詩織side 第四話 再び
体操服を忘れ、わたしは一人家に戻った。
そして無事回収任務を済ませ、由紀さんの待つ場所に戻ろうとしたが、これは大変なことになった。
「士堯院ちゃん、今日は一人なの?」
知らないおじさんに声をかけられた。
今までは一人でいることが当たり前で、それゆえに誰も近づいてはこなかったけれど、今は由紀さんと一緒に登校しているせいで『誰も近づいてはいけない』というルールが崩れつつあるのかもしれない。
どうしよう。
こんなことなら意地を張らずに由紀さんについて来て貰えば良かった。
わたし一人では切り抜けられそうにない。
どうしようか真剣に悩んでいると、そこにメイド服が現れた。
「大丈夫ですか?詩織様」
奈緒さんだった。
「詩織様は士堯院家のメイドであるわたくしがお送りいたしますので心配ございません。では」
そう言うと、奈緒さんはわたしの手を取って歩き出した。
「奈緒さんどうして……?」
「由紀様の姿がお見えにならなかったのでこっそり後をつけてました」
「…………」
大変反応に困る。
でもここは伝えるべきことを伝えよう。
「ありがとうございました」
しかし奈緒さんは「士堯院家のメイドですから」と簡潔に言った。
そうしていると、由紀さんの姿が見えてきた。
それを確認すると「これからはお一人で出歩かれる際にはご注意ください」と奈緒さんはわたしに言った。
「はい、気をつけます」
由紀さんと離れないように。
とは流石に口に出せなかった。
そしてわたしは由紀さんの元に戻った。
聞いてない。
わたしが学園長室に着いて最初に思ったことだ。
由紀さんもいるなんてわたしは全然聞いてない。
学園長室の中での会話は扉の外まで漏れていた。
わたしは扉をノックして、由紀さんがいることに気付かなかった振りで入る。
「失礼します」
言うと、由紀さんがわたしを見た。
「麗華さん、少しいいですか?」
衝撃の事実、なんと学園長の名前は麗香というらしい。
「ん?あぁ、またか…」
「はい、またお願いできますか?______ってなんでゆきさんがここにいるんですか?」
詩織ちゃんが無感情の瞳で僕を見つめる。
「あぁ、ちょっと雑用で呼んだんだが、詩織、お前の好きにしていいぞ?」
雑用?
話をしていたようにしか聞こえなかったけれど?
などと言ってもきっと、盗み聞きしていた事をからかわれて終わりだろう。
麗華さんには歯向かわない方が身のためだ。
ただ、発作が起きかけているのもまた事実。
由紀さんは優しいからきっと受け入れてくれる。
なら少しくらい甘えても大丈夫だよね?
「そうですか、ではえんりょなく。ゆきさん、手伝ってください」
わたしはそう言って由紀さんを隣の部屋に引っ張った。
余談だけれど、服を引っ張っても、腕を引っ張ってもビクともしなかった。
だからきっと、由紀さんがわたしについてきてくれたのだろう。
由紀さんの前にいると、キス衝動は加速的に進行した。
理由は分からない。
でも、こうなっては仕方がない。
軽く衝動を抑えるつもりでいたのだけれど、思いっきり解消しないといけなくなってしまった。
「…………いつから?」
由紀さんが心配するようにわたしを覗き込む。
「朝のホームが終わった時くらいからです。それまでは全く問題なかったのですが…………」
荒くなっていく息を抑えながら、わたしは言った。
「とにかく、わたしの……りせいがのこっているあいだに…終わらせましょう」
以前のような恥は晒すまいと、早期解決を目指す。
身体に力が入らなくなってきて、わたしは四つん這いで由紀さんに迫る。
それを見た由紀さんが、わたしで変なことを考えたのはなんとなく察したけれど、言わぬが華だろう。
わたしは由紀さんを押し倒して、キスをした。
キス衝動に完全に支配されたわたしのキスは手慣れたものだけれど、この状態のわたしはほとんどしたことがない。
そのせいで、軽い触れるだけのキスになってしまった。
「ゆきさん、……このわたしには、どうしたらうまくキスできるかわかりません。ですから、リードして下さい…………」
一度キス魔のわたしとしたのなら、それなりにキスが期待できる。
というのは名目で、本当は由紀さんからして欲しいだけなのだ。
