第3話 不機嫌な女の子
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朝が来た。
俺たち4人は同じ控室で一夜を共にした。
これ、もし俺が女だったとしても同じ部屋で寝ることになってたのだろうか?
まあいい、そんな悲しいことは考えないようにしておこう。
俺はベッドから降りると、その場で体を伸ばした。
他の3人は既に起きている。
水道で顔を洗ったり、歯を磨いたりしている。
そういえば、昨日の夜はいろいろなことを話したし、いろいろなことが分かった。
例えば、リハルドが教えてくれたステータスのことだが…
装備の所に書いてある武器や防具をタッチすると、その武器防具の詳細が表示される仕組みになっているようだ。
【生命の剣】 Lv.1
【耐久度】 無限
勇者に伝わる剣。生命あるものを傷付けることはできない、生命保護を追求した剣。自らの生命を保護したりしてくれる。
次のLv.アップまで、素材残り1つ
こんな感じのことが表示される。
武器のレベルと耐久度。
後はその武器全体の特徴と、レベルアップに必要な条件。
この「素材残り1つ」とはどういう意味だろうか?
いや、意味は分かるが、素材とは何のことを言っているんだ?
他には、リハルドからこの世界のことを色々聞いた。
まずは通貨の話だ。
この世界の通貨は4種類で、銅貨、銀貨、金貨、宝貨の順で価値が上がっていく。
銅貨50枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨500枚で宝貨1枚だそうだ。
次に、職業についてなんかも聞いた。
勇者…というのはあくまで称号のようなものであり、職業ではないらしい。
つまり、俺たちは実質無職ということになる。
しかしまあこの勇者という称号は使い勝手が良いらしい。
ステータスを見せ、自分が勇者だということを示せば、ある程度はうまくいくと言っていた。
他の職業としては、戦士や弓使い、槍使い。
あとは魔法使いや魔導師、召喚士に竜騎士、商人。
その他いろいろだ。
「なぁ、昨日確認しちまったんだ~。」
「え?」
突然、アユムが話しかけてきた。
何を言っているんだと思いながらも、話を聞く。
「確認って…何を?」
「君が本当に男なのかをだよ~。」
「はぁ!?どうやって?」
「お風呂の時だね~…まあ立派なのが付いてたから男だって確認できましたよ~。」
このホモ野郎…。
なんで男の風呂覗いて一物の有無を確認してたんだよ…。
「だから言ってんだろ!俺は男だって!」
「ちょっと疑ってた…っていうか、女であってほしかったな~。」
余計な御世話だ。
俺は男なんだ、女じゃない。
「…皆様、起きてらっしゃいましたか。」
その時、リハルドが控室の扉をゆっくり開いた。
扉はギギギッと軋みを立て、音は部屋に響く。
「召集でございます。昨日と同じ王の間へ移動しましょう。」
「おっす。」
俺は一目散に、逃げるようにして部屋を出た。
アユムは苦笑いをしながら、俺に続けて部屋を出た。
マサルとマコトも、部屋を出る。
王の間には、レイアデン王の他にも、数名の男女がいた。
数名と言っては不親切か…仕方ない数えてやろう。
1,2,3…王以外にも7人の男女がいるぞ。
俺たち4人は昨日と同じように、壇上へ上がった。
壇上ではレイアデン王がこちらを見ながら佇んでいる。
「全員揃ったようじゃの。では、これより長旅をお主らにはしてもらうことになる。」
やっときたか。
この時を待ちわびていたのだ。
これで女だと馬鹿にされることのない身体を作り上げることができる。
今日から、女っぽい男をやめてやるぞ!!
