第十四話
「ねえ聞いてるの?ねえったらっ」
「小うるさい娘だ。少しは黙ったらどうだ」
「あなたがここに小単が居ると言うから付いてきたのよ。嘘だったら許さないんだからっ」
黒田権蔵は聖花の方をちらりと見やり溜息をついた。
「儂とて若君を捜し出すのに必死なのだ。嘘など言うものか」
「じゃあこの土地に小単は居るのね」
聖花はほっと安堵の吐息をもらした。
「居なさるかどうかは置いといて小娘、若君のことを小単と呼ぶのはあまりにも畏れ多いことだぞ」
「小単は小単だわ。あの人を他の名で呼ぶ気なんてさらさらない」
黒田はもう一度溜息をつき歩き出した。
早く野宿する場所を探さねば日が暮れてしまう。
宿場町を過ぎた山の中では泊まる宿などない。しかもここら一帯は狼が頻繁に出没するという。
―――――若君、あなた様はいったい何処に行かれてしまったのです。
彼は暮れゆく太陽を見つめ嘆いた。
史義久との決闘後行方をくらました弦之介は仲間内では死んだものと思われていた。
黒田は弦之介が赤ん坊の頃から一緒にいる。彼に剣や鎖鎌の技を教えたのも黒田だ。
弦之介の強きも弱きも知っている。いわば父親の様なものだ。
男を賭けた私闘だ、これで死んでも悔いはない。そう言って共をしようとする黒田を置いて出ていった弦之介を、彼は尾けた。
主君であり我が子のような少年を疑うなどとんでもないことだが、行かずにはいられなかった。
そして見たのだ。
一閃のもとに弦之介の右腕が千切れ飛び血だまりの中に伏すのを。
史は止めを刺さなかった。他に意図があったのか、出血多量で死ぬものと思ったのか。
どちらにしろ弦之介を助けねばならない。