表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

第二章2

 第二章2 


 エルセイオンの剣を手にした僕とラルグはアーケードにある階段を下りて、地下街へと来ていた。

 

 地下街には戦士のような格好をした男や洗練されたデザインの服を着た騎士たちがいた。どこか物々しさを感じる。


 ただ、モンスターが出たという割りには地下街にいる人は多かった。


「迷宮にはどうやって行けば良いんだろうな」


 僕は地下街を歩きながら、ラルグに尋ねる。


「迷宮には入るには許可証が必要になるらしいぞ。それを発行しているのがギルドらしいが」


 ラルグの首からは母さんから借りたスマートフォンが下げられている。


「なら、まずはギルドに行かなきゃならないってことか」


 他にも面倒なことがありそうだ。


「そんなに不安な顔をするなよ。このスマートフォンがあれば場所だってすぐに分かるさ」


 ラルグがスマートフォンをタッチすると、地下街の地図が表示される。上手い具合に文明の利器が役に立っているようだ。


「それは母さんのスマートフォンなんだし壊すなよ」


「分かってるって」


 ラルグは軽い調子で言った。それから、歩くこと八分、地下街の中では一番、大きいと言われているギルドに辿り着く。


 大きな扉を開けると、その中の広間はホテルのロビーのようになっていた。しかも、そこにはすぐにでも戦えそうな格好をしている人たちがたくさんいる。


 特に大きな武器を手にしたラプタール族は迫力満点だ。もちろん、バファル族や普通の人間たちも負けてはいない。


 僕は現代のアメリカでは絶対にあり得ない広間の光景を目にして本物のギルドとはこういう場所かと圧倒された。


 それから、仕事の紙が貼り出されている大きな掲示板の前を通過する。


「迷宮に入る許可証を貰いたいんだけど?」


 僕はカウンターにいる受付の女性に話しかけた。


「許可証を発行するには審査があり、千五百ドルも頂きます」


 受付の女性は事務的な口調で言った。やっぱり許可証はタダで貰えるような代物ではなかったか。


「千五百ドルだって?そんなお金、持ってないよ」


 僕が持っているのは二百ドルだ。それでも遊園地なら余裕で入れる金額だぞ。


「その簡単な審査って言うのは何をするんだ?」


 ラルグが怪訝そうに尋ねた。


「迷宮にいる浅い階のモンスターを倒せるくらいの力はあるのか見ます。なので、ギルドに所属する戦士と戦って貰います」


 つまり実際に戦っているところを見て審査するというわけか。だとすればどんな戦士が相手をしてくれるのやら。


「それもまた厄介だね」


 そう言うと、僕は帰ろうと思った。だが、そんな僕の心に待ったをかける声が発せられる。


「何かお困りのようだね」


 いきなり背後から肩を叩かれた。振り返った先にいたのは柔和な顔をした人間の青年だった。


「ええ」


 僕はぎこちない笑みを浮かべた。


「僕の名前はセドリー・ラグトゥース。アカデミーでゲートの研究をしている学者だ」


 セドリーという青年は滑らかな口調で言った。すると、彼の横にいた栗色の髪の女の子も口を開く。


「私は助手のティア・クライスターです。こう見えても魔法学校を主席で卒業した魔法使いなんですよ」


 ティアという女の子は誇らしげに言った。


「はあ」


 僕は気の抜けたような声を発した。


 するとセドリーがこっち来てくれと手招きする。僕は人があまりいないところに来るとまたセドリーと話し始めた。


「もしかして、君の腰に下げられているのはエルセイオンの剣じゃないのか?」


