1章1話「表面上は」
桜のあでやかな桃色の花が散って、新緑が顔を出す5月。
そんな景色が外で見られる今日この頃、僕、レンラ・バルドランジはトラソルクエ学校の職員室で1人の先生と対峙していた。いや、ただお互いに話しているだけだが、至近距離だとまるで殺気のような物が感じられるのは何故だろう。しかも、その先生から。
まぁ、早く用件を終わらせたいのも事実なので僕は先生の、リクミ・アサセナーの名前を呼ぶ。
「リクミ先生。ミッション、『教会占拠の敵撃破』、完了いたしました」
「うむ、ご苦労だね、レンラ・バルトレンジ君! ご苦労様!」
リクミ・アサセナー。
眼鏡をかけた黒いスーツを着た20代前半の女性。僕にこのふざけた学生業を頼んだ僕の担任。
この学園で有能すぎる魔法使いの特待生として卒業した先生で、その当時は生徒会長も務めた事もあるらしく、その有能っぷりは大した者だ。
大体にしてこう言った有能な生徒は、卒業した後はだんだんと凡人になっていくはずなのだが……
「うんうん。レンラ君はいつも単位0.1のキノコ狩りや、単位0.3の農作業の手伝いが多いから、こう言うので報われて当然だよね、うんうん」
……どうもその観察眼は、教師となった今でも健在らしい。
「じゃあ、僕は失礼します」
「……あー、少し待って、レンラ君。実はまだレンラ君には仕事があるんだよ」
……仕事、ね。確かにあの程度の作業で、単位3は少し高い。あれなら農作業の方がまだつらい。
「まさかまだ、仕事を押し付ける気ですか、先生。僕は優等生ではないですけれど、単位分授業には出ているはずなので、あまりにも難しい依頼でしたならば僕は単位3と言う僕としては高額報酬は辞退しますよ」
「いやいや、レンラ君。別にこの作業をやらなければ、単位3はやらないと言う訳じゃないよ。単位はあげる。むしろこれは、お願いと言う感じかな?」
お願い? まぁ、簡単なお願いなら聞いた方が良いだろう。
昔取った杵柄、リクミ先生が本気で魔法とか使われたら僕なんか、1撃でやられてしまうだろうて。
「実はね、私はレンラ君を闘儀に出てもらおうかって。表面上は1クラス1人を原則としてるけど、これ裏では先生が自分の選んだ生徒がどこまで優秀かって言う先生の面目もあるのよね」
「はぁ……」
闘儀とは、ここトラソルクエ学校で毎年5月に行われる学校行事である。
先生の推薦による1クラス1名、うちの学校は1学年2クラスなので全員で6名。その6名が自身の技を持って、生徒に美を見せ付けると言う僕としては何をしているんだと思える行事である。
1年生である僕はまだ直には見た事はないけれど、学校パンフレットに載っていた昨年の闘儀の写真は割と美しかったかなと思っていた。けど、僕にはその程度の認識しかなかった。
「お願い! レンラ君!
学校のために、ひいては先生のために! どうか闘儀に参加してくれないかしら! 私、結果とかは良いからとりあえず不参加だけは避けたいのよ!」
「まぁ、不参加は確かに不名誉ですよね。全クラスの1名は参加が決定しているんですから。
……良いでしょう。とりああえず、結果に目を瞑ってくれるとするならば。
このレンラ・バルトレンジ。自分の持てる力で、皆様を美の世界に誘うといたしましょう」
まぁ、結果に目を瞑ってくれるならば、だ。
それに闘儀に出れば、目的も出来るだろうし。
「助かるわ~、レンラ君。詳しい事情は、今日のHRにでも書類を渡すから。じゃあ、教室に行っていいわよ?」
「了解ですね」
と、僕は先生に頭を下げて、僕は職員室を後にした。
まぁ、これは別に問題ではない。問題はその日の別の事件だ。