由紀さんはしばらく悩んだ後に、意を決したように言った。
「 分かった、やるよ」
そう言うと由紀さんはまず、わたしを優しく抱きしめてくれた。
ほとんど初めてと言っていい自分からのキス行為で、わたしも実は緊張していた。
でも、その緊張は抱きしめられただけでだいぶほぐれた。
そしてついに、由紀さんの唇がわたしの唇に触れた。
と思った次の瞬間、
「!?」
ねっとりしたものがわたしの唇を這い回った。
言うまでもない。
由紀さんの舌だ。
舐められ、噛まれ、でもわたしはそれで気持ちよくなっていた。
由紀さんとのキスはいつだってわたしを気持ちよくしてくれる。
「んっ………ふぁ……はぁんっ………」
勝手に声が漏れる。
恥ずかしいけれど、それで由紀さんの顔が赤くなってくれて、「あ、意識してくれてる」と嬉しくなる。
そうして何度も何度も吸われ、舐められ、噛まれ続けていると、胸のあたりがキューっと締め付けられて、切ない気分になってきた。
なのに由紀さんがその唇を離そうとするので、わたしはより一層由紀さんの唇に自分の唇を押し付けた。
最初は驚いていた由紀さんだったが、その直後由紀さんがお口の中に舌を入れてきた。
あまりに熱くて、ビクッとなったけれど、由紀さんが自分から入れてくれた喜びの方が強く、わたしは由紀さんを受け入れた。
由紀さんのヌルヌルがわたしのお口の中を這い回り、わたしに快感を与えてくれる。
そんな由紀さんに舌に絡めるようにわたしも一生懸命追いかけた。
「チュパ……ぁん………チュ…ヌチャ」
わたしの口元から湿った音がなり、甘い声が漏れてしまう。
まるで舌が溶けてしまうのではないかという快感に身を委ねる。
しかし、身体に異変を感じて一度離れる。
「由紀さん、わたしなんだかおかしいです。からだがあつい………」
まるで火達磨になったのじゃないかと錯覚する熱さだった。
「すこしまってください」
わたしは由紀さんに断って、服を脱いだ。
けれど、今回は前回のようなミスはしない。
ちゃんと上にキャミソールを着ている。
が、そこまでだった。
急に身体がわたしの意思で操れなくなった。
間に合わなかった。
今回のはわたしがちゃんとやり抜きたかったのに、それを呪いは許してはくれなかった。
そしてわたしの身体は、脱ぐつもりのなかったパンツを脱ぐ。
その瞬間、熱のこもったお股に外気が直接当たって、すごく気持ちが良かった。
「おまたがスースーしてきもちいいです」
キス魔のわたしも同じことを思ったらしい。
「おまたせしました。続けましょう」
そう言うとわたしは由紀さんに近づいて、再び唇を重ねる。
由紀さんの太股に跨るようにして腰を動かすと、電気が走ったような快感が伝わる。
「んっ……はぁっ…………ぁん!」
わたしは全身で由紀さんを求めながら、キスを続けた。
そしてあの塊が落ちてくる。
この前は怖かったけれど、今はそうでもない。
頭が白くなっていき、ついには思考が回らなくなってきて、
「〜〜〜〜〜〜っ!」
塊が弾けた。
全身にパチパチと電気が走るように快感が走る。
身体が勝手にピクピク動き、言うことを聞かない。
ああ、またわたしは気持ちよくなっちゃったんだ。
そんな思考を最後に、わたしの意識は途絶えた。
帰りのホームが終わり、後は家に帰るだけ。
「詩織ちゃん、一緒に帰ろう?」
智沙ちゃんがわたしの机に寄ってくる。
「智沙ちゃんは家が反対でしょ?」
「でも最近ここら辺不審者が出るって聞くから1人で帰るのは危ないよ?」
そんな話は初めて聞いた。
と言っても、他にたくさん友達のいる智沙ちゃんと、智沙ちゃん以外に友達のいないわたしとでは入ってくる情報に差があるのは当たり前だった。
そういえば、今朝方変な男の人に声をかけられたんだっけ?
あの時は偶々奈緒さんが助けてくれたけれど、今はそれも期待できない。
だったら智沙ちゃんと一緒に帰って、車で智沙ちゃんの家に送って行くのが正解なのかもしれない。
「うん、それじゃあいっしょにに帰ろっか」
そうしてわたしは智沙ちゃんと一緒に帰路についた。
そしてわたし達は人通りのない道で_____________誘拐された。




