1章2話「その殊勝な態度は」
「闘儀ね……」
僕、レンラ・バルトレンジは1年1組の窓際の自分の席で、頬杖を付いて窓を見ながらそう言う。
僕は自身の格好にそこまで自信が無い。
肩の辺りまで伸びる黒髪。黒の瞳に黒を基本色とした制服に身を包んだ1人の男性。中肉中背の男子生徒と言う、どこにでも居る人物である。
「はぁ……。どうした物かな?」
「どうかしたの、レンラ君?」
と、僕に声をかけるように1人の生徒が立っていた。
ウエーブがかかった黒い髪と、元気そうな瞳。整った顔立ちに、足も腕も細いスリムな体系。平均な背丈な癖して、胸はCあると言う、クラスの中でも割と人気が高い女子、僕の友達のヤヤ・ヒュプオンが居た。
「いや、ちょっと……ね。リクミ先生に闘儀を頼まれちゃってね」
「嘘! うちのクラスはレンラ君なんだ。やっぱり大変そう?」
「まぁ……ね」
闘儀は相手との戦闘行為によって、人々を楽しませ感動させる戦闘を見せる行事。普通の戦闘と違い、相手との事前の打ち合わせも重要な物、さらに何の技で魅せるのかと言うのも重要になってくるし……。
「正直、話し合いだけでもかなり大変そうだよ」
「……ふーん。あ、じゃあもし良かったら、リクミ先生に頼んで変わってもらいます? たとえば私とか?」
「……うーん、そうだなー」
ヤヤは魔術師で、別に魅せるのに不足があると言う訳ではない。まぁ、彼女に変わって貰うのもやぶさかでは……
「いやいや、それは無理だと思うよ。ヤヤ・ヒュプオン」
と、ヤヤの発言を止める人間が現れた。
黒い眼鏡をかけたシルクハットを被った僕とヤヤの数年来の友達の男性。黒を基本色とした制服に身を包んだ、比較的男性としては小柄で、中性的な顔立ちをした男性は、ニヤリとした笑みをこちらに浮かべている。
「……フレイアトか」
「へいへい、情報通のアスクム君のご登場だよ~」
自称情報通の男性、アスクム・フレイアトはニヒヒと笑って、周りで聞き耳を立てている生徒に離れるように手で合図を出す。
「ヤヤ・ヒュプオン、君のその殊勝な態度は好感が持てますね。けれども、魔法使いである君には無理なんだよ」
「どう言う意味ですか、アスクム君?」
小首を傾げるヤヤ。素直に可愛らしい仕種である。
「闘儀って言うのは、誰が出るかは決まらない前でも、既にどのクラスとどのクラスが戦うのかは決まっているんですよ。で、向こうのクラス、1年2組の方は既に出る生徒が決まってるんですよ」
「で、それの相性がヤヤとは悪いと?」
「はっきり言っちゃえばそうだね。相性と言うか、どちらとの戦闘が盛り上がるかと言われれば、レンラ君の方が良いからね。僕としては、断然! レンラ君を推そう!」
……なるほど。まぁ、アスクムは比較的人を見る目はある人物だ。だからアスクムがここまで言うのならば僕が出る方が良いのだろう。
「じゃあ、分かったよ。ちなみに……お前が出ると言う選択肢は?」
「初めから存在しない。だいたい、1年で闘儀に出たいとかの興味を持つ奴は、ほとんど珍しいよ。毎年、先生からの推薦になるのが常だよ」
そう言われて見ると……僕も推薦だなと思い返す。
「向こうも推薦?」
「いや、向こうは推薦じゃなくて立候補。
……まぁ、話し合いの場は僕の方で作っておいたから、ちゃんと今日の昼休みに行っといてね」
と、アスクムは僕にメモを渡す。
『昼休み 食堂 第17テーブル』
……簡易的なメモだな、ざっくりとした。
「まぁ、良いや。一応心配してくれてありがとな、ヤヤ。それとアスクム」
「い、いえ! 友達として当然ですから!」
「そうだなー、楽しめる映像が出たら嬉しいですねー」
僕は2人に感謝の礼を表現して、次の授業の準備を始めたのであった。