「昨日も言った通り、四手に別れて行ってもらう。どこに行けばいいか…それは分からん。だが、お主らに魔導師を2人連れ、そ奴らに行く先々の詳細や、環境の説明を受け、共に戦ってもらうことになる。」
なるほど、それは良い案かもしれない。
いくら勇者と言えど、たぶん俺たちは戦闘未経験者。
それに、この世界のこともまだほとんど知らない。
魔導師に一緒に来てもらえば、非常に心強い。
「それでじゃの…こちら側で魔導師を用意させてもらった。皆の者、所定の勇者の後ろに着け。」
レイアデン王が、7人の男女に命令を下す。
すると、4人の元に、二人ずつ魔導師が付いた。
アユムの所には、赤い髪を後ろでお洒落な感じで束ねた踊り子のような女性と、黒いロングヘアの清楚な女性が付いた。
マサルの所には、スキンヘッドのゴツい男と、深く帽子をかぶった気分屋であろう男が付いた。
マコトの所には、超短髪(ギリギリ坊主じゃない)のマッチョと、背の高い女性が一人付いた。
しかし、俺の所に付いたのは、気の強そうな緑色の髪の女の子ただ一人。
可愛い顔をしているが、何やら不機嫌そうである。
「あ、あの、国王さん?」
「なんだね?」
「俺の所には一人しか付いてないんだけど…。」
「何を言っておる、いるじゃろ、壇上の下に。」
そう言いながら、レイアデン王は壇上の下を指差した。
俺は指差す方に目を動かす。
そこに立っていたのは、白髭の老人リハルドだった。
「あ、リハルドが仲間!?」
「よろしくお願いいたします。」
これは嬉しいかもしれない。
一応初対面ではないわけだし、話しやすいし…。
問題はもう一人の女の子だな…。
俺が目を合わせようとしても、そっぽを向いてしまう。
ほっぺを膨らませてる。絶対不機嫌だ。
「あ、あの…名前いい?」
「…ティアです。」
声は少し低い気もしたが、可愛いっちゃ可愛い。
ってかこの子、普通に可愛いな。
「よろしく。…なんでそんな不機嫌なの?」
「不機嫌なんかじゃないです…全然…。」
いや、世間一般にこういう状態のことを”不機嫌”というのだ。
まあ俺とこの子じゃ住んできた世界が違うだろうから、何を基準に世間一般というのかだが…これはあくまで感情論の問題だろう?
「ティア殿、ダメでございますよ、勇者様にそのような態度は…。」
「でも……。」
なんだなんだ…。
もしかしてこの子が不機嫌な理由は俺にあるのか!?
「さあ、皆の者。これから長旅に入るわけだが…4人の勇者たちは前にいた世界で戦闘経験なんかはあるかね?」
レイアデン王は皆を纏めるように声を上げる。
なんだこの王…何を聞いているんだ…。
あるわけないだろ。俺たちは高校生……あれ、待てよ?
俺は高校生で、マコトも自己紹介で高校生だって言ってたけど…。
他の二人はどうなんだ?聞いとけばよかった…。
「い、いちおう、弓道は7年やってます…。」
マコトが急に口を開いた。
弓道7年だと?それは戦闘経験ではないだろう…。
いや、でも彼の武器は弓矢だ。
「…俺は、剣術を習っていたことがある。」
マサルが静かに口を開いた。
まあこいつは確かにやってそうだな。
「ふむ…アユムは?」
「あはは~俺は運動とか好きじゃないからさ~…何もやってねェよ?」
「…スグルは?」
レイアデン王は俺に話を振ってきた。
俺は少し焦ったが、冷静になって返事をする。
「特に何も。」
俺は軽い嘘をついた。
本当は10年間テニスをやってる。
県大会で優勝くらいならしたことがあるが、この感じで「テニスをやってました!」なんて言っても、みんなきょとん…だろう。
たぶんこの世界に、テニスはない。
「そうか。…では先に、お主らの戦闘センスを見ておく必要があるのう……ベンズ。頼めるか?」
「お任せください!」
ベンズ…と呼ばれた男は、マサルに付いた魔導師のスキンヘッド男だ。
見た目がかなり怖いし、声も怖いな…。
ベンズは一歩前に出ると、俺たちの方へ向き直った。
「俺はベンズ!まず先にお前らのセンスを見るから、全員城下町の外の草原に来い!!」
そう言うと、ベンズは壇上の後ろの窓ガラスの方へ向き直った。
そして、次の瞬間にその窓に向かって走り出し、窓を叩き割って飛び降りたのだ。
「「「はぁ?」」」
俺とマコトとアユムは声を合わせて驚く。
なんでか知らんがマサルを含む他の人たちはしれっとしてる。
「ちょっ…大丈夫なの?」
「問題ないかの。あいつはこういう男だ。さ、お主らも早く草原に向かうといい。今後は召集をかけないだろうから、そのつもりでな。」
なんだかこんな感じで長旅が始まるのが、少し不安だ。
しかし、戦闘技術のセンスを見たところで、何になるというのだ?
第一、俺たちは勇者だろ?戦闘技術なんてあるに決まってるんじゃ…
「では、行きましょう。」
リハルドの声と共に、その場にいたレイアデン王を除く全員が動き出した…。
次々回あたりから旅が始まると思います