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第一章

 第一章


 僕は自室のベッドで目を覚ました。朝の光は眩しくて、僕も上半身を起こすと清々しい気持ちになる。


 今日は日曜日だし、何をして過ごそうかな。やっぱりテストも終わったことだし、積んであるゲームはクリアしてしまわないと。


 そう思った僕は、すぐに背筋が寒くなる。


 昨日は異世界に行ってしまったんだよな。しかも、モンスターにも襲われて命の危険に晒されたし、あれには身も凍るような思いだ。


 その上、ドラゴンまで現れた。


 もしかしたら、人類を裏から管理している奴らはエリシアの妄想などではなく本当にいるのかもしれない。


 だとしたら、これから何が起こるのか想像するだけで怖いな。


「あれ、ラルグはどこに行ったんだろう?」


 昨日はラルグも部屋で大人しくしていた。


 とはいえ、コンビニのパンは十個も食べたし、この世界のことを知るために本なんかも読み漁った。


 小さなドラゴンが本を読んでいる姿なんて、絵本のイラストみたいだ。


 いずれにせよ、ラルグのおかげで僕も現実逃避をすることはなかった。なのに、今はそのラルグがいない。


 僕は自室を出るとダイニングルームへと行った。


 するとそこには小さなドラゴンのラルグがいて、テーブルの上でコーヒーカップに口を付けている。


 しかも、背中の羽は消えていなかった。


「よっ、リィオ。ようやく起きたか」


 ラルグがコーヒーカップを持ち上げながら言った。その軽い口調に僕は怒りが込み上げてくる。


「何でお前がここにいるんだよ!部屋から出るなってあれほど言い聞かせておいたのに」


 僕は慌ててラルグの元に歩み寄った。


「パンの焼ける良い匂いがしたから、それに誘われるようについキッチンの方に行っちまったんだよ。悪かったな」


 この食いしん坊が。


「だけど、家族にお前を見られるのはまずいって」


 妹のリーナはリビングのソファーでテレビを見ている。僕がその背中を冷や冷やしながら見ていると、リーナが急に振り向いた。


「お兄ちゃんったら、家でドラゴンを飼い始めたんだね。でも、ドラゴンを飼うには許可が必要になるんだよ」


 妹のリーナが思いも寄らないことを言った。


「えっ?」


 僕は意味が分からないといった顔をする。リーナの表情にはドラゴンに対する驚きは少しもなかったし。


「だから許可だって。役所に届け出をしないとドラゴンは飼えないんだよ」


 リーナは何の冗談か真顔でそんなことを言った。


「その前にドラゴンがこの世界にいること自体がおかしいだろ。どうして、お前はそんなに平気な顔をしていられるんだよ?」


 僕はそう勢い込んで言った。


「落ち着きなよ、お兄ちゃん。北欧の方にはまだドラゴンがいっぱいいることは私だって知ってるんだから」


「いや、北欧にだっていないだろ。ドラゴンなんてファンタジーの世界の生き物だし」


 リーナはこの暑さで頭がおかしくなってしまったのか。


 ドラゴンがこの世界にいないことは、中学二年生にもなるリーナなら分かりそうなものなのに。


「そんなことないよ。ドラゴンは一時期、絶滅しそうだったんだけど、また増え始めたってテレビのニュースでやってたもん」


「どこのニュースだよ、それは?」


 そんなニュース、僕は見たことがないぞ。するとキッチンの方から、エプロン姿の母さんが現れる。


「リーナの言う通りよ。ドラゴンがいるくらいで、なに興奮しているのよ」


 決して悪ふざけなどしない母さんまでそんなことを言い出した。


「母さんまで」


 僕は頭がこんがらがりそうだった。


「とにかく、さっさと朝ご飯を食べちゃいなさい。じゃないと、ラルグちゃんに全部食べられちゃうわよ」


 そう言って、母さんは僕の前に水気のあるサラダを置いた。それから、キッチンの方に戻ってしまう。


 いくら何でも「ラルグちゃん」はないだろう。


「どういうことなの、ラルグ?」


 僕は用意されていたパンに齧り付きながら尋ねた。


「分からん。おいらの世界でも喋るドラゴンなんていたら、相当、驚かれるはずなんだけどな」


 ラルグは首を傾げた。


「何か催眠術でも使ったの?」


 でなければドラゴンの存在がここまで自然に受け入れられているはずがない。ひょっとして、これは夢なのか。


 だとしたら、さっさと覚めて欲しい。

 

