

こうして言い寄ってくる子は今までに何人もいた。

そのほとんどがわたしではなく『士堯院』を目当てにしたものだった。

『士堯院』に生まれてしまった以上、そんなことが付きまとうのは運命といってもいい。

ならば形だけの友達を作ればいいだけの話だ。

けれどわたしはそんな偽物は欲しくない。

わたしが欲しいのは、損得関係なくお互いを助け合えるような、遠慮なく喧嘩できるような、そんな本物の友達だった。

この子はそんな友達になってくれるのだろうか?

この数年でわたしは随分と人間不信になった。

こうして小学3年生らしくない思考ができるのもその副産物と言えよう。

とにかくわたしは、目の前に立つこの少女のことが信用できないのだ。


「どうしてわたしなんかと友達になりたいのですか?自分で言うのもおかしな話ですが、わたしにあいそうはないと思うんですが」


本当に自分で言っていて悲しくなる。

大人の人達からは評判はいいけれど、子供社会の中では愛想のいい子の方が評判はいい。


「なんでって、そんなの詩織ちゃんのことがすきだから」


飾りっ気のないストレートな告白と、ファーストネームで呼ばれて驚いてしまった。

だからといってそれで簡単に友達になれるのなら、それはわたしではない。


「わたしは友達というものを持ったことがありません。ですので、試用期間を取らせてください」


結局わたしはこういう人間だ。

無条件に相手を信用する気にはなれなかった。

しかし葉山さんはわたしがが出した条件をあっさりと呑んでしまった。


「うん、いいよ」


そして、わたしと葉山さんの友達試用期間が始まった。





試用期間を初めて1ヶ月が過ぎた。葉山さんともうまくいっており、そろそろちゃんと友達になりたいと思った頃。

結局葉山さんは、『士堯院』についてほとんど触れることはなかった。

してくる質問といえば、「好きな場所はどこ?」とか「お風呂はどこから洗う?」とか、普通に質問だった。

しかし、葉山さんと友達になってから帰り道に誰かに付けられている気配がしていた。

だからわたしは、正体を突き止めることにした。

やり方は簡単だ。

全力でダッシュして角を曲がり、すぐに立ち止まる。

月並みだけど、こんなバレバレなストーキングをしてくるような素人にはこれくらいで十分だろう。

そして予想どおり、ストーカーさんはわたしに策に乗ってきた。


「……葉山…さん?」


「詩織ちゃん……」


ストーカーさんの正体は葉山さんだった。


「どうしてこんな事を?」


「詩織ちゃんのことがもっと知りたかったから……」


だからと言ってストーキングするのはよくない。

わたしのことを知りたいと言ってくれるのは嬉しいけれど、それだったら直接訊いてくれればいい。

なのになぜそれをしないのか。

そう訊くと、「そう……だよね」と納得してくれた。


「ごめんね詩織ちゃん」


謝る葉山さんにわたしは言う。


「ちゃんと反省して、二度とこんなことはしないでください。_____智沙さんはわたしの友達なんですから」


「…………うん」


お互いを困らせて、謝って。

そんな、わたしの理想が叶った。

こうしてわたしと葉山さんの友達試用期間が終了した。

「でも友達っていうのなら、敬語と『葉山さん』っていうのは止めて」


「ではなんと呼べば?」


「智沙でいいよ。あと、敬語になってる!」


やっぱり友達に対して敬語や『さん』は失礼だろうか?

わたしは敬語以外は慣れていないけれど、これから慣れていけばいい。


「じゃあ、『智沙ちゃん』って呼んでもいいかな?」


「う〜ん、まあいっか」


こうしてわたしに初めて友達ができた。

とても大切で大好きな友達。

だからわたしは、智沙ちゃんがそうしてくれているようにわたしも智沙ちゃんを護りたいと思った。

だってそれが“友達”だと思うから…。

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