2章10話「アトアグニさんの方が綺麗だ」
ハート型の弓矢を避けた僕は、ウナ・コレンテの封印を開放する。
「……5つの太刀の1つ、2の太刀ウナ・コレンテ1次開放」
僕はウナ・コレンテの魔装を発動させる。髪も瞳も青色に染まって行き、右腕は水色の龍の鱗へと変わる。僕の右腕は氷の龍、ヒュドラの鱗で覆われた腕に変わっていた。
「ふっ……!」
僕はウナ・コレンテの水の塊を、僕は何倍もあろうかと言う大型の蟹にぶつける。その濡れた部分をヒュドラの冷凍能力で凍らせ、刀を当てる。凍った蟹の一部は破壊された。
「……あらー♪ なかなか面白い能力を使ってくれるじゃない? なら、私はこれで行くわ」
そう言って、ウラヌトリ・アテセ・ヤはハート型の弓矢を再度構える。とは言っても、今度は弓は持っていない。彼女は投げキッスをする。
「投げキッスシャワー!」
投げキッスをすると共にそれはハート型の弓矢、10本の弓矢へと変わって、僕達に向かって来る。
「……撃ち落とす」
それ1つ1つ、アトアグニさんは丁寧に、かつ即座に弓矢を発射してハート形の弓矢を撃ち落とす。
「あぁ……♪ 本当に面白いわね! 私の蟹によるお香や、愛の弓矢を落とすなんて……。
あなた達に、本当の愛を教えてあげちゃうわよ♪」
今度はウラヌトリは、弓矢を構える。
「一目惚れ!」
彼女は弓矢を一直線に放つ。一直線に放たれた弓矢は、先程の投げキッスシャワーとは桁違いの速さで向かって来る。
「……落とす!」
アトアグニさんはそれを弓矢で撃ち落とすために放つが、弓矢が当たっても動いたままだった。
「凍らせる!」
僕はウナ・コレンテで水を放ちながら、ヒュドラの冷気で凍らせる。弓矢は落ちた。
「冷えた関係……。恋はいつだって、燃え上がる物よ! そう、私は人類全てに恋してる! そのための美しさのために、この森には犠牲にはなってもらうわ♪」
ウラヌトリが弓矢を構える。彼女の瞳はめらめらと冗談ではなく、炎のように燃え上がっていた。
「恋の炎、青春愛!」
ウラヌトリが弓矢を放つと、その弓矢は炎が纏って飛んで行った。
炎の弓矢を僕達が避け、しかしその避けた弓は背後の森を焼いていた。
「私の……森が……!」
「ハハハ! 最高よ! 美のためならば森の1つや2つ、無くなっても良いのよ! 美には全て、努力を惜しんではいけないのよ♪」
彼女はそう言いながら、アトアグニさんに弓矢を構える。アトアグニさんは森を焼かれた光景を目にし、弓矢を捨てて、放心状態で森を見つめている。そんな彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
「そして、愛のためならば多少の死人は仕方ない。そう、それはまるで泥棒猫を排除する正妻のように」
彼女は弓矢を発射する。しかし、森を焼かれたアトアグニさんは弓矢を構えない。まだ涙を流している侭田。
「愛の勝利……!」
「しねぇよ」
その弓矢を、僕は水の塊で撃ち落とした。
「……! あなた……! 私の愛の弓矢を……!」
「お前の弓矢より、アトアグニさんの弓矢の方が綺麗だよ。そしてそれを放っているのも、お前なんかよりアトアグニさんの方が綺麗だ」
「はぁ……!? あんな無愛想な表情のロリ娘より、私のようなエロティックな色っぽい身体の方が綺麗に決まってるじゃない!? あなた、幼女趣味じゃないの!?」
そう怒りながら、僕に弓を構えるウラヌトリ。
「何度だって言ってやる。自分の欲望に満ちたお前よりも、故郷を焼かれた事で涙を流すアトアグニさんの方がー最高に綺麗だ」
「はぁぁぁぁぁぁ!? 私が! この私が! サキュバスの中でも最も綺麗を追い求め、綺麗を手に入れるために何でも、努力を惜しまなかった私が! そんな小娘なんかに負けるわけじゃない!」
彼女の後ろには黒いハート形の弓矢が大量に、100本以上浮かんでいる。
「嫉妬の弓矢の洗礼を受けるが良いわ! 嫉妬の弓矢!」
そしてその嫉妬が籠った弓矢は、全て1本残らずこちらに向かって来た。
「そうは行くかよ。 氷晶」
ヒュドラの右腕を僕は彼女に向けて、その弓矢を全て凍らせた。その冷気は後ろの、ウラヌトリも凍らせていた。
「氷の中で、永遠に自身の醜さを恥じとけ。フリージスト!」
僕はそこにウナ・コレンテで閃光を放つ。閃光は放たれ、ウラヌトリは氷ごと砕かれた。
「せめて……。散り際だけは、綺麗で居たんだから。これで満足か? 美を追い求めし者よ」
その日、マクウエは季節外れの雪が降った。
今の今まで少し動いていた大きな蟹は、ウラヌトリが死ぬと共にただの巨大な物体へと変わって、動きを止めた。




