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おとぎ話の住人達

シンデレ…ラ…?

作者: 雪茄

 別に、綺麗なドレスを着て舞踏会に行って王子様に見初められたいとか、そんな乙女なこと思ったことはない。勿論現在進行形で。

 そもそも、私には恋人がいる。ただし、捨てることが決まっている、という注釈がつくが。まあ、愛してはいるのだがいろいろとこちらには複雑な事情というものがあるのだ。


 そんな私が城の舞踏会に参加しなければいけない理由―――それは、恋人に原因があった。











 私は、伯爵家の一人娘として生まれた所謂お嬢様というものだ。

 体の弱かった母は私を産むと同時に亡くなったそうなので会ったことはないが、その分父や使用人たちが大層可愛がってくれたことを覚えている。

 母親はいないが愛に囲まれて幸福に育った私は、深窓の令嬢に育っ…ではなく、無駄に知識欲旺盛だった幼少時代を過ごしたために結構利口な子供に育ったと思う。


 私が10歳の頃父が私のためにと再婚した。確かあの人は男爵未亡人だったか?―――とにかく、私にはとてもよくしてくれた。一緒に引っ付いてきた2人の娘(義姉)も、母親に倣って良き姉、という感じだった。


 表面上は。


 あの3人は、ぶっちゃけて言うと猫かぶりが上手く、人を騙すことが得意なただのバカだ。おバカさんだ。

 奴らに騙された人は父を始め数多く。しかし、結構な割合でお人よしが含まれていたことをここに記しておこう。

 要するに騙されない人は騙されない、というわけだ。実際に、私は早い段階で彼女らがバカなのを見破っている。

 だが、父がせっかく私に母親がいたほうがいいだろうと再婚したのに早々に追い出すのは父に申し訳がなかった。そういう理由であの3人は暫く放置しておいたのだ。


 しかし奴ら、人がせっかく優しくしてあげたというのに父が急な病で急逝してから図に乗り出したのである。あれは12歳の春だった。

 仕方がないので彼女らを良い人たちだと思い込んでいた使用人からさりげなく解雇を開始。

 私ってば、天才だから怪しまれずに3人に父が亡くなって家の財政が圧迫しだした為使用人がいなくなった、という認識を植え付けることに成功。…すいません、天才は言い過ぎました。


 結果として、使用人紛いの仕事をさせられるようになったが、これが意外に愉しくてしょうがない。あの3人の観察日記をベースに書き上げた小説が巷で人気を呼びひと財産築き上げられたほどだ。

 実は、伯爵家の財政は特に圧迫しているわけではない。父の死後、私が(未成年なのだが)伯爵家を継いでいる。女伯爵というやつだ。―――いや、うん。知り合いに後見人に丁度いい身分を持つ、説得しやすい隠居爺がいて幸運だったわ。

 領地経営その他諸々、中々にできているほうだと自負している。未成年で女だということを理由にして表には出ていないが、フローリア伯爵(勿論私のこと)と言えばそれなりに有名なのだ。

 あの男と金に目がない女狐3人どもは本当にバカだから私が伯爵家を継いだこととかは知らないのだが、…だからこそあれだけの態度がとれるのか。





 さて、本題はここからだ。

 私は今年、晴れて16歳の誕生日を迎えることとなった。つまり、成人して大人の仲間入りができる年になるのだ。それが丁度、この国の王太子の花嫁選びの舞踏会とやらの翌日にあたる。

 誕生日を機に、私は領地(伯爵領)へ引きこもろうと考えていた。成人を迎えて晴れて自由の身になることが理由だ。それに王都にもう用はない。


 そう言えばここ最近会っていないような気がする恋人には申し訳ないが、諸々の理由で恋人関係を自然消滅(というか捨てる)させてもらおうと考えていた。

 だから、義姉のドリセルラとアナスタシアが舞踏会がどうのとキャーキャー騒ぐ中、私はルンルン気分でいたのだ。


 邪魔というのは突然襲って来るものらしい。


 舞踏会当日、義母と義姉2人を見送ってさあ荷造りをしようではないか!と一人意気込んでいた時突然吐き気が襲ってきたのだ。そう言えば最近よく気持ち悪くなる時があるのだが、今日のそれは一段とひどかったのだ。


「じゃっじゃーん!正義の魔法使い参上~。君を今からお姫様に変身させて舞踏会へ連れて行こう☆…へえ。顔、結構いい感じじゃん。奴の趣味もよかったってことか」


「誰?―――というかその前に。あなた明らかに不法侵入者だわよね?今忙しいのよ、帰って頂戴」


 唐突に表れたのは自称魔法使いの青年だった。ご丁寧に魔法の杖まで持っている。顔は結構かっこいいのに残念な感じの部類に属する美形だった。チャラい、とでも言おうか。

 先ほどまではいい気分でいたのに、と私は自称魔法使いを睨み付けた。


「いやいやいや、こちらとしてもそれじゃ困るんだよ。君を着飾らせて連れてこいって王子の命令だからね。出来なかったら後が怖い…」


「帰れ」


 焦ったようにそう言う自称魔法使いだが、これから荷造りをしなければいけないのだ。時間が本当にない。即刻帰っていただきたい。

 だが、相手のほうも中々折れてくれなかった。そのためしばらく同じような口論が続く。

 そして―――自称魔法使いは諦めたようにため息を吐いた。やっと、帰っていくかと思いきや…。


「こうなったら力づくで連れて行くしかないな、よし」


 突然開き直ったかのように物騒な言葉を言いだしやがった。


「ちょっと待」












――――――――――――――――――――――――――













―――ガラガラガラ


「え…まさかとは思うけど本当に知らないの?王子の顔」


 自称魔法使いの魔術によって強引に着飾らさせられ、馬車に連れ込まれた私は現在王城まで運ばれていた。

 同乗していた自称魔法使いを絞り上げたところ出てきたのが冒頭のこの言葉だった。

 私を舞踏会に連れて来いとこいつをけしかけたのが王太子その人らしい。


「は?知らないわよ」


「いや、恋人でしょ?」


「誰が誰の」


「君が王子の」


 私は王太子と面識がない。その前に顔すら知らない。だから、自称魔法使いが王太子と私が恋人だ~!みたいなことを言ったが信じたわけではない。むしろ人違いで私は連れ出されているのではないか?