「おいらにそんな便利な力はない」


 ラルグはきっぱりと言った。


「そうだよね」


「それと気になったんだけど、この世界からおいらのいた世界にしかない魔力を感じるんだよ」


 ラルグは目の焦点を僕に合わせずに言った。


「というと?」


「昨日の夜まではそんな魔力は少しも感じなかった。だから、ここはおいらがいた世界とは別の世界だと確信が持てたんだ」


 ラルグはジャムの塗られたパンを齧ると言葉を続ける。


「でも、朝起きたら、急にあちらこちらから魔力を感じるようになった」


 昨日の夜から朝にかけて何かが劇的に変化したと言うことか。


 だとすると、リーナや母さんが普通にドラゴンを受け入れていることと何か関係があるかもしれない。


「なら、どうすれば良いんだ?」


「とりあえず魔力が強く感じられる場所に行ってみよう。おいらも馬鹿じゃないし、何かこの世界にとって噛み合わないことが起きているのは分かってる」


 そう言うとラルグはグイッとコーヒーを飲み干した。


               ☆


 朝食を食べた僕はラルグと一緒に家の外に出た。


 聞くにラルグは魔力を感じ取ることに長けているので、どこに異世界の魔力があるのか正確に分かるという。


 なので、僕は炎天下の中を徒歩で歩き始めた。すると「アンチョビ」という小料理屋のあった場所に辿り着く。


 だが、そこにはあるはずの小料理屋がなくなっていた。


 代わりに洒落っ気のある喫茶店のような店があって、その前ではピンクの髪をした女の子が箒を手にしていた。


 いつの間にアンチョビは潰れてしまったのだろうか。


 だけど、昨日、学校からの帰り道にアンチョビの前を通った時はまだやっている感じだったのに。


「ここだよ。この店から魔力が漂ってくるんだ」


 ラルグは鼻をヒクヒクさせた。


「確かに昨日までここにこんな店はなかった。一夜にして店が変わるなんて、ちょっと信じられないね」


 そう言うと、僕は店の前の掃除をしている女の子に話しかけようとする。すると向こうから声をかけてきた。


「どうかしましたか?」


 女の子は美しい声でそう尋ねた。


「この店はいつからここにあったの?」


 僕はガラスの向こう側にある店内を見る。どう見ても僕の知っている小料理屋ではなかった。


「十年以上前からです。私が小さい頃にはもうありましたから」


 女の子の言葉に僕は絶句しそうになった。


「そんな」


 僕の知っている限りでは、こんな店は町のどこを探したってありはしなかった。この女の子が嘘を吐いているという可能性もあったが、その理由が分からない。


「私、何かおかしいことを言いましたか?」


 女の子は首を傾ける。これが演技だとしたら、アカデミー賞ものだ。


「いや。それとその耳は何なの?」


 まるでテレビゲームに出て来るエルフみたいだ。しかも、不思議なほど似合っている。


「これはレオノーラ族の耳ですよ。ひょっとして、あなたは異人種を差別するつもりですか?」


 女の子の顔が険しくなった。


「そんなつもりはないけど、何かのコスプレとか思ったから」


 レオノーラ族なんて聞いたこともないよ。


「だとすれば酷い話です。でも、ウチの店に興味がおありなら、寄っていきませんか。紅茶の一杯なら、タダでご馳走しますよ」


「良いの?」


 中に入ってみれば分かることもあるかもしれない。


