3章2話『文字通りの天才』
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『その娘、メンルリ・シウテムカは君と逆のタイプの人間よ。レンラ君』
彼女が寝てしまったので、彼女の事情は分からない。さらに明日は休日。
だから担任であるリクミ・アサセナー先生に彼女の事を聞こうとした。
僕、レンラ・バルトレンジは彼女の名前を告げた途端、リクミ先生はそう言ったのであった。
「逆? そりゃあ、男と女は違いますけど」
『いや、そう言う意味じゃないから……。文字通り、タイプが逆なのよ。
彼女はね、言っちゃ悪いけど天才なのよ』
「天才? それは僕が凡人と言う事ですか?」
彼女が天才で、僕と逆のタイプの人間だと言うのならば僕が凡人と言う話なんだが。担任にしては、酷い言い方だ。もっとオブラートに包んで言って欲しい。
『そうじゃ無いわよ。彼女とレンラ君が違うって言って要るのは、スタイルよ。生き方と言う名の、スタイル』
「生き方?」
『うん。レンラ君は多少の例外は除くとして多くの依頼は、採取系の比較的単位の低いミッションばかり行っているでしょ?
彼女、メンルリちゃんは危険な魔物の討伐任務系の比較的単位の高いミッションばかり行っているのよ。だから、レンラ君とは逆なの』
「あぁ、なるほど」
そりゃ確かに逆だ。僕は採取系の任務をこなす事が多く、彼女は討伐系の任務をこなす事が多い。
単位の小さな仕事をこなす僕と、単位の大きな仕事をこなすメンルリさん。確かに逆だ。
『それも1人で』
「はっ……!? 1人で!?」
討伐系任務の単位が大きいのは、一重に危険度が高く、同行人数が多くなるためだ。同行人数が多いと、その分1人1人に支払われる単位の大きさを換算すれば、自然と単位が大きくなるのは仕方ない事だ。
つまり彼女は単位のためとは言え、危険な任務を1人で何度も何度も行っていると言う結果になる。それはただの無謀な挑戦者だ。命を投げ打って行動している者の考え方だ。
『まぁ、彼女は珍しい魔法騎士と言うエリート職業を、さらに好成績で使いこなす、文字通りの天才。そんな天才様には仲間なんていらないって事なんじゃない?』
「仲間が要らないね……。それでも1人で危険任務を行う彼女の心情は理解出来ませんが」
『学校の方にも彼女を知っている生徒や先生は大勢いるわ。何せ、文字通りの天才だから』
……天才、ね。そんな人間がどうして僕の家の前で倒れていたんだろうか?
『けど、彼女は授業にほとんど出ない。いえ、出た事が無い。
実際、高い任務成功率を誇る彼女は、もう卒業までの単位を全て取ってしまっている。だから、わざわざ学ぶ必要が無いのよ。
今は卒業時期を待ちながら、ぶらぶらと任務をこなす者と言った方が良いかしら?