 セドリーが目ざとく指摘する。


「そうですけど」


「どこで、それを手に入れたんだい。エルセイオンの剣は王立博物館から盗まれたと聞いていたんだけど」


 セドリーは囁くような声で尋ねてきた。まさか悪魔から貰ったとは言えまい。


「僕は拾っただけです。言っておきますけど盗んでなんていませんからね」


 僕は仕方なく嘘を吐いた。


「分かってる。剣が盗まれたのは十年以上も前のことだからね。当時、幼い子供だった君に何かができるとは思えない」


「ええ」


 そう受け取ってくれると助かるし、できるだけこの剣は布にくるんで持ち歩くことにしよう。


「ところで迷宮に入る許可証が貰えなくて困っているようだけど、良かったら千五百ドルは僕が支払ってあげようか?」


「良いんですか」


 思わぬ申し出だ。


「その代わり、今度、アカデミーでエルセイオンの剣について調べさせて欲しい。もちろん、王宮の人間には知られないようにこっそりとね」


 セドリーは悪戯っぽく笑った。


「博物館に戻そうとか思わないんですか?」


「そんなことをしたら、二度と調べられなくなるよ。博物館の連中はこういうことには頭が固いからね」


 セドリーは皮肉げに言うと言葉を続ける。


「それに僕が持っていても要らぬ疑いを持たれかねない。だから、今は君の手にあった方が良いんだ」


 セドリーは柔らかな口調で言った。


「そうですか」


 僕が納得したように言うと、セドリーは千五百ドルを僕に手渡す。それから、「君とはまた会えそうだ」と言って携帯電話の番号を僕に教えた。


 それから、親切にしてくれたセドリーとティアがいなくなると、僕はカウンターの受付の女性に再度、話しかける。


 すると受付の女性がカウンターを出て、僕についてきてくださいと言った。僕もその言葉に促される形で、女性の後ろを歩く。


 そして、広間の奥に通されると訓練場のような場所に辿り着いた。


 が、そこには屈強さを感じさせる体をした人間の男が立っていた。受付の女性はその男に何やら報告する。


「私はこのギルドの長を務めるヴィクター・オクレイドだ。君のような子供、しかも、エルセイオン人ではない者が迷宮に入るのをそう簡単に認めるわけにはいかない」


 ヴィクターという男は厳めしい声で言った。


「ではどうすれば?」


 僕は震えながら尋ねる。


「手合わせを願おう。もし、それなりの実力があることをこの私に対して示すことができれば許可証は発行する」


 こんな男と戦うのは正直、怖い。ただ、ここで力を示せないようなら、とても迷宮に潜ることはできないだろう。


「分かりました」


 僕はエルセイオンの剣の力を信じる。そして、ヴィクターも腰の鞘から剣をゆっくりと引き抜いた。


 僕とヴィクターの視線が絡み合う。


 その瞬間、僕はどうにでもなれと思い剣で斬りかかる。が、繰り出されたのは信じられない程、鮮やかな斬撃だった。


 ヴィクターはその一撃を動揺したように受け止める。


 すると僕は流れるような動きで、突きを放った。その突きをヴィクターは身を捌いてやり過ごす。


 だが、僕は続けざまに横なぎの一撃を放った。ヴィクターは大きな体格に似合わぬ素早い動きでそれを避ける。


 その一瞬の攻防に、受付の女性が目を瞬かせた。


 そして、今度はヴィクターが息も吐かせぬ反撃に打って出る。次々と力強い斬撃が僕に浴びせられた。


 が、僕はその斬撃を軽々と捌ききった。この卓越した剣技はやはりエルセイオンの剣によるものか。


 まるで自分の体とは思えないほどの動きが取れてしまう。ヴィクターも僕の戦いぶりには驚きを隠せないようだったし。