「はい、十年以上も前からあるウチの店を知らなかったなんてちょっとショックですし、これを期に憶えて貰わないと」


 女の子の言葉に促される形で、僕は店の中に入った。


 やっぱり、そこは小汚さを感じさせる小料理屋ではなく、落ち着いた雰囲気が漂っている喫茶店だった。


 そして、箒を持っていた女の子はこの店の看板娘であるエルメラという女の子らしい。店の名前もラフィールだそうだ。


 ラフィールとは伝説の妖精の名前で、世界のどこかにいるという。


 僕はその設定とでも言うべきものに愕然とした。ドラゴンだけではなく妖精まで出て来るというわけか。


 悪い夢を見ているとしか思えない。


               ☆


 僕は喫茶店ラフィールを出ると、その場に棒立ちする。


 エルメラの言葉を思い出しながら、僕の回りで起きていることを整理しようと思ったのだ。


 だが、頭の悪い僕ではますます混乱するばかりだ。せめてこの場にエリシアがいれば納得できるような答えを与えてくれると思うんだけど。


「これってどういうことなのかな?」


 僕は今までに飲んだことがないような紅茶の味を反芻しつつ、ラルグに尋ねた。


「さっぱり分からん。でも、おいらはレオノーラ族のことなら知ってるぞ」


 ラルグは得意そうな声で言った。


「本当なの?」


 僕は食らいつくような反応を示した。


「ああ。エルセイオン王国には人間の他にも色々な種族がいたんだ」


 ラルグは難しい顔をすると、異種族たちについて説明を始める。その話を聞くに、エルセイオン王国には四つの人間と似て非なる種族がいたという。


 見るからに獣人のようなバファル族。


 爬虫類の顔と屈強な体を持つラプタール族。


 体長が五十センチくらいのネズミで人間よりも賢いオリット族。


 そして、美しい容姿と尖った耳を持つレオノーラ族がいたとラルグは教えてくれた。


「へー」


 それが事実なら、本当にファンタジーの世界だな。


「そいつらがエルセイオン王国で人間と共に暮らしてた。ただ、アシュランティア帝国は異種族を嫌っていたからな。だから、エルセイオン王国にいた異種族は全て滅ぼしてしまったらしい」


 それは酷いことをするな。


「そっか」


「とにかく、エルセイオン王国は光りの国と呼ばれるに相応しいところだったんだよ。今、教えた種族たちが何の問題もなく暮らしていたわけだし」


 僕もそんな国なら見てみたかったな。


「でも、何で異種族たちがこの町に現れたんだろう?」


 どう考えても異常なことだ。


「それは分からん。ただ、他にもおいらの世界の魔力を感じる場所があるから行ってみよう。そうすれば見えてくるものもあるはずだ」


 その言葉を信じた僕は、熱い日差しの下を歩き始める。


 そして、ラルグの感覚を頼りに歩いて行くと、市立図書館の近くにあるこの町のアーケード街に辿り着いた。


 だが、そこには目を疑うような光景があった。


 いつもなら活気がなくシヤッター街とも言われていたアーケードの中にはたくさんの人が歩いていたからだ。


 更に驚くべきことにそこには獣のような顔をした人間や爬虫類のような顔をした人間がいたのだ。


 他にも独特の文化を感じさせる露出度の高い異国の服を着た人間もいる。


 アーケードの中にあった店も見たこともないようなものに変わっていたし、道幅もかなり広くなっていた。


 この変貌ぶりは何だ?


