1章4話「だから君達はダメなんだ」
それから数日後。
遂に闘儀本番がやって来た。
青空に爆音と共に、赤や青などの色鮮やかな花火が宙を彩っていく。
恐らく魔法使い数人が魔法によって、花火を上げているのだろう。
僕、レンラ・バルトレンジはステージの上で敵を見つめている。
敵、つまりディオルー・セレネオスはステージ上で青い水晶の付いた高価そうな杖を持ってる。
僕は黄金色の直刀を構える。構えると共に、僕の黒い瞳は茶色の瞳に変わる。
「それが……あなたの魔装の効果ね」
と、瞳が変わったのを見てセレネオスさんはそう言う。
「まぁ、そうだね」
と、僕はそう言う。
魔装の効果。僕の使うような魔法が施される魔武器には、使う度に様々な効果を発揮する物が多い。
例えば変な文様が腕に浮かび上がるなどの目に見えて分かる物から、人を殺したくなる精神的な物まで様々だ。
僕のは前者の目に見えて分かる物である。
「まぁ、そうだよ。瞳の色が茶色の瞳に変わる、それがこの1の太刀、ラ・テラの効果だよ」
「そうね。まぁ、瞳の色が変わるくらいならば気にしなくて済まなさそうね」
と、ディオルーさんは青の水晶がついた杖をこちらに向ける。
一瞬、青の水晶が輝くとともに、セレネオスさんの周囲に青い水の塊がいくつか浮かぶ。
「楽しませてよ、レンラ君」
青い水の塊をセレネオスさんが発射すると共に、闘儀は始まった。
青い水の塊は沢山こちらに向かっていく。全部を避けるのは面倒+無理なので、僕はとりあえず動かずに目の前の水の塊を直刀で斬った。闘儀と言う事もあり、斬った水の塊を空に飛ばしておく。
「へぇ……。なら、これならどう?」
青い水晶がまた輝く。どうやらあの輝きが魔力がこもった証なのだろう。
セレネオスさんは先程とは違って、大きな水の塊を作り出す。
今度は量より質の作戦なのだろう。よく見ると、水にはうっすらと金色に色づいているような気がする。
セレネオスさんはその大きな水の塊を発射した。
「さすがに今度も斬り捨てるだけでは、芸がないな」
僕はそう思いながら、ラ・テラを地面に突き刺す。そして魔力を込める。
「振祖」
魔力を込めると共に黄金色の直刀が振動し始める。
地面が振動すると共に、大きな水の塊はゆっくりと揺るぎながら、水の塊は消え去った。
「へぇ、面白い能力だわ」
「褒められても何も出んよ」
さて、とりあえず初めはこれくらいで順調だろう。まぁ、ここからの展開が若干不安なのだが。
なにせろくな打ち合わせを何もしていない。ここからどう盛り上げようか真剣に考える。
「温い! 温すぎる! こんな演技ではお客様もがっかりして、帰ってしまうじゃないか!」
と、ステージの反対側、客席の方からそんな声が上がる。
「だ、誰?」
いち早く反応したのは、セレネオスさんだった。続けて、僕も見る。
そこに居たのは、アンプのスピーカーのような物を両肩に載せて、首からは派手な才色のギターをかけている男性であった。
「私の名前はラートアン・フォルトキジャ! 演出家だ!
派手な音楽、派手な悲鳴、派手な色合い。
その全てで芸術は作られる! にも関わらず、君たちの演技は最悪だ」
「はぁ? あなたにとやかく言われる筋合いは無いわね」
と、不機嫌そうにセレネオスさんが声を上げる。
「だから君達はダメなんだ。芸術を何も理解してない。そんなんだから、ちゃんとした芸術を作り上げられないんだ」
僕は気づいていた。彼の周りを警備員が取り囲み始めている事に。
騒いでるだけだから、手荒な事はしないだろうけど、これで大人しく……
「芸術はこうするんだよ!」
キー!
と、ラートアンはギターをかき鳴らした。
周りに居た警備員たちが吹っ飛ぶ。
そしてアンプから振動のような物が飛び出し、ステージの一部を破壊して、生徒に落ちてきた。
「キャー!」
「危ない!」
僕は急いで、ラ・テラを地面から引き抜くと、落ちてきた破片をぶっ飛ばした。
どうやら生徒に傷はないみたいだ。幸いだ。
しかし、今のラートアンの攻撃で生徒の一部がパニックに陥った。我先にと出入口へ向かっていく。
先生や警備員が対処しようとするが、それも生徒が混乱してるので上手く行ってないみたいだ。
「さぁ、お2人さん。芸術はここからが面白い。
最高の音楽を聴かせてあげるよ。
娯楽の前では、人の命などないが如し、さ」
そう言って、彼は再びギターをかき鳴らした。