 僕はエルセイオンの剣の力に慣れようと、幾度なくヴィクターと剣を打ち合わせた。剣を振るうごとに、僕の太刀筋も研ぎ澄まされていく。


 そして、ヴィクターの顔に疲労の色が見え始めると、僕はヴィクターの斬撃を弾き飛ばし、続けざまに神速の一撃を放った。


 それは見事にヴィクターの剣をその手からもぎ取った。


 この結果にはヴィクターは驚愕とも言える顔をし、居合わせていた受付の女性も口に手を当てた。


「まさかこの私が任されるとは。素晴らしい剣技だった」


 ヴィクターは額に汗を滲ませながら感服したように言った。対する僕はまるで息が上がっていない。


 普段なら、グラウンドを一周するだけでへばっていたのに。


「はい」


 どう考えても僕の力ではない。これが神の力が宿った剣の効果というわけか。確かに素晴らしいものがある。


「約束通り、迷宮への許可証は発行する。それと君の力を見込んで頼みたいことがある」


 ヴィクターは拾い上げた剣を鞘に治めると実直な声で言った。


「何でしょうか?」


 僕は真剣な面持ちで尋ねる。


「もし、迷宮で獣王ガルムナートと出会したら、奴を倒して欲しい。君にはそれができるだけの力があると見た」


 ヴィクターは信頼の眼差しを向けてくる。


「分かりました。元々、僕はそのために来たんですから」


 僕はこれは何とかなるかもしれないと思いながら、その頼みを了承していた。


                ☆


 僕は地下街にあるシェルターの入り口のような頑強そうな扉の前に来ていた。この先に迷宮があるらしい。


 許可証を見せると、兵士のような男はレバーを動かして扉を開ける。聞くに迷宮への入り口はここだけではないという。


 だが、ここから入るのが一番、安全で迷宮に関する法律にも則っているらしい。


 僕は壁に光る石が嵌めこまれている通路を歩く。何が出て来てもおかしくはない。果たして、都合良くガルムナートを見つけられるだろうか。


 そんなことを考えていると、僕の前に棍棒を手にした鬼のような顔をしたモンスターたちが現れる。


 見た感じバファル族ではないし、その数は六匹もいた。


 これには僕も恐怖で震え出しそうになる。が、その心はすぐに並々ならぬ勇気へと変化していった。


「こいつはオーガだな。頭は悪いが力はあるぞ」


 ラルグがそう言うと、オーガたちは一斉に襲いかかってきた。


 僕はオーガたちの攻撃を巧みに避けるとエルセイオンの剣で切り伏せる。一匹のオーガが血飛沫を上げながら崩れ落ちた。


 確かにオーガは外見こそ怖いが、ヴィクターよりは遥に弱い相手だ。なので、僕は冷静かつ確実にオーガを屠っていく。


 一方、オーガたちは力に任せた攻撃してくるが僕には掠りもしない。決して運動を得意としていたわけではない僕が、ここまでの動きができるとは。


 しかも、普通なら震え上がってしまいそうなモンスターと楽しむようにして戦える。これはかなりの驚きだった。


 なので、僕は戦いの高揚感に浸りながら、剣を振るった。


 そして、六匹いたオーガを五匹まで仕留めたところで、僕は剣を振るうのを止める。すると最後のオーガは一目散に逃げていった。


 勝ち目のない戦いをするほどオーガも馬鹿ではなかったらしいし、僕も追いかけてまでモンスターを殺したいとは思わない。


「良くやったな。さすがエルセイオンの剣の力といったところか。ただ、おいらの見た感じだと、まだ剣の全ての力を引き出せた訳じゃなさそうだな」


 ラルグは洞察するように言った。


「うん。どうもエルセイオンの剣には意思があるようなんだ。だから、もっと強い敵と戦えればその力も引き出せるかもしれない」