と・も・か・く! レンラ君はミッションで単位を取らないんだから、しっかりと授業に出るように! 良いわね!』
「了解です」
そう言って、僕は電話を切った。
「天才、ね。まさかそんな者が居るとは、思っても見なかったよ」
それも今、上の階ですやすやと眠りこけているなんて。天才が何を考えているか分からないとは言うが、天才の行動も理解出来ない物だ。
「さーてと! 彼女の素性はだいたい下調べが済みましたし……。僕も眠るとしましょうかねー」
と、僕は階段を上って、自室へと向かっていた。
ちょうどその頃。
あるお屋敷では、ちょっとしたゲームが行われていた。
双六を使って丁か半かを当てるゲーム。所謂、丁半である。
「この屋敷の護衛か。様々な任務を文句も言わずにこなして来た『どんぐりの会』でも、人ではなく建物の警備に就くのは初めての経験だ」
と、双六を投げた男性が呟く。
その男性は紳士の格好をしていた。白を基調とした格調高いスーツを着た細身の長身男性。黒縁メガネにすらっとした顔立ち、肌は白くその青い髪は適度な長さで切り揃えられている。腰には2本の短刀を帯びており、ポケットはぱんぱんに膨らんでいる。
彼の名前はガイオン・ダラムアトル。『どんぐりの会』のメンバーで、ちょっとした異能の持ち主である。
「いやー、驚きを隠せない。まさかこの、君を試させるために用意したゲーム、逆丁半ゲームが見事に的中しているとは。いやはや、いやはや。テラワロス」
ハハハ! と大声を上げてソファーで笑いこけている男性の首が
ポロっと取れた。
「おっと……。いけない、いけない。これは可笑しいだろう、常考!」
そう言って、笑いこけていた男は首を元の位置、首の上に付けた。笑いこけた男の首は即座にくっつき、元通りになる。
そんな男の顔は笑顔だった。いや、笑顔しか出来ない顔だった。なにせ、その顔は作られた、文字通り製作者と言う人間が作った顔だったからだ。
その男は毛糸で作ってある金色の髪を耳の辺りで揃えた男性。顔は人形が浮かべる作られた笑顔だった。腕と脚の関節はどちらにも人工皮膚が貼られておらず、そこからは機械質なケーブルが姿を見せている。頭には螺子が刺さったこの男性の名前は、アーリス。
そう言う名前の付けられた自動人形だった。
「しかし、君が自分の異能を見せるために作ったこの逆丁半ゲーム。最初に10回分の丁か半、それに出る目まで決めた状態でスタートして、君が同じ目が出せるかを見るゲーム。
正直、1回か2回程度しか普通の人間には揃える事が出来ないだろうこのゲームで、まさか”10回全部成功するとはね”」
と、アーリスは後ろのスコア表を確認する。10回中、残りはあと1回。
その前の9回の全てのスコアは予想と全て揃っていた。つまり、ガイオンは全部成功していた。
「まさしく異常。いや、超常。
『自在にサイコロを操る』と言う残念異能の持ち主なのは聞いていたが、まさか本当だったとはね。
ワロス! そして、驚きなう」
「驚くほどの事じゃないぞ、こんなのは。まぁ、最も自動人形に言ったって、しょうがない事だが」
自動人形。
人間に似ている外見をもつ、人形の総称。
人間にあって人間に非ず、人間の真似をした……所謂、ロボット。
「オートマタではないんだよ。そうだね……。正しく言えば神が作り出した人造人間の試作タイプ。ただし人間よりもロボットに近い側の存在。
って、所かな? けど、首が取れる事に驚かないなんて……。
普通の人間は大抵驚くと思うのだけどね? JK?」
と、アーリスは声をあげる。
「いや。『どんぐりの会』に狂博士が居てな。その中に人間らしい性格を持ったアンドロイドが居るんだ。だからさ、別に人間らしいロボットの、ロボットらしい行動には慣れてる」
と、そう言いながらまたしてもガイオンはサイコロを振る。
出た目は『1』。そうガイオンが一緒に振った10個全てのサイコロが全て『1』を向いていた。
「ktkr! サイコロ10個による逆丁半ゲーム、見事成功だよ。
凄いね、本当に。ガイオン△、※」
と言った所で、アーリスは立ち上がり、雨が降る空を見つめる。
「まぁ、良いや。これで君の実力は分かった。
凄い人材だね、本当に早く明日にならないかな? wktkだよ、メンルリ・シウテムカ」
彼は笑顔のまま、夜の雨をずっと見つめていた。
アーリスが使っていたネット用語、分からない人もいるかも知れないので解説しておきます。
「テラワロス」→「とっても笑わせてくれる」
「常考!」→「常識的に考えて!」
「驚きなう」→「今驚いている」
「JK?」→「常識的に考えて?」
「ktkr!」→「よっしゃキタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!」
「ガイオン△」→「ガイオンさん、かっけー」
「※」→「ただしイケメンに限る」
「wktkだよ」→「期待に胸をふくらませているのだよ」
いやー、ネット用語って色々とありますね、全く。