「こんな馬鹿なことって」


 僕はお祭りのような賑やかさがあるアーケードの中を見てびっくりした。カウンターが通りに面している店もたくさんあるし、屋台や露天商もいる。


 何というか中東あたりの国を彷彿とさせるな。とにかく、アーケード街は人でごった返していた。


「この活気はエルセイオン王国の繁華街に通じる物があるな」


 ラルグは見たこともない料理を提供している屋台を見て目を煌めかせた。


「ここにいる人たちはどこからかワープしてきたのかな?」


 少なくとも僕が三日前に自転車でアーケードの中を通った時はこんな状態にはなっていなかった。


「だとすれば、この世界の人間はもっと大騒ぎをしているんじゃないのか?」


「そうだよね。いずれにせよ、あの寂れたアーケードの中がここまで様変わりするなんてあり得ないよ」


 僕はだんだん世界そのものが変化していることに気が付いてきた。


「喫茶店のことも踏まえると、一夜にして変わったと言うことだな。何か神懸かり的な力が働いたのかもしれない」


「うん」


 神の力なら、何が起きても不思議ではない。


「あ、コーヒーショップが残ってるよ」


 何というかかなり不自然な形で、見覚えのあるコーヒーショップが残っていた。僕の家もいつもここでコーヒーの豆を買うんだよな。


「やあ、リィオ君」


 店の中に入ると店主のレイモンドさんが声をかけてきた。


「どうなっているんですか、このアーケード街は?」


 僕は道を往来する逞しい体をしたラプタール族を指さしながら言った。


「どうって言われてもいつもと同じだけど」


 レイモンドさんの言葉に僕はドラゴンの存在を自然に受け入れてしまっている母さんと妹のことを思い出した。


「この様子がいつもと同じだって言うんですか?」


 僕は強い口調で言った。


「ああ。でも、最近になって異種族の観光客が多くなってきたかな。このヴァークレフ・シティーもそれだけ注目されていると言うことだ」


「異種族なんて今までいなかったでしょ?」


 あんな連中が歩いているなんて絶対におかしいって。


「ちゃんといたよ。ただ、彼らはヨーロッパやアフリカに多く住んでいるから、なかなかアメリカでは見られなかったんだけど、それもここ十年ほどで変わってきたみたいだ」


 ヨーロッパやアフリカにはいるのか。だとしたら、世界中がおかしくなっているということか。


「そうですか」


 僕は肩を落とした。


「今日は暑いから冷たいアイスコーヒーでも飲んで行きなよ、リィオ君。もちろん、お金は取らないから」


 僕はレイモンドさんの出したアイスコーヒーを飲む。たちまち喉の渇きが潤っていくのを感じたし、混乱していた頭も冷静になっていく。


 そして、コーヒーショップを出ると、僕はアーケードの中を歩き始めた。チカチカするような光を放っていたゲームセンターとか本当になくなっている。


 代わりに異種族のたまり場になっている酒場とかができてるし。


 それから、しばらく歩くと見たこともないような階段がアーケードの中の横手にあったので、そこを降りていった。


 だが、階段の先にあったものに僕はまたしても愕然とさせられる。何とそこには薄汚さを感じさせる地下街が広がっていたのだ。


 地下街は異国の服を着た人と異種族で賑わっている。こうなると完全に現代の町としての雰囲気は残していない。


 どっかの国みたいに世界遺産にでも登録されそうな場所だ。まったく、こんな地下街があるなんて、仰天ものだよ。


 僕は天井に光る石が取り付けられた道を歩いて行く。道にはスラム街のようにたくさんの人たちが屯していた。


 彼らの僕を見る目はどこかギラギラしている。どう見ても治安は悪そうだ。


「ちょっと待て、何か引き寄せられるような力を感じる」


 ラルグが鼻の先を動かした。


「まだ何かあるの?」


 もう何が出て来ても驚きはしない。


「誰かがおいらたちを呼んでいるような気がするんだ」


 ラルグのその言葉に流されるように僕たちは地下街を歩いて行った。すると一件の古びた店に辿り着く。


 ラルグが店の扉を指さしたので僕は恐る恐る店の中に入った。すると中はオカルトの匂いがプンプンと漂ってくるような店だった。


 怪しげな品々が壁に飾られているし、中には山羊の頭もあった。そして、店の奥には水晶玉の前に座っている女性がいた。


 僕は妙齢のジプシーのような女性の前に立つ。すると女性は薄い笑みを浮かべた。


「私はルーシー・ヘンドリクセン。アドナイの目に所属するものだ」


 ルーシーという女性はハスキーな声で言った。


「アドナイの目だって?」


 その言葉に僕はぎょっとした。


「お前は我が主の力によって、この場所へと導かれたのだ」


 ラルグの感じた力はそれか。


「我が主って?」


「主の名前をみだりに唱えてはならないという言葉を知らないのか。とにかく、お前はこの町がおかしくなっている原因を知りたいのだろう?」


 ルーシーの言葉に僕は鳥肌が立つ。


「あなたはこの町のおかしさに気付いているんですか?」


 僕は勢いよく尋ねていた。


「ああ。この町がおかしくなったのは天より投げ落とされた世の支配者のせいだ」


「えっ?」


 世の支配者って言われても。