 そう言うと、僕は迷宮を進んでいく。


 すると、今度はリザードマンが現れた。だが、やはり人間の言葉を喋れるような知能はなく、問答無用に襲いかかってきた。


 なので、僕はリザードマンを慌てる風でもなく打ち倒していく。一匹でも多くのモンスターを倒しておけば、他の人たちが襲われずに済む。


 そう思ったので、今度は全てのリザードマンの息の根を止めてしまった。


 とはいえ、モンスターと言えども、その命を奪ってしまうのはやはり抵抗がある。が、そんな甘いことを思っていてはこっちが殺されかねない。


 他にも、僕は廃墟となったエルセイオン王国にいたオオカミのようなモンスターにも襲われる。


 だが、今度は逃げることなく、立ち向かった。


 そして、僕が三つ目の階段を下りると、そこにはラプタール族の死体が幾つも転がっていた。


 その傍には武器も落ちているし、死体はどれも噛み千切られたような跡があった。


 どうやらモンスターに襲われたらしい。だけど、がっちりと武装した四人ものラプタール族を倒せるモンスターなんているのか。


「強い魔力を感じるな。しかも、凄い勢いでこっちに迫って来る」


 ラルグが鼻先をビリビリと震わせた。


「本当だ」


 エルセイオンの剣の力なのか僕も押し寄せてくる魔力を感じ取っていた。


「ああ。この魔力は相当な大物だぞ」


 ラルグそう言うと、通路の向こう側から大きな犬のようなモンスターが現れた。


 その体長は五メートル近くもあるし、口から覗かせている鋭い牙はどんな物でも食い千切れそうだ。


 肩や足にも逞しさを感じさせる筋肉が付いている。少なくとも、オーガやリザードマンとは迫力が違う。


「こいつは」


 僕は恐ろしいプレッシャーを感じていた。


「どうやらこいつが獣王ガルムナートで間違いないみたいだな。ギルドの掲示板に貼り出されていた絵の特徴とも合致するし」


 ギルドの掲示板にはガルムナートの絵が描かれていたのだ。今、僕の目の前にいるのはそれとそっくりのモンスターだった。


「とにかく、今までの敵とは比べものにならないからお前も気を引き締めて戦えよ」


 ラルグはそう忠告した。


「分かった」


 僕は緊張しながら頷くと剣を構えた。


 するとガルムナートは猛然と襲いかかって来て、人間の体など容易くバラバラにできそうな鋭い爪が振り下ろした。


 僕はその爪を軽やかに避けると剣で斬りかかる。だが、ガルムナートも俊敏な動きでそれを避けた。


 僕は裂帛の気合いでガルムナートの間合いに足を踏み入れると、再び斬りかかる。ガルムナートは体を斜めにしてそれを受け流すと、そのまま僕にかぶり付こうとする。


 僕は後ろへと跳躍してガルムナートの牙を避ける。


 だが、ガルムナートは僕を逃がすまいと、バネのように筋肉を撓らせて飛びかかってきた。


 僕は反射的に閃光の如き突きを放ったが、ガルムナートの爪によって弾かれる。剣を落とさなかったのは運が良かったと言えるだろう。


 エルセイオンの剣がなければ僕はただの普通の少年に戻ってしまうし、そうなったら命はない。


 僕は転がるようにして、ガルムナートの攻撃から逃れると、体勢を立て直す。そして、お返しとばかりに苛烈とも言える斬撃を浴びせた。


 その攻撃はガルムナートの肩を深々と切り裂く。だが、ガルムナートの猛攻は留まることを知らず立て続けに爪を振り下ろしてくる。


 その間、ガルムナートの傷も見る見る内に再生していった。


 それから、僕とガルムナートは一進一退の攻防を繰り広げた。どちらの集中力が切れるのが先か。


 いずれにせよ、隙を見せた瞬間、どちらかの命が絶たれることになる。なら、絶対に気は緩められない。


