プロローグ
第34回校内男子女装大会。
俺の高校で年に一回行われる代表的な行事の一つである。
その名の通り、高校の男子たちが、あらゆる女装をし、その美しさを競う大会だ。
俺は、今年も決勝の舞台に立っていた。
「さぁ!去年のチャンピオン!2年3組早乙女 傑!今年もこの舞台に立っているぞォ!」
大会の実行委員長がマイクを持って張り切って叫んでいる。
それに応えるかのように、観客席からは歓声が鳴り響く。女子の声が目立つ。
俺の名前は早乙女傑。
去年に引き続き、今年もこの大会の決勝の舞台に立っている。
去年は確か票数が断トツで優勝だった。
小さいころからよく、「色が白い」だとか「目が大きい」だとか「手足が細い」とか言われてた。
俺は1年生の時(去年)に、クラスの委員長に大会にエントリーしろと勧誘されたんだ。
もちろん最初は断ったけど、各クラス一人出ないといけないらしい。
俺は渋々と女装をしたものだ。
茶色のショートヘアーのカツラを被り、女物のスカートとかを着込んだ。
細身の俺は、女性ものの服がピッタリなのだ。
去年優勝してから、女子に異様にモテるようになった。
告白だってされた。もちろん全員もれなく振ったが…。
俺の家は居酒屋を経営している。
暇な時は、そこで両親にただ働きをさせられるのだが、居酒屋にはエロ親父が多い。
俺は女と間違えられて尻を触られたり、若いDQNにナンパされたりした。
そんな時は、下半身を強調すると、相手が引いてくれる。
「端正な顔立ち!純白の肌!円らな二重!細腕細足!しかしこれでもテニス部!期待の星、早乙女傑には、いったい何票入る――!?」
ステージ上の電光掲示板に、票数が表示される仕組みだ。
しかしまあ、こんな掲示板に金を掛けないでほしいものだ…。
3カウントで、電光掲示板には票数が表示された。
912票。この学校の生徒数は960人だから、ほぼ全員だ。
またしても、俺は優勝してしまった―――――――。
「来たァァァ!優勝は…2年3組早乙女傑!奇跡の二連覇です!!」
実行委員長の叫びの直後、ステージ中に紙ふぶきが舞う。
そして、生徒会長が俺に花束を贈呈。実にやりづらい。
俺は生徒会長からマイクを渡され、ここで一言何か言わなきゃいけないようだ。
俺はマイクを軽く握り、目を輝かせてこちらを見る女子たちに溜息を吐く。
「えっと…去年も言ったと思うんですが…俺は普通に男だし、別に嬉しくもなんともない…です…。」
すると、そんな俺のコメントに対してヤジが飛ぶ。
「可愛い!」だの「照れんなって!」だの…。
半強制的な参加に、必然的な優勝。
これ見よがしに調子に乗ろうなんて、思ってない。
「そういうことなんで…もう帰っていいですか?」
「ちょっと待ちたまえ!恒例のあれがあるだろ、傑ちゃん!」
また来た。実行委員長は嘗め回すように俺を見て、そう言う。
恒例のあれとは、去年もやらされたから分かる。
この大会の優勝者は、記念写真として最後に可愛いポーズをしなければならないのだ。
これはもう、暗黙のルールというか…そんな感じである。
「じゃあ傑ちゃん!みんなの期待に応えてあげて!」
「……。」
やりたくない。
今すぐステージから飛び降りて逃げ出したい気分だった。
しかし、ここで逃げ出せば「男のくせに情けない」だの言われる。
こいつらは”女として”俺を持て囃してる癖に、そういう時だけ”男のくせに”と言い出す。
論外だ。やってられるか。
「やってられっか…。」
俺はマイクをステージに叩き付け、舞台裏から体育館を出た―――。
場内はざわめく。これには、さすがの実行委員長も唖然としている。
俺が出て行ったことで、他の生徒たちは裏切られた…と思ってるだろうな。
憮然とした表情を浮かべる生徒たちを想像するだけで、怒りが増す。
「俺は男なんだ…。女じゃねえ、男だ。」
俺はカツラを脱ぎ捨て、体育館脇の自販機の陰に座り込む。
すると、身体に異変が起きたことに気付く。
「ん?」
手足が煙のように消えていくのだ…。
一切状況が呑み込めない。俺はその場に立ち上がる。
「は?え?…なになに?」
その瞬間、俺は風と共にその場から消えてなくなった――――。
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