第一話
朝靄の中二人の人物が対峙していた。
三十をいくつか過ぎていると思しき男は刀を青眼に構えている。目の冴えるような美丈夫だ。
片やまだ顔にあどけなさを残した少年。こちらは身の丈を優に超える長刀を引っさげている。
水の粒子がしっとりと髪を濡らす。
「やあっ」
先を取ったのは少年であった。
長い髪を重たげに揺らし、踏み込む。
脳天を狙った一の太刀は跳ね上げられた刀によって食い止められた。
二の太刀で斬ってくれようと思ったその時、対手によって薙がれた一閃は少年の長刀を両断した。
防ぎきれなかった相手の白刃は彼の腕をも切り裂き、なお勢い止まず少年の体をも断つかのように見えた。しかし少年は己の腕が体から切り離された瞬間、自ら横に吹っ飛び衝撃を防いだのだった。
倒れながら少年は蒼白な顔で柄を握ったままの己の腕を見つめた。
死を前にしてなお心に浮かぶのはたった一人の女人だった。
海は濃く碧く、空は深く蒼い。
港は貿易のための窓口だ。他国からの貿易船や商人達でごった返しになっていた。
そんな中一人の男が日本の商船からこの大陸に降り立った。太陽の眩しさに目を眇める。
「支那とは思っていたよりずっと広いようだ」
独り言を言いながらのそりのそりと歩き出す。
顎から鼻にかけて大量に髭を蓄え頭は僧のように禿である。この禿頭で魁偉な男を皆は好奇の目で見ずにはいられなかった。