 ―――って言うかそうか、そうだったのか。全く結婚しなくて問題になっていた王太子には実は恋人がいて、それはドレスも買えないような貧乏貴族か平民の娘。今回の舞踏会は彼の花嫁選びが主な目的であるので、そこで彼女さんを紹介して認めてもらおうという魂胆だったのだ。絶対そうだ。

 なかなかやるではないか、王子よ。会ったことないけど。


「人違いじゃないからね?ちょっと方法は詳しく言えないけど君は確かにあの王子の恋人の筈だから」


「確かに私には恋人がいるわよ?捨てる予定だけど。でも王子ではないと思うわね」


「認める気はないんだね。…まあてっとり早く物的証拠でも見せようか。認めてもらわないとこっちが困るんだ」


 そう言って自称魔法使いが私に見せてきたのは見覚えのある人物が描かれた肖像画。綺麗な金髪を持った甘いマスクの王子様然とした貴公子だ。奴は、これが王子だよ~☆と宣う。

 確かに、絵の中の王子だという人物は私の恋人にそっくりだった。


「でもね、そんなちんけな絵程度で私が騙されるとでも?確かにその絵の男は私の恋人(捨てる予定)とそっくりではあるわ、それは認める」


 自称だろうがなんだろうが、奴は魔法使いである。何をやらかすかは予測不可能だ。

 まあ仮に、本当に私の恋人が王太子であった場合、私はそれは盛大に切れる可能性がある。自称魔法使いを寄越して私を舞踏会に連れ出そうというのだ。私は奴(恋人)にそこまで許した覚えはない。せっかく人が優しく自然消滅で終わらせようとしてあげていたのに。


「で?私にこんな無礼を働いて謝りもしないとは何様のつもりかしら。仕方がないから舞踏会にはおとなしく行ってあげることにするわ」


「君、相変わらず態度でかいよね」


「だまらっしゃい。―――で、謝罪はないのかしらね?反省する気がないのであれば権力使って追いつめることもやぶさかではないわ」


「…君、何様のつ」


「天下のフローリア伯爵様よ」


「え゛っ…!?」

















 そしてやって来た舞踏会。招待状出したら一発で入れた。随分驚かれたが。―――曰く、あの有名なフローリア女伯爵が姿を現したことと(誰も姿を見たことがないので幻の伯爵と言われていたらしい)、それがこの私だったことに驚いたらしい。私は、外見だけは自分で言うのもなんだが儚げなお嬢様っぽいからな。自称魔法使いには外見と中身のギャップが激しすぎると言われた。知らんがな。


 会場である大広間へ入ると既に始まっていたようでたくさんの人々が踊ったり談笑したりとしていた。その中に、義姉たちもいた。今日は王子狙いらしく、虎視眈々と機会をうかがっていた。その王子はあの人ごみの中だそうだ。すごい数のお嬢様が集まっている、あの一角に。

 ちらっと見えた王子の顔は―――マジで恋人だった。


 もともと彼は自身の身分を明かそうとしなかったし、その振る舞いから見て貴族だろうとは思っていたが…すっかり忘れていた。犬としてしか見ていなかったからな。あれが王子とか、アリエナイ。この国大丈夫か?と本気で心配した瞬間だった。


 いやしかし、自称魔法使いの言う通り恋人が実は王太子でした~だった訳だが、私は今シャレにならないほど怒っている。犬のくせに、こんなことをするなんていい度胸じゃないか。

 よし、帰ろう。


 私がくるりとまわれ右をした時だった。

 突然背中にドンッと衝撃が走り、遅れて何かに抱き着かれているようだと認識した。


「ああ、シルヴィー。やはり来てくれたんだね。結婚しようか、シルヴィー。愛しているんだ。君がいないと僕は死んでしまうよ。シルヴィーのいない世界なんて価値がないからね。愛してる愛してる愛してる」


「黙れ、この駄犬が」


 後ろに引っ付く犬は通常運転の変態だった。一体いつの間に移動した。つうかどうやって見つけた。あのお嬢様の群れから出るのはさぞ大変だったろうに。顔だけはいいからな、こいつ。


 彼―――恋人である王子を振り払おうと体を動かしたとき、また気持ち悪さが体を襲う。

 そのまま、私の体はゆっくりと彼の方向に傾いでいった。どこか嬉しそうに私を抱きとめた彼の顔を最後に私の視界は暗転した。






 その後、妊娠が発覚して結局彼と結婚する羽目になるとは夢にも思ってみない私は、取り敢えず目下の出来事を心配する。


 ―――ああ、彼に捉まってしまった。せっかく数年かけて下準備に命を懸けた『女狐3人で遊ぼう』計画が頓挫してしまう。あの人たちの反応見るのが何よりの愉しみなのに。…っていうかこんなこと私は許した覚えがないぞ。あの駄犬、最近図々しいと思ってたんだよな。

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