第四話
「あっ」
「だ、誰だ?!」
「す、す、すみませんっ!手が滑って・・・」
小単は赫鉄手に軽々と持ち上げられてしまった。襟首を掴まえれ顔を真っ赤にしながらごめんなさいを連発する。
「小単何してるのっ。早くやっつけなさいよ!」
「片輪モンが!死にてえのかっ」
首が絞まる苦しさに懸命に足をばたつかせていると幸運にも、膝が赫鉄手の股間を直撃した。
呻いて倒れる彼を「大丈夫ですかい親分」と言いながら子分らが取り囲む。
周りで失笑がおこった。盥の水をかぶった時点で野次馬達は笑いを噛みしめていたのだが、これには耐えられずとうとう笑い出してしまったのだ。
頭に来た赫鉄手はまだ側に転がっている小単の腹を力一杯蹴り上げた。
ぐっ、と唸ったきりのびてしまった彼に刀を突き立てようとしたとき「役人だ役人だ」と騒ぐ声が聞こえたので赫一派は足早に逃げ去って行った。
後には民衆の笑い声が響いていた。
「ふん、いい気味だわ」
役人だと言って騒いだのは他ならぬ聖花だ。
この騒ぎに集まってきた人々も散り始めている。その中にあの禿頭の男がいた。
聖花は小単の腹に薬をつけ包帯を巻いてやった。
「これでいいわ」
「すみません・・・」
小単の言葉に彼女は笑った。
「あなたはいつもあやまてばかりね」
そう言われて小単は赤くなり下を向く。
「ほんとに、あなたに武芸の一つでもできたらよかったのに」
そうは言うものの聖花は彼の優しいところが好きなのだ。武芸などできなくともいいのだと思う。
「謝謝小単。私、本当は怖かったから」
「そんな・・・聖花さん、僕・・・」
小単は一層顔を赤くした。