5章昔話②「もう少し力加減を学んでよね! 全く……」
「そんな普通の人は持っていない力を使わないでいるなんてもったいないの一言に尽きるよ。
戦力はきちんとした場所で使うべきであって、取って置くなんて駄目に決まってるよ」
クロノウス・ウルカニアは笑顔で私、ハトトリー・クイーンを見つめていた。
それは心の底からの笑顔では無く、何か打算を持った笑顔であった。それがまた、クイーンをいらつかせた。
この男は私がこの力を持ったせいでどのような目に、どのような苦悩を持ったのかを知らない。
しかも、彼は私では無く、私の力しか興味が無い様子である。
「そんな目的で私に近付かないでください」
と私はそう言って、彼の右腕を掴み軽い力で捻じった。鉄の義手とは言え、私の筋力ならばすぐに曲げる事が出来た。しかも義手と言うのは腕と神経が繋がっているはず。彼にも私の筋力で起こした痛みを感じているはずである。
そう思いながら、私は彼を見ると
「痛い! 痛いからさ! もう少し力加減を学んでよね! 全く……」
と、大げさに言いながら彼は自分の席へと帰って行った。
それで私は、初めて彼と同じクラスと言う事を知ったのであった。
まぁ、これでもう来ないだろうと私は思っていたんだけど。
次の日も、その次の日も彼は私の席に来て、勧誘を続けていたのでありました。
私は毎日同じように義手を曲げて追い払っていた。
何日も追い払っている内に、私はクラスの雰囲気が変わっているのに気付いた。
今まではその怪力から化け物を見るかのように見ていたクラスメイト達が、まるで微笑ましい物を見るかのように私とクロノウスを見つめていた。
なんでこんな事になって居るんだろう。私はそう考えて、すぐにその理由に気が付いた。
それはクロノウスのおかげだった。
「痛い! 痛いっつーの! だから、クイーンは力をちょっと加減しろよな、全く」
彼は毎日のように私の所に来て義手を曲げられるんだけど、本当に心底嫌がっていると言う感じよりただじゃれ合っているように声をあげていたのであった。
悲鳴と言うよりは、ただ気軽に言っていたのであった。
だから私の怪力は段々と柔和的な物へと変わり、私に対する印象もかなり軟化していたのであった。
要するにクロノウスがやられ役になって、私の印象を良い物にしてくれたのだ。
それに気付いた私は、私の横でいつものように大げさな声をあげていたクロノウスに
「ねぇ、クロノウス。あなたは何で痛みを受けながらも、私の印象を良くするために頑張ってくれたんですか?」
「何って、最初に言ったでしょ? 僕様は君の力を正しい所で扱えるようにしただけさ。何せ前のままだと皆に避けられていた君は、なかなか力を使ってくれないからね。
だから僕様は別につらいだなんて思ってないよ。初期投資だと思ってさ」
と自慢しないでただ当然のように語る彼を見て、彼は凄いなと思った。
そしてその瞬間、まるで胸が握られるような感覚が私を襲い、
(あぁ、私は彼の事が……)
「まぁ、結構痛かったけどね。いやー、女子であの筋力は……」
「ムカッ……!」
彼への怒りで、彼の義手を曲げていた。
「痛い! だから痛いってば!」
「……これからもするから、頑張ってね。クロノウス」
とそう言いながら、気恥ずかしさを隠すために、そして逃がさないように私は彼の腕をいつも以上に締め上げていたのであった。
「痛い! だから痛いって言ってるでしょうが!」
彼はいつもより強い痛みを受けているはずなのに、いつものように楽しそうに言う彼を見て、さらに彼の事が……
好きになった気がしたのだった。
次回は10月9日0時、投稿予定です。
タイトルは【5章6話 「では、皆様。楽しんで行ってください」】です。
では、よろしくお願いいたします。




