第十二話
梁一派の拠点となる建物は意外なことに民間の家々の近くに存在していた。
そしてさらに驚いたことに人々は梁の姿を見ると恭しく礼をするのだ。梁も笑顔で応える。
弦之介は不思議な思いでこの光景を見ていた。
民家を過ぎると広大な草原が姿を現した。
青空の下若草の色は目が痛むほど映えていた。
果てしなく広がる草海原は弦之介の心を不安にさせた。そして日本という国の小ささを思い知らされた。
我知らず右袖を握りしめている彼を梁は優しげに見つめた。
「天は誰のものだと思う?」
唐突な質問に弦之介は困惑した。
梁の心の内が計り知れなかった。
「皇帝のものではないのですか」
「本当にそう思うかい」
梁の眼に見つめられ彼は下を向いた。
「天は誰のものでもない。もちろん皇帝のものでも。それと同時に世界の中心なんてありはしないのだよ小単。この蒼天は民のものなのだ」
「あなたは今誰のものでもない、と・・・」
「統べるものなどないということだ。私達のものであり私達のものではない、天の下ではすべてものは平等なのだ」
「すべてのものは平等・・・」
弦之介は梁の背中を見た。
なんと広いのだろう。
「たしかに天の下では万物平等でしょう、しかし。この国には依然として厳しい身分制度が根付き畜生にも劣る役人の横暴により民は疲弊しきっています。この現状を知り、見てきた上で尚あなたはそんなきれい事が言えるのですかっ」
「きれい事ではない」
「きれい事です。数多くの憐れな民草にとってそんなことは生きる支えにもならないどころか腹の足しにもなりませんっ。そんなことで民を救えるのなら俺は・・・!」
「万物平等、一人として虫けらの如き命を持つ者などおらぬ。それを知らしめんとするために私がいるのだ」