第四十七話
「若君っ、若君!」
弦之介たちが朝餉をとっていたとき、黒田が大あわてで駆け込んできた。
「どうした黒田、そんなにあわてて」
「おお、若君。大変なことになりましたぞ!お、落ちついて聞いてくだされっ」
「はは。落ちつかなければならぬのは、おぬしの方だろう?」
黒田は咳き込みながらも、一語一語ゆっくりと言った。
「殿が、お亡くなりになられました」
室内に漂った一瞬の沈黙。
黒田は弦之介の顔を見た。
はっ、と息をのむ。
弦之介の顔には表情というものがまるでなかった。悲しみの色さえも、そこにはない。
「そうか」
しばらくして、彼は言った。
黒田は何を言ってよいべきか迷った。一つだけ分かるのは、慰めの言葉など無意味だということだ。それ程までに、弦之介の声は悲痛に満ちていた。
しかし、声とは裏腹に顔は笑っている。
それが黒田をさらに戸惑わせた。
「それは変ですね」
響四郎は思案しながら言った。
「殿の病のもとは気です。精神を病んでおられたのです。いくら身体が衰弱なさっていたにせよ、こうも突然にお亡くなりになったりはいたしません」
「では、何者かが兄上を殺めたと言うのか?」
「おそらく」
響四郎の言葉に黒田は蒼くなった。
「なんとおそろしい・・・」
弦之介は立ち上がった。
「行こう。城へ―――」