第十一話
数人の男達に連れられ、攬把こと梁金燕の前に連れていかれたのはもう昼も過ぎようとしていた頃であった。
彼は質素な服に身を包み昨日と変わらぬ澄んだ眼で弦之介を見つめている。
微笑んでいるにもかかわらず、弦之介を押さえつけるが如き威圧感を放っているのはこれまで経てきた修羅場の数が違うせいであろうか。
彼は負けじと目の前の男を見た。
「こいつっ攬把の前だぞ、さっさと座らんか!」
梁の隣に控えている男が怒鳴ったのを彼は片手で制すると、優しく弦之介に問いかけた。
「名は何という」
「小単だ」
「姓名共にきちんと名乗れ!」
「よい、衛。しばらく黙っていなさい。ところで小単、君は銃は使えるかね?」
梁は控えている男の一人に合図を送るとすっと立ち上がった。
弦之介の顎を掴みぐいと仰向かせた。
彼は何事かと思ったが動揺は見せなかった。
「いい顔をしている。こういう顔をした若い者を見るのは久しぶりだ」
先程奥にさがった男が戻ってきた。
手にしているのは布にくるまれた一挺のモーゼルだった。
梁はモーゼルを手に取ると片手で玩びながら弦之介を振り向いた。
「小単、これで私を撃ちなさい。そうすれば君は自由になれる。外す乃至撃てないというのなら君は私の部下として一生ここで暮らすことになる。どちらにしろ君の命は保証されるのだよ。どうだね、小単?」
周りにいた男達は急な頭目の提案に驚愕した。
弦之介は差し出されたモーゼルを見た。こんなことをする理由などない。あるとするなら一種の座興か俺を試すためだ。
弦之介は一呼吸おいてモーゼルを掴んだ。
「攬把おやめくださいっ」
「攬把!」
叫び声の中彼は発砲した。
しんと静まりかえった部屋に梁の笑い声が響いた。
弦之介が撃ったのは梁の帽子の飾りであった。
「小単、君はなかなかの腕前をしている。依然どこかの隊に所属していたことがあるのかね」
「モーゼルを撃つのも触るのも初めてです。それにここに来る以前は料理屋の下働きをしていました」
周囲から感嘆の声が上がる。
「君が気に入ったよ小単。誰か馬を引け、この青年と野駆けをしたい」