5章7話「白馬に乗った王子様が」
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「目の上のたんこぶ、白雪姫……。今ここで切り刻んでやろうじゃないか……! と、私は思うのだけど」
クイーンは斧を振り回しており、振り回しながら白雪姫へと向かっている。
白雪姫は斧を見ているが、全く持って怖がっている様子が無い。と言うかまずその青い水晶のような瞳は何かを見つめている様子が全く無い。本当にあの白雪姫は、ミスキャストだと思うのだが。
7人の小人はそれぞれ、赤い長髪の平均的な背の執事服を着た男性、笑顔が素敵な亜麻色の髪のメイド服の女性、黒髪で金色の瞳の青い学ランを着た男性、黒い顔のボンテージ服を着た女性、炎髪の拘束着を着た男性、金髪のサファイアのような瞳の軍服を着た女性、そしてメンルリさん。と言うか、あの中の黒い顔のボンテージ服を着た女性と炎髪の拘束着を着た男性には見覚えがあるんだが……。
誰だっただろう、あの2人は。
まぁ、あの7人の小人は少なくとも白雪姫よりかは真っ当な、怖がっている演技をしているようである。
「白雪姫と7人の小人は斧を持った継母を見て、それぞれ恐怖していました。
ゆっくり、ゆっくりと、継母は白雪姫達へと向かって行きます。
と、そこに白馬に乗った王子様が現れたのでありました」
ナレーションの言う通り、幕は揺れ動いている。どうやら白馬に乗った王子様ご登場のようである。
しかしやはりと言うか、白馬に乗った王子様はまともな奴では無かった。
「ふはははは――――! このアインツベルム様が―――――」
「うるさい。と、私は思うのだけど」
そう言って継母は幕から現れたブリキの馬に乗った王子様へ斧を振るう。ブリキの馬はまるで紙切れのように簡単に引き裂かれ、王子様も幕の中に再び消えて行った。
観客全員、唖然の展開だ。と言うか、これはもはや『白雪姫』なんかじゃないと思うのだが。ここからどうやって終わりに持ち込むつもりだ?
「隣の国から白馬に乗って来た王子様には、狂気に満ちた継母の相手は出来ずに王子は儚く幕の中へと消えて行きました。
しかし、希望の種は消えてはいなかったのです」
え? これ、ちゃんとおしまいに持って行けるのか?
僕がそんな風に思っていると、ステージ上の7人の小人の1人、黒髪で金色の瞳の青い学ランを着た男性が白雪姫の側に近付き、そっと肩に手を置く。
「……!」
肩に手を置かれた白雪姫は、一瞬ビクッ、と肩を震わせる。
白雪姫の瞳が一瞬生気を取り戻したかのようにキラキラと年頃の乙女のように輝いた。しかしそれはほんの一瞬、まるでそれが嘘だったかとでも言いたげに白雪姫の瞳はすぐに元の、どこを見ているか分からないような瞳へと変わる。
「大丈夫だ、テセウス。継母はこの小人Dが倒してやる!」
「小人D……」
そしてテセウスと呼ばれた白雪姫は小人Dへとゆっくり顔を近づけて行き、
彼の唇に自分の唇を重ねていた。
キスだった。
それも軽い挨拶程度のキスでは無く、濃厚なそれも見てるこっちが甘美だと思わせるくらい色気と愛に満ちたディープキスだった。
『……!』
観客一同騒然。それもそうだ、いきなり白雪姫と名もなき小人Dの熱烈なラブシーンなんて見ていられない。他の小人達も信じられないと言う顔で、白雪姫と小人Dを見守っている。
キスも終わり、名残惜しそうな表情で小人Dは拳を強く握りしめる。すると、突然彼の手に黒い刀が出現する。
そしておぞましい妖気が、観客席に居る僕達に伝わって来る。
(……魔剣か!?)
その黒い刀をしっかりと握りしめた小人Dは刀を振り上げ、
「死ね! 白雪姫の継母よ!」
と言って、黒い刀を振り下げた。
振り下げると共に生まれる暴風。暴風は継母を直撃し、継母は幕の方へと飛ばされていった。
そしてナレーションが続ける。
「こうして白雪姫から加護を貰った小人Dは、見事継母を退かせました。
白雪姫と7人の小人達は、皆仲良く暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
幕が終わり、2年生の『白雪姫』と言う演劇は幕を閉じた。
……何と言うか、凄いぐだぐだな劇だった。
これを白雪姫と呼んでいいのか激しく不安ですが……。
さて、次回は5章の最終回。【5章閑話「罪を犯してでも」】を3日後の10月15日0時に投稿予定です。みなさん、お楽しみに。