「簡単に言えば、この世界を裏から支配しているものが、この町をおかしくしたのだ。その者は我が主と敵対する関係にある」


 そう聞かされても、すぐには意味を掴めなかった。


「でも、僕はアドナイの目がこの世界を裏から管理していると聞いているんだけど」


 少なくともエリシアはそう信じていた。


「管理というのは少し語弊があるな。かつては我が主もこの世界の支配者として君臨していた。アドナイの目もその頃に作られた組織なのだ」


 ルーシーは平静な声で言葉を続ける。


「ただ、アドナイの目が現在、行っているのは管理ではなく監視に留められている」


「監視か」


 世の動向に手は出さないと言うことだな。


「そうだ。故に今回の一件については我々も関与していない。そして、世界中にいるアドナイの目に所属する者たちは、この世で起こるあらゆる不思議を認識できる」


「今回のようなことも?」


 やっぱり、異常だと認識している人たちもいるってわけか。


「そうだ。このままだとヴァークレフ・シティーはこの世界にあらざる町に変わり果ててしまうだろう」


 ルーシーは異世界があることまで知っているのか。


「止める方法はないの?」


「ない。世の滅びが近づいているのを知り、その支配者である蛇の悪魔が怒りを抱いて動いている。だが、我が主は審判の日が来るまで腰を上げることはできぬ」


 我が主というのは全知全能の神のことだろうか。


「じゃあ・・・」


 僕の言葉を遮るようにルーシーは言葉を紡ぐ。


「それでも、どうにかしたいのならお前自身が動くしかないな。ただし、相談の範囲であればいつでも私の元に来てくれて構わない」


 ルーシーは頼もしく言った。


「分かりました」


「実感が沸かぬかもしれないが世界の終わりは本当に近い。果たして、お前は生きて審判の日を通過することができるかな」


 ルーシーの言葉に悪寒を感じながら僕は店を後にした。


               ☆


 家に帰ると母さんが、僕あてに何かが届いていると言った。なので、それを置いてあるという自室に入る。


 するとそこには布に包まれた長い棒のような物があった。なので、僕は布を剥いでいくと、一振りの剣が現れた。


 その白を基調とした神秘的な装飾が施されている剣を手にして、僕はまじまじと剣を眺める。


 どう見ても僕の所持品じゃないし、誰がこんなものを送りつけてきたのだろうか。


「これはエルセイオンの剣だ。エルセイオン王国にあった王立博物館で見たことがある」


 そう甲高い声を上げたのはラルグだった。


「何でそんな剣が僕の元に」


 僕はエルセイオンの剣の美しさに魅入られるように言った。


「何か手紙も入っているぞ」


 ラルグが白い手紙を手にした。僕はラルグと一緒にその手紙をしげしげと眺める。すると驚きの事実が記されていた。


『我が名は悪魔イビルナート。この町を変えた張本人だ』


 イビルナートって言うと、ネットで怪しげなサイトを開いていた奴だ。僕が異世界に行った原因を作った張本人でもある。


『これから先、この町はどんどん変わっていくことだろう。そして、いずれはエルセイオン王国の王都へと変貌することになる』


 冗談だろ。


『それを止めたければお前は自らの意思で動くしかない。そして、その剣は町を元に戻すのに必ず役に立つだろう』


 おかしくしている張本人が、元に戻そうとする動きを助けようとするなんて、ちょっと変じゃないのか?


『ここではっきりと言っておくが、二つの主に仕えることはできない』


 それってキリストの言葉じゃなかったっけ?


『お前が世の支配者と言われるこの私に付くのか、それとも今ある世を滅ぼして、新しい世を作ろうとしている神の側に回るのか』


 僕はゴクリと息を呑む。


『それをこの私も楽しみに現物させて貰おう』


 高見から見下ろすような言葉だ、さすが世の支配者だけのことはある。


『ちなみに学校の空き部室にあった魔方陣は確かに私の著書に記されていたものだ。どうも、それをある人物が描いてしまったらしいな』


 となると、イビルナートが描いたわけではないと言うことか。


『もう分かっていると思うが、あの魔方陣は異世界へと繋がるゲートの役目を果たしている』


 それは分かっている。


『この私が教えた呪文は魔方陣にゲートとしての力を取り戻させるものだ』


 ゲートはすぐにその力を失ってしまうようだからな。


『ついでにゲートには翻訳の魔法も組み込まれているから言葉も通じるようになるし、他にも様々な影響を与える力がある』


 だから、異世界に行った時、すぐにラルグと話せるようになったのか。


『そこら辺は、ちゃんとあの本に買いあるからよく理解しておくんだな』


 その言葉を最後にイビルナートの手紙は終わった。やっぱり町がおかしくなったのはイビルナートのせいか。


 だけど、イビルナートは何でこの町をエルセイオン王国の王都にしようなんて思ったんだろう。


 他にも僕の知らない事情がありそうだ。


 僕はエルセイオンの剣を見て、一体、どうすればこの町を元に戻すことができるのだろうかと考え込んだ。




               第二章に続く。



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