 僕は必死にガルムナートの動きに食らいつきながら剣を振るった。


 そして、さすがの僕も疲れが出始めた頃、ガルムナートは必殺とも言えるタイミングで鋭い爪を振り下ろした。


 この一撃はさすがにかわしきれない。


 僕はその攻撃を体に届く寸前のところで剣で受け止めたが、大きく跳ね飛ばされて横手にあった壁に叩きつけられた。


 その衝撃で、背中に激痛が走る。


 それを好機と見たのか、ガルムナートは僕の体を引き裂こうと、容赦なく爪を振り下ろそうとした。


 その瞬間、僕の体の中で何かが弾ける。


 僕は体から力が吸い取られるようなものを感じつつ、ガルムナートに向かって剣を振るった。


 すると剣から綺麗な弧を描いた光りの刃が飛び出す。それはガルムナートの体を真っ二つにした。


 この思いも寄らない攻撃には僕の方がぎょっとしてしまう。


 一方、ガルムナートは耳を劈くような声を上げて倒れる。そして、そのままピクリとも動かなくなった。


 この結果に僕も心の底から安堵する。それから、息を荒げながら立ち上がると、僕は光りの刃を放ったエルセイオン剣を見る。


 またもや、この剣の力に助けられた。しかも、エルセイオンの剣には治癒の力もあるのか背中の痛みもすぐに治まったし。


「決着はついたみたいだな」


 ラルグはほっとしたように言ったが、僕は見ているだけじゃなくて一緒に戦ってくれよと言いたくなった。


「全てはこの剣のおかげさ」


 僕は二つに分かれたガルムナートの体を見る。どう考えても致命傷だし、完全に勝負あった。


 と、思ったらガルムナートの目がギロッと動いた。


「やるな、人間」


 ガルムナートの口から笑いを含んだ声が発せられる。体を真っ二つにされても尚、その顔には覇気が漲っていた。


「えっ」


 僕はビクッとする。


「俺を倒すとは見事だったと言っているのだ」


 ガルムナートの声は実に満足げだった。


「喋れたのか」


 これには僕も呆気にとられていた。


「当たり前だ。俺は獣王ガルムナート。仮にも神の座についている者の一人だし、それくらいのことはできるに決まっている」


 ガルムナートは自負を滲ませるように言った。


「なら、どうして最初からそれをやらなかった。意思の疎通ができるのなら、戦わずに済んだかもしれないのに」


 僕は手に汗を掻きながら言った。


「単なる余興だ。俺は奴の口車に乗ったに過ぎない」


 奴って言うと、もしかしてイビルナートのことか。


「余興だと?」


 僕は半眼で尋ねる。


「ああ。俺はこの町を面白くするためにちょっとしたイベントを起こしていただけだ。町の連中を襲ったのも悪くない演出だっただろ?」


 本気で殺しに掛かってきたのも演出だって言うのか。


「そんなことのために人を襲っていたのか?」


 僕は憤然とした。どういう理由であれ、人の命を奪うなんて間違ってる。


「全ては奴の作ったまやかしだ。そのまやかしの中にいる人間がどうなろうと知ったことではないな。とにかく、俺はこの程度のことでは死なないし、せいぜいお前も奴の掌で踊らされないように気を付けることだ」


 ガルムナートが嘲るように笑うと、その体から光りの球が抜け出るようにして現れる。そして、光りの球は神々しい獣の姿に変化した。


 もしかして、これがガルムナートの真の姿か?


 だが、その獣の姿はすぐに背景に溶け込むようにして消えてしまう。残ったのは抜け殻のように横たわっている大きな化け物の死体だけだった。


               ☆


 僕はとりあえずギルドに戻ってきていた。それから、受付の女性にガルムナートを倒したことを報告する。

 

 すっかりスマートフォンの扱いに慣れてしまったラルグに言われた通り、ちゃんとガルムナートの死体は写真で撮っておいた。


 それを見せると、受付の女性は僕にしばらく待ってくださいと言った。なので、僕が待っていると札束を手にしたスーツ姿の男性が現れる。


 男性は僕の前に来ると百ドル札の札束を三つ渡した。つまり三万ドルも僕にくれたと言うことだ。


 僕がその大金に目を回していると、受付の女性は良かったらギルドの酒場にも行ってくださいと言う。


 僕もあまり気乗りしなかったが、一度くらいはと思いギルドの酒場に足を運ぶ。するとそこにはたくさんの冒険者たちがいて、楽しそうに話をしていた。


 僕は席に座ると受け取った三万ドルものお金の使い道を考える。


 が、すぐには思いつかなかったので、とりあえず酒場にいたウェイトレスにリンゴジュースを注文した。


「早くもガルムナートを倒してしまうとは。さすが私を打ち負かした者だけのことはあるな」


 そう背後から声をかけてきたのは許可証を発行してくれたヴィクターだった。これには僕もリンゴジュースを吹き出しそうになる。


「ヴィクターさん」


 僕は何も悪いことをしていないのにギクッとした。


「これで奴に殺された者たちの無念も晴らせたし、ギルドの長として今回のことには礼を言っておく」


 僕は不意にガルムナートの全てはまやかしだという言葉を思い出していた。


「お礼なんて」


 僕は小恥ずかしくなった。


「ただ、迷宮にいるモンスターたちは年々、凶悪になっている。これも迷宮の最下層にあるゲートの封印が弱まっているからだろう」


 封印を強めることはできないのかな。


「そのゲートは魔界に通じているんですよね?」


 ラルグも迷宮はエルセイオン王国がまだ存在しない時代にいた古代人が作ったと言っていた。


 そして、古代人はどういう理由かは分からないが魔界の住人の力を借りようとしたらしい。


 故に、古代人はそう簡単には人が立ち入ることができない迷宮の最下層でゲートを開いたという。


 今となっては真実かどうか定かではないが、魔界がどんなところなのかは僕としても興味があった。


「ああ。だから、もしこれ以上、ゲートの封印が弱まるようなら魔王デモス・ナーダ自身が現れかねない」


 もし、デモス・ナーダが現れたらどうなるのかな。


「そうですか」


 ぞっとしない話だ。


「まあ、それはもう少し先の話しになりそうだし、今の君が気を揉む必要はない。とにかく、君にはまた今回のような活躍をして貰いたいものだな」


 そんな過度の期待を寄せられても困る。


「はい」


 僕がそう返事をするとヴィクターは身を翻して去って行った。


 一方、僕もお腹が減っていたので、ギルドの酒場で分厚いステーキを食べる。ステーキは少し固かったが、それでも美味しく感じられた。


 そして、僕がステーキを食べ終え、残りのフライドポテトをラルグと一緒に頬張っているとエリシアから電話が掛かってきた。


「ガルムナートを倒したそうね、リィオ。ネットの掲示板じゃ、そのことで祭りになっているわよ」


 エリシアの声は溌剌としていた。もう、そのことを知っているなんて、ネットの住人も耳が早いな。


「うん」


 もし、エリシアが迷宮に行っていたら、かなり危険なことになっていたかもしれない。


 エリシアだって女の子には違いなんだし、あのガルムナートを見たら平静ではいられなかっただろう。


「やるじゃないの。ま、それだけエルセイオンの剣が凄かったのかもしれないけど」


 こんな剣を僕に与えたイビルナートの真意はどこにあるのだろう。


「そうだよ。この剣がなかったら、とても勝てるような相手じゃなかった」


 この先もこの剣の力には頼ることになりそうだ。

 

「そっか。それと王宮の錬金術師がモンスター避けのアミュレットを作ったんだけど、それを盗賊に奪われたという噂がネットで立っているのよね」


「本当に?」


 僕は不吉なものを感じた。


「ええ。とにかく、そのアミュレットを悪用されたらまずいと思うのよ。迷宮の最下層には魔界へと繋がるゲートもあるって言うし」


 それを聞き、僕もひょっとしたらアミュレットが盗まれたことで迷宮にある魔界のゲートがどうにかされるかもしれないと危惧する。


「なら、僕の方でもアミュレットを取り戻せないか考えてみるよ」


 今回の一件で自信も付いたからな。


「そうしてちょうだい」


 エリシアの言葉を聞き、僕は更なる戦いの予感を感じていた。




               第三章に続く。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